25.緊急会議
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人型に慣れたら、色々と便利だ。
前世が人間だったからというのもあるかもしれないが、人の体は非情に操作しやすい。
手で重いものを持ち上げたり、走って風を感じたり、〝動けない木〟ではできないことが沢山できる。
関節とか骨で可動域の不便はあるものの、その身体で何十年も生きているからすぐに順応できた。
――そうして、地下迷宮潜入から数日経ったある日、急な念話が届いた。
『――神樹様、聞こえていますか? ギルドマスターのナガンです!』
どうやら、カルミリス王国? からの連絡のようだ。
ギルドマスター、と言っていたから、ギルドもあるのか。
ギルド――冒険者にもなってみたいよな、せっかく人型になれたんだし。
――なんて言ってる場合じゃないようだ。ナガンという男の声色には、焦燥が混じっている。
『落ち着け、何があった?』
『――先程、王国に怪物が来訪してきました』
『怪物……?』
『はい。神樹様に外交しに来たダーガス達が、全く歯が立たないほどの強さです』
ほほう。ダーガスが、か。
初めて会ったときはかなり強そうな印象を受けたんだけどな。
しかも、事態はかなり深刻そうだ。
『私は現地にいませんでしたが――去り際に、〝鎌持ち〟と名乗る者が宣戦布告をした――と部下から報告されました』
〝鎌持ち〟……知らないな。
割と有名そうな異名だけど、ナガンも知らないようだし。
『これからギルド会議を始めますので、また後ほど結果を報告させて頂――』
『待て』
ナガンの言葉を止める。
人型を得た。ということは、会議が終わるまで待つ必要なんてない。
そして、この森にも危害を加えられるなら、俺にも守る義務があるのだ。神樹として。
『その会議、我も参加する。しばし待て』
『――は? し、神樹様が、ですか?』
『ああ、城門で待っててくれ。すぐに行く』
ナガンが了承し、『念話』を切る。
は、はあ。……木だから来れるわけ無いでしょうに――と心の中も聞こえそうだったがな。
「……さて、行くかログさん」
《行きましょう! ワクワク》
一体何を楽しみにしているのかはわからないが、脳内に描いてもらったカルミリス王国までの地図を参考にして進むのだった。
◆◆◆◆◆◆
カルミリス王国の城門が見える。
どうやら水涯晶石に似た石で作ってるらしいが、水涯晶石そのものを使ったかのような透明度だ。信じられない。
美しい城門にしばらく見入っていると、誰かに声をかけられる。
「貴方が神樹様――で合っていますか?」
青と緑の防護服を着て、左目から右頬まで傷がついた強面で黒の短髪の男――
まさか、こいつがナガンか?
「ああ、我は――うん、そうだ」
名乗ろうと思ったが、まだ名前がなかったことに気付いた。
もう名乗るのをやめて、そのことに肯定しておく。
いつか名乗る時が来るだろうし、その時まで色々と案を考えておこうと思った。
「――では、会議室までご案内します」
ナガンが誘導してくる。
門番たちも驚いているようだし、ナガンが誰かを案内するのはかなり珍しいらしい。多分。
まあ、強面だしね。
そんなこんなで案内されるがまま進むと、一つの大扉の前に到着する。
「ここが我らの使用する『大会議室』でございます」
「――では、入るぞ」
ギギギ……と音が鳴る。
すると――
ジロッ。
ギロッ。
一斉に視線が、俺に集まる。
赤茶色の長髪を持つ小柄な男。
紫髪の目付きが悪い女性。
禿頭の老爺。
――などなど、様々な人物が円卓に座っていた。
そして扉と向かう席にいる、筋肉質なロマンスグレー――恐らくこいつが、ギルドの総帥なのだろう。
総帥は、俺を見てかすかに微笑む。
それを見て、俺は一番の危機感を抱いた。
一見すると、厳格のげの字もないほど穏やかな感じだ。
しかし、少なくとも〝アガストス〟とは全く比べ物にならない程に『死』の気配がするのだ。
――こいつは、ヤバい。
俺がヤツに勝負を挑んだら、確実に負ける。
一番最初に思い浮かべるほど、ヤツの死の気配が凄まじかった。
俺は促されるまま扉近くの席につき、会議が始まるのを待つ。
どうやらこの場では、神樹でも出席者という立場らしい。
「――うん。それじゃあ会議を始めようか」
総帥の言葉を口火に、総帥と俺以外の奴らが一斉に起立する。
そして、部屋全体が震える程の声量で叫んだ。
「「「宣誓! 我らギルドマスターは、何一つの嘘偽り無い言葉で議論を交わし、この議題の解決を導けるように誓います!!」」」
――そういう格式なのかな? と思っていると、総帥が進める。
「さて、ナガンが言っていた〝宣戦布告〟のことなんだけど……説明してくれる?」
「――ハッ。全連の最高戦力である『幻巨像の繚乱』の一人が、『王国の街に襲来し、少なくともAランク以上の魔力量を持つ――〝鎌持ち〟と名乗った者が、カルミリス王国を侵略すると言っていた』と報告書に記されていました。〝鎌持ち〟とやらがどういう存在なのかは知りませんが、宣戦布告をするならばこちらもそれ相応の対処をしなくてはならないと愚考します」
――これ、大問題じゃないか?
報告を聞いただけでも、俺が倒した〝火赤水晶の粘魔王〟より強そうなんだけど。
「恐らく、その〝鎌持ち〟はA+ランクである『火赤水晶の粘魔王』よりも等級は上だとされます」
「ふむ……なら、『魔王種』かな?」
「間違いないかと」
「――ちょっと、いいか? 『魔王種』とは何なのだ」
俺は疑問を口にする。
この際だし、出てきたワードを知っておきたい。これからの役に立ったり、指標とかになるかもしれないからな。
すると、紫髪の女性が不機嫌そうに説明する。
「『魔王種』は、魔王くらいの魔力量や強さを持つ魔物のことよ。総帥が決めたルールでは、基本的にはAランクから魔王種とされてるわ。魔王種は下位・中位・上位に分けられてて、今回は間違いなく『上位魔王種』なの。分かった? 神樹さん」
当たりが少し強いが、結構丁寧に説明してくれたな。
これでざっくりは理解できた。
「なるほど、覚えておこう……。感謝する」
軽く礼を述べ、ロマンスグレー――総帥に体を向き直す。
「総帥だったか? 貴殿の名を聞いておかないとな」
「僕の名かい? 僕の名前は……〝北大路和貞〟だよ」
「――そうか、止めてすまなかったな。進めてくれ」
北大路和貞? もしかして日本人なのか?
もしかして、ログさんが説明してくれた『来訪者』っていうヤツなのだろうか。
「ちょっと滞ったけど、議題についてはどうしたらいいと思う? ギルマス達」
そうカズサダが聞くと、赤茶髪、紫髪、老爺、そしてナガンの順に意見を言っていく。
「殲滅だな。どこの馬の骨とも知らない奴らに人の作った国を落とさせてたまるか」
「アラベルの意見に賛成ですわね。魔物にしては知性はあるそうですが、利用しても良い結果になるとは思えませんもの」
「そうかのう? 儂にはメリット満載じゃと思うのだがのう……。対話して決裂だったら、殲滅に賛成じゃな」
「――俺の担当に出てくるのは頭の痛い問題だが、幸い同格が何人もいる。それで出た結果が〝殲滅〟なら、俺も反対する理由がない」
他にいるギルマスも、『殲滅すべきだ』的なことを言っている。
殲滅派が多い。
対話して和解ができるならそれでいいっていう人もいるが、殲滅の方が多いな。
「――じゃ、神樹。君はどう思う?」
カズサダが、俺に質問をする。
すぐには答えなかった。
この場では、俺の一挙手一投足全てが、命の行方を決める。
できれば殺したくない。平和的な方法で解決したい、が――
「ふ、む。そうだな……確かに殲滅は簡単だ。だが――」
話も聞かずに殲滅するのは、違う気がする。
せめて相手の意思を知りたいのだ。
「我らには我らの事情があるように、相手には相手の事情があるはずだ。まずは対話をし、和解可能だと見たら条約を締結する。不可能と見たら……戦闘に入ることだろう」
ギルマスたちは、黙って俺の話を聞いている。
「我の結論はただ一つ。『和解を望むが、できなければ戦闘へ移行させる』だ」
「――ふうん、なるほど」
カズサダが静かに呟き、凄まじい『覇気』をむき出しにする。
「では、議題の結果を伝える。神樹の言っていた通り、まずは〝和解〟を優先的にだ。対話を試し、決裂され次第すぐに殲滅を実行する。異論は?」
「ありませぬ」
「ないな」
「ありませんわ」
「問題ないですじゃ、総帥殿」
ギルドマスター達が、口々に答えていく。
「ならばいい。今日より約一週間後の朝、神樹含めここに集まり次第――〝鎌持ち〟の襲撃を返り討ちにする。いいな!」
「「「ハハッ!!」」」
ギルドマスター達が一斉に応答し、会議が閉会する。
そうして、緊迫した空気のまま各自解散となった。
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