いつまで続くんだろう。
マナベが俺とテアシの方へ顔を向ける。
その顔はやけに真面目腐って見えた。
「2人とも俺達に憑りついて、ここを出て行かないか?」
「え?」
「ここを出よう。シラトリたちは多分成仏したんだと思う。俺たちと出て自由になればいい」
「あ……」
そうだった。金ちゃんとマナベがいればここを出られる。
急に希望が湧いてきた。
俺は顔はないが、きっと笑顔になっていたはずだ。
「テアシ、行くかっ」
「え?」
「マナベがこう言ってくれるんだから、ここを出ようっ」
「あたし……、ウキンと一緒がいい。ずっとここにいたい」
「なんで……」
そんなことを言うんだ、という言葉を飲み込んだ。
思わずマナベを見ると彼は首を振った。
「分かった。いいよ。また気持ちが変わるかもしれないから、また来るよ」
マナベの優しい言葉に俺は感動した。
「そうか! ありがとうマナベ」
「俺もいるっすよ」
金ちゃんも優しい。
「ウキン、俺、この事件を追ってみる」
マナベが言った時、俺は思わずマナベの腕をつかんでいた。
「やめろっ」
「ウキン……」
肉体があったら、絶対に鳥肌が立っていたと思う。全身でやめてくれと言っていた。
「危険だ。相手はヤバい連中だ。絶対にかかわるな」
奴らは躊躇なく人を殺す。金のためなら何をするか分からない。
そう思うと外の死体といい、金ちゃんやマナベのことが心配になった。
「絶対にダメだ。ああ……そうなると、2人はもうここに来ちゃいけない」
「どうしてだよ」
「これから警察が来る。そうなればあの死体が発見される。その時もし、ここにいたら、2人は容疑者扱いされる可能性も出てくるだろ? だからもう関わらないでくれ。頼む」
「ウキン……。ウキンはいい奴だな。生前、どんな人だったのかな」
金ちゃんが笑った。
マナベもつられたように少し笑った。
「分かったよ。ウキンがそう言うんなら、この件で動画配信に載せるようなことはしない。目立たないようにこっそり追いかけてみるよ」
「それでもダメだ。マナベ、俺は本当に心配なんだ」
「ウキン、もし、マナベが無茶するようなら、俺が止めるすよ。マナベ、ウキンの言う通りにしよう。な?」
2人の関係はこんな感じなのかもしれない。
とにかくできるだけあの事件には関わらないでほしいと頼んだ。
マナベは納得していなかったが、また来るからと約束した。
俺とテアシは2人を見送るため、正面玄関の方へ行った。
「この玄関を出ると広い運動場になってるんすよ。そこに数台車が停められる。それで北側に向かって校門があって、山を下る道路へ繋がってるんす」
学校の外の世界かどんな景色が広がっているんだろう。
俺が(ないけど)遠い目をすると、金ちゃんが片手を上げた。
「じゃあまたっ」
2人は来た時とは違う様子で学校を出て行った。
誰もいなくなって、また2人きりだ。
俺はテアシと手を繋ぐと、三年一組へ戻った。
テアシはここから出たいと一言も言わなかった。
その日も何もすることなく、夜が更けていった。
警察も肝試しを試す人も誰も来なかった。
相変わらず外からは虫のこえがしていた。
今朝はテアシのお母さんが来た。でも、それだけだった。
何も変わらない日常。
俺はもたれかかっているテアシを見下ろした。
なんでだろう。
どうして、テアシはこんなに無防備なんだ……?
「なあ」
「ん……?」
テアシがぴくんと俺の声に反応して顔を上げた。
「何?」
「俺は男で、お前は女だよな」
「たぶんそうだけど、それが何?」
「この状態だといつ襲われてもおかしくない。いくら、骸骨とはいえ女の子なんだから危機感をもった方がいい」
「……は?」
俺の言葉にテアシがきょとんとしてからゲラゲラと笑い出した。
「な、何言ってんのっ?」
伝わらねえ。
イラっとして俺はテアシを押し倒していた。
「やっ」
寝転ぶテアシ、しかし、それは骸骨で。
俺は体を起こした。テアシも起き上がる。
「ねえ、ウキン」
「なんだよ」
テアシが手を伸ばして、俺の胸のある部分に触ろうとした。グーッと伸びた両手は俺の胸らしき場所があった肋骨あたりを探っている。
「うわー、骨(手)が通過してるー」
うけるんだけどー、と笑い転げた。
俺はふうっと息を吐いた。
その時、今更だが、男と女の違いに気づいた。
「骨盤だ」
「は?」
「女の人は子供を産むから、骨盤の形は男と違うはずだ」
こんな機会は絶対にないので、俺はテアシの骨盤をじっくり穴が開くほど観察した。
ふむ、こんな風になっているのか。
「なあ、俺の骨盤と見比べて……」
「ば、ばかああああああ」
べしっと頭蓋骨の後ろを叩かれて、そうそうそれくらいの勢いがほしいよ、と思って苦笑した。
それから、テアシはそのままことんと眠ってしまった。
一日何もしていないのに、なんとなく疲れるのはなぜか。
俺は自分にもたれかかるテアシの頭を撫でながら、いつまでこれが続くんだろう……と思った。




