第一章 第三十四話 過激 過撃 過戟
いつもよりも少し高い視点で街中を駆けて行く。
でも、不思議なことに僕の足は何一つ動いていないんだ。
何を言っているんだ?そう思うだろう?
僕もそう思う。
「ちょっと…!!早い…!!」
それに、追いかけているヴェイエさんが見えるのも可笑しな話である。
道行く人は、僕を見て…いや、重量物運ぶように僕を肩に担いでいるバロンさんを物珍しそうに見ていた。
「あの!!ヴェイエさん達も後ろに居ますので、一度…降ろしてください!!」
「感心したぞ!!今のご時世、君のような努力できる少年少女は少ないからな!!」
「聞いてない!?」
「カイン以来のやる気少年だ!!」と嬉しそうに話すバロンさんには、言葉が届きそうにない。
てか、目が血走ってないか!?と恐怖を感じた。
「隊長ーー!!!」
ヴェイエさんと並走しているカルミリアさんが叫んでいる。
「これでは騎士というより…」
その時ふと、過ぎ行く人達の声が聞こえた。
『こんな街中で…人攫い?』
「人攫いになってますって!!」
事情を知らない人達にとって、僕は人攫い真っ最中の男の子、そして、そんな男の子を攫った大柄な誘拐犯という様に見えている。
えっと…つまり何を言いたいかと言うとですね…
「この状況は色々と不味いですって!!」
情けない叫び声を上げながら、心の底から訴えかけた。
だがしかし、言葉は届くことが無く、バロンさんに制動は掛からない。
むしろ、加速が効いてきたのか、みるみる速度を上げるているようだ。
「さぁ急ぐぞ!!一秒たりとも無駄にしないからな!!」
[あ。これダメな奴だ]
僕とヴェイエさん達には、物理的な距離ができて、声も遠くなって来た。
あぁ。この気持ちを一言で表すなら、どんな言葉が最適なのだろう。
物思いにふけ、大海のような青い空を見ながら時間が過ぎて行った。
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時刻は街道を駆け抜けた直後。
僕とバロンさんは、騎士が駐屯し、宿谷としても利用している【威風の館】に到着した。
すっかりヴェイエさん達との距離は開き、周りには僕達以外誰も居ない。
「想像以上に広い…」
「【グランゼッタ】の一角まるごとが敷地だからな」
[あ。ようやく言葉が届いた]
それにしてもここは圧巻の一言だ。
街を囲っている外壁は、うっすらとしか見えず、一面に広がる芝生は一瞬、街中だと忘れてしまいそうになる。
しかし、整備されている道路はしっかりと設置されており、奥にはいくつかの建物が見える。
そうして、情報の処理を行っている時だった。
「ならやるぞ」
「ッ!!」
直後、僕はバロンさんの威圧により反射的に武器を構え、一歩後ろへ下がった。
[これって魔力とかそういう話じゃない!!]
バロンさんは、至って変化していない。
魔力も膨れ上がっておらず、魔力封じは解除していないようだ。
しかし、イルファルドの全神経が震え、産毛が逆立ち、一瞬で汗を掻く。
「正しい反応だ。まだまだ青いが経験値は確かにある」
イルファルドには、現状のバロンを表す為の言葉は、持ち合わせていない。
ただ、一言で言うならば殺気に近い何か、という事だけ。
獣やモンスターとは大きく違っており、直近で戦ったコープスとも違う。
武人としての威圧、騎士としての風貌。
そのどちらも、イルファルドが感じていた以上に、大きく、雄大で、恐ろしい。
[甘く見ていた。この人は…セシルと同格…いや、それよりも圧倒的に上…!!]
間違いなく、己の父であるシルヴァ達の段階だと結論付ける。
「どうだ?攻めて来い。できるだろ」
今も目の前にいるバロンさんは、武器すら構えていない。
そんな状態なのに『攻めて来い』と言ったのだ。
[でもいいのか…?バロンさん素手。それに対し僕は…]
そんな迷い。
愚かにも、未熟である僕はそんな事を考えた。
「おい。あまり舐めるな」
「!!!」
僕の考えを見透かしたようにバロンさんは言葉を掛けた。
[迷うな。失敗したら殺される気で行かないとダメだ!!]
両腕に残っていた僅かな震えを取り払い、深く息を吸い込んだ。
出来得る全てを出し切る為に。
だが、同時にハッキリと分かる。
このまま突っ込んでも一瞬でやられると。
[僕程度のレベルじゃ、相手の隙なんて分かるわけない。攻めるなら右か左、どっちがいい…]
イルファルドも確かに経験を積み上げた。
天空大陸で領域狩猟を行い、時には座学、そして、己の課題を向き合った。
その結果が地形を見る観察眼やアーツ。
そんな経験も今では無意味。
対人においては素人も素人。
ハクア村での経験がほとんど。
「ッ!!」
イルファルドは右か左のどちらかに賭けるしかない。
そして、今できる最高の速度で一気に踏み込んだ。
詰まる間合い、重なる両者の呼吸、交差する視線。
[自分自身で一番信頼できる攻撃で攻めるしかない]
手数で攻め、取り回しの良い短剣。
攻撃範囲と威力に優れる片手剣。
そのどちらも熟練度を上げてきた。
[直感で分かる。今は打ち合うどころか回避も不可能。チャンスは初撃の一回きり]
選んだのは右手に握られる片手剣。
「っ!!!」
身体の撓り、右手の力。
今できるありったけの一撃だった。
「大振りだな」
次の瞬間、ガッ!!という打撃音が【フィア・ブリンガー】に鳴った。
「!!」
すると、【フィア・ブリンガー】はバロンの左手により、あっさりと叩き落されそこで攻撃は終了。
二撃目へ移ろうにも左手は掴まれ、足元にはバロンが一歩間合いを詰めたことにより、スペースは無い。
踏み込みも後退も許されなかった。
それは赤子の手をひねるようだった。
イルファルドの思考や戦い方は見切られ、次の一手すら移ることができない。
「なるほど」
バロンは叩き落した【フィア・ブリンガー】を拾い、イルファルドに返した。
そして、再び距離を取ると先程の一幕を言語化するように語りだす。
「自分で分かっているか知らないが、冒険者には向かないな」
「な、なんで…ですか?」
「一瞬見せた、迷いに決まってるだろ」
「迷い…」
確かに僕は一度躊躇した。
武器を持たぬバロンさんに対し、迷った結果そこを見抜かれた。
「どこか内気で、優しさから迷いが生じる」
「僕に優しさなんて…」
「それに、今のイル憎はただ我武者羅なだけ。技術がない。素人も同然だな」
「うっ!!」
かなり痛い所を付かれた。
僕の戦い方はほとんど独学。
周りに剣術を扱う人は居なかった上に、片手剣と短剣を使うスタイル。
父さんに教わろうにもあまり機会はなく、教わったのも基礎だけ。
「正確な間合いに位置取り、己も武器の特性と敵の武器の特性。少なくとも今の一瞬でその4つが欠けていた」
「そんなに…」
だが、確かにその通りだった。
最初の接近。
力みすぎたのもあるが、僕の間合いは片手剣の距離ではない。
現にバロンさんの左手が届き、攻撃に移ることが出来なかった。
そして、2つ目は、そこから生じた僕の位置。
似ているようで違う。きっと足の場所。
動きを封じ込むには用意で、雑な足運び。
何より1つ目と2つ目にどちらも原因である、武器特性。
「イル憎は技量が足りていない。圧倒的にな」
「技量…か」
「攻撃を誘う、防御のタイミング。敵との駆け引きを理解すること。それを学んでいけ。これはモンスターとの戦いにも役立つぞ」
今の僕にとって、新たな目標が出来た。
ここで技術を養う。
直ぐに成長しなくとも一歩ずつ正確に進んでいく。
「これから一週間。この時間に稽古を付けてやる。ついて来いよ」
「勿論です…!!」
「ならもう一回来い!!」
「はい!!行きます!!」
こうして、僕の鍛錬は始まった。
汗を流し、新たな考えに更新し続ける。
訓練の成果が出るのは一週間後。
【グラン・コンバット】での事となる。
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「あの人…何者?」
それはようやくイルファルドに追いつき、遠くから見ていたヴェイエの言葉。
横にはカルミリアと「ぜぇぜぇ」と荒い呼吸をするカインが居た
「私も詳しくは知らないわ。ただ武を教わるならあの人に勝る人材は居ない。少なくとも私の知る限りではね」
「一応…俺の…師匠でもあるからな…っ!!」
「カインは一度、深呼吸したら…?」
遠くからでも分かる。
バロンは身体強化を一切していない。
魔力封じも解除していないのだ。
なのに、技だけでイルファルドを完封し、一度も隙を見せない。
「私は戦闘に関して素人ですが、以前このような事を聞いたことがあります」
「?」
「魔力の精密さや出力では、アリシア様に劣るものの、剣術では隊長の方が上だと」
ヴェイエはバロンの事も有名人であるアリシアの事も知らない。
故にピンと来なかった。
そんなヴェイエに気づいたのか「【煌剣】という剣の二つ名が付く、アリシア様よりも上と言ったら分かりますかね?」と付け足した。
「まぁ要するに化け物ね」
「えーと。簡単に言えば…そうです」
「魔力総量もしっかりと聖域だしな」
考えるのを辞めたヴェイエと説明のしようがないと諦めるカルミリア。
最後に息を整え直したカインが一言だけ。
それからは特に会話は交わされず、ただ観戦し続けた。
時々、肩に乗るカラスが「イルファガァッ チカヅイテェ イルファガァッ オイツメル!!」と実況まがいな独り言を喋ってはいたが。
「私はもう帰るわ。覗き見も趣味じゃないし」
「そうですか。なら私が見送りに…」
「ヴェイエ。一ついいか?」
約30分程、経った頃。
ヴェイエはここを離れようとした。
ここは【威風の館】。騎士のホームといってもいい。
だからこそ、見送りをしようとしたカルミリアだったが、その会話に割り込んだカイン。
「なに?真剣そうな顔ね。告白でもするつもり?」
カインの顔にはやや迷いが見て取れた。
それは、聞いても良いものか、という己の迷い、葛藤だった。
「カイン。もしかして」
「…」
「何もないなら私は…」
視線を外し、カインに背を向けたその時。
「魔力因子についてだ」
するとヴェイエの動きは、ピタッと止まった。
「なぜ…なぜ…お前の魔力因子は…」
この時の会話を僕が知るのは、大分後のことになる。
先に言うならばここで、答えは出さなかったが、明確に核心へ、彼女の正体、彼女の目的に明確に迫った質問だった。
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次回 ショッピング
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回の世界観解説ありません。
急ぎの為誤字脱字チェックが甘いかもです。
明日以降に再び、チェックします。
今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
ブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒!!
それではまた!!




