第一章 第四十二話 火蓋を切る Ⅱ
「それでは詳しいルール説明と…」
「私達はもう戻ってもいいかしら?」
まさに、これからが本番とばかりに気合を入れるフルバニルだったが、異議あり!!とばかりに遮られた。
「開会式に出ろとの事だけど、予選は関係ないわよね?日差しがメイクの邪魔なの」
ルルルマは一刻も早く部屋に戻りたいとの事だった。
【メイクアーティスト】として最前線にいる彼女は、1分1秒ですら惜しい。
本来ならば【グランコンバット】になど微塵も興味がない彼女だが、契約件仕事で出場し、この場に立っている。
「開会式に登場するだけでその後は本選まで自由…そうでしょ?」
「一応、開会式に登場ではなく、参加の筈でしたが?」
「どっちも一緒でしょ?」
きっとこの場のほとんどの者がこのように考えただろう。
[暴論だ…]
蚊帳の外である僕を含め、観戦者や中継でもルルルマさんが映っている。
ルルルマさんは他の視線を一切気にしていないのか、今も手を止めずに自らの顔に化粧を施し、見る見る内に化粧は濃くなり最初の面影はどこへやら。
今では白塗りの先を越え、碧塗りにまで到達している。
[凄く痒くなりそう…てか暑そうだな]
化粧の美徳を微塵も知らないお子ちゃまな僕は、失礼ながら心の中でそう呟いた。
「はっはー!!まさに【らちんとらん】だな!!」
「それを言うなら【ちゃんぽらん】よ。ってまさかそれ私のこと?」
すると2人の間に入ったヴィクラー。
だが彼の言葉は、火に油を注ぐも同然だった。
「アンタが誰か知らないけど、まさか喧嘩売ってるの?」
「喧嘩を売る?買うのは得意だけど…売るのは苦手なんだよなぁ。でもまぁ…買ってくれるなら嬉しいけどねぇ?」
同じVIPクラス同士で喧嘩が勃発寸前。
爵域以上の2人が他の参加者がいるこの場で喧嘩など、洒落にならない。
周りの他の参加者に出る被害は、相当な物となるだろう。
「なるほど。いつでもやれるのかしら?」
「上下左右、前後ろ、どこからでもカモン…COME ON!!」
決して近くはない僕の現在地点ですら、2人の魔力がぶつかり合う影響で大気が震えているのが分かる。
これでもまだ魔力封じを解除し切っていない。
「や…やべぇ…!!」
「離れろ…!!」
観客席には届かないにしても、僕達のいるここ、アリーナは別だ。
参加者の内、何人が魔力酔いを発症するか分からない。
それに2人の余波に巻き込まれないとも限らない。
既に参加者の半数以上が動揺を見せている。
「止めないと…!!」
まだ魔力酔いの影響を受けない僕ならどうにかできるかもしれない。
実力も魔力量も経験も、全てが未熟な僕だが止める権利を持っている。
「…!!」
そして、ほぼ同時に少し離れた位置に居たアリシアも腰の剣に手を掛け、己の列を飛び出した。
この場で2人だけが、一般参加者の枠で仲裁に入ろうとしていた。
「2人共…よそう」
「「っ!!」」
その時、2人の間には既に1人の男が割って入り、イルファルドとアリシアよりも早く到着していた人物がいる。
「観客や参加者、ましては【グラン・コンバット】というイベントにすら影響が出る」
刃は向けていない。
魔法も向けていない。
なのにも関わらず2人は、首筋に何か冷たいものを感じた。
「どうせ動くと思ってたわ。リヨス」
遠くから眺めていたラーベは、分かり切っていた事だと吐き捨てた。
「今のなにが…?」
まさに一瞬。
動き出しは確かにイルファルドとアリシアの方が早かった。
だが先に割って入ったのはリヨス。
確かにイルファルドとアリシアに比べ距離は近く、先に到着しても何ら可笑しなことではない。
真に驚くべき点は…
[[見えなかった…!!]]
イルファルドとアリシアの見た光景は同じ。
何も無かった2人の間に気が付けばリヨスはそこにいた。
空気に溶け込むように当たり前のように。
転移と言われても疑う余地がない程に一瞬で。
「流石は【光の御子】だ。騒動を止めてくれて感謝する」
「なーんにも。それにまだ収まってはないと思うよ」
リヨスは剣の様に鋭い視線をヴィクラーとルルルマに向ける。
「同じVIPクラスでも大きな戦力差があるようね」
「ソリャソウダ アイツハ オウイキ アタリマエノコトサ」
観客席から呑気に眺めるヴェイエとカラスは、その光景を魚にポップコーンを口へ運んだ。
「イルファルドノ ソダテノオヤ シルヴァモオウイキダガ ココニモイルトハ」
「今は世界に50人も居ないんだっけ?」
「アァ ソウダ」
人類史の怪物達。
それが王域。
その領域は歴史に名を残すのが確約されている領域。
それは、たった1人で数千冒険者を壊滅出来得る力。
中でも上澄みの王域は、更に万を超える冒険者を殲滅できる。
「イチブノバグヲノゾケバ ジンルイノトウタツテン」
頂に立つ者。
それが王域。
「2人共、今は一度その溜飲を下げてくれないか?」
まだ開会式の最中という事を忘れてはいけない。
予選すら始まっていないのだ。
「ほら。フルバニルもああ言ってる」
「だが…!!」
「なーに。その気持ちを消せとは言わない。ただ決着をつけるなら【グラン・コンバット】でだ。本選でキミ達が勝ち上がればそれもできるだろ?それとも…勝ち進む自信が無いのかな?」
「!!!」
リヨスも敢えて挑発するように言葉を重ねた。
「せっかくの喧嘩。やるなら大舞台で」
「「リヨス…!!」」
「ねっ?」
リヨスは選手部屋で観せた気さくな表情で2人に語り掛けた。
ルルルマ含め、リヨス以外のVIPクラスは血の気が多い。
しかし、今ではその暴れ馬もなりを潜め、大人しくする他ない。
よーいドンでの勝負ならまだしも、今の状況で暴れても一瞬で鎮圧されるのは目に見えている。
「「…」」
イルファルドもアリシアも。
どちらもリヨスの強さを目の当たりにしていない。
故に未だ緊張を解けずにいた。
「分かったわよ。参加する…大人しくするわよ」
「俺もそいつが大人しくするってんなら文句はなぁし!!それにリヨス…アンタともここで戦うなんてしゃばい真似はしねぇよ。やるならリングの上でだ」
「いいね。ボクも楽しみにしてるよ」
張り詰めた空気は消え、ルルルマとヴィクラーの感じていた首筋の冷たい感覚は消えた。
これでもうアリーナ内で文句を言う存在は居ない。
イルファルドとアリシアは全身の力を解き、肩の荷を下ろした。
「よし!!もういいよー!!」
「はぁ…全く。たかが開会式でどれだけの手間を。これだから埒外の化け物は」
「えー?なんか言ったー?」
「いいえ。何も。それでは改めてご説明いたします」
フルバニルは、話を逸らす様にして本筋に戻した。
「これはグランゼッタ地下で極秘に作成したフィールドです。面積はこの街と同程度」
映し出された複数の景色を見る限り、それは洞窟に近い。
流石に天井や道は整備され、いくつかの照明も焚かれている。
それでも尚、地下は薄暗く、地上の暖かさを感じさせない。
「地下には複数の環境が存在しており、様々な戦術を使い攻略するも良し。己の得意な領域で戦うも良し。基本的に行動の制限はない」
自分に有利な地形で戦えば、脱落のリスクを大きく減らし、安全を確保できる。
ならば皆がそうするのではないか?
だがこれは単純な生き残り制ではない。
「皆も知っている通り、ルールは【旗探し】!!」
それは全世界共通で行われる遊びであり、学校ではレクリエーションとしても行われる、国民的遊戯。
指定された一名が決められた土地に旗を隠し、誰がその旗見つけ、手に入れるかを競うゲーム。
旗の数は設置者のさじ加減で変わり、時にはチーム戦で、時にはレースで使用されることもある。
つまりその場で固まるというのは、安全だが自分の首を絞めるも同義。
探すという行為に大きく制限が掛かる。
「先に言っておく。この地下に設置されている旗の本数は、全部で12本」
「!!」
「1本に付き、1名が旗を手にでき、触れた瞬間その参加者の本選進出が確定する。無論、誰かの手に渡った旗は二度と使用できず、その場から姿を消す」
つまりは本選に進出できる人数は12名。
イルファルドはその倍率に思わず息を呑んだ。
この予選で9割5分が脱落する。
全体の約5%だけが勝者。
この広い領域で旗を見つけなければならない。
「ふざけんな!!そんなの運ゲーじゃねぇか!!」
「実力も何も関係ない試合だってのかよ!!」
1名また1名と不満の声を上げ、先程のルルルマの騒動とは比べ物にならない程にアリーナは混沌と化した。
確かに【旗探し】はお遊びという事もあり、運が大きく絡む一面がある。
短距離走や長距離走で足の遅い子供も勝つことができる。
それをこのような大舞台で実施しようと言うのだ。
不満が出るのも当たり前である。
「安心しろ。旗はそう簡単に手に入れることはできない」
「そんなの関係あるか!!この街と同程度の面積で見つかる訳…」
参加者の1名が異議を唱えたその時、彼の横に大きな影が現れた。
「たわけ。勝負の世界に一切、運が絡まない?そんな呆けた頭してやがるのか?」
「っ!!!」
それは一般参加者の元に現れたヴィクラーだった。
彼は睨むことはせずただ見下ろすだけ。
「どんな戦いにだって運ってのは平等に存在する。割合や重要度は種目によりまちまちだが存在しない協議はない」
限りなく卓越した指揮官同士の模擬戦で、たった僅かなミスがあった瞬間それは負けとなる。
ならばその要因は何か?
集中力の欠如。
いらない勘ぐり。
更に細かく言うならば、僅かな糖分や栄養の差。
呼吸のタイミングに光の差し込み具合。
当人が気づかない程度の些細な運がこの世には多く存在する。
「日々の調節つったって限界はある。100%運の要素無くすならそれは面白くねぇ」
そのような勝敗の世界には、当人達ですら気づくことのできない運が存在している。
「でもこれはあまりにも…」
「ならその運を実力でカバーすればいいだけ」
続いて、別の場所で異論を唱えた参加者の元には、ルルルマが現れた。
「魔法、スキル。何より魔力を制御する上で皆が当たり前の様に取得する技術。魔力感知で各参加者の同行を…参加者の集まる地点を探り当てればいいだけ」
卓越した魔力感知であれば、数十km先の気配を探ることもできる。
「貴様らがどれだけ使用できるか私には、毛ほども興味もないけど」
「それに簡単には手に入らないのだろう?」
最後に何度も参加したことのあるリヨスがフルバニルに問いかけた。
「あぁ。それぞれ種類は違えど試練と呼べるものは用意している」
「そっか。ならもう皆も分かるよね」
そう簡単に入手できないのなら、攻略する前に他の誰かが現れ、そこに人混みが、1つのグループができる。
[運が大きく絡んでいるのは間違いない。でも魔力感知で他の参加者の動向が探れば…その割合は下がる]
アリシアを含め一部の参加者は、最初からあまり憂いていなかった。
[そこに魔法やスキルが加われば…]
「運だけの勝負じゃない…!!」
アリシアの心の声をイルファルドが言葉を引き継ぐように繋げた。
「私達とて運の要素を限りなく減らす工夫は施してある。詳細についてはまだ語ることができないが、試合が進めば自ずと明らかになると断言する!!」
数年かけて作成した地下の領域。
言うなればグランゼッタの創意工夫が詰まったステージと言ってもいい。
「他に何か質問のある者は居ないか?」
そのフルバニルの問いに今度こそ皆が黙った。
つまり、皆が腹をくくり、覚悟を決めたという証拠。
「ならば行くといい!!」
すると、ゴゴゴゴゴ、と音を立てながらアリーナの8方向それぞれ地下への道が現れた。
「これより!!【グラン・コンバット】予選を開始する!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
「っ!!」
フルバニルが試合の開始を宣言し、観客が雄叫びを上げ、まるでオーケストラの序曲の様な盛り上がりを見せる。
イルファルドを含め、全参加者の気持ちが引き締まり、緊張感は薄れるが代わりに興奮の冷や汗が肌を伝う。
「頑張れ…!!イルファ…!!」
「マケルナヨー」
「俺も地上から応援してる」
観戦席からイルファルドを見つけたヴェイエ達は勿論、中継により決して近くはないカインも応援を送った。
「特訓の成果を見せてやれ。この一週間の努力は裏切らない」
今この世界で誰よりも現在のイルファルドの強さを知るバロン。
彼もまたイルファルドへ言葉を送った。
「さって…誰が勝ち上がってくる…か…な…」
リヨスは見た。
開始が宣言した直後。
薄っすらと笑みを浮かべた少年を。
イルファルドを見つけた。
[あの子。選手部屋で]
言葉を交わすことの無かった2人。
イルファルドの夢の目標である勇者本人と憧れるだけの少年。
この時、薄っすらと運命が交差したのだろう。
[気になる少年が1人…かな]
次の瞬間。
イルファルドが最初の一歩を踏み出した。
今度は入場の時の様に1人ではない。
全参加者が一斉に飛び出す。
[あそこを通ったらいよいよ…]
走り出した先は北の入り口。
イルファルドは更新したステイタスと新たな魔法を携え、今地下へと突入した。
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ジメジメとした真っ暗な部屋。
その部屋で怪しげな光に照らされ、【グラン・コンバット】の中継を見る男達。
「始まったか」
「えぇ。この中に勇者姫が居る筈です」
部屋の至る所にある不気味に光る培養液の中には、グロテスクな肉塊と苔むした動物の抜け殻が詰められている。
「おや…この少年は…」
そこに居たエルフの老人は、中継を見てとあることに気づいた。
「なんだ?知り合いか?」
「いいえ。きっと向こうは知りませんよ。ただ私が一方的に見ただけですから」
森の中、老人は1人の少年を見つけた。
どこか不思議な存在だと、直感が告げていた。
暗い洞窟の中、老人は1人の少年の雄姿を見た。
あの場で誰よりも弱く、淡い光の少年を。
「これも神様のおかげ…ですね」
「……なるほど…そうだった。今、理解したよ」
もう1人の青年は、数秒を黙り込むが直ぐに内容を理解したようだ。
「これはまた楽しくなりそうです」
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次回 巣
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の世界観解説はありません。
一先ず、今回から【グラン・コンバット】開幕です。
簡単にではありますが、誰がどの入り口に入ったかだけ、ここに記入しておきます。
まずイルファルドに関しては、本編通り北。
次にアリシアは南西という感じになっています。
またグランゼッタの面積に関してですが、北の壁から南の壁まで約7km。
それが歪ではありますが円系の形を成しています。
中世の巨大都市がどれくらいか具体的な知識があるわけではありませんが、この世界は魔法があるんです。
きっと多少大きくてもどうにかしてくれる筈!!
そして、キャラクタル大陸に置いて、王都の次に広い為、今回運ゲーや!!と参加者が嘆いたのです。
どのような試練が待っているのかどうかお楽しみに!!
次回の更新は今回と同じか、少し早めに出せればと思っております。
20~23まで少し執筆が出来ないので、それまでに2本出せたらいいとは思いますが、もしも難しい場合はキャラクター設定や世界観解説を投稿いたします。
いつ通り誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
ブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒お願いいたします。
それでは失礼!!




