12.おかしい
荘厳で、重々しい城門。
美しくて、水涯晶石のように白く透き通っている。
その門は、カルミリス王国の城門だ。古来から存在せし歴史ある城門が、防衛の最初の砦である。
そこで門番を務める兵士は、日々入出国の審査で忙しかった。
ある日の休憩時間。
一人の兵士が、声を潜めて話しかけた。
「なあ、なんかさ、最近妙じゃねえか?」
「言うほどでもないだろ。魔物が繁殖期で、少し荒れてるだけだって」
「その〝少し〟だよ、その〝少し〟がさ、報告と現場で合わないらしいんだよ」
相手の兵士は、溜息を吐くように肩を竦めた。
(はぁ……話の論点が全く違う。こっちは魔物の〝荒れ〟について少しって言ってんのに、なんでこいつは魔物の〝討伐数〟で言ってるんだよ……)
そういうところで、努力してきた差が出るんだぞ――と、相手の兵士は溜息を吐いた。
ジロッと兵士を睨み、嘯くように呟いた。
「新人の見間違いだろ。繁殖期だろうと、〝魔物の大脱走〟が起こっても、この辺の魔物はそんなに強くない」
「はあ、どうだろうね。本来はそこまでなんだろうけど、最近、変に苦戦することが多くなったんだよなー……」
――〝本来〟はそこまで。
その言葉が、相手の兵士に違和感を覚えさせた。
だが、兵士は気にせずに話し続ける。
「まあ、俺はお前よりかは強いから、大丈夫か!」
「バカ言え、俺のほうが強いわ。というか、苦戦するのはお前の訓練不足とかだろ」
「何をぉ!?」
じゃれ合うように軽口を叩き合っていると、兵士が何か思いついたかのように話題を変える。
「そういや、《あの噂》が流行ってんの知ってるか」
「噂?」
「あん? 知らねえのかよ? なんでも、〝苦労鬼〟がなんか凄い奴と対峙したとか。……本当に知らないのかよ?」
「〝苦労鬼〟――?」
相手の兵士が問うと、話題を変えた兵士は大きく溜息を吐いた。
「お前マジかよ……それも知らねえのかよ……。ギルドマスター達の異名だよ! 〝苦労鬼〟はナガンさんの異名だよ」
「へぇー、ギルマス達は個々に異名がある感じ?」
「その通り! 例えば、ズームパム戦争法国で勤務してるアラベルさんは――って、今は関係ねえだろ……! まあナガンさんが対峙した〝凄い奴〟って言っても、あくまでも噂程度だから、気にしなくてもいいかもな。本当にいるかの確証もないし」
「まあそうだな――っと、そろそろ休憩時間も終わりか。んじゃ、後の審査は任せたぜ―」
「おいよ!」
兵士達は軽く別れの言葉を述べ、仕事に戻るのだった。
◆◆◆◆◆◆
俺はまだ、この世界に来てから日は浅い。
だが早々――一年以内に人と接触できて、ギルドの持つ情報を得ることに成功した。
そんな新参の俺でも、これはおかしいことはわかる。
いや、正確には、おかしいと感じてしまう。
――兵士たちの会話はかすかに聞こえていた。
滅茶苦茶遠いから、モスキート音程度にだけど。
それでも、どうにも納得行かない。ギルドとの情報とズレているのだ。
門番の兵士達の話では、謎の魔物は既に〝敵〟として認識され、ギルドマスターが対峙していることになっている。
だが、俺が得た冒険者側の情報では――まだ、誰一人としてその魔物を視認していない。
なぜ情報が食い違っているのか。
地球だったら、ネットとかで真実か偽物か見極められない人もいるからな。
でもこの世界ではそういうことは少ない――はずだ。
確証は得られないけど、そうだと思う。
《確かに、少しおかしいかもですね》
『だろ? おかしいって』
《周囲の魔力濃度が下がっています。……今までなら精霊が誕生するほど上がっているはずなのに――》
……そっちかい。
そう考えまくっていると――我が精霊がヒラヒラとやってくる。
精霊が幹にくっつくと、ほんのりと体が温かくなる。
『あら~、どうしたのムスメちゃん?』
いかん。思わず親戚のおばちゃんみたいな声になってしまった。
でも、我が愛娘がこっちに来ることは本当に少ないのだ。
いつもは自由に森を遊び回っていて、小動物とじゃれ合っている。
まあ俺が呼べば来るんだけど、精霊がこっちに来るのが〝義務感〟っぽく思えて嫌だったから、もう呼ぶのは止めた。
それ以来、自主的に来る頻度が滅茶苦茶少ないことが分かった。
本当に同窓会よりも少ない頻度――と考えれば分かりやすいかもしれない。
来るときでさえ珍しいのに、小動物と一緒に来ることがほとんどだったから、一人で来るのはもっと珍しいのだ。
そんな子が、一人で来たってことは――
娘がクルクル回って俺の視線を奥に誘導する。まるで何かを見せるように。
何かな? と奥を見ようとしたが、嫌な予感がした
背筋がゾワゾワッとした。
すぐに目を逸らそうとしたが、それでも――それを忘れるには、もう遅かった。
その光景は、一瞬見ただけでも、すぐに目に焼き付いてしまったから。
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