ランに頭を下げた。
「200万はもらう。けど、子どもはあたしのだ。骸骨の言う事なんか聞かない」
「そうか……」
ランはあっさりと引き下がった。
「ランっ」
「いいよ、このアマはそう言うと思ってた」
「気味の悪い骸骨ね」
アイラは吐き捨てると、40万を自分のお腹に入れてサンダルのまま、和室の方へ戻って行った。後をセイラたちが追いかける。
アイラは部屋の中に入り、倒れている子どもの手を引っ張り上げた。テアシがアイラの手にしがみついたが、つかむことができなかった。
アイラは、子どもをセイラの彼氏に押し付けて、三人はそのまま玄関の方から外へ出て行った。
テアシが追いかけていく。ランが引き止めた。
「テアシ、追いかけるなっ」
ランが呼び止めたが、テアシは飛び出して行った。
俺はその後を追う。
「テアシ、待てっ」
「いやっ、いやよっ」
テアシの手をつかむこともできず、俺は追いかけた。
三人は駅の方へ向かっていたが、気を失っている子どもを見られるとまずいと思ったのか、立ち止まりスマホを操作しはじめた。
少し待つとタクシーがやって来て、三人は乗り込むとあっという間に行ってしまった。
「待ってーっ」
テアシはタクシーを追いかけたが、追いつけず膝を突いてその場に座り込んだ。
「テアシ……。あきらめよう……」
「ウキン……」
テアシはこうべを垂れたまま、とぼとぼとスカおじの家に戻った。
スカおじとランは縁側に座っていた。
「行ったか?」
「うん」
ランが冷静なので、200万の話はあいつらを嵌めるための嘘だったのではないかと思った。
「ラン、もしかしてあいつらに嘘を教えたのか?」
「いや、嘘じゃねえよ」
「じゃあ……」
「俺が言う事じゃないが、他人から金を奪うってのは命がけだ。甘く見ない方がいい。知ったこっちゃないが、指一本だけじゃすまねえだろうがよ」
くっくとランが笑ってスカおじを見た。
「ああ、すまないな。あんたを殺したのは俺たちだ」
「……」
スカおじの顔が分かればいいが、俺たちは骸骨なので表情が読めない。
スカおじは黙っていた。
「スカおじ、ランはあんたの孫に殺されたんだ」
「スカおじ……? 俺の名は、永山光冴って言うんだがな」
ずい分、かっこいい名前だな。
「お嬢ちゃん、まさか、お嬢ちゃんにここでまた会えるとは思ってもみなかったよ」
「おじさん、あたし、妹を助けられなかった」
テアシが項垂れて悲しそうな声で言った。ランがテアシの頭を撫でる。
「あの親はすぐに捕まるよ。それに、組織は子どもには手出しはしないだろうぜ」
ランの言うことはどこまでが本当か分からない。でも、死んでいる俺たちはもうどうすることもできない。
「さあ、どうすっかな」
ランが空を見上げて言った。
「成仏しそうにないし、あいつらがどうなるのかちょっと気になるから、俺は行ってみようと思う」
ランはそう言って腰を上げた。
「お前らも来るか? あんまりおすすめはしないがな」
俺はテアシの方を見ると、テアシは地面を見ていた。そして顔を上げると、行くっとはっきりと言った。
ふっとランが笑った気がした。
「おうっ。じゃあ、来い。だが、今すぐじゃなくていい。おそらくドタバタ劇は明日辺りになるだろうぜ」
「どうしてだ?」
「まずは……そうだな、あいつらの動き次第だが。子どもは邪魔だから、どこかへ預けるだろう。今なら少しは金があるからな。子どもをどこかへやって、俺が教えた番号へ電話をしたとする。電話を受けた組織は、200万を用意するのに少し時間がかかるだろうから、今日中にすべてが進むとは限らない。あのアマたちは時間があるから、おそらくコインロッカーの近くで見張るだろう。そして、組織の誰かが200万を持って現れる。200万らしきブツがコインロッカーに入ったところで、あのアマどもはすぐに取りに行くってのはどうだ?」
ランはまだ起きてもいない出来事を想像して言っているのだろうが、その通りにうまくいくだろうか。
「そんなにうまくいくのか?」
俺が聞くと、ランは両手を上げて体を伸ばした。
「さあ、分からないが。今までもこうやってある程度は予測をしながらやって来たんだ。自分が殺されたのは想定外だったがな」
何が起こるかわかんねえのがたまらなく面白いんだよ、と言った。
「明日の朝、○○駅のキヨスクの隣にあるコインロッカーまで来い。想定内のことが起きるか分からないが、来るんなら気合い入れて来いよ」
長い足を前に進めランは庭を出て行く。
「ランっ」
呼び止めると、ランは俺の方を振り返って片手を上げた。
「ああ、そうだ。ちなみに俺も名前を思い出したよ。俺の名前は、塗谷公次。別に覚える必要はない、じゃあな」
飄々と歩いて出て行った。
もし、ランにもう一度会うことになったら、見分けがつくだろうか。ランの特徴は数か所、傷がある背骨と少し低い声。もう一度会った時、また仲良くしてもらえるだろうか。
俺はランに頭を下げた。




