プロローグ:観測されぬ敵
主こそが、至上。
それ以外は、何も必要ない。
主に仕える。それが、私の生きる目的。
ただそれだけが、私の存在意義だ。
ヴァルデリン森林の最奥地点――エルフの秘境。
ここが、私の目的地。私はここで、精人族を侵略する。
何故そうするのかは、分からない。だけど、それを聞く必要もない。
ただ言われたことを遂行する、それだけで良い。私は〝歯車〟であれば良いのだ。
◇◇◇◇◇◇
エルフが数人、私の前に立ちはだかっている。
それぞれが、剣、弓、魔法――様々な武器を持っていた。
弓矢を放つ。
剣を振る。
魔法を繰り出す。
多種多様な攻撃が、私の肉体に直撃する。
通常の魔人ならばそれなりのダメージを負うが、武器や魔法は、私のような者には通じない。
掠り傷すら付かない私を見て、エルフの一人が喚いた。
「な、なんなんだよ……お前は……! ぼ、僕らの所に来て……。どうして……どうして、僕達エルフのことを襲うん――!!」
だが、私には何の関係も無い。
――一閃。
鎌を一振りしただけで、そのエルフは死んだ。
切断部分から血が吹き出し、身体はその場に崩れ落ちる。
さっきまで五月蝿かった声も、既に途絶えていた。
――弱い。あまりにも、弱過ぎる。
主は、『この種は有用だ』と仰っていた。
だけど、私には理解しかねる。この種の、どこが有用なのかを――
一瞬そう思ったが、私はすぐに考えるのを止めた。
主の命令は、絶対だ。抗弁など、許される筈がない。
私は、三下奴を一瞥する。
エルフ達は、仲間が一人死んだことで、激昂して向かって来る。
「――バカな奴ダ。ワタシに勝てるト思うナド、烏滸がましイ」
私はそう呟いて、エルフ共の攻撃に、鎌を振るう。
◇◇◇◇◇◇
――五回目。
これで、今日鎌を振った回数は五回目だ。
先程のエルフ共を倒しても、後から迷宮の魔獣のようにエルフが湧き出て来た。
何度も何度も倒しても、湧き上がってくる。そのせいで、積み重なったものが巨大に鳴ってしまった。
――死体の山を見て、私は思った。
もう、十分だろう。
命令も、十分に遂行された。
次の工程に進もう――と。
私は死体の山に両手をかざし、呪文を唱える。
「〝我、※※※※※也。※※・※※※※※ノ※※※※を堕ロス。性は贄と替わって召喚されよ〟――」
それは、この地には必要のない『魔法』だ。
肉を供物として――〝眷属〟を召喚させる呪文である。
「〝※※・※※※※※の祝福を破リ捨テ、※※※※※・※※の憎悪を賜ラントス〟サァ――――セヨ――!!」
死体の山が、ドロドロと溶け出す。
完全な液状へと変化し、一点に集中する。
それはやがて何個かに分かれ、液状の肉が地面に染みる。
――眷属が召喚されるのを、私は静かに見守る。
その時に思ったのは、『主の言う〝有用〟とは、こういう事を言うのだろう』くらいだった。
溶けた肉が染みた部分に、黒い魔法陣が展開される。
それぞれの魔法陣の中心から、ゆっくりと、私の眷属が現れた。
「グギ、グガ……ガ。ビギギギィィィィイイ……!!」
眷属どもがうめき声を上げながら、じっと私の方を見つめる。
私から下す命令を、待っているのだ。
私はすぐに、眷属に命令を下す。
「お前達、近くノ人間達を襲エ。死んデも、主の元へ帰れルのだカら心配はナイ」
私が命令を下すと、眷属たちは四方八方へと散開した。
命令通り、死を恐れずに人間達を殺し尽くそうとするだろう。
だけど、それが成功するかは分からない。
あの種の眷属は、比較的防御力に欠ける。隙を突かれたら、虚弱な人間にも倒せてしまう。
だから、あの眷属達が殺せたとしても最悪でゼロ人、最高で数人程度だと思った。
――さて、命令も遂行したし、私もそろそろ森を出よう。
そう思った時だった。
人間を見つけた。
眼前の距離五、六メートルにいる。
冒険者。
四人。
男二人。
女二人。
先に、殺しておこう。
《《ワタシ》》はそう思って、人間達に襲いかかった。
だが、本気ではない。まだ、余興を楽しむ程度のスピードである。
先頭の男に鎌を一振りする。勿論、全力ではない。
だが、弾かれた。その、男の剣で。
弾くとは、少し、面白い。
少なくとも、脆弱なる人間とは〝多少〟違う。
――面白イ。モウ少しだけ、遊んデあげヨウ。
ワタシは、男の振り回す剣を受け流す。
あまりにも遅くて、弱い剣。故に、片手でいなすのも容易だった。
数分程、軽く遊んでみたが、男の攻撃頻度も次第に落ちていった。
――モウ、寿命だナ。
ワタシは男の剣を受け止め、カウンターの蹴りを放った。
咄嗟に剣でガードしたのか、男の剣は真っ二つに折れていた。
男が咳き込みながら、膝をつく。
他の人間達は、恐怖で震えている。逃げ出すこともできないだろう。
ワタシは人間達に近づき、鎌を目一杯振り下ろす。
――――殺れル――――
鎌が男の首元まで迫った瞬間、目の前に何かが横切った。
それは、白黄色の色をした、常人の肩幅二人分の長さだ。
――なんダ……枝? 増援なのカ?
「な、なんだ……?」
「枝?」
人間達も困惑している。作戦ではないようだ。
――一体、何なんダ? たかが〝木〟ガ、人間を助けるなド――
そう考えていると、枝が左右にゆっくりと動く。
だんだんと、動くスピード上がっていく。
陽動なのか、挑発なのか、良く分からないが、判断は一瞬。――挑発に、乗ることにした。
ワタシは全速力で突進し、鎌でその枝を切断――
――することは叶わなかった。
枝が高く飛び上がった。
そして、側頭部を目掛けて、驚異的な速度で振られた。
バッッッッカアアアアァァァァン――――ッ!!
回避不可。
頭に直撃し、身体が吹き飛んだ。
頭が揺れる。上手く物を考えられない。
背中が、近くの大木の幹に打ち付けられる。
――イタイ。ハヤイ。
ひび割れるような音が轟いたが、実際の所は全くの無傷だ。
すぐに立ち上がり、首を鳴らす。
未だに揺れている〝枝〟を睨み、考える。
ココデ本気にやってもいいが、《《まだ》》早イ。
ワタシは、方向も見ずに全速力で逃げる。
ワタシは、まだ負けるわけには行かないのだから――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冷たい水が渦巻く闇の中。
濡れる岩石が四方八方を覆い、唯一〝空気〟ある
チャプン……チャプン……。
と、水が滴る音が響く。
ワタシは、やっと戻ってきた。
この拠点に、戻ってきたのだ。
「――どうしタ? 戦ッタのか?」
玉座の傍に横たわる、一人の男が話しかける。
そいつは、私の同胞であり、かけがえのない〝相棒〟である。
「あァ、相棒か。問題ナイ、ダメージは小さいしナ」
応答すると、相棒は顔をしかめた。
「――オマエが傷つくなド、久しぶりデはないカ?」
「……フム。確かに、数百年以来かもシレヌな。だが――私の命は、主にあリ。他は、何もいらヌ」
「それハ、オレも同意見だ。どれだけオレタチが相棒の関係だろうと、主の前にハ〝塵〟以外の何者ではナイ」
私は全てを侵略する。人も、魔物も、森も、海も。
主が望めば、私の意思や実力など関係ない。
私は、主の御心に答えるだけで良いのだ。
私は、[観測対象外]――主に仕える、〝超戦士〟なのだから。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」
そう思っていただけたら、感想や評価をいただけると嬉しいです!
★★★★★やブックマークをしていただけると、作者が飛び跳ねて喜びます!
皆さまの応援が、次のお話を書く力になります。
これからもよろしくお願いいたします!




