自分が何者かも分からない
「俺は最近、テアシが眠った後、学校内を徘徊していたんだ」
「はっ、なんだってそんな事」
「なんでそんな事したんだろうな……。ちょっと息苦しかったんだ。24時間ずっとテアシがくっついていて、俺は外へ出たかったが、テアシはここから出たくないって言いながら、俺から離れなかった。だから、テアシが眠っている間、ほんの少し、息抜きのつもりで俺は学校内を歩いていた」
「はあ、そういう事か」
「なんだ、そういう事って」
「……」
ランはその質問には答えなかった。
「骸骨も寝るんだな」
「テアシはよく寝ていた。考えない子だったから」
「ふうん……。ウキンはテアシが寝ている間に徘徊して、今度はウキンが寝ている間に、テアシがどっかへ行ってしまった。テアシの思いが、今頃分かったってやつか」
ランに言われて、俺は唇を噛みしめたかった。
「……ああ、そうかもしれない」
テアシは知っていたのかもしれない。俺が夜中一人で学校をうろうろしていたことを。
その時のテアシの気持ちなんて考えたことなんてなかった。
「それで、うろうろした結果、何かいい事はあったのか? 秘密の抜け道とか、別の骸骨に出会うとか」
俺は首を振った。
「ハハ、あんたのは倦怠期ってやつだな」
「……はあ?」
倦怠期って……。
意味を考えて俺はムッとした。
「そんなんじゃないっ」
「まあいいよ。俺には関係ない。ところで、そのスマホ、ちょっと貸してくれないか?」
「え? あ、ああ」
ランは人を使うのがうまい気がする。
俺は持っていたスマホを見せながら、あれ、と思った。
そういえば、俺はいつからスマホを持っていた?
ランがスマホをいじりながら、もう一度アプリを開いて、ああ、やっぱりあったぜと声を上げた。
「えっ、何が?」
「ほら、これ、見ろよ」
ランが開いたのは過去の履歴のメッセージだった。スカおじよりさらに前の分まで残っている。
「き、気づかなかった……」
相手の番号しか注意して見ていなかった。
そういえば、警察が来て騒がしい間、テアシがスマホを見たいと言っていた。
俺は一人になりたいあまりに意識していなかったが、テアシに渡したままだった。
「ウキンはよほど行き詰まっていたんだな。まあ、生きている人間で言うと鬱状態じゃないか?」
ランがなんでもない事のように言いながら、スマホの画面をスワイプしていき、その動きが少しずつゆっくりになった。
「ああ……。そういう事か……」
「なんて書いてあるんだ?」
「ウキンは見ない方がいいぜ」
「なんでだよっ」
俺はランからスマホを奪った。
メッセージのやり取りを数日前に遡って読んでいった。そして、スマホを落としそうなほど動揺した。
「な、なんだこれ、この会話はなんだ……」
「テアシの死因について、さっき言ってたな。ストーカーされて妊娠したまま殺されたって」
ランの言葉が突き刺さる。無意味だと分かっていても耳を塞ぎたかった。
「ここに書かれているのは真実なのか?」
俺は首を振ろうとした。
だが、分からなかった。
俺が何者かなんて、答えられないから。
「ここに書いてあるのは、ウキンがストーカーの犯人でテアシを殺したって書いてあるぞ」
俺が殺人犯? 本当に俺がテアシを殺したのか?
声が漏れていたのだろう、ランが呆れたように言った。
「んなわけないだろ」
「……え?」
「ウキンはどう見ても、殺人を犯すというより、殺される側のお人よしに見える。だいたい、この相手、テアシの関係者だっけか? かなりあくどい人間らしいな。テアシは確か15歳だったよな。15歳の少女をだますのはちょろいと思うぜ」
何だろう、この頼もしさ。
俺は目の前の骸骨をじっと見つめた。
見た目は俺と同じだが、中身は全然違う生き物に見える。
「ランは頭がいいんだな」
「冷静に考えたらすぐ分かる。ほら、ここ読んでみろよ。そこにいちゃ危ないわ。あなたが一緒にいる男は殺人者よ。一緒にいちゃダメよ。なぜ、知りもしないのに、ウキンが殺人者だと断言できる」
力強い声に俺は胸を打たれた。
人間だったら嬉しくて目頭が熱くなっていたと思う。
「なんか……本当にありがとう……。まだ一日しか知らない俺を庇ってくれて」
「俺は自分が何者かも分からないのに、一方的に殺人犯人にされるのは不快に思うだけだ」
ランが吐き捨てるように言った。




