第一章 第四十七話 第二の力 Ⅱ
丘上の砂人形1体1体に構ってられない。
大事なのは凌ぐこと。
1回のチャンスに全力を注ぎ込む。
「それにしても…強い」
先に旗目掛けて駆け上ったラーベさんは、必要最低限の攻撃と防御を繰り返す。
近距離戦を選択した個体には、体術で。
遠距離戦を選択した個体には、魔銃で。
それでも埋めきれない隙には、ナイフで。
でも今はそんなラーベさんとも競い合っている。
先に旗を取った方の勝ち。
ここで本選への出場が決まるかもしれない。
そんなイルファルドとラーベの試練は、地上にも映し出されていた。
「コレハマズイナ」
「急に何よ?」
「ナニ ただ イマノイルファデハ アノオンナニ カツコトハデキナイ」
中継映る2人の動きは、真逆。
チャンスが来るまで時を待つイルファルドと片っ端から戦闘を繰り返すラーベ。
「ヴェイエモ ワカッテイルダロ フタリノサヲ」
「——さぁね」
「ホラ ソノマ ズボシノハンノウデハナイカ」
誰の目から見てもラーベが先に旗へ辿り着くと予想できる。
既に爆破に巻き込まれた個体と縦穴で襲い掛かってきた個体は、背後から迫っているのだから時間も無い。
「このままじゃ挟み撃ち。一か八かの賭けで丘を登るしかない」
「ソウダ イルファルドハ 2タイデゲンカイ カエッテアノオンナハ ドウジニ4タイ ゼツボウテキダネ」
大きな力の差は、その場で埋まらない。
だから普段鍛錬を重ね、日々進化の経験値を稼ぐ。
「でもまだ分からないよ」
ただヴェイエもイルファルドの事を少なからず知っている。
このままただ負けるような真似はしないだろうと。
「それにカラス。アンタもまだここから何かがある、そんな気がしてならないんじゃない?」
「ナンデソウオモウ?」
「さぁ?ただ目を見て思っただけ」
「カカカ ソウカソウカ」
するとその時、ラーベと接敵していた砂人形の足が崩れた。
理由はただ一つ。
ラーベの攻撃に付いていけず中途半端な身体で動こうとしたからだ。
戦闘継続不可能な身体と姿勢。
畳みかけるならここだけ。
「はあああああああっ!!!」
ラーベの連撃。
狙う対象は1体だけではない。
次々に狙いを変え、薙ぎ倒していく。
新しい砂人形を狙い、視界を広げ情報を更新する。
イルファルド同様、これはラーベの求めていたチャンス。
そこに何の疑いも無く飛び込んだ。
そして、1体の砂人形が目の前で崩れ去った。
とうとう身体の形が保てなくなり、砂の山へと形を変えた。
「随分しつこいこと」
魔臓が存在しておらず、弱点が無いように思えたのに何故機能を停止したのか。
目の前で戦っていたラーベですら理屈は分からない。
単純に砂に宿っていた魔力が切れたのか、時間切れか。
だがそんな事考える暇もない。
そもそも、だからなんだ、という話だ。
「へぇ。これは驚いた——」
その光景に観戦していたリヨスは、驚嘆した。
砂人形は人の様に統率の取れた連携で、ラーベを取り囲んだ。
設定されたシステムに動かされるように何の迷いも無く。
一方でラーベにも余裕が出来た。
周りを見渡す程度の数秒の余裕。
その時間をふんだんに使い周りを見渡す。
全ては同じ参加者であり、競争相手を確認するために。
しかし、後方を見ても探した対象はどこにも居ない。
居るのは丘を登る砂人形の姿。
[後ろにいない…!!だとしたらもう私よりも前?でもどうやって?]
スタートに差があったはず。
それにそもそもイルファルドは、ほとんど動いていなかった。
[何かの目論見がある。そうは踏んでいた。でも…]
今、ラーベの立っている位置、その真横にたった2体だけの砂人形と1人の影があった。
「イルファが勝つならあの女の裏をかかなきゃいけない。私もそう思ってた」
「ダガ ソノウラヲカクニハ ジョウホウガフソクシスギテイル スクナクトモ カンセンシテイルダケジャ」
イルファルドとラーベの違いはただ一つ。
敵に狙われた時間と観察力。
砂人形の攻撃から何を観察して、答えを見出すか。
「——興味が沸いた」
画面の先に映る人物への言葉。
微笑を浮かべるリヨスは、少年を見た。
「さぁ——」
暗闇の中を走る少年を。
影を食い破り、今表に立ったチャレンジャーを。
「——チャンスだ!!」
『イルファルド・ランクルスが抜けたぁああああ!!!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
実況の男が口火を切ると同時に会場が熱狂に包まれる。
「抜けた!!」
存在を影の様に消し、潜伏を成功させた。
イルファルドの狙っていたたった一回のチャンス。
[いつの間に…!!どんな速度でここに辿り着いた…!?]
ラーベが足止めされたとはいえ、1分かけた丘。
だがイルファルドはどういうことか、ラーベとほとんど同じ高さまで登ってきていた。
それこそラーベが畳みかけた瞬間には、まだまだ下に居たのに。
[砂人形邪魔が入ったら不可能…の筈]
なら邪魔が入らなかったのか。
どうやって?そんあ疑問よりも先に答えが出た。
「はぁ…やられた。そう言う事ね」
おおよそ1秒をかけて答えに辿り着く。
「私を囮なんていい度胸じゃない」
2人の違いは砂人形の数。
ラーベには、6体の砂人形がマークについているのに対して、イルファルドにはたったの2体。
しかも、その内1体は後ろから追いかけてきているのだから、本格的に接敵しているのは実質1体。
「それにしてもこんなヘイト管理をどうやって…」
そこだけラーベには分からなかった。
答を導き出せる程、砂人形の情報が無い。
イルファルドはその点で有利に立つ為の切符を持っていた。
[あの縦穴で1つだけ感じた妙な動き。それだけが僕が有利になれるかもしれない僅かな希望だった]
縦穴での遠距離攻撃。
下と上から交差するように飛び交った拳は、イルファルドだけを狙っていた。
明らかな集中攻撃。
統率された動きと言っても過言ではない。
[あれは狙われた僕が一番に気づける点——]
勿論、ラーベが気づく可能性もあったが、だからこそイルファルドは間髪を入れずに魔法の詠唱を行った。
ラーベの意識を観察から攻撃に移動させるために。
[——統率の取れた砂人形なら穴が出来た瞬間、その穴を即座に埋めようとする筈。なら危険視されていない僕には自然に自由が生まれる!!]
完全な運勝負。
運が折り重なってここへ辿り着いた。
ラーベが砂人形達に穴を開けなければ、今頃イルファルドも囲まれていた。
縦穴で狙われていなければ、そもそも砂人形の動きに気づけなかった。
もう少しこの迷宮広かったなら気づかれていたかもしれない。
[でもようやくこれで五分。ラーベさんの突破力を考えたらまだ油断できない]
イルファルドは兎にも角にも目の前の砂人形をどうにかして越えなければならない。
数が少ないとはいえ、接敵するのは変わりないのだ。
あくまでも手にしたのは切符だけ。
「ここからだ…!!」
僕が接敵するのは1体…とはいかない。
どうしても後ろの個体が追いついてくる。
ラーベさんのようにはいかない。
僕の実力じゃ動きを止めるのに倍以上の時間が必要になる筈。
「はぁっ!!」
イルファルドは、駆け抜けると同時に砂人形の左足を切断したがダメージは無い。
「まだだ!!」
更に追い打ちをかけ、そのまま左腕から胴体にかけて、身体を両断するも直ぐに再生される。
やはりこの再生能力はイルファルドの攻撃力を上回っている。
切断したはずの左足も直ぐに生成され、まるで無傷だ。
一方でラーベの方はというと今も連続攻撃を仕掛け、次々に一時的な行動不能を作り出している。
ただこちらは数の暴力で動けずにいた。
[この勝負は私と坊やのどちらが先に——]
[——敵の攻撃範囲を突破できるか!!]
イルファルドは数で、ラーベは攻撃力で競争相手を押さえている現状は意外にも均衡している。
『上がる花火 染みつく光景と走る轟音を今届ける』
「詠唱…!!」
ラーベさんの使う魔法の破壊力はこの目で見たばかり。
直ぐに分かった。
あの魔法で周りの砂人形を一掃するつもりだ。
[不味い…!?]
何も考えていなかった訳ではない。
ただ自爆の危険性があると踏んで警戒していなかった。
でも状況は変わった。
使われた瞬間、均衡は瓦解する。
旗が取られる。
『さぁ幕だ 私は最後の瞬間を派手に飾ろう』
再度、硬貨を握り締めた。
『【ラウド・ボム】』
枚数5枚。
それを5方向にばら撒いた次の瞬間、太陽の様に輝き、地面を大きく揺らした。
「ぐっ!!」
[凄い威力…!!]
直後、煙の中から何かが飛び出した。
「坊主」
「っ!!」
「先に行ってるよ」
爆煙から飛び出したラーベは、身体にいくつか軽い火傷を負っているものの、ダメージはそこまで残っていない。
きっと爆破の直撃は避けたのだろう。
「くっ!!」
そうして焦っている間にも砂人形は攻撃を止めない。
もう時間がないのに。
[【第十二席】で突破を…ダメだ。この距離じゃ近すぎる…!!]
目くらまし以前の問題。
煙が意味をなさない程、接近されている。
ここに来て距離を詰めすぎたことが仇となった。
[何か方法は…]
思考を巡らせ、打開策を探る。
周りには何もない。
あるのは己と自身の力。
一度、大きく跳ぶと同時に魔力を高めた。
『【ラウンズ・オブ・トゥエルブ】』
可能性があるとすればそれはただ一つ。
『並びて十二 優劣はあらず』
まだ使用したことのない未知の効果。
『俯瞰せよ 血の絆とその轍を』
【第九席】と【第八席】。
そのどちらかに賭ける。
『勇猛果敢な勇たる者よ 汝らに力の加護を求める』
もう戦っている場合じゃない。
取れる手段は一つ。
戦闘からの離脱しかない。
『【第九席】』
選ぶは空歩。
空を歩くと書いていたその効果に賭けた。
「って!!うわぁ!!」
発動を終えた瞬間。
両足の裏に違和感を覚えると同時に身体が真上へと飛び上がった。
「と…飛べた!!」
小さい頃から憧れていた己の身体での飛行。
それが今になってできる様になるとは。
ふと両足に目を向けると、足裏には小さな竜巻が纏われいる。
それが身体を押し上げ、空中での歩行を可能にしたのだ。
砂人形もこれでは近距離で攻撃はできない。
そうなれば飛ぶ拳で撃ち落とそうとする筈だ。
「急ががないと…!!」
両足に力を籠めると、足元の竜巻がそれに呼応するように身体を押し出した。
「なっ!!」
その速度は僕の全力疾走を軽く超えた。
これも魔法の効果だと思うと感動すら覚えるが、それどころではない。
背後からは既に砂人形がこちらに狙いを定め攻撃を始めている。
そして何よりも問題なのはラーベさんの方だ。
「これなら間に合う」
距離にしてみれば僕から見て、旗まで残り数十m。
旗から近いのはラーベさんだが速度なら僕が勝っている。
「まさか二つ目なんて。以外にも英傑の素質があるのかしらね…!!」
だがラーベさんもこちらの魔法を認識した瞬間、更に速度を上げた。
見立てによるものだが高域相当の魔力総量。
本気となると速度の上り幅も尋常ではない。
「あと少し…!!」
イルファルドも砂人形の攻撃圏外に出たことにより、もう互いを邪魔する存在は居ない。
正真正銘の最後の疾走。
このままいけばイルファルドが先に着く。
僅かに速度が勝っていたのだ。
「行ける!!」
そう呟いた直後。
足を覆う空気の渦は消える。
足から魔力が消えた。
竜巻が消え去った。
「なっ!?」
魔法の効力切れ。
発動時間は20秒程度だったと思う。
速度は減速し、落下を始めた。
不幸中の幸いというべきかそこまで高くはない為、怪我の心配はない。
しかし、これでもう間に合わない。
[もう…すぐそこなのに…!!]
あと数歩で届くというのに落下する身体はそれを許さない、前に進まない。
「くっ…そ…」
ラーベが間もなく旗を手にする。
『【第八席】』
その言葉は僕の口から発せられてはいない。
ラーベさんには微塵も聞こえていない筈だ。
それは僕の心の声、とでも言えばいいのだろうか。
身体の奥底から聞こえたようだった。
「何が起きた…?」
ラーベさんは困惑しているようだった。
何故か旗の前で茫然と立ち尽くしている。
だが、よく見ると僕の背中からうっすらと何かが伸び、それが旗を掴んでいた。
そこで気づいた。
身に着けていた腕輪から文字が浮かび上がっていることに。
「——」
理解が追いつかない。
何かの間違いなのではないかと疑ってしまう。
腕輪には
【congratulation】
【qualified for the stage】
そのように記されていた。
「予選を通過した…?」
あまりにあっけない。
そう自分自身でも思ってしまう程の僕の予選は終了した。
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次回 episodeアリシア
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回でイルファルドの予選は終了。
次回のepisodeアリシアは、アリシア視点の予選となります。
更新予定日は一週間後の21日を予定しており、外伝の立ち位置です。
一度、外伝を挟み、その後本編に戻るといった形になりますのでお楽しみにしていただけると幸いです。
またかなり急いで居た為、所々文章が可笑しくなっているかもしれません。
申し訳ございません。
誤字脱字がありましたらご報告してくださると助かります。
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それでは失礼します!!




