第一章 第三十九話 静けさ
街の中央部。
世界でも指折りの闘技場がドンと構えており、グランゼッタの経済を支えていると言っても過言ではないイベント【壮闘祭】。
そのメインディッシュとも言える【グラン・コンバット】の開催施設でもある。
「あれ…なんだ?」
「え?何のこと?」
「いやあれだよ」
その闘技場の目の前で、クレープを食していたカップルが目にしたものとは。
「あれって…」
横の彼女が目を細め、彼氏の言うあれを視界に捉えた。
人混みを抜け、この場所へと全力疾走をかます人影が一つ。
「やばい…やばいやばい…!!」
徐々にその影は大きくなり、ようやく姿形をはっきりと認識するに事が出来た。
「男の子…?」
彼こそがつい数分前に謎の犯罪者に襲われた男!!
イルファルドである。
「速っ!?」
無理もない。
身体強化を全開でここまで走ってきた。
しかし、この場所へ導いてくれた仲間を忘れてはいけない。
闘技場に到着するまで、ヴェイエやカイン、カルミリアが僅かな道を作り、到着目前まで漕ぎつけたのだ。
街中で参加者の呼び出しがあってから、約一時間。
「いつの間に!?」と驚きを隠せなかったが、どうやら敵の生み出した空間が関係しているとの事だ。
『それってどういう…?』
魔法に関しては正直なところ、勉強不足もいい所。
『イルファはノウハウもそうだけど、まずは座学も必要だね』
このように言われてしまう程。
すると、その上でヴェイエさんは、このように言葉を続けた。
『私も一瞬だったから詳しくは分からない。でも』
『遅かった』
困惑する僕にそう言ったのだ。
何が遅かったのか、聞く余裕は無かったがとても真剣な面持ち語っていたのだけは、脳裏に強く残っている。
[あともう少し…!!]
入り口付近には受付兼、警備員さんが立っている。
まだ開催前という事もあり、目の前まで来てしまえば意外と人も少なくスムーズ。
僕は緊張で高鳴る鼓動とようやく着いたという安堵、何よりもまだ時間は大丈夫だろうかという懸念を抱き、入り口へと到着した。
「「遅れましたっ!!」」
言葉が重なり、綺麗なシンクロ芸。
目の前の警備員さんも「お…おう…まだ大丈夫だけど…」と驚いているようだった。
「君…昨日の!!」
その言葉は、僕の真横から。
今しがた声がハモったばかりの男性。
「確か薬屋さんで…!!」
ショッピングの際に寄った薬屋にて、出会った男性の冒険者ラッセルさん。
「凄い偶然だね。君も出るんだ」
「は、はい。なので昨日は…」
特に悪人という雰囲気ではないのだが、最後に感じた怖気が忘れられない。
だからだろうか。
身体が反射的に警戒している事に気づいた。
「まさか、この時間に俺だけじゃなかったとは。でも、正直安心してるよ」
僕の肩に手を回し、気さくに話しかけてきた。
昨日に感じたような妙な怖気は感じない。
雰囲気からは、悪意も威圧感もない。
隣人や知り合いのように、話しやすいと感じる程。
「そろそろいいかね。2人共」
「は、はい!!すみません!!」
「一応…名前を聞かせてもらう。どちらからでもどうぞ」
警備員の男は、そう言うなり壁に立てかけてあった名簿を手に取った。
「受付の際にサインした暗号の記入。それとお名前を」
参加者の名簿と照らし合わせ、魔力の込められた紙、記録紙に自分の指でサインする、というのが受付作業という事らしい。
「それじゃお先」
ラッセルは、一歩前に出て記録紙を受け取ると、するする、と慣れた手つきで直ぐに暗号を書き終えた。
「はい。これ」
再度、記録紙を警備員に返し、次いでとばかりに自身の冒険者資格も上に乗せ返却した。
「ラッセル・ライルフ…第三級冒険者。問題ないな。そしたら最後に…」
「あーボディチェックだろ?分かってるって」
ラッセルはそう言いながら、装備品と持ち物を芸備員に預け、両手を横に広げる。
[物凄く慣れている。もしかして、常連の猛者だったり?]
この道数年と言われても疑わない程にスムーズだ。
冒険者資格の受け渡しやその後のボディチェックまで、指示が出る前に動いている。
勿論、数年という言葉は比喩で使ったが、実際初めてとは思えない。
「はい。これで終わり。通ってよし。参加選手はこの先の案内通りに進んでね」
「あいよー。それじゃあ先に行ってるね。イルファルド」
「はい!!」
あれ?
僕は遠くなってゆく、ラッセルさんの背中を見送るのと同時に疑問が浮かび上がった。
[僕の名前…教えたかな…?]
昨日の会話を詳しくは、思い出せないが自己紹介しただろうか?
「はい。次は君」
「あ、はい!!すみません」
一先ずそのことは、置いておこう。
ここで警備員さんの仕事を増やさない事の方が重要だ。
それにこの炎天下だ。
少しでも早く涼しい、部屋へ入りたい。
「さっきの人を見ていたから分かると思うけど、まずはこれにサインね」
指示通りに記録紙へ、ランクルス家の家紋を書き記し、続けて冒険者資格の代わりとなる、【プランセル・オーダー】の押印が押された書類を提出した。
その後は、ボディチェックも済ませ、荷物に関しても特に異常は無し。
「冒険者志望か。君みたいな子は多いよ。がんばれ。少年」
「はい!!」
気難しそうな警備員さんというのが第一印象だったが、どうやらそうでもないようだ。
最後に笑顔と共に応援を頂いた。
そうして、いよいよ中へ入ろうとした時。
「よかった。まだいた」
入り口の目の前に立っていたのはヴェイエさんだった。
「さっきはありがとうございます!!」
「別に道を作るぐらい普通。それよりこれ」
ヴェイエさんは、そう言うとポーチから1枚の布を取り出した。
これが何なのか聞かずとも分かる。
【ライフツリー】の媒体。
そして、その燃料となる魔力の塊。
「この1週間の鍛錬と組み合わせたら充分強くなれるでしょ?」
「そ、それはどうですかね…でも、勝ちます。一回でも多く」
「なら期待してる」
必ず勝つ。
断言したいが僕はそれほど自信家でもなければ、天才でもない。
天才的に頭が良い訳でもなけでば、器用でもない。
でも、それを補うために努力はした。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます…!!」
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闘技場内の選手部屋。
例年、ここの選手部屋は騒がしい。
どれくらいかと言えば…
『おおおおおおおおおおおお[うぇぇぇぇぇぇいいいいいい]!!!』
まぁとにかく外のお祭りよりも煩い。
だが致し方無い。
彼等は冒険者。
もしくは戦士。
もしくは海賊。
もしくは山賊。
とにかく沢山の荒くれ者が居るからだ。
「…」
イルファルドはそんな光景を目の前にし、身体を硬直させた。
無理もない。
まだ16歳だ。
開始前だというのにこの部屋からは、酒の匂いもするし、大量の汗から分泌される男の匂いだってある。
なんならもっと強力な匂いだって。
[僕…こんな場所で【ライフツリー】使えるかな…]
もう既に地面に横たわり、いびきをかいている人が何人も。
今まで一番強烈な部屋だ。
「一言で言うなら混沌だな」
「!!」
呆けている僕の肩に手を置き、誰かが話しかけてきた。
僕はつい身体を、ビクッ!!とさせ、反射的に武器の柄を握った。
「えーと…もしかして驚かせちゃった?」
立っていたのは、僕とそう年齢の変わらなそうな、もしかしたら年下とも見て取れる男の人だった。
「ごめんね。ただこの部屋に驚いているようだったから緊張を解そうと。あ…僕が更に驚かせたから意味ないのか。ハハハハ。ごめんね。すまないね」
彼は頭を摩りながら笑った。
美少年。
同じ男でも分かる。
それに、彼の身体つきはとても戦う者のではなさそうだと感じる程度には細く見えた。
「僕のほうこそすみません。扉の前なんかで止まって…」
ふと、周りに視線を移した。
すると部屋はさっきまでの騒ぎが嘘かのように静まり返り、地面に寝っ転がっていた人は、その場に立ち尽くし、まるで野獣を見た小鹿のように足を震わせていた。
勿論、一部を除いて。
中には、僕と同じように状況が飲み込めていない、人も居る。
「あれ?皆どうしたんだよ。騒いでていいよ」
それに一歩遅れて気づいたのか、目の前の美少年は部屋中の男に対し話しかけた。
だが、誰一人として返答する者はいない。
後ろからは「お前が行けよ…」「嫌だよ。お前が…」と小声で喋っている。
何故、ここまで静まり返っているのだろうか。
「はぁあぁあぁあぁあぁあ。ダメな奴ばかりですね」
「あ…その声!!ラーベだな!!」
「そうよ。1年振りね。リヨス」
「あぁ!!この1年でまた老けたな」
すると、ラーベと呼ばれる女性がたった一人、美少年の前へと進み出た。
「はぁあぁあぁ。これだからエルフは。人の老いが憎くなる」
「そうかい?僕は美しいと思うけれど」
ラーベは確かにリヨスという少年をエルフと言った。
世界中の誰もが知っている最も長寿な種族である。
[まさか、こんなとこに居るなんて]
エルフは人の街に好んで現れない。
理由はそれぞれであるが、一番大きいのは【神の眷属】だから。
するとその時、部屋の誰かが呟いた。
「もしかして…リヨス・アルヴァーなんじゃ…?」
振るえた声で誰かが言った。
それが彼の名前なのだろうか?
イルファルドは、育った大陸が違うせいか一切聞き覚えが無い。
しかし、部屋の空気は確かに変わった。
「ほら、リヨス。貴方はここじゃなくてVIPルームでしょ。戻って」
「えー。いいじゃんか。僕もここに居たいんだよ!!」
「貴方は居たくてもここの連中は、貴方のせいで震えてるの。だから行くわよ」
「まさか~。ねぇ皆!!そんなこと無いよな!!」
リヨスはラーベの後ろへ目を向け、意見を仰ぐが首を縦に振る者は居ない。
「ならここに居てほしくないー?」
こちらも同様誰も首を縦に振らない。
「ほら…固まってるのよ。メデューサに睨まれたみたいに」
「えぇ…あ!!でも見てよ!!」
するとリヨスは何かを見つけたと、少しはしゃぎながらこちらを指差した。
そう。
僕だ。
「え」
「君はどう思う???」
目をキラキラとさせ、こちらを見つめている。
[どう…と言われても…ここって選手はある程度自由じゃ]
ただただ返事をどうしようか考えていると。
「っ!?」
《居てもいい、なんて絶対に言うなよ》
誰も口にしていない筈なのに怨念のようなものが聞こえた。
一体誰だ!!
《居てもいい、なんて絶対に言うな!!》《居てもいい、なんて絶対に言わないでくれ!!》《居てもいい、なんて絶対に言うじゃねぇ!!》《頼む!!ここから災害を遠ざけて!!》《内容によっては…》《ガキよぉ…》《殺すぞ!!!》《殺しちゃうわ》《空気読めよ?》《普通に俺達が危ない》《だから!!居てもいいなんて、絶対に言うなよ》
部屋中だ。
これは会話だろと思ってしまう程度には、多種多様である。
「ぼ、ぼくは…」
実はこれ。
かなりのピンチなんじゃ。
「あの…」
絶体絶命!!
四面楚歌!!
危機一髪!!
そんな状況に光が差した。
部屋の隅っこで、誰かが手を上げている。
「私は別に大丈夫ですよ?」
激震が走った!!
フードを深く被った人物に大量の怨念、基呪いが飛んで行く。
次はあの人が僕みたいに…
「あの…!!僕も…」
そう思っていたがフードの人物は、あまり重く捉えていないようだった。
どころか。
「選手は自由なんですから大丈夫でしょ?」
頭をコクッと曲げ、当たり前だと言っていた。
ごもっともである。
「おぉ!!おおおおおおおおお!!やっぱりな!!僕を許してくれるよ!!いい人達だなこの戦士達は!!」
勝手に一括りにされ、《戦士達…?俺達も????》と後ろの人達は茫然としていた。
「……エルフなのに……頭がいいのか悪いのか」
「え?」
「なんでもなーい」
よく「嵐の前の静けさ」なんて言葉があるけれどこれは違う。
「嵐が来たからこその静けさ」である。
「よろしく!!リヨス・アルヴァーだ!!」
絶対に退屈はしない事だけ分かった。
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次回 姫様の☆任務事☆
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【エルフ】
現在では、キャラクタル大陸の秘境、【アルヘイムの里】から滅多に降りてこない。
【アルヘイムの里】は大陸の北東側に存在しており、禁足地ではないが、通行を制限されている。
1000年前【神々の眷属】として、多くの大陸に移住し、人口も増やしていたが今ではそのほとんどが居なくなった。
エルフ達は神々が去った頃を境に、他の種族との交流をほとんど断ったとされる。
【神々の眷属】という異名の出所は定かではないが、人とは思えない程に寿命が長い為、呼ばれだしたとされる。
平均寿命は不明。
何でも1000年前から生きているエルフも存在するとかしないとか。
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あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
投稿が遅くなり申し訳ございません。
ここから盛り上がってゆく展開は用意しているつもりなので、あとは僕の文章力…!!
次回の更新もほとんど同じです。
4~6日後だと思います。
誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
またブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒!!
それではまた!!




