第一章 第四十五話 砂人形
僕達は、地下遺跡の中へ足を踏み入れた。
「遺跡または祠といった所かしら」
地下遺跡の内部では、天井や壁により声が反響し、暗闇で見えない視界の先にも空間が広がっている。
視界の悪さはまさに最悪。
10m先の景色を見るので精一杯。
「随分と暗いですね」
「迷宮だから当然ね。ただこれじゃ効率が落ちるどころか、探索ままならないのは事実」
万が一、試練が本格的に始まるならば、ここが危険な可能性だってこともあり得る。
故に視界が制限されるのは、致命的。
環境というアドバンテージは、消え去り環境そのものが牙を剥くと言っても過言ではない。
「常に魔法を使ってちゃ私の魔力が持たない…どうしようかしら」
ラーベさんは何か策があるのか空間に手をかざしたが、特に行動を起こすことは無かった。
大きさが不明な地下遺跡を鑑みて、使用を断念したのだろう。
しかし、このまま無策に突入するのはもっと危険だ。
だからこそ良く考え、無策ではなくする必要がある。
するとその時、僕はある一定の地点に周りとの相違点を見つけた。
「ラーベさん、地面になにか——」
周りの地面よりも僅かだが盛り上がっており、悪く言えば設計ミスをしたかのような地面。
近づくとそれは僕の足を一回り大きくした程度の板。
綺麗に整えられた地下遺跡の地面では、そこだけが周りよりも一段高く、例え僕が気づかなくともラーベさんが見つけるまで時間の問題だっただろう。
「——これって板でしょうか」
「砂で隠れているけど何かのスイッチ、何かの感圧版だわ」
ラーベは軽く砂を払い、感圧版をさらけ出した。
このような仕組みは銀行や貴族の館、城などに取り入れられる。
万が一の強盗や犯罪を防ぐために本来ならばもっと綺麗に隠し、周りに溶け込ませるのが当たり前の中、これは敢えて目立つように一段上げてある。
「押してみろと言わんばかりに設置しているのが丸わかりね」
罠の可能性を大きく孕みながら、ここに存在している。
「正直、これを押すかどうか私は迷っているわ」
「罠かもしれないから…ですよね?」
「えぇ。もしくは何かが始まるボタンなのか。どちらにしろ不明な要素とそれに釣り合う程度に危険な可能性があるのは変わりないわね」
嫌な想像をするとキリが無い。
看守の出現や落とし穴、弓矢の雨に火炎放射など。
防犯対策で使用されるレベルだ。
そのぐらいはあるかもしれない。
流石に選手の命を奪わないよう加減はしているだろうが、一発でリタイアに持ち込まれるリスクがある。
「私との共闘をやめておくならこれで最後よ」
「!!」
「何が起こるか分からない。もしかするとこれが予選突破鍵になる可能性だってあるし、そうじゃない可能性だって十分にある。最悪、続行負荷の致命傷を負う可能性だってね」
ここから先は後に引けなくなるかもしれない。
他の脱出方法か旗を探すことだってできる。
ラーベはそれを理解しているからこそ、イルファルドの意志を確認した。
「坊やの答えを聞かせて」
もしも試練が本格的に始まった場合、そこに不本意な気持ちがあってはその者のパフォーマンスを大きく低下させ、ラーベの足を引っ張る。
これはラーベ自信の為でもあるのだ。
「僕はいつでも。覚悟は出来ています」
イルファルドの返事はすぐに返ってきた。
ラーベの言葉を聞き終えるや否や、答えが決まっていたイルファルドは迷うことなく口にしたのだ。
「一応、何故共闘をやめないか聞いてもいいわよね?」
イルファルドの返答に対し、あまり驚きをみせなかったラーベ。
「僕がまだ未熟で知らないことだらけ。きっとここも一人ではクリアできない」
「なら外で1人、安全に行動した方がいいんじゃない?」
「でもそれだと予選の突破はできないかもしれないですよね?」
それはラーベが危険を冒してまでここへ来た理由と他ならない。
外の膨大な空間を探索していては、突破口を見つけ出す可能性かなり難しい。
壁だけではなく、地面にも意識を向けながら空き続ける。
だがそれでは周りが次々に合格していく一方。
あの砂上に旗が隠されていたとして、見つからなければ時間と共に人は増え続け、獲得できる可能性は萎んでしまう。
イルファルドの目的は、予選を突破すること。
一週間の修行。
その成果を全く発揮できていない
「リスクに見合うリターンがあるって信じて、僕はここに賭けます」
イルファルドは「根拠も何もない博打、感でしかないですけどね」と付け加え、首筋を摩った。
「そうね。でも嫌いじゃないわ」
僅かな笑みと共にラーベは腰から武器を抜いた。
左手に短剣。
右手にはイルファルドが見たことのない形の武器。
ナイフより小ぶりで刃がついている訳でもない。
だがそれは確かに職人が作った物であり、機械や兵器とも見て取れる。
「何が来てもいいように警戒して。武器を構えて私と背中合わせで居る事」
つまり相方に背中を預け、2人で全方向からの攻撃や罠を対処する。
「カウントが0になった瞬間に私が押すわ」
「はい…!!背中をお願いします!!」
「そっちこそね」
イルファルドも万全の体制を整え、ラーベに背中を向けた。
「カウント始めるわよ」
「いつでも」
「カウント3秒前。3、2、1——」
両手の武器を力一杯に握り、何が来ても直ぐに対応できるように構えるイルファルド。
やや力み過ぎている自覚がありながらも、今イルファルドにできる最大の力を発揮するには十分すぎる。
「0!!」
ラーベはカウントが終わるのと同時に、感圧版を己の足で思いっきり踏んづけた。
直後、感圧版からカチッと音が鳴り、更にその後には何かが起動したのを示す駆動音が聞こえ始めた。
分かることはただ一つ。
なにかが起動した。
「…」
「…」
踏みつけて数秒。
未だに何も起こらないが中に響く音は止まらない。
歯車の音と魔力を使用した機械音に伴い、僅かに地面を揺れている。
イルファルドとラーベは警戒を怠らず、ただただずっしりと構えるだけ。
そうしていると。
ガチャン!!!と勢いよく地下遺跡の入り口が閉じた。
「っ!!」
外からの明かりが途絶え、真っ暗と化した。
これで目から得られる情報は、無いに等しくなった。
急な騒音と真っ暗になった視界も相まって、僅かに気を散らしたイルファルドだが、直ぐに気持ちを切り替える。
パニック状態にだけは陥ってはいけない。
それを理解しているからこそ、不安に負けないように冷静を保つ。
そうして十数秒が立った頃。
聞こえていた駆動音は止まり、静かになった。
「…」
「…」
未だに無言を貫く2人。
これはまだ警戒を解いていない証拠である。
するとその時。
「っ!!」
天井に密かに設置されていた照明が付き、遺跡内を光で灯した。
「これってどういう?」
「さぁ?でも何かが始まったのは確か。ほら照明があるのはここだけ。向こうじゃ今も」
ラーベと同じ方向を見つめた。
「あそこしか進めるところはなさそうですね」
まだ真っ暗な空間。
ここはスタート地点として最低限の安全地帯。
だがさっきまで見えていなかったこの部屋の壁には、まだ着火されていない松明が10本程度立てかけられていた。
それに加え、その横の机には、態々火を灯す為の燭台が設置されている。
「これでこの先を探索しろってことね。随分律儀なこと」
ラーベさんは、慣れた手つきで松明に火を灯すと僕へ1本の松明を差し出してきた。
「一応予備も持っていくわ。それぞれ2本って所かしらね」
あまり多く持ちすぎてもかえって不便になる。
そこを考慮しての数なのだろう。
確かにこの本数なら腰に差しても邪魔じゃない。
「時間が勿体ない。準備が出来たならさっさと行くわよ」
「はい!!」
僕はまだ火の灯っていない予備の松明を腰に差し、ラーベさんの後を追うように暗闇の中へと入った。
「何もありませんね」
「それも不気味な程に」
松明のおかげで随分と視界が広がったが、それでも不自由な事この上ない。
片手は塞がり、いつどこから危険が迫ってくるかも分からないのだ。
「これは——穴?」
少し進むとそこには縦穴があった。
真っ直ぐな一本道。
どこにも通路は別れておらず、その終着点がここ。
「いや、よく見て。所々に足場がある。恐らくはあそこを伝って降りろってことかしらね」
確かに壁には僅かな足場がある。
それでも足場自体かなり小さく、踏み外してしまえば落下の危険性がある。
するとラーベさんは予備の松明を手に取り、炎を灯した。
そして、そのまま穴へと投げ入れる。
見る見るうちに炎の明かりは小さくなり、周りを照らしながら落ちていく。
落下の最中には、一瞬であるが壁が見え、ラーベさんの言う通り足場が存在している。
「高さからして30…いや40m近いかしらね」
地面に接触するまで数秒。
ざっと見積もり、おおよその高さを絞り込む。
これも【グラン・コンバット】のために作成したと考えると常軌を逸した作り込み。
大会のためだけと考えると勿体ないという気持ちも出てしまう。
「この大会に向けてこんなものを…異常だわ。こんなの初めてじゃないかしら」
ラーベにしか聞こえない程度の小声で呟き、考えを巡らせるが何も出てこない。
「凄い深い…」
そんなラーベを他所にイルファルドは、縦穴を覗き込むが落下した松明の光はかなり小さい。
炎の揺らぎがギリギリ見える程度だ。
「ねぇ坊や。こういうのをあすれちっくって言うのかしら?」
「それにしては命綱どころか安全性に欠けていると思いますけどね…」
「まぁ身体強化をしておけば死にはしないでしょ」
「は…ははは…」
乾いた笑いと共に思い出す。
僕の落下歴を。
どうしても僕は高所からの落下はいい思い出がないのだ。
直近だけでも、カラスさんと会う直前の落下。
そのカラスさんの転移による落下。
どちらも死にかけた。
加えて小さい頃はセシルと探検に行ったりして、いつもセシルに助けられたっけ。
とにかく、ここでも足を踏み外すようなことがあったら洒落にならない。
「先に行ってるわね」
「分かりました…って早!!」
ラーベさんは優れた身のこなしで次々に足場を飛び移り、どんどん下って行く。
その動きはただ早いだけではない。
より正確に素早く風の様に駆けている。
天空大陸で探索の為に学んだ、岩登りの動きに近い。
「って僕も行かないと…!!」
ついラーベさんの動きに見入ってしまった。
今この瞬間にも距離が開いていく。
「っと。でも急いで落ちるのは本末転倒…」
次の瞬間。
ザザザ、と横の壁から何かの音がした。
それも1つではない。
「これって!?」
一度足を止め、警戒を高める2人。
壁の向こうから聞こえる音は、何か単一の音ではなく、複数の音が重なっている。
「坊や!!今すぐそこをどきな!!横から何かが…!!」
ラーベは叫んだ。
経験の差からかイルファルドよりも早く。
だがその直後にイルファルドも気づくことになる。
自分の真横の壁から何かが近づいてきている事に。
魔力を宿す存在が。
「くっ!!」
急いで一段下の足場へと移り、武器を構える。
「これって看守…いや違う。でも近い何かが」
看守は、ここまで魔力を感じることは無かった。
でも今は魔力を感じる。
しかも隠す気など無いかの様に魔力を垂れ流しながら。
「来るっ!!」
看守ではない何か。
それが壁から現れた。
「モンスターじゃない。でもあれは…」
下から見ていたラーベでも知らない何か。
それは壁の隙間からすり抜ける様に身体が現れた。
正確に言い表すならば壁の間から砂が剥がれ落ち、一つの個体へと成った。
「砂人!!」
見たことは無いが、イルファルドも似たようなモンスターを知っている。。
砂人とは、魔大陸のモンスターであり、怪物等級C。
今のイルファルドでは、格上のモンスター。
「でもモンスターじゃない。砂人の模造品。人工的に作られた看守に近い存在」
一目見ただけでラーベは見抜いた。
あれはモンスターではない。
奴には最も大事な魔臓が無かった。
そもそも魔臓があったのならば、壁の砂から身体を生成することはできないのだから、一目瞭然。
「大方、今回の試練に向けて作られたモンスター擬き。差し詰め砂人形といった所かしら」
砂、一粒一粒が集まり、1つの個体へと形を変える。
イルファルドがつい先ほどまで居た足場には、大人程度の砂の人形が佇む。
『本番はここからだ』
大会運営が2人に向け、そのような言葉を放っているかのようだった。
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次回 第二の力
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
世界観解説はありませんが日曜日に上げた、ヴェイエとカインの成長記録がその枠と持っていただければ幸いです。
それでは本題です。
今回は更新の間が空いてしまい申し訳ございません。
シルバーウィークの帰省と重なったのもあり、投稿が遅れました。
次回からは依然と同じペースで投稿いたします。
それと次回は話を分割するかもしれないとここでお伝えしておきます。
どうかお待ちいただけると幸いです。
誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
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それでは失礼します!!




