地獄にいるような気がした。
あいつが亡くなって何日目だ?
あの遺体が白骨化したら、もしかしたらここの仲間に加わるかもしれない。
それを考えた瞬間、俺は尾てい骨から背骨にかけてゾゾゾと震えがきた。
俺をつかんでいるテアシにも伝わったのか、一瞬、テアシが離れた。
今すぐゴクッと唾を飲みたい気分だった。
「マ、マナベたちはどこまで知ってる?」
俺の質問に金ちゃんが思い出すように天井を見上げた。
「ウキンがこの教室で目を覚まして、テアシと出会ったんすよね。それで退屈だったから2人でスカおじを探そうってことで、一年一組の教室へ行くと、そこには二人の男がいたんすよね」
そうだ。
そうだ。思い出した。
あの時の記憶がよみがえってくる。
俺は心臓があったらきっと喉から飛び出そうなほどドキドキしていたに違いない。
「ウキン、その話をもう一度、詳しく話してくれ」
マナベがそう言ってリュックからペンとメモを取り出した。
「分かった……」
俺は頷いた。
あの時の場面をもう一度思い出せ。
「俺はテアシの話を聞いて、スカおじが呼び出した人間と待ち合わせをしている教室、一年一組へ行った。そこが外と繋がる一番近い部屋だからだ。夜遅くに、テアシと2人で行ってみると、スカおじの孫らしい男がいた」
「年齢は?」
「30代くらいだったと思う」
「服装は?」
「服装……。そこまでは……覚えてないな。薄着だった。こんな夜中に一人で来るのはおかしいと思っていたら、護身用に包丁を持っていたんだ」
「他には? 他に何か持っていなかった?」
「いや……。分からん。スマホは握り締めていたな。俺達と会話するために必要だったからだろうな」
「どういう意味すか?」
金ちゃんが口を挟む。
「金ちゃんたちは俺達が視えているが、視えない人たちとはスマホのアプリで会話ができるんだ」
「そうだったんすか。それで、セイラさんたちが今ここにいるんすね」
金ちゃんが2人を見ると、セイラとアイラがビクッとした。思いのほか2人は大人しく黙っている。
「話を戻すぞ」
マナベが鋭く言った。
「ああ、ごめん」
「それで、包丁とスマホ以外は何か持っていた?」
「分からん」
テアシも首を振った。
そうだ。テアシは俺よりももっと詳しく見ているはずだ。
「思い出してくれ」
マナベが懇願する。
「ああ。えっと、包丁を持っていることに俺は違和感があった。どうやってこんなでかい包丁持ってきたんだ? あぶねぇだろ。下手したら自分が怪我をするぞ、と思った。そして……。そうだ! スカおじは左手の薬指がなかった」
「左手の薬指がない……」
マナベがメモを取る。
「俺が指について聞くと、スカおじは自分の指がないことを憶えていないと答えた。それからあいつが現れた」
真っ黒の不気味なスーツ姿の男。
「あの日の夜は、まだ少し涼しかったんだろうな。男は黒いスーツを着ていた。するとスカおじの孫がそいつに向かって包丁を突きつけた」
「じゃあ、包丁はそいつを殺すため?」
「分からん。あ、そうだ。スーツの男は、100万はどこにある? って言ったんだ」
「100万……」
金ちゃんが呟く。
「それでオレオレ詐欺の話か……」
「そうだ。それが原因だ。100万はどこにある? ここに来れば分かるって言ったよな、と孫と言い争いを始めたんだ」
「じゃあそいつらは2人でここに来たんだな」
「だろうな。スーツの男は外で待っていたが、しびれを切らして中に入ってきた。そしてスカおじの孫が……。確か、おばあさんにもらった100万をじいちゃんに預かってもらっていたとかなんとか……」
「あのバカ孫がおじさんに100万を預けたら、おじさんが何とかするって言ったんだよ」
いきなりテアシが冷静に語りだしたので、俺たちはビクッとした。
「あたし、ずっと見てた」
テアシの空洞の目はどこかを見ていた。
「スーツの男が、100万はどこにあるって、あのバカ孫に掴みかかった時、バカ孫はスーツの男のキンタマを思いっきり蹴ったの。そして床に膝をついたスーツの男に馬乗りになると、落ちていた包丁を拾って背中からメッタ刺しにした……」
テアシが目のあった部分を覆う。
「テアシ」
「だい、大丈夫……」
テアシは頭を上げてうめき声を上げた。
「それから……、あのバカ孫は自分の顔や手に刺さったガラスを抜いてその辺に放り投げると今度はあの……あの男をズルズルと……。足をつかんで引きずり始めたの……」
「テアシ、もういいよ。後は俺が言うから」
あの時、テアシは悲鳴を上げながら嘔吐していた。
俺は……。
あの時の気持ちを思い出す。
あれは、地獄にいるみたいだった。




