第一章 第三十二話 ギルド
「おはようございます」
支度を済ませ、宿のエントランスへ降りたイルファルド。
エントランスには既に支度を済ませ、肩にカラスさんを乗せたヴェイエさんが居た。
窓から外の様子を眺め、どこか眠気の残っている眼。
基本安全な街中だが普段通りの装備で背中には、【天真珠の杖】を携帯していた。
するとこちらの存在に気づいたのか、振り向く。
「おはよう」
「おはようございます…」
「どうかした…?」
ヴェイエさんは僕の顔を見ると不思議そうに首を傾げた。
「いえ…ただ久々のベッドで寝すぎて…一周回って怠いというか…」
「寝すぎったってところだね」
いつもよりも眠気が残っているし、身体も重い。
欠伸も漏れ出てしまう。
「今日は昨日言ってた、冒険者ギルドだっけ?」
「はい。約束の時間は昨日カインさんに伝えた通りにって感じですけど」
昨晩、【プランセル・オーダー】と別れてから行われた酒場での慰労会。
食事をするだけで特に何も無かったが、今後の話し合いと情報交換をした際にバロンさんからの提案は話してある。
「ヴェイエさんはどうします?」
「私も行くよ。昨日みたいに一人にしてると、また何かに巻き込まれるかもしれないし」
「あはは…」
一応、事件云々に関しても昨日の内に話し、それには少し機嫌が悪そうな顔つきになったがどうやら大丈夫そうだ。
ちなみに、無策で行動に出た、と正直に話したのが起爆点だったのだが。
「それじゃあ出ますか」
何はともあれ約束の時間までそう悠長にしていられない。
冒険者ギルドに関しても道のりこそ覚えたが、スムーズにいくとは限らない。
「いってらっしゃいませー!!」
宿を出て、受付のお姉さんが元気よく送り出してくれた。
外へ出るとやはり都会というのを感じさせる賑わいが広がっている。
【嵐静祭】に勝るとも劣らない歓喜に圧倒されてしまう程。
時刻は昼前だというのに酒場や飲食店は、行列が出来ており、屋台や出店も例外ではない。
「まだ祭りの本番じゃないのに。人も多すぎ」
「凄いですよね」
これもハクア村に居た頃に聞いたことだが、何でも神時代に嘗てこの地をモンスター達から守った英雄が【グランゼッタ】を作り、【壮闘祭】を開いたのが始まりという事らしく、建国際という訳ではないが似たようなものなのだろう。
「傭兵騎士ガーテイン…」
建物の上にはそのように書かれた旗がいくつも建てられ、【グランゼッタ】を作った英雄。
彼の名前は小さい頃に読んだ英雄譚に出てくる騎士であり、いくつもの武勇を知っている。
神々との解放戦争で活躍し、それ以前にも聖杯を廻る騎士達に間接的に絡み、太陽のような騎士だったと。
力は英雄の中でも随一。
太陽の恵みを力に変え、悪しき存在を葬りさる。
かく言う僕も彼の姿には心を打たれた一人。
「私は英雄譚にあまり詳しくないのよね」
「正直メジャーな英雄、というわけではないですからね」
彼の出てくる英雄譚で活躍が当てられるのは正直少ない。
その為,、国民的英雄では無いのだろう。
するとその時。
街の鐘がが雄々しく鳴る。
「急ぎましょう」
今のは一時間おきに鳴る、鐘の音。
最後に確認した時間から見るに、そろそろ目的地へ移動しなければ間に合わない。
「メザセ!!ボウケンシャギルド!!」
「「シーッッ!!」」
カラスさんが音頭を取る様に声を上げたがここは街中。
喋るカラスなんて珍しすぎるのだから。
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騎士達が駐屯し、宿谷としても使用される施設。
グランゼッタの面積の約十分の一を占め、北側に佇む【威風の館】。
更にその中でも最も北にある外壁の上で鍛錬を熟す人物が居た。
「っ!!ふっ!!」
たった一人で無心で剣を振るう。
だが何故、他の騎士達と共に鍛錬を行わないのか。
【威風の館】の中心部では、今も沢山の騎士が汗を流しているというのに。
「はぁっ!!」
理由は単純である。
彼女の鍛錬に一般の兵士では、付いていくことができないからだ。
剣を振るう度に魔力の海が揺れ、実力の見合わない者は立つことすら許されない。
それは騎士であり、エリート揃いの貴族だとしても例外ではない。
アリシア・ペンドラム。
王女であり、王位継承権を持つ者。
[この気持ちの昂り。なんだろう…?]
身体強化こそ使用していないが、全力の素振り。
いつもより重い愛剣に汗が滴り落ち、結んだ髪も激しく跳ねる。
昂りとは違う、不思議な感情。
それはイルファルドの感じた物と近いようで遠い感覚であった。
「アリシア様」
「!!」
「ここまで私の接近に気づかないなんて、どうされたのですか?貴方らしくもない」
【プランセル・オーダー】第二部隊 隊長 ガーク・フォルド。
「さぁね」
「全く…まだ根に持っているのですか?昨晩での出来事。何故、赤の他人にそこまで」
どこか不貞腐れた態度を取る、アリシアの胸の内をあっさりと見抜くガーク。
十年代の付き合いにもなれば見抜けるといった所だった。
「アリシア。戦場に立つのは力ある者のみで十分。現に彼はアリシアが指摘したように無策で走り出した凡人。意見は一致しているでしょう?」
敬称は消え、幼馴染として対等に語り掛けた。
「違う。貴方のはただの【否定】。度が行き過ぎている」
そして、考えを見抜けるのは逆もまた然り。
あそこでイルファルドにお灸を添えたヴェイエとガークの言葉の違いもあった。
「…」
「…」
剣など交える訳がないこの場所で無言の時間、そして互いの視線が結合する。
「…希望など……」
「…?」
高次元の魔力を持つヴェイエでも聞き取れない程度に呟いた言葉。
しかし、いつもとは違う空気を纏うガーク。
それは、主君に対し忠義を尽くす騎士とは言い難い佇まいだった。
「まぁそれはさておき、お聞かせください」
そう言いながら布から取り出したのは鉄の欠片。
砕かれた刀身の一部。
何より、ここへ来た目的、本題へ移る。
「昨晩、アリシア様が追跡したというフードの人物について」
思い出されるのは昨日の夜。
イルファルドと共に居たあの時。
『あのお名前…』
その言葉の直後。
アリシアの魔力感知に引っかかった人物。
「手がかりは掴めたのですか?」
それはイルファルド達の元に鐘の音が響いたのと同刻であった。
「ガーク。私は【グラン・コンバット】出る。きっとそこで…」
「なぜ急に…?それに何の関係が…」
『ペンドラム家のご息女。【グラン・コンバット】に出なさい。そしたら手がかりが掴めるであろう』
追跡した人物の代わりに現れたエルフの老人。
彼を追いかけようとしたが巻かれ、姿を見失った。
[これは何かの罠かもしれない。でも何かがある。きっと]
憶測の域を出ないが餌を吊るされている。
[なら…敢えてその餌に喰らいつく]
【勇者姫】は、もう形振り構っていられない。
故に彼女は決意した。
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見上げる程、巨大な建造物。
軽く見積もって、五階建てはあるだろう。
建物の正面にはメインフロアへ繋がる階段が左右に一つずつ。
そして、階段が挟む10mを軽く超えるであろうモニュメント。
この場所こそが【グランゼッタ】の冒険者ギルドである。
「大きな街とは言え…ここまでの大きさがいるのかしら?」
「さ、さぁ?」
一先ず、階段を上り中へ入ることにしたイルファルドとヴェイエ。
そんな彼らはモニュメントを横目にそんな会話を交わしていた。
「建物はまだしもこの飾りつけも凄いし」
実際、【グランゼッタ】の冒険者ギルドはとても華やかだった。
しかし、それでも大きさは中の上、もしくは上の下といった所。
各大陸の都市に設置されている冒険者ギルドは、これよりも大きいのだ。
「でも本当に凄い人数ですね」
まだ建物内へ入っていないというのに、入り口付近だけでも人の多さが伺える。
【王都ソムラニア】の次に依頼数が多いというのにも納得がいく。
「通してくださーい!!」
「おい!!早く次のを貼り出せ!!まだまだ来るぞぉお!!!」
「はいぃぃぃぃいい!!!」
中へ入った僕達を出迎えたのは、せっせと走り込むギルドのスタッフ達。
半分パニック状態であろう受付嬢は、大量の依頼書を運び、依頼板に出来ているのは冒険者の成す長蛇の列。
それが複数個も出来ていた。
依頼板も一つではないというのに、この人口。
「すご」
とヴェイエさんが呆気に取られていると。
「おーい!!二人共!!」
その声は吹き抜けになっている二階から聞こえた。
見上げるとそこに立っていたのはカインさん。
いつもの鎧は身に着けておらず、背中に装備されている大剣こそ同じだが私服といった所だろう。
「遅くなっちゃってすみません!!」
「いや、ただこっちが早く着いただけだから」
再び階段を昇ると僕達を出迎えてくれたカインさん。
「部屋を借りてるからとりあえず行くぞ」
「何から何まですみません」
「この人の多さだ。部屋でも借りないとゆっくりとできないだろうと思ってな。昨日の内に予約を取っといたんだ」
昨晩の食事を終えた後、カインさんは冒険者ギルドへ向かい部屋を取ったのだという。
冒険者ではないというのに手馴れている。
やはりできる男は違うという奴なのだろうか。
「ここだ」
建物の端っこ。
扉には赤い宝石が嵌められている。
「ただいま、戻りました」
カインさんに続き、部屋へ入った僕達。
中からはスパイスと肉の香りが鼻へ届く。
「おはよう。二人共」
部屋の中には全員で3名。
1人は馴染みのあるカルミリアさん。
「どうも」
2人目は初対面の女性。
しかし腰には細剣が装備されており、隙を感じさせない。
「昨日ぅ以ろい…だな!!イル憎!!」
鍛えられた身体を持ち、彼の腕の太さと同等の肉を頬張っている豪快な男性。
【プランセル・オーダー】の隊長。
バロン・グラメデス。
食べ物を口に含んでいるせいか、少し聞き取り辛いが歓迎はしてくれている?のだろう。
「待たせてしまい申し訳ございません。本来は僕達が…」
「気にすんなよ。ちょうど飯食ってたところだ。ほらお前らも食っていいぞ」
卓上に並んだ、豪華一品。
美味しそうだが一体いくらするんだ、という感想が先に出てきてしまう程パンパンに敷き詰められている。
「隊長。少しは行儀よくお願いします」
そう言葉を投げかけたのは僕と一度も面識のない女性。
この場に居る、ということは騎士なのだと推測は付くがとても細く、落ち着いた人だ。
「そういえば自己紹介がまだでしたね」
するとこちらの視線に気づいたのか彼女は椅子から立ち、細剣に片手を添えた。
「私は【バロン隊】のテルミリアと申します」
「わざわざありがとうございます。僕はイルファルド、横の彼女が…」
「ヴェイエです」
【バロン隊】
これも昨晩、カインさんから聞いたことだが【プランセル・オーダー】に属する三つの隊の内の一つ。
隊長であるバロンさんが直々に指名、基引き抜きで構成された部隊。
[それにしても…テルミリア…って…どこか…]
聞き覚えのある響きだ。
それも最近どこかで…
[ん…?待てよ。髪の色、それに瞳の色まで。もしかして]
「兄弟かしら…?」
答えに辿り着く目前でヴェイエさんが切り込んだ。
名前もどこか似ており、瞳に髪色と共通点が多い。
「そうです。私はカルミリアの姉です。今はバロン隊の副隊長を務めています」
「やっぱり…って副隊長…!?」
兄弟であることに予想は付いたが、その後の爆弾発言までは予測できなかった。
「ハクア村では妹が助けられたとお聞きました。お二人共、感謝致します」
「それ昨日に俺も言ったぞー」
「知ってますよ。だからこれは姉としてです」
とてもフランクに話している2人を見ていると仲が良いのが見て取れる。
それにしてもカルミリアさんに兄弟が居たとは…完全に予想外だ。
「イル憎と…ヴェイエ嬢!!とりあえずそこへ座れ」
「ヴェイエ嬢…」
イル憎に続きヴェイエ嬢。
その呼び方にはヴェイエさんが顔を顰めていたが話を本題に戻そう。
今日こそ依頼の最終日といっても過言ではない。
「それじゃあ俺達からの礼だ」
僕を含めた全員が椅子に座り、バロンさんは料理から手を放した。
『明日のは会食というやつだろうな』
酒場でのカインさんの言葉通り会食が始まる。
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次回 会食
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あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は世界観解説ありません。
現在、急ピッチで次回を書いておりますので、今月末に出せるか分かりませんが頑張ります。
今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。
ブックマークやフォローなどとても励みになります。
何卒!!
それではまた!!




