俺たちの名前
「あんたって長生きしそうよね……」
いや、俺たち死んでるし。今、見ただろ。
そこはお互いつっこまず、とりあえず名前を決めることにした。
「君はどういう名前がいい? おそらく女の子だと思うから、可愛い名前がいいんじゃないか?」
「……あんたが決めてよ」
「へ?」
女の骸骨は、口があったらすぼめるようにして、ポツンと言った。
「俺が決めていいのか?」
「いい」
今度はぶっきらぼうな口調だ。
「そうだなー」
俺は女の子らしい可愛い名前を思い浮かべようとした。
ところが頭の中は真っ白で何も思い浮かばない。
困った俺は辺りを見渡した。
目の前に人形が転がっている。金髪の巻き毛でドット柄のエプロンを付けていた。人形には手足がなかった。手足がないので、テアシにしようと思った。
「テアシ。君の名はテアシだ」
「は?」
「だから名前だよ。テアシ」
「何よ……テアシって。テアシっておかしいでしょっ」
テアシが一瞬わめいてから、急に無言になった。
骸骨が急に黙ると何を考えているか分からなくて不気味だ。
「……まあ、いいわ。じゃあ、あんたの名前はあたしが決める」
「よろしく頼む」
俺が頼むと、テアシが黙り込んだ。
おそらく懸命に何か思いつこうとしているだろうが、きっとテアシも思い浮かばないのだろう。だから何かをヒントにして考えているはずだ。
案の定、テアシはこう言った。
「ゾウキン」
「は?」
「ゾウキンよ。ピッタリね」
「ゾウキンは人の名じゃねえだろ」
「文句あんの?」
「ゾウキンが雑巾を投げたとかいう描写があったら困るから、変えてくれ」
「はあ? そんな事できないから。さっきの見たでしょ。あたしたち、物をつかむ事なんてできないんだから」
「でもゾウキンはやなんだよ。頼む! 頼むよー」
俺が両手を合わせて拝むと、テアシはため息をついたように見えた。たぶん。
「仕方ないわね。じゃあ、ウキンにしましょ」
「ウキン……。ウキンって言いにくくない?」
「……」
テアシが黙り込む。
きっとテアシは、生前は怒ると黙り込むタイプだったんだろうな。
「はあ、分かったよ……」
俺はしぶしぶ了承した。
「じゃあ、ウキン、あんたが目覚めたから、狩りに出るわよ」
「狩り? なんだそれ」
俺は気づかなかったのだが、テアシが床に置いてあったスマホを取った。
「うおっ。びっくりした。スマホ。え? 使えるの?」
「使える。これで狩りをする」
「は?」
意味が分からん。
「あのさ、説明。説明をして欲しい」
「いいわ。説明する。まず、あたしたちは死んでいる」
「ああ、それは分かった」
「自分が一体誰なのか思い出せたら成仏できる。狩りって言うのは、万が一、思い出せなくても人間に憑依できたら、ここから出られる」
「へ? マジ?」
「マジ。あんたが目を覚ます前におじさんはそう言っていた。どこかにいなくなっちゃったけど。たぶん、おじさんは誰かに憑依したか、自分が誰か分かったんだと思う」
ウキンの声は平たんで棒読みのようだった。
「えっとー、なんか怒ってる?」
「怒ってない」
いや、怒ってるだろ。
まあ、寝ている間に相方が勝手に成仏しちゃったら、ちょっと嫌な感じだよな。
「おじさんが消えてウキンが現れた。多分、あんたは自分が死んだことを知らずに骸骨になってこの学校へ取り込まれたんだと思う」
「取り込まれた?」
「ここからは出られない。絶対に」
「えええ……?」
何が起きているのか分からないが、どうやら死んだ後でこの世界に取り込まれたって感じなのか。
「まるでゲームだな」
「は?」
「だってそうだろ。そのスマホ、マジックアイテムかなんかだろ?」
テアシの持っているスマホは真っ暗な画面だったが、物を持てない骸骨が持てるのだからこの世のものではないだろう。
「ええ。あんた……ウキンの言う通りかもしれない。このスマホでどうして自分たちが死んだのか検索をかけることができる。そして、たった一人だけ、生きている人間をこの学校へ呼び出すことができる」
「はあ……?」
完全にゲームじゃないか、と俺は思った。
面白い。




