24.慣れない人型
念願の人型だ。
色んな部位を自由に動かせるし、何より一番慣れている形だ。
嬉しいはずだ。そう、嬉しいはずなんだ。
それなのに――
「なんか……違和感満載だな」
発声についての問題はこれっぽっちもない。
でも、体を動かすのが駄目だ。
例えば〝一旦走ってみるか〟というノリで小走りしてみたら――
――ズダダダダダッ!!
「うおおおおうおうおうお!?」
と、陸上選手よりも速く走れてしまう。
止まろうとしたのに、止まりきれずに壁にぶち当たってしまう。車で急ブレーキしても事故る感じだ。
「痛くはないが……生身でFワンカーぶっ飛ばしてる気分だな」
無論、これだけの恐怖や驚きじゃあ収まらない。
視力は猛禽類並みに遠くを見れるし、数メートルの跳躍もお手の物だ。
腕力に至っては、片手で豚鬼を軽々と持ち上げられる始末。
「――これ、慣れるの大変だ……」
《人型、どうでしたか?》
俺がぼやいてたところで、ログさんが様子を聞く。
「めっちゃ大変。前世の感覚が残ってる分、慣れるのに時間かかりそう」
オーク持ち上げたときも結構驚いたよ。なんせ手のひらじゃなくて人差し指だぜ?
それに、高跳び選手でも見たことないようなジャンプも普通にできたし。
絶対おかしいよ!
でも、そんなもの目じゃないほどに重大な問題が残っている。
それは――〝情報量が多い〟点だ。
「五感が冴え渡りすぎるせいで疲れる……! 歩く音や風音で煩すぎるし、匂いは体臭とか血の臭いとかが感じ過ぎるし、視覚も毛穴の一つ一つが見えて、遮断したくなるほど……!!」
苛立ちのあまり、つい足に力を込めてしまう。
すると、『ミシ……ッ』と嫌な音がした。
『……ま、まさか……?』
もう視認するのも嫌だ。
だが、現実を受け止めないといけない。
そっと足元に目をやると――床が割れてた。
《――あ、これは力加減も覚えないといけませんね》
「トホホのホトトギスだぜ……」
特訓が終わったと思ったら、今度は地獄の加減調節訓練が始まるのだった。
「うおおおおお!!!!」
人間だった頃は力の制御は容易だった。だってなにか壊すほど強くなかったし。
でも、今はアカン。
少し――ほんの少しだけ足に力を込めても床が割れるんだぜ。
立つだけで地面を割り、歩く時は振り上がり過ぎてカマイタチが起こるレベルだ。
「……あっ、また割れた。……はあ、ちょっと休むか」
そうして岩に腕を置いただけで、バキッと亀裂が走る。
「……壊れた」
もしかして――と、試しに息を木に吹きかけてみる。
――ゴギャン。
絶対に自然じゃ起こらない音が鳴って、木の幹が空気弾で貫かれたみたいに破壊された。
「うわぁ……」
こういう小さな――いや小さくないけど、破壊の積み重ねが、イライラを増幅させてくる。
深呼吸だ。大きく吸って大きく吐くんだ。
「スーハースーハー……スー……ハー……ハァ――ッ!」
そうして何度も深呼吸して、落ち着こうとしたが……無理だった。
「ああ……イライラする――!」
なにか壊したいわけじゃない。じゃないのに!
ただ普通に動くだけで、被害が尋常じゃないことになる!!
もう自然と眉間にシワが……! 老けちまうぜ。
「クッソー……。なんか、良い感じのスキルがあればな――」
ステータスをまじまじと見ながら呟いたが、そんなちょうどいいスキルなんてそうそうないだろう。
あるとすれば、それはご都合主義な物語か、そいつが強すぎるくらいだろうな……。
《――まさか、『森羅万象』をお忘れですか?》
「……ああ! 『森羅共鳴』から進化したスキルね。すっかり忘れてた」
ていうかどんな効果だっけ? 森羅万象って、確かすごそうだみたいな話はしたはず――
もしも、それが本当に理解か制御をする力ならば。今の俺に必要なのはそれだ。
「『森羅万象』の効果が何なのか、分かるか?」
《――〝自身が認識できる事象〟を鑑定し理解する。というのが『森羅万象』の効果です》
……来た。
こいつは良かった。
少なくとも長い間は何かを破壊せずに済みそうだ。
「やっと……か。よし、そいつをオンにしてくれ」
《了解しました――オンにしました》
ログさんの言葉と同時に、変化が起こる。
急成長が目に見えて分かるほど劇的だ。
変に力まなくてもエネルギーが内側に抑え込まれている。
これで何かが壊れることがなさそうだ。
「――フッ」
息を吹かなくても、カマイタチなんぞ起こらない。
頭突きをしてみても、岩は真っ二つに割れない。
「……よっしゃ」
言葉にならないが、かなり感動しているつもりだ。
自分にあった力が最適なんだと思い知らされたときであった。
◆◆◆◆◆◆
さて、人型になって一番最初に知りたいこと。
それは自分の見た目だ。
「近くに湖とかないかな?」
アガストスには、水辺とかなさそうだったんだよな――と思いながら探してみると、すぐ近くに川を見つけた。
「お、あんじゃん。さーてさて、俺の見た目はどんな感じなのかな――」
水面に、顔を近づける。
「――ほう」
肌は少し白――白黄色みたいな色だな。
黒髪に薄い緑色がかかっていて、肩にかかるほどの長さだ。
そして何より――顔。
骨格が精悍で、筋肉質だ。
美少年、イケメンというよりマジで普通な顔。ブサイクでもないし、イケメンでもない。
精悍な顔つきといったが、なんというか、どう言語化すれば良いのか難しい。
「うーん……おっさんっぽくはないし、かといって若者とも言えない……」
顔のパーツは平凡そのもの。それだけならただの男子なのだが、骨格がそれを邪魔している。
骨格のせいで、ちょっと人生の年季が入ってそうな顔だった。
――まあ、どこにでもいそうなおっさんだけどな。
「まあ、顔関係は大丈夫そう……かな?」
そして、右目が深緑で、左目が翠玉薄緑だ。
視覚は特に問題はないが、見る人にとっては違和感満載だ。
左右の目で色の濃度が違うんだからな。
「――これが今の俺、か」
悪くない――って俺が偉そうな立場じゃないな。
――ある連絡がなければ、この姿でも不満はないから、このまま平和に生きていきたいと思えたのだった。
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