第一章 第三十七話 蕾 Ⅰ
今回のサブタイトル【蕾】は急遽、2本立てに致します。
それでは本編どうぞ。
【壮闘祭】が始まり、少しした頃。
人口密度は膨れ上がり、どこもかしこも言葉が飛び交う。
普段は街の外で、依頼を熟す冒険者達も羽を伸ばしに訪れている。
勿論、僕達のように外から来た観光客も多い筈だ。
視界の端に映る、衛兵やお店を営む店員さん達にとっては、紛れもない戦場なのだろう。
日差しが肌を刺す猛暑というだけで、疲労感が増える筈。
加え、いつもより何倍も忙しくなる祭り。
そんな中でも働く、大人達には感謝しなければならない。
ふと、そのような事を思っていると、目の前のヴェイエさんが突如立ち止まった。
「イルファルド。まだ時間には余裕があるんだよね?」
「えーっと…開催時刻は昼を過ぎた辺りなので、まだ3時間は。ただ、出場選手は…少し早めに…」
「よし。なら少し行きたいところがある。ついて来て」
するとヴェイエさんは、大通りを抜け、どんどん人影の少ない路地裏へ。
始めは何人かの人とすれ違ったが、それも数を減らしていき、ついには人の気配を感じないような空間へと辿り着いた。
「この先だよ」
ヴェイエはそう言うと、スムーズに足を運ぶ。
イルファルド自身、この1週間でかなり【グランゼッタ】を歩いた。
景観が天空大陸で見た景色と大きく違うのもそうだが、何よりも【グランゼッタ】という街を詳しく知りたかったのだ。
そのようにして過ごした時間でも、このような場所は無かった。
どこに居ても、大通りの賑わいを肌で感じる程度には、盛り上がっていた。
でも、この場所は妙に静かだった。
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闘技場の少し外れ。
人混みを割る様に進む、【プランセル・オーダー】の姿があった。
「特に事件性のない街の警備なんて、随分と久々な気がするな」
「カイン。一応任務中ですよ。それに先日の強盗の件もあります。そうやって油断してると…」
カルミリアが不自然に言葉を切ったと思った矢先。
2人の背後に近づく謎の気配ありけり…
反射ではなく予測をしていたカルミリアは、スルッ、っとその場から離れた。
「急になん…」
今度はカインが言葉を止めた。
何故止めたか?
気づいたんだよ。
背後に居た大男に。
「つ~かまえた!!」
「ぐふっ!!」
既に回避行動も守りも許されず、大男の両腕がカインに絡みついた。
がっちりと身体をホールドされ、カインの力では抜け出すことが叶わない。
そもそも力勝負でも勝てる訳がない。
「し、師匠!?さっきまで前に…!?」
カインの言う通り。
巡回中の隊を先導していた他でもない、バロン。
なのに一瞬、視界から外した瞬間、物音と気配を無くし背後に回り込んでいた。
「ほら。だから油断するなって」
「そうだぞ~。いくら俺が最前列に居るからって…最後尾のお前らにちょっか…構わない理由は無い!!」
「今、ちょっかいって言おうとしましたよね」
身体は開放してくれたが、バロンの顔には「まだまだ、いじり足りない」と書いている。
勿論物理的には、書いていない…
「って!!書いてるし!!」
かなり綺麗な文字で顔面に塗りたくられている。
カインは、そこでふと目の前のバロン隊へと目を向けた。
最前列にはバロンの代わりとしてテルミリアが先導している。
「わざわざこんな最後尾に来てまで何を…」
「言ったじゃんか。構いに来たんだよ」
「はぁ…どうせ。それだけではないでしょう?」
ふざけた子供のように、言葉を投げかけるバロン。
だがカインは、確信があった。
何か考えがあり、この場に来たのだと。
[この人はそういう人だ。抜けているようで抜かりない。視野の広さだって目を見張るものがある。今、思えば【グランゼッタ】へ到着した日。あの夜もそうだった]
誰よりも早く異変に感づき、隊全体の進行ルートを変えた。
距離でいえば、とても視認できるような距離でもなく、勿論現場の音なんて届くわけがない。
それでも、バロンは感づき、あの夜、現場へと到着したのだ。
既に決着が付き、結果として先に到着したのはガーク隊であったが、距離を鑑みた場合、動き出しはバロンの方が先。
そんな人だからこそ何かがある。そう思ったのだ。
「ちぇっ!!テルミリアならまだしも、カインにも感づかれるとはな」
拗ねた子供の用に唇を尖らせつつ、明後日の方向へと視線を向けた。
こんなバロンの姿に、少々呆れるカインとカルミリア。
すると。
「お前らは、闘技場の方に戻れ」
随分とあっさりと本題を切り出した。
「闘技場…?任務ということでしょうか?」
「いーや。ただの直感だ」
「…?」
謎の指示に審議を問いかけるカルミリア。
その問いに帰ってきたのはただの直感という言葉。
理屈のなど無い謎の指示にカルミリアは、困惑を示すが、横に居るカインは違った。
彼もイルファルド同様。バロンの弟子。
なんなら兄弟子と言っても過言ではない。
「分かりました。そこへ行けばいいのですね」
「あぁ。俺は隊に戻る。ただどうにもな」
直感は言葉に言い表すことのできない。
しかし、判断は理屈よりも早い。
「カルミリアもいいな?」
「は、はぁ…承知致しました」
理解していないというのが事実なカルミリア。
これが信頼のない者からの言葉なら反応を示さなかっただろう。
つまりカルミリアもバロンを信じたのだ。
「それでは行って参ります」
「おう!!いってらっしゃい!!」
カインとカルミリアの2人は急遽、進行ルートを反転させ、元居た方向へと戻って行く。
「カインは何か分かったのですか?」
「なんも。ただあの人のああいう言葉は、当たる。だからかな。自我のない【傀儡】のようだが」
カインは己の事を【傀儡】と揶揄するが、バロンの指示に不満は無かった。
「なら急ぎましょう」
「あいよ」
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先程の静かな空間からしばらく歩いた。
街の景色は然程変わらず、あまり進んでいない様にも感る。
「この変かな」
ヴェイエさんはようやく目的地に着いたのか足を止め、こちらへと振り返った。
「これプレゼント」
そう言って懐から取り出したのは、謎の巾着。
人の掌程度のサイズで決して大きくはない。
「プレゼント…ですか?」
「うん。きっと役に立つと思う」
一歩、また一歩と近づきイルファルドの前へと立った。
「開けてみて」
いつもの落ち着いたような表情とは少し違い、可愛らしい笑みが浮かんでいた。
失礼に値するが、だから、だったのかもしれない。
「これは受け取れません」
「え?」
何を言うのだろうか。
そんな表情を浮かべるヴェイエさん。
「貴方…誰ですか?」
静まり切った街中でその言葉だけが、そこへ残っているようだった。
「な、なにを言ってるの?ヴェイ…」
「違います」
イルファルドは断言した。
目の前の人はヴェイエではないと。
「最初は何も違和感はありませんでした。でも一つだけ引っかかったんです」
既に時間にして1時間以上前。
合流した直後の会話。
『せっかくの通貨を…まぁ大人しくなったからいいけど』
『酒を飲みたいだなんて、本当に人間みたいですよね』
『振り回されるイルファルドはパワハラを受けてるも同然ね』
『た、確かに…振り回されるどころか、とんでもない距離を飛ばされましたけどね』
そんな会話があった。
「ヴェイエさん。僕の事をイルファって呼ぶんです」
「…!!」
でもそれだけでは疑うに足りえなかった。
だからここまで着いてきた。
そして、ここまで来て、ようやく疑う為の材料が揃った。
「そもそも…肩に乗ってるカラスさん。それ生物じゃないですよね?」
ずっと後ろから観察していた。
いくら寝ているにしても動かなすぎる。
まるで固まっているようであり、人形とも見て取れた。
そもそも寝ている、と言うのも動かないカラスさんを偽装するための罠だったのではないだろうか。
「もう一度聞きます。貴方は…誰ですか?」
全身で警戒を露わにするようにイルファルドは数歩、後ろへ下がった。
「ひひっ…!!」
すると、ヴェイエさんの表情は、今までに見たことのないような邪悪な表情へと変わり、肩に乗っていたカラスさんの模造を手で握りつぶした。
次第に身体も変化していき、顔こそヴェイエさんと同じだが、その身体つきは明確に男の物だ
「まさか…バレるなんてね」
「っ!!」
ヴェイエを模倣した謎の人物は、姿は元に戻さずに腰から一本のナイフを取り出す。
そして、呼応するようにイルファルドも【フィア・ナイフ】を構える。
[ここで戦闘を…!?元々これを見越して人気のない場所に誘導したのか!!それにあの変装はどんな原理で…?]
十中八九、それは魔法である。
だが、どうやって魔力や見た目、声を模倣した?
そのような魔法が存在するのか?
そもそも何故、僕を知っていたのだろうか?
会話では呼び名以外で違和感を覚えなかった上に、ここまで確信へと至る材料を落さなかった。
「さーって始めよっか」
「…!!」
ヴェイエさんの声のまま、目の前の人物は巾着を投げてきた。
そして、次の瞬間、巾着の中からは熱々しい光が漏れ出し。
「BOOM!!」
「ぐっ!!」
ちょうど2人のど真ん中の距離で、巾着は爆破した。
光の破裂と共に周りへ煙が充満した。
衝撃は然程無かったが、この爆発の真の使い道は違う。
「ひゃっほいィィィィ!!」
「っ!!!」
煙の中からの奇襲だ。
イルファルドの魔法を使用した状況とほとんど同じ。
魔力や音などの阻害効果は存在しないが、視界が遮られるだけでも厄介なのは変わりない。
それに加え、こんな煙の中でも動きやすいナイフを起用してきた。
となればこの戦い方は敵の十八番。
[ここは一度脱出を…!!それにさっきの爆発音。いくら人が少ないからと言って、誰かが気づいてくれる]
煙が晴れずらい街中。
風は通り辛く、状況も最悪。
それに焦って攻撃をするのは得策ではない。
ここは時間を稼いで誰かが来るまで逃げる。
そんな作戦だった。
「ここには誰も来ないよ。仲間が結界を張り巡らせてるんだから」
「!!!」
その言葉が本当ならば、現在の状況は不味い。
地の利も敵が握っている。
完全にアウェイな状況での戦闘を強いられた。
[その言葉を信じる…訳ではないが考えを切り替えろ…!!]
倒すまでは行かなくとも、敵の無力化を前提に動きを組み立てる。
そして、視界の制限されたこの状況で学んだ事を生かせ。
周りから「コツコツ」と音が聞こえ、連動するように煙も動く。
[魔法の発動を出来たらいいけど]
そうしたら状況は逆転する。
こちらが一方的に居場所を掴み、一気に有利に。
しかし、魔法の使用はきっとできない。
詠唱中を狙われて、それで終わり。
[勿論、最後の手段として使うけれど今は、まだ博打をするには早い]
なれば魔法もスキルも使えない。
己の技術だけで捌き切る。
それが最善手。
「もらった!!」
「っ!!」
背後からの奇襲。
だが、事前に煙の動きと音で居場所を察知し、ギィィィン!!という音を立てながら攻撃を受け流した。
更には姿を現したその一瞬を生かす為に、イルファルドは空いている左手を使い、敵の服の裾を掴んだ。
それだけでは終わらない。
今度は受け流しに使った、ナイフの衝撃を外へ逃がすと同時にそのまま敵の裾を強く引っ張り上げ、時計回りに回し蹴りを繰り出す。
寸前の所で攻撃は防がれたが、敵は後方へと吹き飛んだ。
[このまま畳みかける…!!]
地面にしゃがみ込み、敵の隙を突いた。
これは決まる。
その時、脳裏に記憶が過った。
『これだけは忘れるなよ。勝利の確信は戦において最高の毒だ』
そんなバロンの言葉。
ここで何かあるのでは無いだろうか。
身体は走らせながら一瞬の時間だった。
キュッ!!
という音を立て、突如、煙の中から一本の矢が飛んできたのだ。
矢の狙いはイルファルドの右足。
「っ!!」
「はぁ!?」
正に紙一重。
僅かにズボンを掠めたがダメージは無し。
そんな紙一重の回避は、目の前の敵に強い驚きを与えた。
「避けれた…!!」
教えが身を結んだ瞬間。
今朝の失敗を成功に変えた。
「全くどうなってんだよ」
「それなーアニキ」
成功はした。
だが状況は更に悪化するのみ。
「仲間…!?」
二対一が完成した。
しかも、片方は弓。
遠距離と近距離の2人組。
はっきり言って最悪の状況だ。
「まぁいいや。殺るぞ」
「あいよー」
こうして状況の悪化した後半戦が開始した。
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の世界観解説はありません。
前回、前々回とあまり書き込めなかったので、今回の展開が急だと感じたかもしれません。
加筆は考えていますが、時間の確保が取れ次第、実行いたします。
次回の更新も同じペースです。
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