21.最後に強々ワイバーン
特訓はもう大丈夫――俺はそう思っていた。
搦め手が必要なゴブリンに、戦い方を考えさせられるオーク。
こいつらとの戦いを経て、戦闘の基本くらいは分かったと思っていた。
オークロード戦の直後、俺はすぐに根を戻した。
ヴァルデリン森林の本体に意識を移す。
平和がやってきたと思ったが、そんなことはなかった。
――上空に、何かいる。
大空を飛行している黒いなにか。俺の視点が低いから、良く分からない。
だが、特訓の成果を見せる瞬間がやってきたと、そう感じた。
『……なんだ、あれ?』
より詳しく解明するために、『魔力感知』で探ってみる。
高すぎて鑑定とかは出来なかったが、外見くらいは理解できた。
爬虫類のような、灰色の鱗に覆われた体。
身体くらい大きな翼を二枚開かれている。
その瞳は体色と同じく灰色で、どこを見ているのか分からない。
一回羽ばたくたびに、空気が重くなる感じがした。
ドラゴン?
いや、そんな大層なものじゃない。
確かに竜っぽいが、竜ならもっと圧がヤバいはずだ……多分。
推測するに、あれはおそらく――
飛竜代表格の、ワイバーンだ。
《警告。ワイバーンのランクは『A』――災害に等しいです。まだ、適正ランクでありません》
――Aランクか。
ログさんの説明してくれた、災害級か。
それなら、頑張るしかないな。
『いいぜぇログさん! 俺は竜殺しとなって、更なる高みに登ってやる!!』
ワイバーンは、その場で羽ばたきながら、本体である俺を見据える。
対する俺は、一本の根で戦う。
勝てるのか? いや、勝つのだ。
〝根は一本だけ〟という縛りプレイが、何よりも燃える。
ゲーマーとして、そして世界樹としての矜持を胸に戦ってやる。
そうして、俺は初めて竜との戦いに挑む。
見据えてるといっても、ワイバーンとの距離は遠い。
こっちに攻撃しに来るまで、対策を考えることはできる筈だ。
ハヤブサ並の速さじゃなったら、大丈夫だ。
――大丈夫な筈なのだ。それなのに、何かを忘れているような感覚がする。
対策を出す暇もなく、その感覚の理由を考えてしまう。
俺の頭は、さっきから変な感情で渦巻いている。
なんで俺は、変な予感を抱いているんだ?
ワイバーンの喉奥と目が、不自然に赤く光る。
ワイバーンが大きく口を開き、その喉奥から赤い物体が出る。
それは、ドラゴン特有の技。天空を焦がす災厄とも称されるそれは――
――――ボオオオオオオォォォォォォォォ!!!!
――ドラゴンブレスであった。
『え!? あ、ブレス!!』
そうじゃん、と俺は思い出す。
思い切り忘れていた!
ドラゴンならではのブレスを!
赤色の炎が、俺に向かって放たれる。
『火属性耐性があっても、これは厳しいかもな――』
思えば、防御技がないな――と、新たに獲得したスキル『思考加速』で考える。
〝竜の胴根〟や〝竜の針根〟も、攻撃技だ。一撃必殺を狙っても、なんたってこの距離だ。成功率は低い。
それに、この火炎じゃ燃えちゃうかもしれないし……。
《現在、火属性耐性を獲得しております》
うん、それは知ってるんだよね。
流石の俺もそれくらい知ってるんだけど……。
……ん?
攻撃技、防御技。
木、火属性、耐性……?
――耐性の限界!?
俺は慌てて、『火属性耐性は何度まで耐えられる?』とログさんに聞く。
《――およそ、八百度までです》
それなら、大丈夫だ。
よし! これなら、あのブレスを無効化できる!
俺は意識の内から、ワイバーンへと注意を向ける。
オークロードと同じだ、物のイメージを根に集中するんだ。
――今回のイメージは熱防御盾。
加熱によるダメージをなくすために、表面を保護するんだ。
確か、赤色の炎は普通は千度以下らしいから、ギリギリ耐えられる筈だ。
火属性耐性――は常時発動なのか?
分からないが取り敢えず、発動にしておいてとログさんに言っておく。
ヒートシールドで防御し、〝竜の胴根〟よりも回転を掛けた攻撃を繰り出す。
吐息をも蹴散らし、竜すら穿つ。その名は――
『〝竜の穿根〟――ッ!!』
根が唸り、空気が裂ける感覚が走る。
《――特訓の度に技を編み出しているような気がします》
それは……そうだな。しかも、これもほぼ攻撃技だし。
それはそうと、今はワイバーンに集中だ。
技の目的通りブレスは難なく突破できた。これっぽっちの焦げもなく通過した。
そしてワイバーンの頭に狙いを定めるのだが――
『ウッソだろ!!』
と、思わず声を上げてしまった。
いや、別に躱されたわけではない。当たったは当たった。
だけど、ワイバーンは回避のために傾いたその瞬間、自ら翼に被弾したのだ。叫び声一つすら上げずに。
片方の翼を失ったため、ワイバーンは地面に低速落下する。
『自分の回避が裏目に出たな……』
それはそれで好都合だけどね……。なんか、正々堂々戦ってる者としては、もどかしい気分だ。
だが、それも切り替えよう。
直ぐ様〝竜の針根〟でトドメの一撃を刺したいが、グッと我慢する。
根をワイバーンの下へ這わせ、その頭に触れる。
『鑑定』と唱えると、目の前にウィンドウが表示される。
○種族:下位竜族……飛竜
○魔法:『風魔法』
○耐性:
・火炎耐性
・痛覚鈍化
○能力:
・炎の吐息
・加速
やっぱり。
叫ばなかったのは、痛覚鈍化があったからか。
こいつのスキル……欲しいな。特に加速。
《確かに、これがあれば戦闘の幅が広がりますね》
だろぉ?
どうにかスキルを奪えないかな……。
《根で養分吸収すればいいのでは?》
『――はい? ちょ、ちょっと待ってくれ、ログさん。ワイバーンを、土や肥料のように栄養――スキルを吸うってことか?』
俺の動揺を、ログさんは気に留めずに《はい》という。
『ログさん! ワイバーンも生物だ。罪を犯したわけでもない! なのに――』
《殺して奪うか、殺さず奪うか。貴方様の特性で最も適するのは、『殺さず奪う』なのです》
……分からねぇな。
生かしてスキルを奪う? そんなの、拷問じゃないか。
ワイバーンは罪を犯してない。俺を敵だと思って攻撃しただけだ。それは俺が縄張りに入っただけなのかもしれないから、全面的に悪いとは言えない。
だとしても、生きたままスキルを奪うのは違うんじゃないのか……。痛みがないかもしれないから、確証はないが……!
『すまんログさん。俺は殺して、奪う』
《……了解致しました》
声を低くして、ログさんが応答する。
俺はそれを聞き流し、〝竜の針根〟を頭に繰り出して殺した。
頭を貫かれたワイバーンは、そのまま倒れ伏す。
俺は、何を助けるべきなのか。
死体に根を張りながら、考える。
俺は最初に、人を助けた。これからも人を助けるだろう。
でも、それは魔物は含まれていない。
人も、どこまでが人なのか――わからない。
もう、何がなんだか――
答えのない問題。
これは今考えることなのかも、分からない。
ならば……。
『俺は、どこまでが俺の限界なのか、探してやろうじゃないか』
――俺はここから、どこまでを救済できるのかを考えるようになった。その問題は、人か魔物か関係なく考える。
『……なんなら、世界だって救ってやるさ』
――数十年後に、全人類から〝前提〟として歴史に名を残す《《俺》》の物語は、ここから始まったのであった。
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