もう一人いるぞっ。
滝本セイラは子どもを道具にしていた。
俺は何度も滝本家に訪れて虐待をやめるように説得をした。
児童相談所に連絡をして、施設に保護してもらったが、すぐに滝本セイラが連れ帰り、何度も何度も虐待を繰り返していた。
「マナベ、あそこの302の駐車スペースに黒のBMWが止まったらやばい。滝本セイラの男の車だ。ガラの悪い男だから気をつけろ」
「わ、分かった……」
金ちゃんが心配だった。
ランは静かに俺たちの後ろをついて来ている。
3階へと階段を上がるうちに、俺は膝がガクガクしていた。
あの部屋が見えてくる。
ゴミの臭いのする汚い部屋。
下の階と正面の部屋の住人は引っ越した。
滝本セイラのせいだ。
「302号室。ここだ」
ランがドアの前で立ち止まる。
マナベがドアノブに手をかけたのを見て、小さく叫んでいた。
「マ、マナベ、ちょっと待ってくれ。やっぱり危険すぎる。俺たちが様子を見てくるから4階に上がって待っていてくれ。滝本家にマナベの顔を見られたらまずい」
俺があまりに動揺するので、マナベはごくりとのどを鳴らした。
「分かった。俺は4階にいるからすぐに呼んで」
「ああ」
ランが無言で頷いて、俺はドアの前に立った。
ピンポーンと押しそうになってやめる。
「そうだ。俺は死んでるんだった……」
落ち着け落ち着けと言ってる間に、ランがドアノブに手をかけるとスウッと中へ入って行った。
俺も手を伸ばして急いで後を追った。
中はゴミの山だった。
埋もれた洗濯物の中に生ゴミがある。
「なんだこりゃ、きたねーな」
ランが驚いている。
ひどい。
以前よりももっとひどい状態だ。
部屋の中は熱気がこもっているように思えた。
「この部屋に人は住んでねえぜ」
ランが言った。
「俺がここへ来たのは多分、5年前だ。最後のあの日、滝本セイラとあの彼氏に話をしに来た。いないと思っていたのに、なぜかアイラがいた。アイラは滝本セイラの妹で……」
俺はそう言いながら、目線はコンセントの抜けた冷蔵庫を見ていた。電子レンジはドアが開いたままだった。
「おいっ、あそこに人がいるっ」
ランが叫んだ。
俺はハッとして、奥の畳の部屋を見た。
がっしりした体格の男が体を折り曲げて倒れている。金ちゃんだった。
「金ちゃんっ」
駆け寄ると、金ちゃんの顔は腫れていて明らかに何度も殴られような跡があった。
「だ、大丈夫か?」
「み、水……」
金ちゃんの体が小刻みに震えていた。
水? 脱水を起こしているのだろう。早く救急車を呼ばなくては。
俺は外へ飛び出していた。
「マナベ、金ちゃんが中にいる。き、救急車を呼んでくれっ」
踊り場から上の4階に向かって叫ぶとマナベが顔をのぞかせてから駆け下りて来た。
分かった、とすぐにすぐにスマホで119番へ緊急通報した。
「ウキン、住所は? ここの住所を教えてっ」
俺はすらすらと住所を伝えた。
「金ちゃんは脱水になっている。早く、早く金ちゃんを助けてくれっ。頼むっ」
俺は必死で言った。
「し、死なないよね。金ちゃん、大丈夫だよな?」
マナベが口を震わせながら言った。
「だ、だだ、大丈夫だと思う。けど、早く……」
「おいっ。ウキンっ、こっちに来い! もう一人いるぞっ」
ランが部屋の中から叫んだ。
俺はすぐさま部屋の中に飛び込んだ。奥の部屋へ飛び込む。
金ちゃんのそばに小さな子供がうずくまっていた。
スカートを履いているので女の子だ。5歳くらいに見えた。
「眠っているのか?」
女の子は膝を折り曲げてぐったりしていた。
「この暑い部屋で眠れるか? 死にかけてんだろっ」
ランは怒っているのか、大きい声を出した。
びくんっと金ちゃんが震えて小さく呻いた。




