君の名前を決めよう。
新たに現れた骸骨のために俺は自己紹介をした。
「俺の名前はウキン。本名は分からない。君は自分の名前が分かるか?」
「いや? 全然分かんねえぜ」
骸骨が首を振る。
「君の名前を決めよう。何がいい?」
「自分で決めた方がいいのか?」
「できれば」
「分かったよ……」
骸骨がジーっと何かを見つめている。
三年一組の教室はそこまで外部の者に荒らされているわけではない。しかし、相変わらず、使い古しのシューズや破かれた教科書、お菓子や空き缶とゴミは多い。
すると、骸骨が呟いた。
「あれ……、ランドセルか……」
「は?」
「ランドセルってやつだろ」
骸骨が指さしたのは、床に落ちていた黒いぺちゃんこのランドセルだった。
「ああ、そうだけど?」
「ランドセルのラン」
「……ああ。うん。いいかもな。じゃあ、ランさん」
「ランでいい」
「ラン」
まあ、いいか。人それぞれ思いがあるから。
「どこから話せばいいのか分からないんだが……。ランは今どんな気持ちでいる?」
「は? 俺の気持ち?」
「うん」
「そうだな……。なんか奇妙な気持ちだ。脳ミソがないからだろうな。それとあんた、いや、ウキンか。ハハ、骸骨がしゃべるから笑いたくなる気持ちかな。ああ、俺死んだんだってのもあるかな」
ランはずいぶん落ち着いていた。
死んでいるのに取り乱していない。
本当ならここで、うあーっとか、ここはどこだあ? 俺は誰だあーとか叫んでくれたら、ああ、ちょっと人間らしさを感じられたのかもしれないのに、妙に冷静で逆に不気味だ。
ランはちゃんと自分が死んでいることを理解しているようだった。
しかし、俺たちは成仏できていない。
これは何か理由があるのだろうか。
それと、ランがここに現れたことで俺は理解した。
ここに現れる条件。
ニュースとして取り上げられた白骨化した骸骨だ。
つまり、シラトリが言ったとおり、俺がバグであるとしたら、俺はまだ……。
ランの記憶が戻ることはおそらくない。
だが、本来の自分らしさを取り戻す可能性はある気がする。でも、俺は本来のランを知らないから、他人に乱暴を働いたランを差別するのは、性分として嫌だった。
「俺がこれまでに分かっている話をしようか? それとも何も考えずにただここにいることもできるよ」
「何も考えずにここにいるとはどういうことだ?」
「言った通りだよ。余計なことなんて考えず、ただ、一日何もせず、鳥の声や雨や風の音を聞いたり見たりするんだ。ただ、ゆっくりと感じて過ごすだけ」
「他にすることは?」
「探検でもするか? ここは廃校になった小学校だから」
「あ、ああ……。廃校か。どうりで机や椅子が転がっているんだな……」
俺は内心、祈っていた。
ランはもう、ここで仙人みたいにただぼんやりと暮らしてくれたらいいんじゃないか。
本心はそう思った。
ランの表情は全く読めないが、彼は首をひねって天井を見上げながら呟いた。
「そうだな……。何だか、めんどくせえ気持ちもある」
「うんうん」
「でも、俺の脳ミソ、ねえけど。使わなきゃ、溶けそうな気分だ。それはなんか嫌だなあ」
ランは、ハハハと乾いた笑い声を出した。
俺は息を吐いた。
そうだよな、と思う。
全ては無理だが、できるだけ、ランに言える話をしよう。
俺は決心した。
「じゃあ、確実ではないけど、俺が理解できている部分をランに説明するよ」
「お! そうか。じゃあ、頼むよ」
ランの声が弾んだ。
「何から話そうかな。まずここには俺たちみたいな骸骨がいる。そして骸骨たちはペアになっている。ま、相棒ってやつだ。んで、俺たちがどうして骸骨になってしまったのか、という情報がこのスマホに表示されている」
「スマホ?」
ランが素っ頓狂な声を上げた。
俺は持っていたスマホをランに見せた。
読んだらきっとランはショックを受けると思う、と前置きして、検索画面の情報を見せた。
ランはそれを読むと、首を傾げた。
「なあ、なんでこれは俺の情報なんだ? ウキンじゃないのか?」
「それは……」
なぜ、これがランの情報なのか、それは、俺がランについて知っているからだ。
確かに通常だったら、俺の情報がこのスマホに出ているはずだった。
でもこれは確実に、俺の情報ではない。
「先日、この小学校の一年一組で殺人事件が起きた。その記事にある通り、若者二人はその事件現場に残されていた血のついた包丁を発見して、警察に通報した。その数日後だったかな。最初に一台のパトカーがやって来た。ようやく初動捜査に乗り出した。その後はお祭り騒ぎだったよ。鑑識、検察、警察犬と機動隊と警察官がやって来て、それから遺体が発見された。その発見された遺体がラン、君なんだ」
「はっ」
ランが言葉を吐き出す。
「面白いな。まるで全部見てきたようだな」
「まあね」
見ていたんだから仕方ない。




