13.見過ごせなかった者
キャアアアァァァ!! ――と、悲鳴が聞こえた。
精霊が見せてくれた森の奥の光景を、俺は見てしまった。
――人が、魔物に襲われているところを。
人数は四名。内訳は、男二名と女二名だ。
一人の男が、他の三人を庇う形で魔物と応戦している。
三人はその場に座り込み、恐怖で動けなさそうだった。
対する魔物は、人型だ。
青い甲殻に、黄金の目を持っている。特筆すべきは、手首から生えているカマキリのような鋭い鎌だ。
その魔物は、男の猛攻を片手でいなしている。
俺はすぐさま、『鑑定』を使用した。
その瞬間、理解した。――というよりも、してしまった、と言う方が正しかった。
これは間違いなく、ギルドの想定以上の〝異常〟だ。
鑑定結果:[――失敗――]
《――ッ!? 鑑定、失敗しました……》
『鑑定』でステータスすら出ないとは――余程の強敵だと思う。
お供え物も判定は[失敗]だったが、ログさんの反応を見るに、俺が思ってる以上の脅威と見るべきだろう。
だがそれ以上に、《《このまま見過ごして良い存在ではない》》と、直感が告げていた。
まだ男が単騎で頑張ってくれているが、それも時間の問題だ。
あの魔物が本気で戦わない限り、時間は稼げるのだろうが、それがいつ終わるのかも分からない。かといって、この状態のままでも、男の方が数十分も保たずに力尽きてしまう。
そうして、あの魔物が男達を皆殺しにする――そんな未来が、鮮明に見えてしまった。
《どう、致しますか?》
……どうするか、って?
あいつらは、元々俺と同じ種族だ。俺が元人間という事実を認めている限り、あいつらを見捨てるわけには行かない。
だから、俺が助ける。それで文句ないな?
《……了解致しました》
ああ、それで良い。
そうと決まったら、すぐに枝で魔物を倒さないと――
そう考えたのも束の間。
ガタンッ――と男の膝が崩れ落ちる。
真っ二つに折られた剣が、地面に突き刺さっている。
魔物の手には、折られた剣の片割れを持っていた。が、すぐにそれを投げ捨てる。
魔物が男達に近づき始めた瞬間、俺は理解した。
――今、枝を出しても、間に合わない――
魔物が男達を見下し、トドメと言わんばかりに鎌を目一杯に振り下ろす。
鎌が男達に直撃しようとしたその時。
――ドオオォォゴゴオオオオォォォォン――
枝が、魔物の眼前で地面を抉った。
……今の、俺がやったのか?
今、枝を出したのか? だとしたら、間に合わないはず――
《考え、決断するよりも先に、枝を伸ばしていたということでは》
――考えるよりも早く、枝を繰り出していた、というわけか?
それでも分からなすぎるが、今はどうでもいい。
間に合った、その事実だけで十分だ。
魔物は、魔物は抉られた箇所から距離を取った。
俺の枝攻撃が、十分な威嚇になった証拠だろう。
「な、なんだ……!?」
「木……枝……?」
男達が呆然としているが、気にしないこととする。
枝を左右にゆっくりと動かし、魔物の警戒心を更に強めさせる。
そして逆効果で向かってくるところを、頭上で引っ叩く――という作戦で行く。
《――特に作戦でもなんでもありませんね、はい》
……ログさんの譫言を無視し、徐々に動かすスピードを速めていく。
予想通り魔物が猛ダッシュして、その鎌で俺の枝を斬り――はしない。
すぐさま枝を高く上げて、魔物の攻撃を回避したのだ。
そしてその勢いのまま、俺が出せる究極本気の一撃を放つ!
バッッッッカアアアアァァァァン――――ッ!!
枝をフルスイングし、魔物の頭に直撃させた。
魔物の身体が吹き飛び、近くにあった木の幹に打ち付けられる。
めちゃめちゃ骨折れた音がしたから、殺しちゃったかも――なんて思ったが、いらぬ心配だったようだ。
魔物はすぐに起き上がって、首を鳴らしていたからだ。なんか、全然元気そうだ。
鋭い目つきで睨んできたので、また同じ戦法で戦おうと思ったが、魔物はすぐに逃げ去っていった。
『――どっか行っちゃったな』
まあ、魔物に襲われるという〝危機〟は脱したし、もうここまで枝を伸ばしている理由もない。さっさと枝を引っ込め――
「あの! どなた――人? 魔物? かは知りませんが! 先程は助けてくださり、ありがとうございました!」
「あ、ありがとう」
「――あざしたっ!!」
枝を戻そうとすると、後ろから感謝の声が聞こえた。――枝だから方向感覚分からないけど。
四人の内一人だけは、体を震わせて声も出ない様子だった。
気にすんなよ、と心の中で返しながら、気を取り直して枝を引っ込めるのだった。
◆◆◆◆◆◆
いやあ、それでも――やらかしちったな。
人が襲われてたから、変に理由付けして助けちゃったけど、なんで〝助ける〟と最初に思ったんだろうか?
《考えるよりも早く動いた――とかですかね?》
いや、それ以前の問題なんだよな。
さっきは考える前に枝で攻撃してたけど、その前。人間を助けると理由付けした時だよ。
なんで最初に、〝人間を助ける〟という選択肢が思い浮かんだのか――その理由がハッキリとしないんだよね。
その気になれば、見て見ぬふりもできたというのに――俺は、助けた。
人間が危険な目にあっているのが許せなかったのだろうか? 見過ごせなかったのだろうか?
理由は全くの不明だが、関与してしまった以上、途中でやめるのは筋が通らない。
『俺は、何をしたいんだ――?』
俺は今日の出来事を、記憶の奥深くに刻み込む。
このことが、〝俺の人生の分岐点〟な気がしたから。
絶対に、忘れるものか――そう、決意したのだった。
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