16.迷宮のレベル高くね?
迷宮封国アガストス。
ギルドの情報によると、一つの〝上位存在〟が地下迷宮を創造したことにより、数多の迷宮や地下迷宮が派生した疑似国家とのこと。
国交など初めから存在せず、魑魅魍魎が蔓延る魔境となっている――
というのが、ログさんの説明だ。
その説明を聞いて、伸ばしている根が引きつる。
一つの、上位存在――
多分めっちゃ強い奴が、ダンジョンを作ったのが始まりだったってことだ。
なら、普通の迷宮に出てくる魔物も、前のとは質が違うんじゃないか?
そうであれば、俺は全力で戦えるはずだ――
絶対そうであってくれ、などと思わず願ってしまう。
早く到着したいがために、ひたすら根を伸ばす。
根――
根――
――根。
頑丈な土を突き破り、モグラのように進んでいく。
体感は後五キロくらいだが、信用しない方が良さそうだ。
現在、距離計算はログさんがやってくれている。俺じゃマルチタスクは頭がパンクしてしまうからな。
だから、俺はただ根を伸ばしまくることだけに専念している。
《残り、二キロメートル――》
とアナウンスが来た時、俺はテンションを上げまくった。
『よっしゃー! 爆速で行ってやるぜ!』
迷宮のレベルがどんなものなのか心を躍らせながら、俺は根を伸ばす速度を上げる。
◆◆◆◆◆◆
小一時間ほど進むと、ログさんから再びアナウンスが鳴った。
《――迷宮封国アガストス。その付近に到着致しました》
よし来た!
んじゃ、早速根を――
地中から地面を掘り起こし、埋まっていた〝俺の根〟が空気に触れる。
地上に根を出した瞬間――空気が変わった。
『――ッ!?』
俺は、言葉を失った。
『魔力感知』で最初に確認したのは、真横にある《《森》》。
いや、森だなんて自然的な表現はできない。
音も、匂いも、何も無い。
色も複雑に混じった緑ではなく、単調に塗装されたような緑だった。だが、手入れされている痕跡など全く無い。
どこか人工的で、おもちゃで作ったかのような無機質さを持っていた。
《魔力が異常です。お気を付け下さい――》
ログさんは、全く別の警告をしている。
確かに、泥のように纏わりつく魔力が、正面から広がっている。
このままじゃ目が見えないので、『魔力感知』を全開にして正面を認識する。
そうして、正面に広がる光景は――!?
――そこは、数多くの迷宮。迷宮同士が繋がっていたり、塔になっていたり、地中に埋まって一部分が飛び出ている迷宮もある。
俺が、初めて攻略した迷宮とは魔力の桁が違う。
根の先端を地面に当ててみる。
――反応が、多すぎる。
どこがどういう地形なのか、どこに魔物がいるのか、何も判別できなかった。
俺は、この世界で初めて危機感を抱いた。
この世界は異世界だから、〝異質〟と感じたことは何度かある。
だが、このアガストスほどの異質さを感じたことはない。
『魔物――めっちゃ強いんじゃないの……?』
『やばいと思ったら引き返せ』ってお婆ちゃんが言ってたけど、俺は真逆の行動を取り、根を最寄りの迷宮へ伸ばしていく。
《――! 何をしようとしているのですか、引き返――》
ログさんの進言を無視し、一直線で進む。
勢いのまま、最寄り迷宮に侵入する。
すると――空気が確実に変わった。
何者から見られる感じ、喉まで出かかっている嫌悪感、などの雰囲気もある。
だが、それだけじゃない。明らかに『魔力の濃度』が変わったのだ。
そして、何より異常なことは――
《…………》
ログさんが何も言わないことだ。
『ろ、ログさん? おーい』
《何でしょうか》
ちゃんと返事はくれるけど……どうにも変な感じだ。
そう感じていると、人影ならぬ魔物影が見える。
影の周りだけ魔力が満ちているからか、歪んでよく見えない。
『……初めて見る魔物だ!』
ぶ、豚なのかな? ヴァルデリンにいる猛進猪豚みたいな……。
な、なんか……ボヤけてて良く見えないんだよね。
うーーーむ……こういうときは、『鑑定』だ!!
鑑定結果:
○種族:幻像分身
レベル五十四
『ドッペルゲンガー……』
ドッペルゲンガーということは、変化中ってことなのか?
豚の姿が本当の姿だとは思えないし……。
『というか、やっぱボヤケてるな……見えん』
《幻像分身。暗い場所に生息する魔物で、取り込んだ生物になりすます。群れの場合は――》
ちょ、待ち! あからさまに敵対しているから後で!!
《……》
二項目しかわからなかったけど、俺なら倒せる――はず!
根を素早く動かし、ドッペルゲンガーに突き刺す。
――だが、すり抜ける。
すり抜けたというより、狙いが外れたような感じだ。
『え、ちょ、は?』
困惑していると、豚野郎が俺の根を思い切り噛みちぎる。
――ブチブチブチブチ!!!!
『いっったああぁぁ……くはないけどダメージが……』
畜生、失敗した! あのときの迷宮と一緒の感覚で攻めてしまった。
もっと冷静に様子見をしてたら、噛みちぎられなかったはずなのに……。
というか、力がなくなっている気がする――?
《ダメージによる魔力減衰です。被弾し続けると根が機能しなくなります》
ウッソだろ? 迷宮に来たときはこんなのにはならなかったのに……。
やはり恐ろしい。ここが迷宮封国……アガストス!
《『高速再生』による身体修復》
ログさんがアナウンスすると、噛みちぎられた箇所が一瞬にして再生する。
『再生もし終わったことだし、リベンジを――てあれ?』
『魔力感知』で探っても、ドッペルがどこにいるかもわからない。
床、壁、入口周辺――確認できる限り全てを探したけど、どこにも反応がなかった。
さては、食われた拍子にドッペルに逃げられちゃったな……。見られる感じもないし。
『……失敗したけど、次こそは倒すぞ――!』
《頑張ってください》
……君も補助するんだよ?
心の中でそう思いながら、根を奥へと突き進ませる。
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