動画配信
それから、どれくらいの時間が過ぎたのか分からない。
まだ暗いうちだったが、小鳥のさえずりが聞こえてきて、俺は目を覚ました。
俺にもたれかかるようにして、テアシが寝ている。
キイキイキー、キイキイキー、ツツツピー、ツツツピー、ピロピロピロピロピロピロ、ピッピュップロッピュ、ピッピュップロッピュ……。
最初は小さかった山の中の小鳥たちの鳴き声が明るくなるごとに一斉に囀り始めて、大合唱のように聞こえてきた。
すげえ。癒される――。
俺は清々しい気持ちになって体を起こした。囀りの中に、じーわじーわと蝉の声も混じり出した。
ああ、今日も暑くなりそうだぜ。
「テアシ、少し動いてもいいかな」
俺はもたれかかるテアシに話しかけた。
テアシも目が覚めたのか、体を起こした。
「俺、ちょっと校内を見て回りたいんだが」
「一人にしないで」
「一緒に行くか?」
「行く」
急に小学生みたいになりやがって。
俺はテアシの手を取ると、一緒に立ち上がった。
テアシが俺の手をぎゅっと握りしめる。感覚はない。ビジュアル的に手をつないでいるが、触れている感じはない。
テアシをおんぶしてここまで戻ることはできたが、あれはエアー抱っこのような感じだろうか。
ここは二階の端っこで、入り口には三年一組とかかれた表札がかかっていた。
教室全体に朝日が差し込んできて気持ちがいい。
太陽の光を浴びて成仏できたらいいのに、そうはいかないようだった。
蝉の鳴き声からして、七月の初旬くらいかなと想像する。
テアシは、俺にしがみついたままだ。
教室を出て廊下を歩き始める。隣の教室も同じようにめちゃくちゃに荒らされていた。
俺たちは二組、三組と歩いて回った。
「テアシ、何を考えている?」
「何も考えていないよ」
「何も思い浮かばないのか?」
「考えなきゃいけないの?」
「ここから出たいんだろ?」
立ち止まって聞いてみたが、テアシはさらにしがみついただけだった。
それが答えか、と俺はため息をついた。
どこの部屋も似たようなものだ。
取り壊さないのだろうか。
三年生の教室を見終えて隣へ行くと、図書室だった。
本はほとんどなくて、取り残されたボロボロの本が床に散らばっている。中にはエロ本が混じっていた。
木で作られた本棚は朽ちて、木くずがポロポロ落ちて、棚がないのもある。
ここにも変わったことはない。
さらに歩いて隣へ入ると、そこは理科室だった。
骨格模型があるかもしれない、とふと思った。
瓶に詰められたホルマリン漬けとかありそうだな。
ドアは開いたままなのでそのまま入ろうとしたら、テアシが立ち止まった。
「誰かいる」
「えっ?」
俺は思わず口を押さえた。
そっと室内をのぞくと、流し台がセットになった五、六人が使えそうな大きな机が四方に分かれ、窓ガラスのそばに骨格模型があった。
理科室は他と比べて、比較的綺麗だったが、そこに金髪の若者と肩まで髪を伸ばした黒髪の男がスマートフォンを持って、骨格標本を撮影していた。
標本の前に金髪の男が立ち、何かしゃべっている。
ああ、これはあれだ。
動画配信者ってやつだな。
それぐらいのことは俺にもすぐに理解できた。
「何あれ、あいつら何してんの?」
「え? 分からないのか?」
「は? 何が……」
まさか、テアシは動画配信を知らないのだろうか。
「ユーチューブの動画を撮ってるんだよ、おそらく」
「チューブ? 何それ」
俺は絶句した。
テアシはユーチューブを知らない。
俺は急いで、検索画面を確かめた。
『2020年○月〇日、○○県○○市の○○川沿いの竹やぶから白骨化した遺体について、○○署は○○町の中学へ通っていた少女A(15)であると判明したと発表した……………………………………………………』
2020年の頃のテアシは、スマートフォンを持っていなかった可能性がある。
「スマートフォンは知ってるんだよな」
「バカにしてんの?」
テアシがムッとした口調で言った。
スマートフォンは持っていた。でも、おそらく当時、動画配信はそれほど浸透していなかったのかもしれない。




