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骸骨パラダイス!  作者: 春野セイ


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薬指の欠けたおじさん


 男は怯えていた。

 そして、机の上に手を伸ばして何かを手に取った。

 出刃包丁だった。

 

 おっかないな。

 あんな物を振り回したら危ないぞ。

 俺が考えていると、テアシが俺の隣に来て囁いた。


「ウキン、あいつにはあたしたちの姿は視えてないみたい。けど、気配は感じているかもしれないね」

「どうする?」

「どうすることもできない。おじさん、どこにいるんだろ……」


 テアシが室内をキョロキョロしてから、アッと声を出した。


「おじさんっ」


 突如、テアシが叫んだ。テアシが見ている方向を見ると、教室の黒板の前に一体の骸骨が立っていた。

 俺はあまりに驚いて後ろにこけた。


 お、脅かすなよ。

 失ってしまった心臓がドキドキしているような気がして、俺を脅かしたおじさんを恨めしく思った。


 テアシの元パートナーのおじさんの骨は細くてスカスカだった。

 どう見ても生前は病気を患っていたのであろう。


 骨がスカスカしているので、スカスカおじさん。略してスカおじと呼ばせてもらう。


 スカおじは、呼び出した男の方へ歩いていった。

 テアシがスカおじの方へ駆け寄った。


「おじさん、どこに行ってたの? 心配したんだよ」


 しかし、スカおじはテアシの呼びかけに答えず、包丁を持つ男の目の前に立った。

 男はきょろきょろと目を動かしながら、スマホを見た。

 左手の包丁はしっかり握りしめている。

 スカおじは何かに気づいたらしい、テアシの方へ顔を向けた。


「おい、お嬢ちゃん、スマホを貸してくれんか」

「あ、はい」

「俺が今から言うことを入力してくれるか」

「分かりました」


 何だ、この息の合った会話は。

 俺はちょっとムシャクシャした。

 テアシよ、俺とスカおじとのギャップがひどすぎないか?


「お嬢ちゃん、こう入れてくれ。あなたは誰ですか? 助けに来てくれたのですか? 俺の姿が見えますか?」


 テアシは、スカおじの言葉を復唱すると、音声入力に切り替わったスマホが自動で文章を入力してくれた。

 誤字がないか確認してすぐに送信を押す。


 ピコンと男のスマホが音を立てた。

 男はびくっとして、スマホを取り落とした。

 それから机に置いてあった懐中電灯を取ると教室中に光を向けて叫んだ。


「誰だっ。どこにいるっ。爺ちゃんなのか? 爺ちゃんじゃないのかっ。一体、誰なんだっ。どこから見ているっ」


 男が尋常じゃないので、俺はテアシに尋ねた。


「おい、何がなんだか俺には分からないんだが。あんたらは奴にどんなメッセージを送ったんだ?」

「ちょっと黙っててよっ」


 テアシが怒鳴る。

 俺らはどんなに声を上げようが、相手には聞こえないんだからいいじゃんか、と思ったが、包丁を持った男はパニックに陥ったようだ。


「なんなんだよ、いったい誰がこんな嫌がらせしてくるんだよっ。爺ちゃんっ、爺ちゃんっ」


 しまいには泣きそうな声に変わっていく。

 なんだか気の毒に思えてきた。


「なあ、本当にどんなメッセージ送ったんだよ」

「ええ……? 毎日、ここの住所を書いて、助けてください。迎えに来てくださいって送ったんだけど。来てくれるかどうかも分からなかったし……」


 ここの住所知ってんのかよ……。


 俺はツッコミを入れながら、この男の気持ちになって考えてみた。

 見知らぬ相手から、毎日、助けてくださいと住所が書かれたメッセージが届く。

 その住所が廃校だったら。


「うーん、俺だったらそんなメッセージは無視するか、もしくは警察に相談するような気がするんだけど、どうしてこいつは包丁を持って、こんな夜中に一人でやって来たんだ?」


 俺の一人推理を無視して、スカおじが呟いた。


「俺のことを爺ちゃんって言っているな……」


 スカおじは顎のあたりに指をあてて考える動作をした。

 左手の薬指は確かに欠けていた。



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