最後の仕事だ。
「どうやってこの部屋から出る?」
鍵を開けなくては外へ出られない。
俺はドアを見に行った。
当然、鍵がかかっている。俺たちは物に触ることができない。
外にいるマナベもこの頑丈な鉄のドアを壊すことなどできないし、どうしたらいいだろう。
「ラン、どうしたらいいと思う?」
ランも必死で考えているようだった。俺たちは骸骨だ。俺は一生懸命考えた。
はっ、そうだ!
俺は金ちゃんのそばに駆け寄って抱きついた。
ぎゅっと抱きついて願った。
「俺の体で金ちゃんの体が少しでも冷えないかな」
熱中症なら、体の体温が冷えたら少しでも動けないだろうか。
俺の体は霊体だ。何もない。何もできない。
けれど、さっきマナベは、憑りつかれたら体が重い気がすると言っていた。霊体が近づくと鳥肌が立つこともある。
人は見えないものでも本能で察知すれば火事場のバカ力と同じような作用が働かないだろうか、と考えた。
「金ちゃんっ、金ちゃんっ」
俺が何度も耳元で叫んだせいか、金ちゃんが呻き声を上げてうっすらと目を開けた。
「ウキン……?」
「うんっ、俺だ。ここから出よう。ドアの鍵を開けて、外へ出るんだっ」
「カギ……」
ぴくっと金ちゃんの指が動いた。
「そうだ。生きよう、金ちゃん。ここで死んじゃだめだっ」
俺はさらに金ちゃんを抱きしめた。
少しでも冷えろ。体を冷やせ。
すると、ランが後ろから俺と同じようにして金ちゃんを抱きしめた。
「俺も手伝うぜっ」
俺は必死で金ちゃんに呼びかけた。
金ちゃんは意識が朦朧としているのだろうか、それでもゆっくりとゴミの中を這いずり出した。
「いいぞ! その調子だ。頑張れっ」
頑張れっと俺の声とランの声が響いた。
ずりっずりっと金ちゃんはゴミをかき分けて玄関へ向かった。
どれくらいの時間がたったのか、ものすごく長く感じた。
あいつらが帰ってくる前に、早く、早く。
俺はとにかく喉が枯れるくらい叫んでいた。
「うるさいすよ……ウキン……」
金ちゃんが腕を伸ばして、ガチャンと音を立てながら鍵を開けた。ばったりと倒れ込む。
ドアが開いて、外から風が入ってきて金ちゃんの金髪がそよいだ。
「金ちゃんっ」
外にいたマナベが叫んだ。それからすぐ、救急車のサイレンが聞こえてきた。
団地の人々がひっそりと出て来て、到着した救急車からストレッチャーを下ろした救急隊員が駆けつけてきた。そして、部屋の中にも入り女の子を保護する。
マナベが二人に付き添って救急車に乗り込んだ。俺たちも救急車に乗り込んだ。
「ウキン、金ちゃんが言いたいことがあるって」
マナベが言って、俺はすぐに金ちゃんの口元に顔を寄せた。
金ちゃんが口を動かしてもごもごと必死で言った。
「金ちゃんどうした?」
「ア、アイラが……、テアシを連れてった……」
「え? えっ?」
「アイラは視えてる……」
金ちゃんはそれだけ言って目を閉じた。
俺は唇はないのだが、血がにじみ出そうなほど噛みしめた。
アイラの狡猾そうな顔を思い出すと虫唾が走った。
あの……。クソったれ……。
「ありがとう金ちゃん、絶対に死ぬなよ」
俺は金ちゃんの手をしっかり握った。
救急車が二人を搬送して、騒然としている団地から走り去った。団地には救急車の他に警察も到着していた。
マナベが警察にも通報をしていた。
パトカーが数台、停まっている。成人男性の誘拐、監禁の疑いと子どもを放置し一人置き去りにした疑いで、奴らは事情聴取されるはずだ。
「警察より早く、テアシを探さなくては」
俺がランの方を振り返ると、ああ、分かってると彼は言った。
「居場所が分かるのか?」
ビックリして問うと、ランが頷いた。
「ああ、だが、先に確認をしておく。ウキンとマナベが話していた100万円というのは、一人暮らしをしていた婆さんから奪った葬式代の100万の話だろう?」
「葬式代だったのか……」
やはりランもすべて思い出していた。
「ああ、思い出したよ。俺の最後の仕事内容だ」
ランが淡々と語り始めた。




