欠けた指
俺はスカおじに尋ねた。
「その指、どこでなくしたの」
「覚えていないんだ……」
「そっかあって、言うわけないだろ。思い出せよっ」
俺がそう言うと、スカおじはいきなり俺の胸倉をつかもうとした。
しかし、その手は空しく宙を舞っただけで、俺はおかしくて笑った。その時、
「おい、てめえ何してんだ……。いつまで待たせるんだ」
突然、小さな赤い光が入って来て、それがタバコの火であることに俺はすぐには気づかなかった。
真っ黒のスーツの男は暗闇に溶け込んで見えた。
いきなり現れた闖入者に、呼びだされた男は包丁の刃の先をスーツの男に向けた。
「く、来るなっ」
「ふう……」
スーツの男は教室の机をがんっと蹴った。
「ここに来れば100万がどこにあるか分かるっつったよな。どこにあるんだ? 早く返せよ」
「あんたらが……。あんたらが爺ちゃんを殺したんじゃないか。爺ちゃんをあんたらが……」
包丁を持ったまま、男が泣き出す。
スーツの男は突如、小脇に抱えていたカバンを振り上げて、包丁を持っている男の横顔を思い切り張り飛ばした。
男が吹っ飛んでガラスの破片の上に倒れ込んだ。
どこか切れたのだろう、床に血が流れ出した。
スーツの男は気にせず、血まみれの男のシャツをつかんで揺さぶった。
「100万返せって言ってんだ。何回言ったら理解できるんだ?」
「俺は……あのお婆さんにもらった100万を爺ちゃんに預かってもらって……。それから後の事は知らない……。爺ちゃんが何とかするって言ったから……」
「お前の爺ちゃんはボケてたのか? 家を探したが金はなかったぞ。指だけじゃすまないんだよねえ。あああ、どうしてくれんだ? 100万ないと困るんですが!」
いきなり始まったバトルに俺たちは戸惑ってしまう。
テアシは無言で立ち尽くしているし、スカおじは標本のように直立したままだ。
「こ、殺さないで……」
「殺すわけねえだろうが。もう一度爺ちゃんの家を探して100万見つけろ。たく、なんでこんな山奥の学校へ来なきゃいけないんだ? 肝試しか?」
「じ、爺ちゃんから連絡が来たから……」
「はあ?」
俺はちょっとびっくりしながら、スカおじの方へ体を寄せた。
「な、なあ、爺ちゃんってのはあんたの事だよな。あんたの孫っぽいけど」
「し、知らない……」
知らないって……。
でも、あんたが思い出さないと、このお孫さんは殺されちゃうんじゃないか?
この状況を単純に鑑みると、オレオレ詐欺で高齢者からだました100万円を受け子の孫が着服したって図に見える。
そして、その100万円を祖父が隠して、まあヤバイ人たちに狙われて殺されたって感じじゃないか?
全部、俺の妄想だが。
「あああああああっ」
テアシが突然、悲鳴を上げる。
「どした?」
声のした方を見ると、スーツの男が床に倒れていた。背中には包丁が刺さっていて、そこに覆いかぶさったスカおじの孫が何度も包丁を突き立てていた。
「マジか……」
骸骨三人が見下ろす中、孫は放心してその場にしゃがみ込んだ。スーツの男は動かない。




