どこかいい場所
それから日が落ちるまで話し合い、金ちゃんたちは用意していた非常食で昼と夜を済ませた。
充分な水分と非常食を用意しているあたりを見ると、慣れていると思う。
動画の配信時間は19時30分からにした。
俺たち一行は理科室を出て、一階へ下りる階段へ向かった。
外はだいぶ薄暗くなっていた。
金ちゃんたちはライトがないと何も見えないのだろう。
懐中電灯の明かりで足元を照らし、慎重に歩いて行く。
その時、俺の後ろから金ちゃんの声がした。
「んん?」
「どした? 金ちゃん」
「いや、今、誰かが目の前を横切った気がして……」
金ちゃんの前を歩いているのは俺とテアシだ。テアシは俺の腕にしがみついている。
「テアシの足じゃないか?」
「そうっすね」
再び歩き始めて、踊り場を通りさらに階段を下りて一階にたどり着く。
「なんか、臭わないか?」
正面玄関から一年一組の方向へ顔を向けた金ちゃんが顔をしかめながら言った。
俺は一瞬、ひやりとした。
臭い? どんな臭いだ? そう聞きたかったが我慢する。
「よし、金ちゃん、この正面玄関を入ったところから動画を回すぞ。アーカイブに保存するのを忘れるな。マナベ、君はしっかりと金ちゃんを撮るんだ」
メインを金ちゃんにして、そのリアクションをマナベが撮っていく。
「じゃあ、テアシとウキンはスタンバイ。教室のどこでもいい、好きな場所へ行け。声を出すのもOK。むしろたくさんしゃべっていい。もしかしたら、運よくその声がスマホに入るかもしれない。実際には、俺たちの姿は何も映らない可能性の方が高いからな」
スズメの言葉に、金ちゃんが声を上げる。
「えーっ、どういう事っすか?」
「金ちゃんたちは視える人だが、そんな人間は滅多にいない。視えるなんて奇跡なんだ。だから俺たちがスマホに映るとは限らない。むしろ、かすかに声が入ったり、影が映ったりしたらラッキーくらいに思え」
「じゃ、じゃあ、俺たちは何を撮れば……」
「これはやらせじゃない。金ちゃんたちは本当に視えているし、聞こえている。その真実を中継するんだ。この場のリアリティーを視えない人たちに届けたい。常に真剣にやってくれ」
なんだか熱いドラマみたいだ。
その場で感じているものを画面越しに届けろと言っているのだ。
ホラー系ユーチューバーも大変だな。
俺はそう思いながら、体を張って命がけなのに、それが伝わるかどうかも分からないなんて。
視えていない人たちは理解してくれるだろうか。この高鳴る鼓動と恐怖を。
おいウキン、お前は一体何を語っているのだ。
一人心の中で語っていると次第に気持ちが高揚してきた。
「テアシ、俺たちも行くぞ。絶対に離れるなよ」
「うんっ」
テアシが答えた。すると、スズメがそっと言った。
「もしかしたら、俺たち以外の誰かが、金ちゃんとマナベに憑りつこうとするかもしれない。その場合、俺とシラトリは急遽、二人に憑りつく。しかし、金ちゃんたちは最後までやり遂げろ。どんなことが起きても前のように逃げ出さず、一年一組の入り口から出口までの全体の様子を配信するんだ。分かったな」
スズメの言葉を聞いて、ここにいる全員に緊張が走った。
そうだ。まだ会ったことのない他の骸骨たちにとって、金ちゃんとマナベは恰好の獲物だ。
しかもここは、外から入って来て出て行くには一番の場所だ。誰かいてもおかしくない。
だったら悠長に動画配信などしている余裕などあるのだろうか。
これから何が起きるか分からないが、スズメの言葉で状況がすっかり変わってしまった。
気を引き締めて、俺たちができることを全うしよう。
俺はテアシの腕をつかみ、歩き出した。
ゆっくりと一年一組の教室に向かう。
入り口に入る前に立ち止まった。深呼吸して中の様子をそっと窺った。
暗やみでも俺たちには教室全部がくっきりと見える。
あの日、スカおじの孫がいた場所は教室の中央の机だった。
オレオレ詐欺の男が机を蹴ったおかげで椅子は倒れ、机は奇妙な場所まで移動していた。
俺の心臓がドキドキ(ないんだけど)と最高潮にまで高鳴り始めているような気がした。
テアシに関しては、ほぼ俺にへばりついているような形だ。足は浮いているのでカメの甲羅のように両手足でしがみついているようだった。
ごくりと唾を飲み込みたい気分だ。
あの日の恐怖がよみがえる。
室内に入る前に足が震えて、俺は立ち止まっていた。
「ウ、ウキン……?」
「いや、なんでもない」
俺は第一歩を踏み出す。
ふうっと息を吸い込んで、全体を見渡せるような、どこかいい場所を探すことにした。




