15.枝を根に
俺はいつも、何かを始めると止まらない性格だった。
勉強も、スポーツも、ゲームも、創作も、面倒な事も。
どんな事も、突き詰めれるところまで極め続けていた。
勉強とかだったら、簿記一級を取れるくらいまで勉強したことも合ったし、スポーツは苦手だったから、県大会に出たくらいしか無かった。
得意なゲームは最高ランクに行くのは勿論、レートを限界まで上げたり、オリジナルビルドを何個も編み出したりもした。
誰に言われようと、自分でやめなきゃと思ってても、俺はやり始めたら止まらなかったのだ。
そして、俺は今日、人を助けた。人間に関与した。
それは、ちっぽけな正義感からなんかじゃない。使命感でもないし、〝英雄〟になりたいなどという願望なんてものも無かった。
――ただ、見てしまっただけ。
目の前にある、非情で壊れかけている現実を、俺は見てしまっただけ。
手を伸ばせる位置に、俺が偶々居合わせてしまっただけ。
俺が、関与した――
その事実が、俺をマグロのように動かし続ける。もう、戻れない所まで。
もう、止まれない――
止まる理由がない――
だからこそ、どんな結果を招くとしても――
『――俺は、人を助ける』
嫌々やる訳ではない。かといって、中途半端で終わらせる気もない。
全人類を救うことはできずとも、俺の手の届く範囲に入る人達なら、そいつら全員取り残さずに救ってやる。それが絶対のことだと、信じれるようにする――
両親も、弟も、きっと許してくれるだろう。
今は何をしているのか、全く分からないけど……。
俺は、そう信じた。
◆◆◆◆◆◆
人を助ける。
それを決めたのは良い。
だが、どうやって助ける?
そして、今のままで本当に大丈夫なのか?
このままじゃ、どうしても不安が残ってしまう。
『だから……先に、力をつけておかないとな』
だがしかし、この森でやることなんぞもうやり尽くした。
迷宮とかで魔物がいるかも、と結構探したけど、全然見つからなかったしな―。
別の森に行こうとしても、枝がどこまで伸ばせるか不明だ。それに斬られたらそこまで。その枝とはオサラバしなきゃいけない。
また枝を伸ばし直さなくちゃいけないし、その他にもデメリットもあるはずだ。
『うーむ……やっぱり、枝じゃ無理なのか……』
――いや、違う。俺は何を言ってるんだ?
なんで、俺は枝でやる《《前提》》で考えているんだ?
俺は『枝で行こう』としているからだめなんだよ。
枝を伸ばす? どうして地上でしか動けない、伸ばせないなんて制限をしているんだ?
森は、数々の木とその根。
迷宮も、養分を吸収させる部分は必要のはずだ。
生物だって、消化器官がなければ長く活動なんて出来やしない。
それは、俺だって例外じゃないはずだ。
――俺等が〝生存〟するのに、最も切り離せない物。今の俺で言うと、それは――
『――〝根〟だ!』
《点から、線に。枝を、根に――》
……ふむ、大体の枝は脆い。酷ければ、五歳児の子供でも簡単に折れてしまう程。だが、根は違う。
養分を吸収するために生み出されたそれは、いつしか身体全体を支える柱となり、地中を這い続ける。そして伸び、複雑に絡み合い、気付かれないまま、確実に広がっていく。
それが、根だ。
そんな〝根〟が、俺の手によって完全に操れるようになったとしたら、枝を地面に沿って伸ばさずに済む。なんなら、根の方がよっぽど効率的だ。
これなら、俺は止まることはない――
『……うん。いいね』
独り言が、妙にしっくりきた。
人を助けるために、世界を渡る必要はない。
世界と、繋がればいい。
養分が吸収できない〝根〟は、出来損ないではない。
最も重要な、〝橋渡し〟の役割を持つのだ。
俺はそんなことを考えながら、目的の場所を探す――
さあ、どこにしようか?
前の迷宮が楽勝だったし、ランクアップした奴に挑戦したいんだけど……。
『ヘイ、ログさん! ヴァルデリン森林の近くに、レベリングに最適――強い魔物が居る場所って、知ってる?』
俺が念話で質問すると、ログさんは妙に歯切れの悪い返事をした。
《――知っている、といいますか……。普通は行かない場所ですね》
『普通は行かない? 一体、どういうことだ?』
《はい。カルミリス王国外なのですが、迷宮が異常に密集している場所です。正確な数や強さも――把握されていません》
危険です――と、ログさんは止めようとしたのだろう。
だけど、俺の様子を察して、口を噤んだ。
音声なのに俺の顔が分かるのかなどは、今はどうでも良いのだが――
こういう時は、空気の読める相棒だ。
――俺は、止まらない性格だ。
しっかりと決めたのならば、必ずそれを実行する。
故に、俺が行くと決めたら、必ずそこへ行く。
それは俺が一番知っている。だからこそ、ログさんの反応が嬉しかった。
――ちゃんと、俺のことを見ているんだな、って。
『場所は?』
自分でも驚くほどに、声が落ち着いていた。
それに答えるログさんの音声も、同じく冷淡な声だ。
《カルミリスから極西、迷宮が蔓延る地帯――〝迷宮封国アガストス〟です》
――なるほど。
神樹の根を張るには、申し分ない場所だ。
『迷宮があるって言っても、ある程度ランクが低いところもあるでしょ! ゆっくりじっくりと、強くなっていこうぜ!!』
と、気分を明るくさせる。
勿論、無理矢理そうさせている訳ではない。
『いつまでも、超真面目――マジメチャンだと、気が滅入っちまうからな! いやもう、ホント、疲れんだぜぇ? 前世で分かってるんだからよー、今度はちゃんと心のマネジメントをしねーとな』
俺が飄々とした態度で言うと、意外にもログさんが反応を示してくれた。
《――フフッ、そうですね》
ログさんが、笑ってくれた。
音声なのに、感情を理解できる力があるのかね――? なんと思ってしまったが、すぐに振り払う。少しでもこんなことを考えるなんて、ログさんに失礼だ。
だが、最初は〝管理者〟なんて言ってたし、機械的な存在っぽさそうだけどな……?
……まあ、いっか!
今考えても進展ナーシ! さっさと強くなって、人を救う! 今はそれだけで良い!
よし、結論出たし、根を伸ばすとしますかね――!!
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