徘徊
ランに何もかも伝えるわけにいかず、俺は提案をした。
「なあ、ちょっと息抜きしないか? 目覚めたばかりでこんな話を聞かされて心が苦しいだろ」
ランは少し考えてると、そうだなとポツリと言った。
「確かにあんまりいい気分じゃない」
「気分転換に散歩するか。案内するよ。小学校」
「おうっ」
ランはそう答えてすくっと立ち上がった。
俺より少し身長が高い。目線が同じになると、ランが何かに気づいて俺の後ろに回り込んだ。
「正面から見たら横の部分がへこんで見えたんだが、ウキンの頭……へこんでるぞ」
「ああ、まあな。たぶん、俺も殺されたんだろうな」
「……。俺の体、どうなってる?」
「んあ? あ、ああ……。そうだな……」
「正直に言ってくれ」
「あ、ああ……。背骨にひびが入っているね」
「背骨……。ひどい奴だな、背中からやったんだな……」
ランは肩を落とし、がっくりと頭部が落ち込んでいった。
「それじゃあ、学校回ってみるか」
落ち込むランにかける言葉が見つからず、俺は励まそうと思ったが、心の中は別のことを考えていた。
学校なんて回っていて、いいのか?
テアシを探しに行かないのか?
悶々としていると……キン、ウキンっと名前を呼ばれているのに気づいた。
ハッとして足を止める。
「俺、事件現場に行ってみたい」
ランにそう言われて俺は大きく息を吐いた。
そうだよな。普通はそう思いつくよな。
「分かった。行こう……」
現場は警察が入ったので、規制線が張られたままだ。
ガラス片などはそのままで教室は汚れたままだったが、証拠の品はすべてなくなっている。
ランは教室内をくまなく見ていたが、何も思い出せないようだった。
「この教室で殺されたのか……。ふうん……。俺は何しにここへ来たんだ? 全く理解できない。肝試しに来たのかな」
いや、違うけど。
「もしかして……」
ランが俺の方を振り返った。
「俺も呼び出されたんじゃないか?」
「え?」
「そのスマホで呼び出せるんだろ、誰か特定の奴を」
「まあ、そうだね」
「俺はここに呼びだされた。そう考えるのが妥当だ」
なかなか鋭い考えを持つ骸骨だなと思う。すると、突然、ランが神妙な声を出した。
「ウキン、あんたは俺のことを思っていろいろ隠しているだろ」
「あ」
「分かるよ、それくらい」
ランは椅子に座ると、膝の上に両肘を乗せた。
「ウキンは生前の俺を知っている。そして、俺を怖がっている」
「……」
「びくびくしなくていいよ。俺は何もしないし、しようと思わない。俺が生前、どんなひどい奴だったか知らないが、怖がらせて悪かったな」
人って死んだら別人みたいになるのかな。
だったら、今の俺も生前とは全然違う性格だったりするのだろうか。
死んでしまった人に対して、怖がる必要なんてないのに。
俺も同じように近くにある椅子に座った。
「ごめん。俺、テアシがいなくなってショックを受けてるようだ。ランだって目覚めたばかりで訳が分からないのにな。本当にごめんな」
「いや、いいよ。テアシがいないのは間違いないのか」
「ああ。ランがここにいるのがその証拠だ。前にいた骸骨の話では、どうやら俺だけバグっているらしい……」
「どういう意味だ?」
「俺はイレギュラー、本来なら、ここにはいるはずのない骸骨なんだ……」
「よく分からないが、同じ骸骨に違いはないと思うぜ」
ランは俺を慰めてくれているのだろうか。
「テアシの事、よほど可愛がっていたんだな」
言われてみればそうかもしれない。
まだ15歳で、ストーカーに付きまとわれて、妊娠したまま殺されていたテアシ。
俺のひとりごとは声に出ていたのか、ランが一瞬言葉を失っていた。
「それは……、まあまあな人生だったな。それで、テアシがいなくなる前、何かいつもと違う様子はあったか?」
「え?」
「俺と入れ違いでいなくなったんだろ。なんでいなくなったんだ? 自分の意思で出て行こうにも誰かに憑依しないと出て行けないんだろ?」
「ああ、そうだ」
「テアシを最後に見たのはいつだ?」
テアシを最後に見た日?
俺は思い出そうとした。
金ちゃんたちと別れてから、俺はテアシに内緒で、夜一人で学校内を徘徊していたのだ。




