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神無き世界  作者: ヤング丸
第一章 広がる世界
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第一章 第四十六話 第二の力 Ⅰ


 砂人(サンドヒューム)。

 それは主に魔大陸の砂漠地帯に生息する物質系モンスター。


 身体のどこへでも移動する魔臓とあらゆる物理攻撃に強い身体。

 基本的な攻略法として上げられるのは、魔法による範囲攻撃。


 そんな砂人(サンドヒューム)に前衛が勝つには、幾度も攻撃を重ね魔臓を破壊するか、水や固化剤ををかける他に道はない。


 純粋な破壊力や殺傷能力こそワンランク下のD、もしくはそれ以下。

 砂人(サンドヒューム)は、その生存能力の高さのみでランクCにまで上り詰めた。


「来るわよ!!」


 しかし、この場に現れたのはモンスターではない。

 人工的に作られ、身体に魔臓を持たず、周りに水が存在しない。

 つまり、弱点が存在しないのに加え、勝ち筋を作り出すことが難しい。


「くっ!!」


 砂人形(サンドドール)は、人の腕を模した砂の塊を作り、イルファルドへ攻撃を繰り出した。

 どうにか別の足場に乗り移ることで、回避することに成功したが、今の一撃で先程まで立っていた足場は崩れ、その破片がパラパラと落ちてゆく。


 砂人形(サンドドール)は消えた足場の代わりに、己の砂を壁に埋め込むことで足場の無い場所での体制維持を行っていた。


[攻撃が受けれない程強力ではないけど、ここで防御なんてしたら足場の方が耐えれない]


 足場の不安定さが防御を許さない。

 かといって反撃に出れる程、足場に余裕があるわけでもない。


 すると砂人形(サンドドール)は、イルファルドの方向に腕を突き出した。

 二者の間には距離がある。

 確実にその腕はイルファルドへと届かない。


 その不自然に腕を突き出す動作は、まるで獲物への照準。

 人が魔法を打ち出すのと酷似していた。


「避けなさい!!」


 真っ先に危険に気づいたのはラーベさんだった。

 咄嗟の判断だったのか、いつもよりも声が震え、焦りを感じさせる。

 説明する暇もない。


 そこでようやく僕も危険性に気づいた。

 既に回避は不可能。


 思考が追いつかず、タイミングを逃した。


 咄嗟に【フィア・ブリンガー】を盾代わりに構えるのとほぼ同時にそれは撃(・)ち(・)だ(・)さ(・)れ(・)た(・)。


「——っ!!」


 【フィア・ブリンガー】を強く打ち付けたのは、これまた砂の塊。

 砂人形(サンドドール)は、己の腕部分を切り離し、疑似的な砂の弾丸、飛ぶ拳として撃ち出したのだ。


 こんな攻撃をするなんて、知っている砂人(サンドヒューム)の情報には存在していない。


 いや、そもそも比べるの事態が間違いだったのだ。

 これはモンスターではない。

 対モンスター兵器の一種だから。


「この重さとこの感じ。今の攻撃に魔力が籠められてる…!!」


 幸いな事に横からの攻撃だったからか、足場への被害はそこまで出ていない。


 攻撃の重さに僅かに腕が痺れているだけで、ダメージも0に近い。

 しかし、あんな攻撃を何度も受けていては、ジリジリとこちらが削られる一方。


「下よ!!」

「!!」

「まずはここを降りる事だけ考えなさい。このままじゃ圧倒的な地の利で何もできない」


 ラーベは冷静に現状を分析した結果、ここは戦うべき場所ではないと判断した。


「勿論、ここでリタイアするなら何も言わないけど勝ち残りたいなら従いなさい!!」

「はい…!!」


 ここで戦って勝利するビジョンが見えないのは、僕も同じ。


 特に剣士である僕にとっては、天敵なのに加え、戦場も不利と来た。

 大人しくラーベさんの指示に従い、下への移動を始めた矢先、砂人形(サンドドール)は再びこちらに目掛け、拳を撃ち出す。


 計2発の拳。

 だが今度は回避に成功した。

 知っていれば先に動き出し、避けることも不可能ではない。


 これならば砂切れを狙える。

 一瞬そのような考えが脳裏に浮かんだが、恐らく無理に等しい。


 地形的な問題でここは砂が多い。

 それも砂人形(サンドドール)が取り込むことが出来る、特殊な砂が。

 事実、3発の拳を撃ち出したのにも関わらず、砂人形(サンドドール)の身体に変化が見られない。


 遠距離攻撃を止めようとしない。


「はぁっ!!」


 今度はより正確な拳が、僕の身体を目掛け飛んできたが、難なく【フィア・ブリンガー】で叩き落す。


 一つ、今の攻撃で気づいた。


 今の飛ぶ拳は、一発目に比べて、明らかに速度が遅く、威力も小さかった。

 それこそ不安定な空中で叩き落せる程度の威力。


 恐らくは、構えてから撃ち出すまでの溜めによって威力が変わるのだ。


「これなら…」


 僕がまだ未熟であると証明できるのが、この瞬間の心構えなのだろう。

 この時、確かに恐れるに足らないと考えた。


 僅かに降りるスピードを落とし、油断した。


 視界の先に見えた砂人形(サンドドール)は、今度は両腕でこちらを狙っていたのだ。

 そして、息をつく間も与えず、拳を二発撃ち出した。


 速度は対して早くはない。

 きっと【フィア・ブリンガー】を使えばダメージを避けることが出来る。

 一発だけならば。


「くっ!!」


 想定通りの威力。

 難なく【フィア・ブリンガー】で斬り裂いた。


 一発目だけを。


 もう一発の攻撃は、受けられない。

 回避も防御もできない。

 これも全て、一時の油断で行動(アクション)が遅れたからだ。


 間違いなく被弾する。

 そう覚悟を決めた時。


 下から音が鳴るのと同時に光が駆け抜け、砂の塊は粉々に砕け散った。


「な、なにが!?」


 鼓膜を劈くような音が縦穴を反響し、静寂を消し去る。

 僕は何が起きたのか理解が追いつかない。


「想定内ってことよ」

「!!」


 ずっと謎だったラーベの武器。

 見たことのない形状。

 刃は無く先端に一つの穴が存在するだけ。

 その穴からは、薄い煙が立ち上っていた。


「よかったわね。私の愛銃ちゃんが居て」


 それは魔大陸の兵器会社【ウロボロス】が制作したという、鉄の礫を放つ武器。

 内部に魔力を流し、高温と高圧により、礫を加速、より研磨した礫を発射する。

 弓矢の速度を圧倒的に凌ぎ、轟音と共に敵を射抜く。


 名を【魔銃(マガン)】と呼ぶ。


「ありがとうございます!!」

「礼よりも足を動かして!!あと少しよ!!」


 ラーベさんの言う通り地面が見えてきた。

 降りる前に放り投げた松明が今ではしっかりと見えるのだ。


 もう油断はしない。

 今は砂人形(サンドドール)の攻撃を往なし下へ降りる。


[それにしてもなんで僕達を追って来ない?]


 動けるのは最初の攻撃で分かっている。

 このまま僕達が下へ移動すれば、距離が開く一方で遠距離攻撃の制度も落ちてくるはずなのに。


 まだ何かあると考えずにはいられない。


「あー坊や。1つ予定外の事が起こった」

「え?」


 ラーベさんは、最悪だ、と言わんばかりに声から抑揚が消えている。


「下を見て」


 言われるがまま視線を下に向けると新たな砂人形(サンドドール)の姿があった。


「っ!!2体も!?」


 現在接敵している個体に加えて+で2体。


 接敵した瞬間から予想にはあった増援。

 それが今現れたのだ。


 突破口すら見いだせていないというのに、これはあまりにも重すぎる。

 既に下の個体もこちらを認識し、構えているのだから猶予も無い。


「踏ん張りなさいよ!!」


 上と下からの波状攻撃。

 確実に回避だけでも、防御だけでも捌き切れない。

 その2つを同時に、より正確に行わなければこの先へ行くことは不可能。


 だがイルファルドは、その選択肢を増やすことが出来る。


『【ラウンズ・オブ・トゥエルブ】』


 纏われる魔力の輝き。

 魔法の使用。


 番外戦術。


『並びて十二 優劣はあらず』


 ここで一つ。

 詠唱とは何なのかを語ろう。


 これはイルファルドが幼い頃、学校(アカデミー)で得た知識。


 詠唱にとって文を唱えることが大事なわけではない、という事。


 もしも必須であるならば無詠唱で使う事は出来ない筈だ。


 詠唱とは魔力を集中、想像をすること。

 文を言葉として唱え、脳の負担を肩代わりする。


 詠唱とは、莫大な集中力に伴う爆発的な効果を促進させる。

 詠唱とは、魔法の詠唱は使用者にとって弱点であり、敵にとっては絶対に阻止しなければならない宣告、予告。


『俯瞰せよ 血の絆とその轍を』


 その中でも一つ詠唱の段階を上げるとするならば、激しい動きをしながらの詠唱になるだろう。


 イルファルドがこれまで行ったことのない、敵の攻撃を回避しながらの詠唱。

 詠唱に集中しながら敵の攻撃を捌き切る。


 本来ならばもっと練習を積んでから実践に挑むべきなのだが、既にそんな事を言ってられる状況ではない。

 敵の攻撃を鑑みての判断だ。


 ラーベはそんなイルファルドの姿を見て、真下の砂人形(サンドドール)だけを見た。


『勇猛果敢な勇たる者よ 汝らに力の加護を求める』


 詠唱の間に6の攻撃がイルファルドを襲い、その内の2発のみが、イルファルドへの攻撃に成功した。

 しかし、それでは止まらない。


 魔法の詠唱は完(・)結(・)した——


『【第十二席(トゥウェルフス)】』


 ——魔法の発動と共に広がった魔法の煙が2人を包んだ。


 決して広範囲にならないよう調節し、あくまでも数m(メルト)程度の煙の箱を作り出すだけ。


 これで魔力の動きが悟られない目くらましの完成。

 それは中に居るラーベも一緒だった。


 音も魔力も匂いすらも遮断される。


「これは凄いわね。なら私も…」


 ラーベは自信が現在体験していることを直ぐにフィードバックする。

 そして、数秒後ラーベが煙の中から飛び出した。


 視界も同時に奪われた結果、足場を辿るのではなく飛び降りる形にはなったが、どうやら無策に煙の中から飛び出した訳ではなさそうだ。


『さぁ幕だ 私は最後の瞬間を派手に飾ろう』


 魔銃(マガン)を腰に直し、代わりに3枚の硬貨を左手に収めた。


 収めた拳には眩い光が溢れ出す。


『【ラウド・ボム】』


 そこでイルファルドも煙の中から飛び出し、ラーベの魔法に気づいた。


「あいつらから離れてなさいよ!!」


 ラーベは体制をそのまま、握っている硬貨を解き放ち、砂人形(サンドドール)の周りに散乱させた。


 そして、次の瞬間——


「Bang」


 ——投げられた3枚の硬貨が同時に爆発した。

 軽い地響きと舞う砂塵、響く炸裂音。

 暗い空間を激しい光が包み込む。


「す、凄い…」

「使える回数にも制限あるから本当は、攻略の糸口を見つけ出してからが良かったんだけど、背に腹は代えられないわ」


 爆炎と共に立ち上る煙。

 更に魔力が流れている砂には、炎が燃え移り、視界の問題も消え去った。

 純粋な砂であれば、燃え移ることは無かっただろう。


「あっちにとって有利な戦場だったなら、それを利用するまでよ」

「今ので倒せましたかね…?」

「それは無いわね。爆破の直撃ならまだしもこの程度の威力じゃ足りない」


 砂人形(サンドドール)の耐久力は分かっていないが、モデルになったであろ砂人(サンドヒューム)と比べた場合、今の爆発は威力不足。


 直撃の高温で砂を溶かすしかなかった。


「一先ずここを離れて…って最高と最悪が同時に来ないでよ。ただでさえ面倒なのに…これってさぁ…」


 後ろを振り返ったラーベさんは、何かに気づくと項垂れながら悪態をついた。


「ここが正念場よ。気合入れなさい」


 砂の丘。

 その頂上に刺さる1本の旗(フラッグ)。


 ここが遺跡の終着点なのだろう。


「——!!でも砂人形(サンドドール)が…!?」


 視界に捉えられる個体だけで10体以上。

 それに加え背後には今も爆炎に囚われている2体。


 全てを倒しきるのは不可能に近く、引き返すことも地形が許さない


 ゴールが見えてもそのゴールが程遠いと感じる程の敵の数と質。


「まだ何かとっておきがあるなら今の内よ」

「あるにあります。でも…」


 ラーべさんの言うと(・)っ(・)て(・)お(・)き(・)が僕にはある。

 まだ一度も使用したことが無い【第九席(ナインス)】【第八席(エイス)】。


 空歩魔法と空握魔法。


 どの程度の出力なのかすら分からない。


「なら今のうちに言っておくわ。あの旗は先に取ったもん勝ちよね。だから私は取れるチャンスがあったら迷わず確保する。坊やもその気でいなさい」

「はい…!!僕もそのつもりです。負けません」

「なら先に行くよ!!」


 あくまでもここを攻略するだけの共闘だ。


 ここからは早い者勝ち。

 本格的にレースが始まる。


────────────────────────────────────


 【地図作成(マッピング)】


 迷宮(ダンジョン)を攻略する冒険者や探検家には、必須の技術。

 冒険者の中には、地図作成(マッピング)を書き記す専用のガイドも存在している。


 また未開拓の迷宮地図(ダンジョンマップ)は高額で取引され、中には国やギルドがその情報を買収し販売をするなど、自分達の身を護る以外に経済的な面で需要が高かったりもする。

 過去には、とある大型迷宮(ダンジョン)の地図(マップ)が数千万で取引されたこともあるとかないとか。


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 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 今回も急遽2話に分けさせてもらいました。


 また、これからは今回の様に話を分ける際には、公開から二週間ほどで話を纏める事にしました。

 なので、来週から再来週あたりには、これまでⅠとⅡに分けていた話を編集して纏めるつもりです。


 次回の更新は一週間後の14日、もしくは15日になると思います。

 お待ちいただけると幸いです。


 今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。


 ブックマークやフォローなどとても励みになります。


 何卒お願いいたします。


 それでは失礼します!!


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