空っぽの頭
俺は空っぽの頭から、思いついたことを語ることができたことに驚いた。
スマートフォンも分かる。ユーチューブも分かる。
その時、スマートフォンで金髪の男を撮っていた男が突如、ぎゃっと悲鳴を上げた。
見ると、撮影していた骨格模型から、まるで3Dのように骨の手がにゅっと飛びだしてきたのだ。
「う、うわあああああああああああ」
金髪の男が雄たけびを上げた。
「おい!」
突如、俺たちの背後から男の声がした。
「……え?」
振り向くと、骨格のしっかりした骸骨が俺の肩をつかんでいた。
「うっ、うわあっ」
俺が叫びながらのけぞると、テアシが俺の腰にしがみついた。
「お前ら、あの獲物は俺らのものだからな、横取りするなよ」
「え? あ……ええっ」
そうか。
こいつら、お仲間か。
俺は――ないんだけど、心臓がドッキンドッキンしているような気がした。
「テアシ、大丈夫か?」
テアシはぎゅっとしがみついたまま頷く。
骸骨男は大股で中へ入って行くと、新たに骸骨がもう一体現れたので、二人の男たちは後ずさりしながら、金髪の男は白目を剥いて気を失ってしまった。
「げっ」
標本から出てきた骸骨が言って、金髪の男の頬をぺちぺち叩いた。
それを見たスマートフォンを持った黒髪の兄ちゃんが、脱兎のごとく逃げ出した。
「逃がすかっ」
俺たちを脅かした骸骨がすかさず黒髪の兄ちゃんの背中にしがみつき、彼は叫び声を上げながら理科室を飛び出して行った。
呆気に取られていると、失神している男のそばで、骸骨が持っていたスマートフォンで検索をかけるのを見た。
しかし、チっと舌打ち(できるのだろうか)のような声を出して、スマートフォンを持ったまま、だらりと手を下ろし天井を見上げた。
俺とテアシは恐る恐る中へ入った。
「あ、あのー」
天井を見上げていた骸骨がこちらを向いた。骸骨だから表情が分からんけど。
「よお、初めましてだな。お前ら、夕べ大騒ぎしていた奴らだろ。見ていて楽しめたよ」
俺はぎょっとする。
テアシが俺の背後に隠れた。
「み、見ていたのか?」
「ああ」
俺はゾッとした。
ここにはもしかしたら、骸骨が複数体いるのかもしれない。
「夕べの狩りが成功してよかった。おめでとう。俺の相棒も無事に出られたらいいんだが。今回は運よく肝試しに来た二人組に感謝だな。こいつらは俺たちが呼び出した人間じゃない。だから、まだチャンスはある」
口のよく動く骸骨だと思った。
その方がいろいろ分かって助かるが。
「まあ、時間は無限にある。焦らずに行こう。あんた名前は?」
「あ、俺はウキン。この子はテアシ」
「ウキンにテアシか。二人とも変な名だが、よろしくな」
そこはツッコまないのかよ、と俺は少し残念に思う。
「あんたは?」
「俺は白鳥だ」
「シラトリ? まさか本名?」
「ああ、そうだ」
「自分のことを思い出したのに、成仏していないのか?」
「ハハ、そんな嘘、誰が言ったんだ?」
「え……?」
「人間を狩るしか、ここを出る方法はない。出たければここに来る人間を襲え」
「そんな……」
「そこで伸びている男は俺の獲物だ。悪いが、こいつが目を覚ましたら俺はここから出て行くからな」
「あ、ああ……」
俺は正直ショックを受けていた。
じゃあ、このままではずっと骸骨のままなのか? そんなのは嫌だ。
俺が言葉を失っていると、シラ……、シラトリって言いにくいな……。
シラトリがクスクスと笑い出した。
「あんたら運がいいぜ。こいつ、視える奴らしい」
「見える?」
「そうだ。俺たちが視えている。視える奴らを使わない手はない。どうにかして仲間を呼び出し、そいつらに憑りつけばいい」
「あの、シラトリはいつからここに?」
「さあ、覚えていないが、あんまり長くいない方がいいだろうな」
「どうして?」
「いずれ分かる。さて、こいつが早く目を覚ましてくれたらいいんだが……」
シラトリがそう言うと、しゃがみ込んで失神している金髪の男の顔をぺちぺちと叩いた。
「おーい、早くここから出ようぜ」
伸びている男に言ったが、起きる気配がない。
「仕方ない。待つか」
そう言って、金髪男のそばにあぐらをかいて座り込んだ。




