俺をここから出してくれ
俺は金ちゃんとマナベに、自分がここで目覚めたところから話し始めた。
金ちゃんとマナベは、俺の話を口を挟むこともなく静かに聞いていた。
時々、ウエッとか、うげっとか、嘘だろ……といったウ行で始まる言葉を並べていた。
「じゃあ、そのスカおじは、オレオレ詐欺の子役みたいなやつに憑りついて外へ出ていって、そのスカおじの孫みたいなやつは、オレオレ詐欺の男を殺したんすか。そして、オレオレ詐欺の男は、スカおじの孫に殺されて、外に捨てられ……。え? 今も外にあるんすか?」
「うん」
「うん、じゃないすよね。外に遺体があるんすよね」
「うん」
「いや、だから……」
金ちゃんが頭を抱える。
「警察にやっぱり通報するしかないですね」
マナベが頭を抱えるようにして言った。
「ああ、頼むよ」
俺はホッとしていた。
あの殺された男は確かに善人ではないかもしれない。しかし、そのまま放置されたら本当に……。
先のことを考えてゾッとした。
「な、なあ、白骨化って、どれくらいで白骨化するんだ」
「え? あ、調べるっす」
金ちゃんがスマホを取り出して、検索をかけ始めた。
「そうっすね。冬だったり土の中に埋められている場合は、数か月かかりますが、夏場の本体が剥き出しの状態だったら、一週間から10日ほどっすね」
そんな短期間で白骨化するのか。
「あの男が殺されたのは、一昨日の夜だから、まだ、大丈夫だな」
「なんか、すごい話だけど……。そもそもなんで、そのスカおじの孫って分かったんすか。本当に孫なんすか? 話し聞いただけじゃ、不可解なところが多いんすけど」
「あ、ああ、そうだな」
俺はちらりとシラトリを見た。シラトリは腕を組んだままじっとしている。
もしかして、寝ているのか? と思うくらいびくともしない。
「シラトリ、俺たちの話を聞いて、補足とか、気づいたことはないか?」
客観的に見て、俺の説明に抜けはないか説明して欲しかった。
シラトリは、ふうっと息を吐いた。
「これを見てくれ」
シラトリがおもむろに、自身に張り付いているようなスマホをみんなの前に差し出した。
四人が一気に読むことはできないので、マナベが代表して読んでくれた。
「えっと……。○○県○○市の男性が4月から行方不明になり、県警が10日、同県の○○町に住む30代の男に話を聞き、町内の空き地を捜索したところ、白骨化した遺体を発見した。県警は行方不明の男性と見て身元の確認を急ぐと共に、男から事情を聞いて死体遺棄事件として捜査を進めている。行方不明となっているのは同市の建設業で働いていた白鳥正一さん(30)として見ている。妻が県警に相談をしていた。県警の捜査幹部によれば、男は市内で運送会社に勤務していた時期があり、白鳥さんは男と金の貸し借りがあったという。(2010年〇月〇日公開記事)」
スズメをのぞく、金ちゃんの顔がじょじょにこわばり、俺は思わず、シラトリの顔を見た。
白鳥って、本名だったんだ……。
「な、なんすか、これ……」
金ちゃんが、内容をよく見ようとシラトリの手にあるスマホをじっくりと読んで、声を震わせた。
読み上げたマナベに至っては、ごくりとのどを鳴らして、目を見開いてシラトリを見ていた。
「この、白鳥ってのは、本当にシラトリの事なのか?」
シラトリは金ちゃんの方に手を伸ばしたまま、床を見つめていたが、やがて絞り出すように声を発した。
「分からない……」
「は?」
「分かるはずがないだろう。ここにいる俺はおそらくその白鳥だと思う。だが、何も覚えていないんだ」
「シ、シラトリがここを出て行きたいのは、これが理由なのか?」
俺の質問にシラトリは首を振った。
「正直、それも分からない。でも、ここにいたら、何もかもがどうでもよくなってくるような気がして……。あの骸骨たちのように、自分のことが分からないまま、ここでずっと過ごすことが幸せだと思い込むようになって……。それもいいかもしれないが、俺はこのスマホの情報を見て思ったんだ。妻って……。妻ってなんなんだ? って」
シラトリが頭を振った。
「妻とやらが捜索願いを出さなければ、俺は空き地にずっと埋められたままだったかもしれない。日付けからして、この記事は2010年とある。今から、15年も前の事だ。だからなんだ? 俺は今、ここにいる。しゃべっている俺はここにいるんだ。この2010年が発見時の記事でも、もしかしたら、実際はもっと前に、例えば2000年に殺されたとする。そうであれば、25年間このままだったのか? いいや、この先もこのままなのか? 疑問を感じられるうちに、俺は何かをしたかったんだ」
金ちゃんもマナベも黙っていた。ただ、目つきだけは真剣だった。
「金ちゃん……。頼む、俺をここから出してくれ。それだけでいい。後は迷惑かけないから……」
シラトリが掠れるような弱々しい声で言った。




