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神無き世界  作者: ヤング丸
第一章 広がる世界
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第一章 第三十三話 会食


 ただ飲み物と料理を振舞われ、特に何もない会食が進んでゆく。


 卓には酒が並び、それを次々に飲み干すバロンさん。

 酒を飲んでいるのは、バロンさんだけだというのに次々とジョッキは空になり、酔っぱらう様子は今のところなさそうだ。


「隊長。一応まだお昼なんですが?」

「大丈~夫。大丈夫。今日は非番なんだ。面倒な仕事はガークに任せて~」

「貴方…それでも隊長ですか!!!」


 テルミリアさんの言葉はまるで届いていない。

 何度も御代わりし、その度に飲み干す。

 そうして流石に酒の匂いが部屋に充満したころ


「まぁそろそろ本題に入らないとイル憎達にも失礼か…」


 既に横のヴェイエさんが物凄い形相で居るんですよ…と言葉に出したかったが一先ずは飲み込む。


「さて。ここからが本題だ」


 バロンさんは前置きを挟むと机の下から大きな布袋を取り出し、それを机の上へ下ろした。


 中からは金属音のような甲高い音が聞こえ、かなりの重量に思える。


「これは…」

依頼(クエスト)報酬かしら?」


 僕の推測は、ヴェイエさんにより言葉と成す。


「正確には、1部だけどな」

「1部…!?」


 少なくとも僕には大金にしか見えない。


 甘く見積もっても、10万通貨(メキス)を優に超えるだろう。


「ここから北に抜け、アルスポートの船に乗るのなら最低でも30万、欲を言うなら40万は欲しい」

「そ、そんなに必要だったんですか…?」


 費用がここまでとは思ってもいなかった。


 大陸間での移動という物の恐ろしさを物語っている。


「モンスターの活性化。地殻変動に海流の荒れ、世界的にも料金が跳ね上がってるんだ」


 安全性を高めるべく設備の更新、冒険者や傭兵といった用心棒の雇用などで年々価格は上昇。


 ただでさえ費用のかかっていた、天空大陸への移動が今では2倍近くにまで膨らんでいた。


「お陰様で俺達も大忙し。イル僧が冒険者というのなら()()()()()()依頼にもいつか関わるかもな」

「世界的な物価高に冒険者の数は常に足りていないのよ」


 今思えば、冒険者試験の際にもミーナとこのような話題で言葉を交わしていた。

 しかし、実際の現場は言葉で語るよりも明確に変化し、影響を及ぼしている。


 ハクア村では山賊とのいざこざ、つまり人間関係での問題。

 そのせいですっかり頭から抜けていた。


[試験の…【モルディル・キメラ】もその影響だったのかもしれない…のか]


 既に身をもって経験した死地。


 あのモンスターは、僕の戦ってきた中で最も大きい壁。

 セシル、ミーナ、ニャシミアさん。

 4人でようやく手を掛けられるほど高かった。


「話を戻すけど残りの報酬はどうなるのかしら?」

「そのことなんですが…」


 するとそれに反応したのはテルミリア。


 そして、一枚の新聞を広げた。

 大きく一面に飾られているのは、とある事件。


「銀行強盗…?」

「えぇ。それも皆が寝静まった時間に同時多発的に発生」


 新聞には【グランゼッタ、全4支店にて強盗事件発生】と大きく書かれ、【壮闘祭】を間近に控えた現状では、大事件だ。


「犯人は…って聴くまでもないわね」

「まだ捕まってない」


 犯人不明。犯行手口不明。目撃者、被害者共に0。

 そう見出しには書かれている。


 はっきり言ってとても不気味だ。


「大方、銀行の結界を突破できる魔法かもしくは魔具(マジックアイテム)だろうな」


 ここまで大きな街だ。

 騎士や衛兵だって多い。

 それでも見つからないなんて。


「組織的犯罪…何でしょうか?」

「憶測の域は出ないけどそうと考えてもいい」


 事件当時に居なかったカインさんも腕を組みながら、相槌を打つ。


「私達【プランセル・オーダー】も軽く関わったんですが…手掛かりは無し」

「そもそも別の任務があるせいで、そこまで関われねぇ感じで進展は無し」


 つまり、現状ではいくら貴族であってもお金を降ろすことができない、ということだった。


「被害額は考えたくもねぇな」


 きっと僕では想像できない程の被害があるのだろう、と簡単に想像がつく。


「だからイルファ。報酬に関して【壮闘祭】終わりまで待ってほしい。都合のいい事だと分かっている。本当にすまない」


 カインは頭を下げた。


 それも当たり前だ。依頼(クエスト)のスポンサーは他でもないカイン。

 アクシデントとは言え、無駄な時間を取らせることになるのだから。


「謝らないでください。どの道、少しはゆっくりしようと思ってたんです。なので…」

「イルファが大丈夫なら私も特には」


 ならばグランゼッタを発つのは一週間以上先。

 【壮闘祭】を楽しもう。


「でも大丈夫なの?銀行の方は。街の人達にはどうやって」

「それに関してはグランゼッタの市長が立て替えてるらしい。それに【壮闘祭】の最中に、王都から通貨(メキス)を乗せた早馬が来て安定するだろうが、強盗事件で私兵は一杯一杯かもな」

「なら私達はもう少しゆっくりとしてるわ」


 もしも事件解決の手伝いができるようなら喜んで手を貸すが、僕達の立場的にそれは不可能。

 つまり蚊帳の外ということだ。


「イルファはどうする?私は祭りを楽しもうと思うけど…」

「僕も…」


 ヴェイエの言葉通り祭りを楽しむつもりだった。


 だがもう一つ。

 イルファルドには考えがあった。


「カインさん。一つお願いがあります」

「急にどうしたよ?」


 今僕のやるべきことは何かないか。

 そんな時にふと過った。


[昨日一人で考えた、今後の方針]


 この旅を終えた時。

 天空大陸へ帰ったその瞬間。

 そんな時の自分の姿。


 それは案外迷うことなく直ぐに出てきた。


[きっと冒険者となり、再び旅を始める]


 まだ短い僕の冒険だが世界の美しさを知った。

 外の世界を知った。


 今はより多くの物事を見ていきたい。

 そして、子供染みた勇者()を目指すならきっと役に立つ。


「僕にもう一度修行を付けてください。ハクア村の時のように」


 皆の手が止まり、イルファルドを見る。


「へぇ。熱いね」

「なんでそこまで…?」

「カルミリアには分からない感情でしょうね」


 バロンは手に持っていた酒を机に置き、見定めるように目を細める。

 その中でカルミリアはたった一人、困惑していたが横に座るテルミリアが妙な笑みを受けべながら冗談交じりに呟いた。


「なんでまた俺が稽古付けることになるよ?そこまでして何が」


 暫しの沈黙の末、カインは口を開いた。


 現在の迸るやる気は目に見えずとも分かる。

 だが何故そんな考えに至ったのかそれが不明な点。


「【グラン・コンバット】に出ます」

「そういえば昨日、アリシア様から渡されていたな。そこで興味を持ったと。だがそれだけか?」

「勿論、それも理由の一つです。でも僕はもっと強くなりたい。身近だった兄弟(セシル)や父さん以外の高みを見てみたい」


 世界を見るのは遅かれ早かれの問題だとイルファルド自身、分かっていた。


「自分の現在地を知りたいんです。その為に【グラン・コンバット】に出ます」

「ならただ出れば…」

「やれることはやっておくだけじゃダメなんです」


 本気で夢を見据えるのなら今のままではダメだ。

 もっと経験値を貯め、強くならなければそれはただの理想の妄想へとなってしまう。


「人よりも歩みの遅い僕では、何倍も努力しなければならない」


 英雄譚にて、勇者は言った。


「人生に無駄な時間はあっても、無駄な時間は自分の糧になるんです」


 無駄だったことを嘆いていてはダメなんだ。

 それを次に生かす。


 それが練習であり、稽古であり、修行なんだと今なら分かる。


「まだまだダメダメな僕は沢山の課題がある。でも同時に沢山の成長もある」


 外から見たら単純な素振りでも僕に成長を促した。

 ()()()()()()()()()()()()瞬間だ。


「お願いします。【グラン・コンバット】までに強くなりたいんです」


 今度はイルファルドがカインに対し深く頭を下げた。


 そして…


「そうか。分か…」


 カインが笑みを浮かべ手を伸ばした瞬間。

 横からもう一つの手がイルファルドへと伸びた。


「うぇっっ!?」

「イルファ!?」

「って隊長!?」


 掴まれた本人であるイルファルドは勿論、テルミリア以外が驚きを露わにする。


 yesの返事を出そうとしたカインに至っては唖然としていた。


「俺が修行を付けてやる!!」

「えぇっ!?」

「久々だったぜ。こんなに向上心がある男に会ったのはな!!全く最近の貴族も少しは見習うべきだ!!」


 きっとバロンさんは誰よりもテンションが上がっていただろう。


 てか硬直状態のカインさんに全く気付いてないし。


「よぉおし。そうと決まったら行くぞ」

「ええっ!?僕の返事はっ!?」

「特別に騎士の訓練場へ連れて行ってやる!!」

「聞いてない!!」


 バロンは持ち前の筋肉でイルファルドを担ぎ上げると肩へ乗せ、中途半端に口を付けていた料理を背に部屋を出る。


「ちょっと!!どこに行くのよ!!」

「ナンダカ オモシロイコトニ ナッテル」

「ヴェイエ。私もついて聞きます」


 追いかけるようにヴェイエ&カラスとカルミリアがその後を追った。


 残ったのはテルミリアとカイン。


「はぁ…カイン」

「はっ…!!俺はいつから気を失って…!?」

「さっきから。それより貴方も行ってはどうですか?」

「くっ!!すみません。副隊長!!」


 最後にバロンを追ったのはカインだった。


「あのイルファルドっていう子。いい子なんだね」


 急いで追って行った妹の顔を思い出しながら、自分の皿に乗っていた料理を食べきった。


「あ、あの~」

「どうしましたか?」

「その…残った料理は…」

「あ」


 まだまだとんでもない量が机の上には広がっている。


 最低でも三人前はあるだろうという食ぶれ(メンツ)

 そんな量をテルミリアが食べきれる訳がない。


「あの…あの…」


 力一杯の握り拳を作り顔を下へ向けた。


 大量の空気を吸い込み、十字の欠陥が額に浮かび上がる。


「クソ隊長があああああああああ!!!」


 ※残った料理は全てテルミリアのお持ち帰りとなりました。


────────────────────────────────────


 次回 過激 過撃 過戟


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 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 投稿が遅くなり申し訳ございません。

 次回は今まで通り3~5日に投稿予定です。


 今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。


 ブックマークやフォローなどとても励みになります。


 何卒!!


 それではまた!!


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