センセイは来なかった。
俺は再び男に飛びかかってやめさせようとしたが、できなかった。
「ウキンっ。この子、あたしの妹なんだって、助けてあげてっ。お願いっ」
「ああっ」
「じじいっ、100万はどこかって聞いてんのよ」
どすの効いた声でアイラが叫ぶ。
じじいと呼ばれたスカおじは何を思っているのか、手のひらを握り締めて震えている。
「……だから、何度も言ってるだろ。外にある犬小屋の中に隠した。もっとよく探してくれ」
「ないから聞いてんのよっ」
アイラとスカおじが会話をしている。
金ちゃんの言ったとおり、アイラは視えているのだ。
視えていないふりをしていたのか。
俺はますますアイラに憎しみを感じた。
「なぜ、子どもを痛めつけるっ。なんの理由があって、そんなことをする」
「あたしが産んだんだから、あたしが何をしようと勝手でしょ」
アイラが吐き出すように答えた。
この子はアイラの子どもなのか? セイラじゃないのか?
もうどっちでもいい。
「100万は俺が探してくる。だからその足をどけてくれ、頼む」
俺が頭を下げると、アイラが目を見張って俺を見た。
「……もしかして、あんた、ウキン?」
「ああ、そうだ」
「レイラ、こいつが言っていたあのウキンなのね? あのね、こいつはね……」
「違うっ。嘘つきはおばさんだっ」
テアシがアイラの言葉を遮った。
「早く、その足どけてよおっ」
テアシの剣幕にアイラがムッとした。そして、セイラの彼氏の男に足を退けるよう指示をした。
「こいつらの仲間が今から100万を探すって、だから、足をどけてやれよ」
「アイラ、さっきからぶつぶつと何言ってんだ。本当に100万あんのか? なかったら承知しねえぞ、こらあ」
「誰に向かって口きいてんの? このポンコツが」
辛辣な言葉を吐かれて男は怒りの目を向けたが、アイラはそっぽを向いていて、見ていない。
「くそっ」
男はそう言って、子どもを蹴り飛ばした。
「やめてっ」
テアシが子どもを庇って抱きついた。そして、体を震わせて子どもを守るようにうずくまった。
俺は早く100万を見つけて、こいつらにどこかへ行ってもらいたいと願った。
こいつらはいずれ警察に捕まる。
でも、この子どもはどうなる? それまでに子どもに被害が及ぶんじゃ……。
「ウキンっ。行くぞっ」
ランの声に我に返った。
「あ、ああ」
俺はランと一緒に縁側から庭へと飛び出した。
スカおじの言っていた犬小屋は庭にある大きな木の下の日陰に置かれていた。
犬小屋の中を覗き込んだが、やはり100万はなかった。とすれば、スカおじが忘れているのか勘違いをしているんじゃないか。
ランも顎に手を当てて考えている。
「俺たちも犬小屋は探した。しかし、なかった」
「掘ってみよう……」
フッと俺は思いついた。
「え?」
「この下に埋めたのかもしれない」
「そうだな」
しかし、俺たちが土を掘ることは物理的に無理だった。アイラに頼まなくてはいけない。
俺は寝室に戻って、アイラに犬小屋の下を掘ってみてくれと頼んだ。
アイラは嫌そうな顔をしたが、セイラの彼氏に命令した。
男は怒っていたが文句を言いながらもどこからかスコップを探して来て掘り始めた。
しばらくセイラと彼氏が、犬小屋の下をあちこち掘っているとビニール袋に入った包みが出てきた。
「うっそ、やった! あったっ」
土まみれのセイラが飛び上がって喜んだ。見ていただけのアイラが、ずかずかとやって来てビニール袋を奪った。
「山分けだからね。あたしが40で、あんたたちは30ずつね」
「なんで、アイラだけが40なんだっ」
セイラの彼氏が持っていたスコップを投げつけて憤慨した。アイラが言い返す。怒号が飛び交い険悪になったその場から、俺は急いでテアシたちの元へ走った。子どもを保護しないと、またあいつらに虐待される。
「テアシっ」
和室に飛び込むと、テアシが俺を見た。
「センセイっ。この子、やばいよっ」
先生と言われて、ああ、と思った。
やはり、テアシはすべてを思い出している。
「逃げよう」
「やられっぱなしでいいのか」
ランが怒りを抑えていたのか、低い声でうなった。
「俺は猛烈に腹がたっているんだけどな」
子どもは衰弱して動かない。テアシはきっとこの子を守るためにこの場から動かないだろう。
「ウキン、あんたはあの女に殺されたんじゃないのかっ」
ランが焚きつけるようなことを言いだす。
たく、勘のいい男だ。
「俺のことはいいから……」
「よくないよっ」
テアシが言った。
「あたしのせいで、センセイ、殺されたんでしょ? あたし、センセイを待ってたんだよ。でもいつまでもセンセイ来なかった。なんで来ないのかなって……」
「レイラ……」




