第一章 第四十三話 巣
予選が開始して約20分。
未だ予選突破者は、1人も出ていない。
地上では、次々に移り変わる地下の景色と選手の様子が映し出されている。
「流石に誰も争わないわね」
本番は、旗が見つかってから。
限られた旗を求め、選手同士の争いは必ず起こる。
ただ現在は開始直後。
旗を見つけることが最優先。
現在は、巣穴を徘徊する蟻の如く、各選手が散らばっている。
「それにしても良くここまで大規模なステージを用意したわね」
「サイキンノギジュツハ スゴイモノダナ」
ヴェイエ達に配られたパンフレットには、今回のフィールドとその詳細が記載されていた。
「イルファが向かったのは北。という事は…」
グランゼッタの街で表すならば、一区画はありそうな空間。
妙な説明と共に書かれていた空間の名は。
「砂礫の牢獄…全然いい響きじゃないわね」
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同刻。
領域北側。
「流石に一人になったな…」
最初の突入時こそ大所帯で始まったが、選手それぞれが動くことによって、今では周りに誰も居ない。
迷宮の経験がないイルファルドにとって、このような閉鎖空間での単独探索は生まれて初めて。
これまでの単独探索は、地上でのみ。
天空大陸に居た頃は、冒険者資格が無いせいで洞窟などには立ち入ることが出来なかったのだ。
「まさに孤立無援」
ここでは頼りになる仲間の手助けは無い。
天空大陸に居た頃と同じく、正真正銘、己の力だけが頼り。
「周りに人の魔力は、ほとんど感じない」
僕の魔力探知は決して広くはないが周りを探っても、気配や魔力はゼロ。
物音一つしない。
気温は外よりもやや涼しく、洞窟特有の湿気は特に感じることは無い。
どうしても暗い景色と地下という圧迫感は存在するものの、環境としてかなり優れている。
「地図作成をするなら丁度いいかも」
周りに人の気配を感じず、通路の途中。
どのような危険があるか分からない現状では、早めの行動が肝となる。
それに今回は冒険者試験の時とは大きく違い、地図と地形が全く頭に入っていない状況でスタートした。
あくまでも僕の知る前提知識にはなるけれど、ここの構造は迷宮に近い。
迷路のように構成された迷宮のような場所では、地図作成は早けれ早い程いい。
勝ち抜け制の予選で、迷った挙句に同じ場所をぐるぐると回るのが最も最悪な状況だ。
ならば記憶に新しい今のうちに、作成した方がよい。
僕以外の参加者も既にその事実に気づき、地図作成か別の対策案で切り抜けようとしている筈。
「この変で良さそうかな」
周りを見渡し、比較的凹凸の少ない地面に腰を下ろした。
そこで一息つくと同時にポーチの中からとあるアイテムを探す。
紙こそ今回の予選に持参していないが、代用品ならある。
「ヴェイエさん。使わせてもらいます」
取り出したのは1枚の布切れ
その布は、つい1時間程前にステイタス更新で使用したばかりの言わば媒体の抜け殻。
今では【ライフツリー】を発動する為の魔力は、微塵も残っておらず、焼き切れた魔法陣がうっすらと残っているだけ。
僕は同じくポーチから取り出したペンを使い、これまで通ってきたルートを簡単にまとめた。
[ここまでほとんど曲がらずに進んだのに、1つも開けた空間に出られていないなんて]
改めて今回の領域の広さに驚かされる。
「これ以上休んでる暇はない。先を急ごう」
荷物を纏め、立ち上がった。
その時、ビィィィィン!!という機械音が通路、地下全体に響き渡る。
「なっ…!?なにが…!?」
音の発生源は、天井。
正確には、天井の内部に仕掛けられたスピーカーから音が鳴っていた。
『全選手にご報告です。1本目の旗が発見されました』
「!!」
『場所は南、魔性鍾乳洞。試練名【マジック・アヴォイド】』
イルファルドの現在地と真逆の南。
距離で見れば最低でも2キロは離れているだろう。
『繰り返します。1本目の旗が発見されました』
その後も数度に渡り、繰り返される放送。
だがこれで分かったことがある。
もしも旗が見つかれば、大まかな方角とその試練名が全選手に報告される。
つまり旗の周りに人が集まる。
[これが開始前に言っていた工夫…!!]
競技性を持たせる為の施策と考えていい。
「僕も向かった方が…」
一度はその足が進行方向の逆を向いた。
だがそこで押し留まる。
「いや…ここは一回、落ち着こう」
試練の難易度が分からない現状、闇雲に動けない。
相当な難易度を誇るようなら、今から向かっても間に合う可能性はまだある。
[でもそれは可能性の話。一番最悪なのは道中で旗が取られ、無駄足になること]
これがもしも、西や東の距離的に近いという事なら話も変わるが、イルファルドの現在地点は北。
まだ未確定要素の多い現状でそこまでの大移動は、あまりに危険すぎる。
[ここで取られても残りはまだ11本もある。不安に駆られて動くより、僕はこのまま北を探索する]
僕は先程よりもややスピードを上げ、走り出す。
そこから約15分。
複数の分かれ道を進み、その度にマッピングを進めた。
そこでようやく2回目の報告が地下全体へと告げられた。
内容は、旗の確保。
即ち、1人目の予選通過者が決まった。
『冒険者 イキシチ。おめでとうございます』
残り11人。
少しずつその定員数に近づき、より競争率が激しくなる。
とは言え、この報告は悪い事だけではい。
これで旗が確保された際にも、全参加者に報告が行くと分かった。
懸念点が1つ晴れ、これで立ち回りやすくもなる。
「開始から約40分で1人。うかうかしてられない」
ここからはどんどん旗が見つかり、選手の移動も増える。
試練も複数種類あることが分かっている。
正直、問題の旗を見つけることは、運が大きく絡むけれど、突破の鍵は恐らく試練。
先に旗を見つけても、そこで手こずっていたら意味がない。
アドバンテージは直ぐに消えることになる。
「っ!!」
するとその時。
視界の先には、今までとは違う景色が目の前に広がっていた。
「ようやく…」
ようやくという言葉が真っ先に出てしまう程には、長かった。
常に閉鎖感のある通路を渡ってきて、気持ち的な問題で少し疲れる。
これが予選始まって以来、初めての大空間。
「砂漠…?」
かなり広範囲に広がっている砂のステージ。
地下の砂漠。
どうやら現在進んできた通路は丘の上に繋がているようだ。
すると、身に着けている腕輪からピロン!!と通知を知らせるように音が鳴った。
「砂礫の牢獄」
腕輪から光が浮かび上がり、そのように書かれていた。
恐らくこの場所の名前なのだろう。
「もう何人か先客がいる」
丘から見ているからか、意外と早く他の参加者を見つけられた。
反対側の壁が見えるとはいえ、端から端まで1kmはありそうだ。
その時。
丘の下に居た男が、こちらの存在に気づくや否や走って近づいてきた。
「こっちに近づいてくる…?」
考えられることは、既に探索を終え、ここには何もないという事。
だがどこか様子がおかしかった。
目の前の男は、必死に丘を駆け昇り、こっちを目掛けて走っている。
それに男の顔から、嬉しさが滲み出ていた。
[何かが…]
言葉にはならない違和感。
「あのー!!何かあったんですか?」
次の瞬間。
後方から、ギギギギギギ!!!!と機械的な物が何かに擦れ、勢い良くこちらに迫っているような音が届く。
明らかに生物の放つ音ではない何か。
「なんだ…?」
自分が来た道を振り返るが、通路は薄暗く、その奥に至っては真っ暗で何も見えない。
イルファルドは、両手でそれぞれの武器の柄を握り、息を呑む。
「クソォ…!!またかよ…!!」
僕のすぐ目の前まで来ていた男は、悔しさを絞り出すような言葉を零し、直ぐに丘を引き返し始めた。
「またって一体何が…」
それはまるで、これが初めてではないといった口ぶりだ。
「来るんだよ…!!看守が!!!」
「!!」
暗さを突き破り、姿を見えた。
モンスターで例えるなら、その見た目はゴーレムのよう。
白い装甲で昆虫のような6足。
モンスターにも見えるが、明らかに人工的に作られたものだと分かった。
身体の至る所に埋め込まれた魔石。
良く精錬された金属のボディ。
それは近年、キャラクタル大陸と魔大陸にて作成された対モンスター兵器の類。
[避けられない…!!]
通路圧迫しながらこちらへ近づいてくる。
ここでは回避行動を取ることが出来ない。
「仕方ないか…!!」
僕は目の前の砂漠のような空間に足を踏み入れ、【フィア・ナイフ】と【フィア・ブリンガー】を抜剣した。
「バカ!!それじゃあ思う壺だ!!」
男の言葉が何を指したものなのか理解できなかったが、詳しく聞き返そうにもそう余裕があるわけではない。
「来た…!!」
イルファルドの後を追うように空間へと侵入した看守と呼ばれる存在。
[もっとコイツについて情報を聞きたかったけど…今はどうにか切り抜けないと…!!]
看守と呼ばれた存在は、ここへ着くなり前進を辞めた。
それでも魔石から淡い光が漏れ、妙な機械音が止まないという事は、決して電源が切れた訳では無さそうだ。
[戦って勝てるのか…?]
全身の装甲だけでも、その防御力の高さが伝わる。
それに看守がもしも対モンスター兵器として完成されている場合、僕では勝てない。
話によると対モンスター兵器は、高域相当。
[もしかしてこれが試練なのか?]
態々、ここまで手の込んだ仕様が試練ではない可能性は低そうだ。
しかしそれでも尚、先程の男性は、ここを出ようとしたのか丘を駆け昇っていた。
選手が旗が存在していそうなここを出ようとするだろうか。
それに1人の男が、ここをたった数十分で探索し終えるのは早すぎる。
[不確定要素を多く孕んでいるけど、一度試してみたほうがよさそう]
倒せるかは分からない。
まずは軽く小突く程度の探り。
[狙うなら装甲と装甲の間しかない]
一歩前に踏み込もうとした瞬間。
先に停止していた看守が動き出した。
「くっ!!」
突如動き出した看守につい身体が硬直した。
攻撃を仕掛けてくる。
どうにかして回避しなければならない。
次の自分の行動を脳内で巡らせ、策を考えた。
だがその考えは杞憂に終わることになる。
看守はこちらに顔を向けたまま後ろへ下がり始めた。
僕が元々いた通路に戻って行ったのだ。
「逃げた?」
すると再び腕輪から通知音が鳴る。
それとほぼ同時に動き出した壁。
真っ白な壁が通路への穴は塞いだ。
「っ…!!まさか…!!」
腕輪にはこのように書かれていた。
【砂礫の牢獄】【看守の巣】
試練開始
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次回 白亜の砂上
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【対モンスター兵器】
近年のモンスター大量発生に向けて作成された兵器。
形や性能に関してそれぞれ大きく違いがあるが、一機作るのに莫大な費用と専用のパーツを要する。
キャラクタル大陸に存在するバベルの塔の技術を一部使用し、魔大陸の研究者チームと共に作成された。
未だ開発直後という事もあり、実践投入は難しく値段にして一機あたり数億以上も掛かる。
その為、各大国も手を出し切れず、軍用的配備はまだまだ先と言われるほど。
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
現在、次の話を営利執筆中ですが、土曜日までに間に合うか分かりません。
間に合うようでしたらそのまま投稿いたしますが、不可能な場合、キャラクター設定かヴェイエとカインの成長記録を投稿いたします。
僕自身、第一章の大トリを飾るグランゼッタ編が最初の山場とは思っており、書きたいエピソードが3つ程ありますので、なるべく早く投稿いたします。
今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
ブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒お願いいたします。
それでは失礼します!!




