第一章 第四十四話 白亜の砂上
一分前まで居た通路は、跡形もなく消えた。
通路があった壁には、痕跡という痕跡がない。
まるでそこは最初から壁だったかのような。
「ここにさっきまで通路があったなんて。閉じた時の繋ぎ目が一切ない」
真っ白な壁に触れ、軽く叩いてみるが鈍い音がするだけで音が反響しない。
少なくとも薄い壁では無い。
[一か八かここを武器で叩くべきなのか?]
身体強化をした状態でなら石壁に傷を付けることはできる。
壊すことも不可能ではない筈だ。
「壊そうなんて考えてるならやめた方がいいわよ」
「!!」
僕が少しでも薄い箇所は無いか、コンコンと叩いて周っていると女性の声が聞こえた。
「こんな壁を殴るなんて剣が傷つくだけ。せめてハンマーか大斧にしなさい」
壁に身体を預け、少し憂鬱そうな欠伸を上げる。
イルファルドよりも高い身長で腰よりも下に伸びた黒紅色の髪。
「確か選手部屋に居たラーベさん…?」
「名前を知って…て思ったけどリヨスがあんなに騒いでちゃ無理ないわね」
僕が直接話したわけではないが、選手部屋での騒ぎで一方的に名前を知っている。
「どうやら坊やもこの場所に嵌められたようね」
「嵌められた?」
「そうよ。これは明らかにトラップ。しかも直前まで気づかせないような高度の。運営側も随分と手の込んだ場所を作ったわね」
僕もこの場所を直前まで気づけなかった。
魔力感知に疎い僕でも、ここまでの大きな空間があれば少しぐらいは気づけたはずだ。
「でもここが試練だってついさっき…」
「確かにそうね。でもクリア条件が何一つとして分かっていない現状で、外では次々に旗取られていく。ここに10数人を越える選手が閉じ込められた状態でね」
確かにこの場所には、旗があるのだろう。
だが問題の試練をクリアし、旗を手に入れられるかは全く別の話。
僕達は閉じ込められた状態で、他の試練に移ることすらできない。
「それにこれからも人が増える筈よ。今の坊やみたいに迷い込んでね」
つまり時間が経てば経つほど、人が増え、ここの限られた旗を争う状態へと陥る。
ようやくここへ来た時の男性の気持ちが理解できた。
ここのような少し高い丘があるだけで、周り一面を覆いつくす砂。
全方向に広がる白亜の壁。
僕達は白亜の砂上に閉じ込められた。
「何も見つかっていない現状、外へ出るなら迷い込んできた選手が通った道を使うしかない。まっそこに看守が来たらどうすんのって話だけど」
「ま、待ってください。僕が来た時みたいに最初は、塞がっていない通路がある筈じゃ」
僕がここへ足を踏み入れた後に、壁で塞がった。
ならまだ誰も通っていない、もしくは壁で塞がる条件を満たしていない場所はあるのでは?
しかし、そんな疑問は直ぐに打ち砕かれた。
「外からだと気づけないのも無理ないわね」
「外からだと…?」
「壁に穴ができるのは、他の選手が近づいた時だけよ」
「っ!!」
僕は勘違いしていた。
ここへ到達する直前。
薄暗い通路の影響で少しずつこの空間を視界に捉えたと思っていた。
だが真実は違った。
「壁のどこかに穴ができるのよ。毎回違う位置でね」
僕が近づくまでは壁で、暗さで少しづつ捉えたというのは大きな間違い。
僕が進んでいた行き止まりだった筈の道が自動扉の様に開き、ここへ繋がったのだ。
これならば直前までこの大空間に気づけなかった理由にもなる。
「だとしたらどうやって認識を…」
「さぁ?魔力か体温か、将又、中継用の監視カメラかもね」
とても僕の魔力探知では、気づくことが出来ない。
「僕ならまだしも、ラーベさん達でも気づけない程、精巧なトラップ」
「……」
ラーベさんは考え事をしているのか、髪をクルクルと巻きながらこちらを見ていた。
するとラーベさんは、品定めをするような目を向け、僕から見て三時の方向を指した。
「ねぇ一時共闘ってのはどうかしら?」
「!!」
「ちょっとあっちで試してみたいことがあるの。どう?乗る?」
突然の提案。
どういった目論見があって僕に提案したのか分からない。
具体的な理由や目的も説明されず、ただ一方的な共闘申請。
「そっちに何があるんですか?」
「乗るなら道すがらで教えてあげる。でも乗らないならこれ以上の情報は私から出てこないわよ」
探りを入れてみるが効果は無い。
答えはyesかnoか。
まるでそう言っているようだった。
「まぁこれじゃあ中々私を信用できないわよね。考えずに返答しないのはいいことよ」
考える事十数秒。
ラーベさんは僕を試していたかのような言動で少し指の位置を変えた。
「すぐに返答するようなら、何もない所へ案内していたわ」
「え…」
「私の要望はただ人手が足りないから。坊やならまだ信用できそうだわ。その辺の根性無しな選手と違って」
一体僕のどこを見てそこまで評価したのだろうか。
[いや…そもそも評価した結果、僕が弱そうで扱いやすそう…]
「安心して。貴方を弱そうで扱いやすそうだから選んだとかではないわ」
「うっ!!」
僕の心の声をなぞる様にラーベさんは語った。
実際、僕の見た目は弱そうと言われても、その通りです…と答える程度には自分が弱いと自覚していた。
「私の見立てじゃ少なくとも坊やは、ただ弱いだけじゃない。度胸とそれに釣り合う以上の死線を越えている」
[どうにも…低級の少年には見えないのよね]
ラーベは再び品定めをするように目を細め、全身を見た。
確かにラーベの感覚では、イルファルドの魔力総量は低級。
それもかなりブレがあり不安定。
これで安定していたのなら中級程度には、魔力が溢れている筈なのだが。
[リヨスの言動もあるけど、どこか変なのよね。本当に低級なのか疑わしい]
どれだけ思考を巡らせても、ラーベ自信を納得させる答えは出てこない。
「乗らないなら、私は行くわ」
暫しの沈黙の後、ラーベはイルファルドに背を向けた。
「その提案。乗ります」
ラーベはゆっくりと振り返った。
「一時共闘と行きましょう」
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地下闘技場 南西
イルファルドの現在地から大きく離れている南西。
ここは地下とは思えない程、通路が明るく、良く整備のされた坑道という雰囲気だった。
つい今しがたまで南側の試練で人が多く集まっていた影響か、ただの通路でも複数の人影がある。
ここにもイルファルドとラーベの様に一時休戦をし、行動を共にしている二人三脚の男達が居た。
「おいアイツ。どこ行ってんだ?」
「え?どこ?」
「ほら、あそこのフード被った」
深く被ったフードと足首まで届くローブを身に纏う選手。
腰に一振りの剣を携える剣士。
「ん?」
すると剣士は振り返り、男達と目が合った。
「おい…聞こえてたって…」
「あ…あぁ。顔は良く見えねぇが整った瞳…きっとイケメン君だぜ…離れるぞ」
そそくさとその場を後にする2人。
そんな2人を見送る剣士は、ローブの中に手を入れ、頬をポリポリと掻く。
「逃げちゃった?」
彼は、基彼女の名はアリシア・ペンドラム。
予選に身分を隠し、お忍びで参加中の【メルティシア王国】の王女。
[私…何かしちゃったのかな…]
しょぼーん…とテンションの急降下が一目で分かる空気を醸し出し、この場にガークが居れば「しっかりしろ!!」と背中をかっ飛ばすだろう。
これでも彼女は任務中なのだ。
人の前に立つ王族が頼りにならない姿を見せるなど、言語道断!!
「って兄様が言ってたな」
ということだ。
今はすべきことがある。
「こんな所で項垂れてちゃいけない。まずは誰も居ない場所に行かないと」
アリシアの現在の目的は、自分以外人影がない場所で敵の誘いが無いかを探る。
もしくは罠にかかりに行く。
[本当は大会的に良くないけど、ガーク達には私の位置が分かる魔法もかけてある]
いざとなればこの天井を壊し、地上へ出る。
ガーク達もそれに合わせ、臨機応変に動き地上でスタンバイしている状況。
[かなり深いみたいだけど、魔法を使えば壊せる。問題は崩落が起こらないか]
だからこそ人通りが無く、崩落のリスクが少ない場所を探しているのだ。
[敵の掌の上ならもう私の存在を認知、周りに伏兵が居ても不思議じゃない]
視覚的情報では分からないにしても、探知用の魔法かアイテムに引っかかる程度には、魔力の揺らぎを作り、隙も見せた。
予選の突破など眼中には無い。
[街の皆に怖い思いはさせない]
一週間前の路地裏で出会った老人。
目的も何者かも一切分かっていないが黙って王室で眺めるのは、アリシアの性に合わない。
「何より、ようやく掴んだかもしれない手がかり、離さない…!!」
根拠は一切無く、当てが外れる可能性だって多くある。
しかしグランゼッタには、目標の目撃情報が入っている。
アリシアの実の母。
ここに女王がいるかもしれない。
この国の女王が犯罪者と関わるなどあってはならない事。
例の事件に紐づく老人と関りがあってはならない。
これはたらればの話のように思えるが、今の女王は正気じゃないのだ。
「来るならいつでも来て。私が全員倒す…!!」
綺麗に整った顔に怒りが滲む。
アリシアは、魔力探知で誰も居ない事を確認すると魔力封じを全て解き、全身に身体強化を乗せた。
解放された魔力は聖域。
この世の頂点に近い魔力が地下闘技場を駆け巡った。
きっと今回のアリシアの潜入を【グラン・コンバット】運営が知らなければ、何事かと大騒ぎになっていただろう。
そして数秒後、再び魔力を制限を開始。
魔力を中域程度に留めた。
「これで誘いは十分」
自分の居場所は示した。
【グラン・コンバット】が罠ならば後は待つだけで、敵が何かしらのアクションを起こしてくる。
「その誘い。乗ったよ」
開始50分。
アリシアの準備が整った。
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日差しの代わりに僕達をうっすらと照らす照明。
砂漠のようなのにカラッとしたような感覚が無い。
てか良く知らない女性と2人で砂上を進む。
[うん。とても気まずいです]
一緒に居るラーベは、ちらちらとイルファルドを見るだけで会話をしようとしない。
[勿論、僕から話しかけないのが悪いんだけどさ…シャイで女性を楽しませる会話なんて微塵もできないよ…!?]
だがこのまま会話を交わさずなんて気まずい。
仮にも共闘の立場でコミュニケーションが絶望的なのは不味い!!
「改めましてイルファルド・ランクルスです。出身は天空大陸のイカロラス付近にあるカロン村で冒険者を目指しています。実は兄弟が1人います。好きな英雄譚は人神大戦の名も無き勇者!!趣味は読書。最近は鍛錬と旅をしています。【グラン・コンバット】は初めての参加で分からないことだらけです。いやーそれにしても凄いですね!!この地下の景色。地下闘技場とでも言えばいいんでしょうか。どれだけのお金と時間がかかったんだろうなって。あはは。これが予選じゃなかったら色んな所に行ってみたいです。意外かもしれないですけど探索がかなり好きなんですよは…はは…」
何か喋らないとという重荷からか、一度言葉を口に出したら止まらず、長文&早口という最悪のコンボを決めた。
流石にラーベさんも、足を止め凄い目でこちらを見ている。
嫌悪しているのか、呆れているのか、僕にドン引きしたのか、そもそもこんな会話自体求めていなかったとか。
「そんなに緊張しなくていいわよ。ここだと襲ってくるような選手がいなければモンスターも看守も居ない。坊やの緊張しい歩き方の方が気になるのよ」
つまりラーベがちらちらと見ていた理由は、ガチガチのイルファルドの歩き方だった。
「冒険者なら良くあるわよ。知らない人と組んでクエストを熟すなんてね。臨時のパーティー。野良パーティーとでも言うのかしら。初対面の人と行動する度にそれじゃ坊やが疲れるでしょ」
「た…確かに…」
まるで冒険者としての心構えを説かれたようだった。
「気楽にいなさい。そっちの方が私も助かる」
「っ!!」
ラーベさんは言葉と同時に僕の頭をポンポンと軽く撫でた。
身長が僕よりも高く、スラっとした女性に思わず、初心な少年の丸出しな反応を見せた。
「まぁ私が話さなかったのも原因だけどね」
目を細め、小悪魔のような笑みを僕に向けてきた。
「ちょうど周りに誰も居ないみたいだし…そろそろ…」
「って!!な…何を…!?」
「何をってそりゃぁ…」
僕の肩を抱き、身体を引き寄せた。
何をする気だ!!
この人はからかっているな!!
など物凄い速さで思考が駆け巡った。
だがその反応も思考も意味は無かった。
だってラーベは、目の前の盛り上がった箇所を指していたのだから。
「え…?」
「あれが共闘を申し出た理由よ」
雪で作るかまくらを大きくしたような何かがそこにあった。
「この広大な範囲でピンポイントに見つけられたのはラッキーだったわ」
良く見たら砂の下に石でできたような建物が見える。
「あまり深くまで見ていないけど、どうにも危険そうなのよね。看守擬きが居て」
「!!」
「この地下遺跡。攻略するわよ」
試練が本格的に始まったのだと。
そんあn予感を感じた。
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次回 砂人形
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の世界観解説はありません。
日曜の日付は跨ぎましたがどうにか間に合いました…
次回の更新は、1週間後になると思います。
また今回は、かなり急いだのもあって、誤字脱字に加え、かなり日本語が可笑しくなっているかもしれません。
修正は投降後に余裕が出来次第致しますので、お待ちください。
それでは毎度のことながら、ブックマークやフォロー、作品の評価お願いいたします。
とりあえず第一章の終わりが見えましたので、気合を入れ直して投稿していきます。
何卒お願いいたします。
それでは失礼ッ!!




