やべえ。これは見ちゃいけない案件だ。
「出た。出られたぞ……」
俺は興奮していた。
「おいっ。テアシ、スカおじ外へ出られたぞっ」
振り向くと、テアシはうずくまって体を震わせていた。
「おい、大丈夫か? もうあいつらはいなくなった。だから落ち着け」
俺は早くこの教室から出たいと思った。
テアシの腕をつかんだが、するりと通り抜ける。
「テアシ、ここから出よう」
そう言ったが、テアシはいやいやをするように首を振っただけだった。
本当に触ることはできないのだろうか。
俺はテアシに背中を向けて、しゃがみ込んだ。
「テアシ俺におぶされ」
すると、テアシがおずおずと腕を伸ばし、俺の背中に体を乗せて両手を回してしがみついたのが分かった。
動ける。
そう感じた俺はテアシをおぶって教室を後にした。
俺たちがいた二階の教室へ戻り、黒板の下で壁にもたれかかるようにして座らせると、その頃にはテアシはだいぶ落ち着いているように見えた。
「ごめ、ごめんなさい……」
おそらく泣いていると思われるが、骸骨なので分からない。
「いや、いいよ。まさかこんなことになるなんてな」
「おじさんは?」
「あいつに憑りついて出て行った」
「あんたはここにいる? あたしを置いて行かない?」
「行かないよ。そばにいるから安心しろ」
「うん……」
テアシが抱きついてくる。
思った以上にテアシは幼いのかもしれない。
俺はテアシの頭蓋骨を優しく撫でてやった。
「ありがとう……」
テアシがしおらしくお礼を言った。
「落ち着いたか?」
「うん……」
教室は静まりかえっている。外からは、ジー、ジジーっと虫の声が聞こえた。
「あのさ……。ここから出たいんだろ?」
「……」
テアシは答えない。
足を三角にして体育座りになったまま微動だにしなかった。
俺は、この静かで何もしゃべらない時間が息苦しかった。
どうしたらいい。
声をかける言葉が見つからない。
頭が空っぽだからか。
そうだ。
空っぽの頭に質問したって、何も出てきやしない。
「テアシ……」
「うん……」
俺はごくりと、存在しない喉でつばを飲んだ。
「検索、かけてもいいか……?」
「え?」
テアシが俺を見た。
「あたしの?」
「ああ」
テアシが首を横に振った。
ぎゅっと長骨(膝)を胸に引き寄せて、そこへ顔をうずめた。
「いやだ。怖いよう……」
「大丈夫だって、さっきのはイレギュラーだ。あんなの一年のうちに一回あるかないかの出来事で、お前とはいっさい関係がない。心配するな。テアシはいい子だから、きっと別の事情で死んだんだ。俺がなんとか思い出させてやるから、な?」
テアシは悩んでいるのか、全く身動きしなくなった。
一方、外の一階あたりからジー、ジジーっと相変わらず虫たちが騒がしい。
たっぷり時間が過ぎて、テアシが顔を上げた。
「もし、検索して変なのだったら言わないで。もう、誰も呼び出さなくていい。あたしはここにずっといる」
「そんな事言うなよ」
俺は少し焦った。
テアシが成仏するか狩りをしなければ、俺が何者であるかも、ここから出ることも一生叶わないではないか。
ちょっとそれは無責任すぎるんじゃないか? とイラついた。
「じゃ、じゃあ、とりあえず検索だけ、な? 死因だけ調べよう。調べるだけだから」
俺はテアシの機嫌を伺いながら、持っていたスマホのスイッチを押した。
スマホのまばゆい光に目を細める。そして、検索をかけた。
少女 遺体 白骨化 ニュース 検索
瞬時に表示が出た。
「お! 出た」
「あたしは後でいい……」
テアシが顔を背ける。
俺はドキドキする気持ちで、急いで確認した。
――2020年○月〇日、○○県○○市の○○川沿いの竹やぶから白骨化した遺体について、○○署は○○町の中学へ通っていた少女A(15)であると判明したと発表した。
同署によると、腐敗しかかった皮膚からDNA鑑定をしたところ本人であると特定。
遺体には同じく白骨化した未熟児の遺体があり、見つかった少女の未熟児であると思われる。
少女の親族からは行方不明届けが出ていた。
○○署は事件、事故、自殺の面から身元の特定も進めている――
やべえ……。
これは見ちゃいけない案件だ。




