見られていると、感じた。
ここにいるのは骸骨の形をした仙人か。果たして、悟りを開いた上人か。
「あんたら、退屈じゃないのか? さみしさとか怖さとか」
「さみしいもまやかし、恐怖もそれはすべて作られたものだ」
生身じゃないから、楽しみも悲しみもない。楽しいと思うのは、生きる希望と夢があるからじゃないか? ここにいれば時間に追われることはなく、朝日が昇り、夜が来るそれだけだ。
そう、淡々と骸骨上人は語った。
「あんた……。あんたのスマホは? 検索結果を見せてくれ」
「そんなものを見てどうする」
「いいから見せてくれ」
「ないよそんなもの。必要ない」
「でも、俺たちがここにいるのは意味が……」
「意味が必要なのは、おぬしらだけだ」
テアシがゆっくりと体を起こし、骸骨の方へ顔を上げた。
「……ずっと、ここにいていいの?」
「お嬢ちゃんはここにいたいのか」
「うん、あたしはここにいたい」
俺はテアシの言葉にショックを受けた。
「テアシ……。本気か?」
「テアシというのか、お嬢ちゃんは。テアシや、おじいちゃんと一緒に来るか?」
「え?」
「わしの方が優しくしてやるぞ」
「……」
自分をおじいちゃんと呼ぶ骸骨の言葉を聞いた途端、テアシが黙り込んだ。そして、ぷいっと顔を背けて、
「うっせえ! 変態じじい。胸クソわりいんだよ、死ねっ」
と、突如、テアシが毒を吐いた。
俺は言いようのない、気分の悪さを感じた。
骸骨男は無言で数歩後ろに下がると、すうっとどこかへ行ってしまった。
姿が見えなくなって、俺はシラトリの言っていた意味が分かった気がした。
俺たちが視ている恐怖は作られたものだ。
視覚によって脳が錯覚を起こしている。思い込みの恐怖だ。
「ここから出たい」という欲求をあの骸骨の言葉で理解させられた。
俺とテアシにはまだ、夢があるんだ。
しかし、ここにも恐怖はある。
恐怖は視覚だけの問題じゃない。
聞こえてくる恐怖がある。
人の吐き出す言葉がある。
「テアシ、もう大丈夫だ。行こう」
「あいつ、さっきの何? 胸クソわりいんだけど」
「テアシ、その毒はどこかへ置いた方がいい」
「はあ? 何言ってんの? あんたムカつく」
これが、テアシらしいのかもしれない。
俺はテアシを立たせると、一年一組を出た。
「シラトリたちを探そう」
俺は言った。
恐がる理由はない。
ここの骸骨も幽霊も何もできない。
これは、俺が出した結論だ。しかし、まだ油断はできない。
俺たちはしゃべることができる。言葉は武器だ。これだけで人を殺せる。
俺は金ちゃんたちと出会った場所、理科室へと向かった。
案の定、四人はまだそこにいた。
真っ暗闇の中に机に懐中電灯を置いて、光を取り囲んで四人は座っていた。
なぜだか、俺たちを待っていてくれた。
「今、夜の21時を過ぎた」
教室に戻って来た俺たちにシラトリが言った。
シラトリは全部分かっていたのだろうか、あの骸骨の正体を。そして、子どもの幽霊を。
金ちゃんとマナベは椅子に座っていたが、憔悴しきっていた。
俺とテアシの姿が懐中電灯の光に照らされて見えるようになると、二人はびくっとして身をすくめた。
完全にトラウマだな。
「……ウキンは知っていたのか?」
俺とテアシが椅子に座ると、金ちゃんが責めるように言った。
知っていたのか? が何を指すのか分からなかった。
「金ちゃん……。スマホと血痕、包丁のことを黙っていたのは悪かった」
「知っていたんだな」
マナベが悲しそうに言った。俺は二人を裏切ったのだろうか。
「ごめん。先に言ってしまったら、きっと二人は芝居ができないと思ったから、言えなかった」
決して二人をバカにするつもりはなかった。
「傷つけたことは謝る。本当にごめん」
「ごめんなさい」
テアシも謝った。
「もう、いいっすよ」
金ちゃんが力なく言った。
「でも、半端ないくらい怖かったすよ」
「話してください」
マナベが真剣な口調で言った。
「ウキンたちは何か知ってるんでしょ? 知っている事全部、話してください」
怒り心頭というか、怒りが後から込み上げてきたという風にマナベが言った。
シラトリとスズメが俺の方を向いている。
骸骨の二人が何を思っているのかなんて当然、骸骨の目の奥は空洞になっているのでさっぱり分からない。
頭部だけがこちらを向いていたが、見られている、と俺は感じた。




