後悔している
「やっぱりな」
ランの冷静な声にハッとした。
「これは、笑い事どころじゃないな。でも、問題がこうも山積みだと笑いたくなるぜ。だがウキン、そしてマナベと言ったか? 今重要なのは生きている人間を助けることじゃないか? テアシには悪いが彼女はもう俺達と同じ骸骨だ。金ちゃんとやらは、まだ生身がある。その毒親はかなりヤバそうに俺は思う。金ちゃんを探すのが先決だと思うぜ」
ランの言う通りだった。ここで取り乱してマナベに突っかかるのは間違っている。
「ラン、ありがとう。君の言う通りだ。マナベ、悪かった」
「いいんだ。俺がウキンだけでも、いや金ちゃんにもっと早く伝えなきゃいけなかったのに……」
「反省会は後だ。それよりマナベが来たんだから外へ出られるだろ」
「あっ、ああ。そうだな」
俺は納得して頷いた。
マナベはびっくりしてランを凝視している。
「あ、あの、あなたは一体……」
「マナベ、ランのことは後で説明するから。ラン、すまないが君は後でマナベとここを出てほしい。マナベはまず俺を外へ出してくれ。出たときに何が起こるか分からないから、俺が出た後ですぐにランを迎えに行ってほしい」
ランのことを信用していないわけじゃない。でも、外へ出た途端にいなくなってしまったら困る。ランにはいてほしかった。
すると、ランは静かに言った。
「ああ、気にしなくていい。俺はまだ、あんたと出会って日が浅い。どんな奴か分からないもんな、当然だ。でもなんとなくだが、俺はあんたらと一緒にいたいと思っている」
ランの口調には少し高揚感が混じっていた。
分かる。俺もドキドキしてきた。
ここを出られるんだと思うと、口から何かが出てきそうなほどの緊張感があった。
すると、マナベが言った。
「二人とも一緒に出るのはできないかな」
俺とランは顔を見合わせた。
「やってみよう」
俺はマナベの右腕にしがみつき、左腕をランがしっかりとつかんだ。
マナベは顔をこわばらせて、ぶるるっと身震いをした。
「これが憑りつかれる感覚か。シラトリの時はなんか背中が重いなあと思ったくらいだけど二人は倍の重さが……」
「ごめんな、マナベ」
骸骨に憑りつかれるってどんな気分だろう。
「ほら急げ」
ランがそう言って、マナベは頷いた。
両腕に骸骨をぶら下げたマナベがゆっくりと一歩ずつ一歩ずつ玄関を出て行く。
運動場の土を踏んだ。砂利と土の感触をマナベを通じて感じる。
ぞわりと俺の骨が震えた。
じりじりと照りつける太陽、蝉のこえ、骨を撫でていく心地よい熱風。
そしてなんとなく見覚えのある景色。
気づけば辺りを見渡していた。
まさか、俺はここの小学校の出身じゃないよな。
それはないだろう。だってここは築100年の廃校なんだから。
外へ出た途端に何かが俺の心に入り込んでくるようで、耳の付け根あたりにぞわぞわと鳥肌が立っていく気がした。
「ウキン!」
気づけばマナベが俺の顔を覗き込んでいた。
俺はマナベの顔を見返しながら、不思議に思っていたことを訊ねた。
「マナベ、どうして俺のところに来たんだ?」
「え?」
「金ちゃんを探しに行くのが先なのに、どうしてだ?」
「……俺があの話をしたから」
「あの話?」
「100万円の話。テアシの母親の本当の目的は100万円だ」
あの話がどうしてテアシや金ちゃんに関わるのだろう。
俺は首を傾げた。
「オレオレ詐欺で騙したお婆さんからだまし取った100万円か。マナベ、あの事件、どこまで調べた……?」
「俺たちが動画を撮った時、血のついた包丁と一緒にスマホがあったろ?」
「スマホ……」
そうだ。スカおじが呼び出した孫のスマホが現場には落ちていた。
「警察は押収したスマホを解析してから、その後、スカおじの孫が逮捕された。孫の名前は永山平志朗、30歳。あれから永山のニュースが取り上げられたが、永山の祖父の家に預けた100万はいまだ見つからず」
マナベはいったん息をついた。
「俺は、永山平志朗の祖父の家も調べた」
「スカおじの家が分かったのか……」
「知っている。家にも行った」
「まさか、金ちゃんも……」
「金ちゃんも一緒に行った……」
後悔しているような暗い声だった。




