第一章 第四十話 姫様の☆任務事☆
「ねぇねぇ!!キミの得物は、その棍棒かい!?ボクも使うんだけど重いよねー!!」
「そ、そうか…?」
「あー!!キミはグローブか!!ボクも使うよ!!」
「はぁ?それは良か…」
「それにそれにキミは、鉄球使いか!!またの名はモーニングスター。ボクも使うよ!!」
「「「結局どれを使うんだよ!!」」」
リヨスさんは、ここへ来てからずっとこんな感じだった。
誰これ構わず話しかけに行き、時には武器で、時には武器で、時には武器で、たまには武器で話題を振っては話し、また次の人へ。
どうやらリヨスさんの事を知るラーベと呼ばれていたお姉さんは、『これだから戦闘バカは…』と嘆いていた。
「いや~オモシロい!!沢山の戦士が居るんだからこうでなくちゃ!!」
リヨス・アルヴァー。
僕は彼の名前を知らなかった。
しかし、彼の異名は聞き馴染みのあるものだった。
「【光の御子】」
そのように呟きが部屋中でいくつも聞こえた。
今から約200年前に起こった魔大陸での戦争。
【魔王】と呼ばれる存在が一部の魔族を先導した後、反逆を翻した。
【魔王軍】は幾度も正規軍を退け、魔大陸の征服まであと一歩というところまで追いつめたと言う。
そんな最中、戦場に1人のエルフが現れたのだ。
その人物こそが【光の御子】。
【光の御子】は戦線を上げ、圧倒的不利に思えた戦場をひっくり返す。
奪われた領土、人、資源をも奪い返し、最終的には正規軍との協力関係の下【魔王】を打倒した。
圧倒的闇を払い、光を齎した英雄。
そこで付けられた異名こそが【光の御子】である。
そして、先代の勇者。
つまり憧れの存在と言っても過言ではない!!
[まさかこんな場所で会えるなんて~!!!]
イルファルドは、ずっと幼子の様に目を輝かしていた。
[【魔王】殺しの大英雄!!光の勇者!!本物の英雄譚とか聞けないかな?それにサインも…!!]
世界的に語られる英雄譚の主人公。
心躍らないオタクはいない。
だがオタクの僕でもその後の事は知らない。
何故、歴史の表舞台から姿を消したのか?
正直なところ、そのことが一番気になった。
「ねぇ。ちょっといい?」
「え…僕ですか?」
「うん。君だよ」
深くフードを被り、顔がよく見えない。
だが、声質的に女性であることだけ分かった。
それに少し聞き覚えのある声。
「さっき一瞬、助けてくれようとした?」
「助け…」
そうだ。
この人はリヨスさんが来た時、返事に困ってる僕に助け船を出してくれた人だ。
「助けるなんて…貴方の方こそ返事に困ってた僕の代わりに意見を」
「…?」
どうやら何のことだか分かっていないらしい。
顔が見えないのに頭上には、?マークがある…様に見える。
「一先ず、そのことは置いといて」
彼女は前置きをすると、少しフードを上げた。
隠れていた目元と純白の髪が瞳に映る。
同時に聞き覚えのあった声が記憶の人物と重なった。
「アリシ…!?」
「ちょっ!!静かに…!!」
僕は驚きを隠せず、言葉が漏れ出た。
それにより一瞬、周りの視線を集めた。
幸いなことに、アリシアさん途中で口を押さえ止めたことにより、大事にはならなかったが。
「な、なんでこんな所に…?」
するとアリシアは周りを見渡し、僕の耳元で呟く。
「ここを出て右側に進んだ倉庫前。そこで待ってる」
この部屋は人が多いという事だろう。
態々、変装をして、一般参加枠としてこの部屋に居た。
何が目的なのだろうか。
「わかりました。荷物をロッカーに入れたらすぐに行きます」
「ありがとう。先に行ってるから」
その後アリシアさんは、選手部屋を出て行った。
リヨスさんが来たとは言え、未だ騒ぎが収まらないこの部屋では、たった1人の参加者が居なくなっても誰も気づかない。
改めて周りを見渡すと、凄い人数だ。
それに加え、一筋縄ではいかないだろう戦士達。
[これだけの人数…どういうルールになるんだろう?]
詳細に関して当日まで不明と来た。
この人数ではトーナメント形式にするにしても多すぎる。
開始まで残り数時間。
そうした考えを巡らせながら僕は荷物をロッカーに入れ、アリシアを追うように部屋の外へ出た。
「リヨス?どうしたのよ。明後日の方向なんて見て」
「ん~」
1人。
リヨスだけが部屋を出たイルファルドに気づいた。
「さっきも誰かを…」
「ただ少し似てるなって思っただけさ」
「似てるって何が?」
「言っても分からないよ」
リヨスとそこそこ付き合いの長い、ラーベすらもほとんど見たことのない落ち着いた姿。
[200年前…それが本当の貴方なんでしょ]
ラーベは心の中で一言だけ、遠くなるリヨスへの言葉を掛けた。
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僕は選手部屋を出て、廊下を少し進んだ。
ふと道中に建物内から外の景色が見えた。
少しずつ人が増え始め、いくつかの人混みが出来ている。
まだまだ開催には時間を要するが、入場は間もなく。
[そういえば何で選手集合が早まったんだろう?]
急いでいたこともあって、誰にも聞いていなかった。
何かアクシデントでもあったのだろうか。
そんな事を考えていると直ぐに待ち合わせ地点である倉庫前に辿り着いた。
扉の前にはアリシアさんが立っている。
「待たせちゃってすみません」
「気にしないで。私が呼びだしたんだしね」
ここへ来てようやく、アリシアさんは被っていたフードを取り払い、素顔を表した。
マントの下にはきちんと鎧のようなものが見え、武器も装備済み。
僕は雰囲気が全く違うアリシアさんに思わず息を呑んだ。
「なにかあった?」
「い、いえ…!!何もないです!!」
それに僕が緊張するのは雰囲気だけではない。
端麗なアリシアさんを前にしているからだ。
綺麗な目鼻立ちに、純白の髪ながら毛先のみ黄金に染まる髪。
肌も白く、冒険者とは思えない程に気品のある立ち姿。
社交上手と自負している訳ではないが、人並み程度にはコミュニケーションを取るのが好きだ。
[でも…アリシアさんには無理かもしれない…]
はっきり言って住んでいる世界が違うと思わされるほど。
「ここ使っていいらしいから入ろうか」
「え…あ!!はい!!」
僕を現実に引き戻す様にアリシアさんは、後ろの倉庫を開けた。
どこか上の空になっていた僕は、アリシアさんに先導され、倉庫の中へと入った。
中は倉庫と言うには思いの外綺麗であり、すっきりとしている。
「ガークが今回の事情を関係者に説明したら、ここを貸してくれたの。椅子とかは無いけど、どこにでも座っていいって」
「なるほど…」
ガークさんの名前を聞くと、ここへ来た日の事を思い出す。
決していい思い出ではない。
だからだろうか。僕の反応を見たアリシアさんは、ハッとした様にこちらへ振り向いた。
「この前はあんなだったけど、ガークはああ見えて悪い奴ではないの。ただ少し…」
アリシアは最後にはやや暗い表情になり、言葉を詰まらせた。
勿論、イルファルドは何があったのか知る余地もない。
だが、そんな表情のアリシアを見ていると、胸の奥が締め付けられるようだった。
まるで以前もこのような事があったかのように。
「あの…!!質問いいですか」
すると、身体から言葉が漏れたように、口が動き出す。
どのような話題を振るかすら考えていないのに、口が先走った。
「どうしたの?」
「え、えーと…そうだ!!なんで選手の集合時間が早まったのか知りませんか?僕の場合かなり到着が遅れて危なかったなーって…あはは…」
少し早口で喋った僕の言葉はそこで止まった。
そして、止まると同時に溢れ出す冷や汗。
[しまったぁぁぁぁぁ!!!僕があの日の事を思い出すから]
王女様に気を遣わせる、平民なんて聞いたことが無い。
その結果、暗い表情にまでさせてしまった。
[やばいよ!!これどうしたら!!セシルなら…ってセシルはこんな事気にしないよぉ!!誰か身近な人物でこういう場面を打開できる人は…]
ミーナ。
父さん。
母さん。
ヴェイエさん。
カインさん。
カルミリアさん。
バロンさん。
カラスさん。
[ダメだ!!そもそも気にしないか、こんな事をやらかさない人しかいない!!!]
あわあわ、と身体を動かし、しどろもどろもいいとこと。
その時、クスッとヴェイエさんは笑った。
「聞きたいでしょ?なんで早まったか」
「え…あ、はい!!」
何とか地獄を乗り越えられたのだろうか。
ともあれアリシアさんは笑ってくれた。
一件落着…?
「とはいえ、私もあまり知らないんだけどね。なんでも会長が早めたらしいけど理由までは分からない。大会の開始時間は変わっていないし…少し変だよね」
事情を知らないイルファルド達にとって、何か異常事態でも起こったのだろうか?という推測しかできない。
「そうなんですね。ここには来たものの何も知らなくて」
「役に立てたなら何よりです。なら本題に入ってもいいかな。私の、私達の任務について」
そう。
何故、アリシアさんがここに居るのか。
僕はそれを聞くためにここへ来た。
「はい。僕もそれを聞くためにここへ来たんですから」
一般枠として参加し、身分を隠している。
本来ならばアリシアさんの位だと、間違いなくVIPクラス。
聞いたところによると実力も聖域と申し分ない。
「先に言っておく。今回の【グラン・コンバット】は危ないかもしれない」
「!!」
「覚えてるでしょ。1週間前のあの日、暴走した男を」
忘れる訳がない。
酒場で人質を取り、市民を危険に晒していた男。
「一体何の関係が…?」
「ごめん。詳しくは言えない」
「な、なら何で…?」
これならば説明してもしていなくてもほとんど変わらない。
寧ろ、恐怖心を煽るような真似だ。
「確定ではないけれど…あの事件を起こした張本人がこの場所に来る」
アリシアは思い出す。
事件が耳に届くより先に異変を察知し、走り出したあの時。
『ペンドラム家のご息女。【グラン・コンバット】に出なさい。そしたら手がかりが掴めるであろう』
エルフの老人はほとんど手がかりを残さなかったが、一つだけ残していった謎の薬品の痕。
調べた結果、その薬品は男の体内からも検出された。
それに、敵に塩を送るような真似をしたとは思えない。
残した痕跡すらも掌の上。
全ては、アリシアをより確実に誘い込むための罠。
そうとも考えられる。
「それにここ最近のグランゼッタは、どこかきな臭い。場合によってはリタイアも視野に入れた方が良い」
行方不明者の続出に銀行強盗事件。
僕だってついさっき襲われた。
身に覚えがあるなんてものじゃない。
「実は僕も…ついさっき殺されかけて」
「っ!?なら分かる筈。ここだって安全とは限らない」
また、酒場の時の様に暴動が起こるかもしれない。
危険は避けなければ、この世界で生きていくことはできない。
「リタイアはしません」
でも、その事件に誰か巻き込まれるかもしれないなら、リタイアして逃げたくない。
「もしもこれで被害者が出たら僕は、後悔します。あの場所に居れば防げたかもしれない。事情を少しだけ知っている僕なら何かできたかもしれないって」
この事を他の参加者と観戦者に警告をしようにも、同時に混乱が起きるのは目に見えている。
「だからリタイアはしません」
ならば事情を知っている人が一人でも多ければ変わるかもしれない。
ここまで来て何もしないなんてイルファルドにはできない。
「そっか。なら私もこれ以上は何も言わない」
以前、アリシアはバロンに言われた言葉がある。
『覚悟を決めた男程、頑固な奴は居ないぜ』
アリシアの目の前に居る少年は、覚悟を決めた。
これ以上のお節介は不要なのだろう。
[それに1週間前とは違うね]
何が違うのか聞かれたら答えるのは難しいが、感覚的に語るならイルファルドの纏う空気が変わった。
[バロンと良い訓練が出来たんだね]
アリシアも何度か見た、鍛錬の風景。
イルファルドはそんな事知りもしないが、逆は違う。
「互いに頑張ろう」
「は、はい!!」
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次回 目覚め
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の世界観解説はありません。
何はともあれ、投稿できた…
中々、進まず、時間も遅く…
頑張るんだ…僕の書きたいエピソードが近いぞ…
それを楽しみに続けます。
次回の更新も今回とほとんど同じです。
誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
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何卒!!
それではまた!!




