返事をくれなかった。
シラトリの切実な声に、俺たちは声を出せなかった。
すると、スズメがその話を引き継ぐように、重ねて金ちゃんたちに頼んだ。
「俺からも頼むよ。金ちゃん、マナベ……。シラトリの願いを叶えてやって欲しい。動画配信は、二人に怖い思いをさせて悪かった。けれど、俺は久しぶりにワクワクした。本当にありがとう……」
本気で動画に打ち込んでいたスズメは、もう思い残すことはないといったかのように、すっかり落ち着いていた。
「俺たちはここに長く居すぎた。シラトリの関係者にメッセージを送っても誰も来ない。既読もないんだ。相手が誰だか検討もつかないけど、シラトリは諦めていない。俺も、シラトリがこの白鳥かどうかも知りたいし、彼の願いを叶えてやりたい。だから、俺も一緒に外へ出してもらえないか? ついて行きたいんだ。二人には決して迷惑をかけないから」
スズメに関することは、シラトリの次の情報になるから全く分からない。だが、彼はそれでもいいと言っている。
金ちゃんたちはどう思っただろう。
俺は不思議な気持ちでいた。
まだ、目覚めて数日しかたっていないから、余計に分からない。しかし、もしも自分がシラトリの立場で、ずっと意識を持っていたら、どんな風に思うだろう。
すると、金ちゃんが手をグーにして力強く言った。
「いいっすよ! もちろんす。俺に憑りついてくださいっ。ここから出ましょう」
グーにした手をシラトリの方へ突き出す。
すると、気づけばマナベは目を潤ませて感極まったような声で言った。
「俺も……。スズメ、シラトリ、俺たちと一緒に出ようっ」
「ありがとう二人とも……」
シラトリが声を震わせた。
シラトリ泣いているのか? そんなんじゃ分かんないぞ、もっと感情を込めなきゃ。
俺は、よかったよかったと心で思いながらも、肝心の殺人事件から話が逸脱しているのではとも考えていた。
しかし、俺たちが殺人事件を心配したところでどうにもならない。通報の件は、金ちゃんたちに任せよう。
とそこまで考えて俺は大事なことを思い出した。
「そうだ! 金ちゃん、マナベ、さよならする前に二人に見て欲しいものがあるんだ」
「なんすか?」
俺は手に持っているスマホを二人に見せた。
内容は当然、テアシの事だ。
「これはテアシが亡くなったと思われる死因が書かれている情報だ。二人ともこれを読んで何か気づくことはないか? 今から五年前の記事だ」
二人は懐中電灯を照らし、よーく文面を読みはじめた。読み始めるうちに、二人の様子が豹変していった。
「あああっ! し、知ってる……。これ、俺、知ってるっす」
金ちゃんが興奮して立ち上がった。
「この〇〇中学校って、俺とマナベの隣の区内の学校だ。すげえ有名になった事件で、全国ニュースにもなった」
全国ニュースに上がったのか。
有名人だな、などと茶化せる問題じゃなかった。
俺は知らずうちに身を乗り出していた。
「ストーカー殺人っ。学習塾の講師が付きまとった相手は15歳の少女だった。こ、これですっ」
マナベが自分のスマホを検索して、その結果を見せてくれる。
「たきもとれいら……」
ふいに、マナベの口から固有名詞が出てきた。
「た、たきもと、れいら? どんな字を書くんだ」
俺はスマホを見せてもらい、テアシの名前だろうと思われる漢字を頭に入れた。
滝本麗良。
すごく可愛い名前じゃないか。
「テアシ……、テアシよかったな。お前の名前が分かったぞ。美少女みたいな名前じゃないか!」
俺は嬉しくなって肩を叩くと、テアシはお地蔵さんのように動かなかった。
「おい、聞いてんのか?」
テアシが俺の手を振り払う。
「い、いきなり言われても分かんないよっ。それ、本当にあたしなの? 知らない。タキモトなんて聞いたことないし、レイラなんて子、知らない」
シラトリが厳かな口調で言った。
「テアシの気持ちはよく分かる。俺だって白鳥正一って名前はあるが、それが自分かなんて、確信があるわけじゃないからな。だからって、ここにいたらもっと分からないんだ。だから、テアシも出て行くことを考えろ。金ちゃんたちと出会えたことは奇跡だ。この先、もしかしたら、これから何年過ぎても出会えないかもしれないんだぞ。視えて話を聞いてくれる人間なんて現れないかもしれないんだ」
「そうだよ」
スズメが相槌を打つ。
「テアシ、君の名前が分かってよかった。君は骸骨じゃない。タキモトレイラなんだ」
「レイラって言わないで……」
テアシが耳をふさぐ。
俺は、テアシの背中(肋骨)をさすってやった。
「ああ、いいよ。テアシはテアシのままでいい。でもな、シラトリたちの言う通りだよ。ここから出てみないか? 俺も行くから。絶対にずっと一緒にいてやるから」
「なんでみんなここを出たいの? いいじゃん。ここにいたら安全でしょ。幸せでしょ」
「テアシ、はっきり言って俺はここから出たい。このまま、ただ、朝が来るのを待つだけでいいのか? 昼を過ぎて夜が来る。それの繰り返しなんだ。永遠に閉じ込められたままなんて、次に進みたくないか? 別の場所に行ってみたいだろ?」
俺の説得を聞いても、テアシはうつむいたまま返事をくれなかった。




