気になること
シラトリが提案したのは、もう一度あの事件が起きた一年一組の教室へ行こうというものだった。
そして、それは夜でなくてはいけない。
「一年一組ですか? そこに何かあるんですか?」
何も知らないマナベが首を傾げて言うと、シラトリが頷いた。
「うん。あそこは渡り廊下に面しているから一番人が入って来やすい場所なんだ。そしていわくつきの教室なんだ」
「いわくつき……」
金ちゃんが少し怯えたような顔になる。
マナベが真剣な顔で頷いた。
「分かりました。だったら、今夜そこでライブ中継します」
何も知らないマナベが意気込む。
シラトリの考えを俺はすぐに理解した。
俺も行くのは怖いが、きっと想像以上のものが撮れるような気がする。
そこで、夜まではまだ時間があるので、動画配信についてもっと掘り下げて話を続けることにした。
熱い意見がスズメの口から出てくるが、金ちゃんとマナベは話を聞くばかりで自分からは意見をあまり言わなかった。
「マナベが俺たちにユーチューブに出て欲しいって頼んできたのは勇気があってすごくいいと思うよ。でも、自分たちでどうしたいか考えなきゃ」
俺が言うと、優しいですねウキンさんは、とマナベが言った。そして、金ちゃんに向かって言った。
「金ちゃん。ウキンさんの言うとおりだよ。俺たちここで覚悟しなきゃいけない。これからやることは、本格的にホラー系ユーチューバーを目指すってことなんだから」
「えっ、マジで」
金ちゃんがぞくぞくっとしたように体を抱きしめた。
「二人とも怖がりだなあ。なんで視えちゃったんだろうな」
運がいいのか、悪いのか、俺が複雑な心境で言うと、
「視えるという事こそが、二人の特権じゃないか!」
と、スズメが強く言った。
これだけスズメが真剣になってくれるのは悪いことじゃない。
俺も二人を全力で応援しようと腹を決めた。
ものすごく怖くて、視聴者がわくわくドキドキするような動画を作ることができたら、きっとバズるはずだ。
「よし、俺も真剣に取り組むよ。細かい設定を話し合っていこう。アカウントはどうする? 新しく作り直すか?」
俺が意気込んで言うと、スズメが真剣に答えた。
「いや、このままでいいだろう。フォロワーが10人はいるのだから、宣伝次第で何とか倍の数にはなりそうだ」
「あ、二人ともせめて知り合いには今夜、ライブ配信することをちゃんと伝えておけよ」
シラトリが言うと、はい、とマナベが真面目に頷いた。
「二人は学生?」
俺が質問をすると、金ちゃんが首を横に振った。
「あ、20歳っす。学校は行ってないっす」
20歳か。テアシが生きていたら、二人くらいの年だったんだろうな。
すると、スズメがうーんと唸りながら腕を組んだ。
「大学にでも行っていたら、知り合いも多そうなものだが……。あと、この小学校の場所は特定されない方がいいと思う」
「え? なぜですか?」
「廃校は立ち入り禁止だろう。無断で入るのは違法だ。金ちゃん、顔出しはしているのか」
「あ、してます」
「だったらもう、仕方ないな。リアリティが欲しいし……。自撮りしながら教室内へ入ろう。懐中電灯の数とスマホのバッテリーの確認を」
「バッテリーはモバイルバッテリーを常に用意しています。懐中電灯は……」
マナベが床に置きっぱなしにしていた大きなリュックサックの中身をまさぐっている。
「あ、あった! 二つあります。小学校が暗かったらいやだなと思って持って来ていたんだ。よかった」
懐中電灯は割としっかりしていて、マナベはカチカチと明かりの確認をする。LEDヘッドライトまで出てくるのだから大したものだ。
「用意がいいな」
俺が感心すると、金ちゃんが笑った。
「マナベは常に本気っすからね」
「じゃあ、金ちゃんの頭にはヘッドライトを。スマホは自撮りにする。そして、ライブ中継は必ずアーカイブ保存に。後で編集すること。アーカイブ保存の仕方分かるか?」
「あ、時々やってるからできるっす」
「必ず編集して、ちゃんとアップするように」
「了解っす。もしもの時のモバイルWi-Fiルーターも常備してますんで。ばっちりっす」
そこまでしっかりしていて、フォロワー10人か。
何だかもっと応援してやりたくなるな。
しかし、心でそう思う裏で、実はすごく気になっていることがあった。




