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神無き世界  作者: ヤング丸
第一章 広がる世界
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第一章 第三十一話 ridicule


 まさか、という反応で近づいてきたカインさん。

 僕自身も予想外だ。


「本当にどういう偶然だよ。まさかここでイルファと遭遇するなんて」


 意識を刈り取られた犯人は、直ぐに拘束及び捕縛。

 【プランセル・オーダー】は事態の収拾へと動き出していた。


 カルミリアさんの姿は見えなかったが、カインさんを含め、屈強な騎士達を前に僕は圧倒されていた。


 するとそんな騎士達を掻き分けてくる影が一つ。


「王女様!?」

「ア、アリシア様…なぜここに…!?」


 僕だけではなくカインさんも驚きを隠せてない。

 直ぐ後ろには、ガークという騎士が頭を抱え、見守っているが一体どんな用があって…


「怪我はない?」

「え…あ!!はい!!」


 王女様だと知ってからつい色眼鏡で見てしまう。


 緊張しい自分の声と表情は見なくても分かる。

 きっとガチガチになっているだろう。


「なら良かった」

「!!」


 目を奪われるとは、この事を言うのだろう。


 ほとんど年齢に違いは無い筈なのに、どこか別世界の人のように佇む彼女。

 セシルとも違う強者の感覚。


 心を何者かに捕まれる感覚がそこにあったんだ。


「でも君の行動は…見過ごせない」

「!!」


 全く別の空気を纏い、そこへ立っていた。


「あれはただの無謀。作戦も何もない君の行動で犠牲者が増えるかもしれなかった」


 横に居たカインも、ゴクリ、と唾を飲み込み思わず後退りする。


 それはガーク以外の騎士も同じ。


「いくら勇敢だったとしても無謀な行動は、最悪を招くかもしれない」

「っ!!」


 その通りだ。

 あの時身体の衝動だけで走り出した僕には、何もできなかった。


 助けるなんて夢のまた夢。


「アリシア、そこまでにしよう。全員が全員、私達のように優れてはいないだ」


 アリシアの肩を掴み、話に割って入ったガーク。

 どこか嫌味を混ぜたようなその言葉は、優しさだけではない。


「持たざる者と持つ者。その違いに目をやらないと」

「っ…!!」


 人生で何度も感じた壁。

 天才と落ちこぼれの違い。


 だがそれをここまで強く感じたのはセシル以来、初めて。

 ヴェイエさんやカインさんの時も確かに感じはしたが、今回は違う。


 自分以外にその差について言及されているのだ。


 天空大陸で周りから言われ続けた天才とその影。


「ごめんねー今から言うのは酷だと分かってて言うよ」


 今回は貴族の騎士と落ちこぼれ()

 しかもその本人からのお言葉。


「観客は大人しく見てた方がいい。私と違って君は弱いんだから」

「くっ!!」

「現場という舞台に上がらないことをおすすめするよ」


 君では役不足、そう言われたような気がした。

 悔しい。今の僕はその程度ということだ。


 もっと強ければ。

 カインさんなら、ヴェイエさんなら、セシルなら。

 きっと違う。


「ガーク!!」

「なんでしょうか?アリシア様」

「今のは明確な悪意があった。彼の行動は咎めるべきだったとしても、蔑まれる謂れはない」

「そんなー。私はただアリシア様に説教されている彼が可哀そうだったから、庇っただけです」


 アリシアはガークの態度に憤りを感じながら、身内の恥に向け警告を送ったが、あまり真に受けていないようだった。


 ただイルファルドは庇われているだけで、何もできない。


 そしてガークは馴れ馴れしくイルファルドの肩に手をかけ、耳元で呟く。


「よかったね。この国の王女様にここまで言われて。助け舟はどうだった?」


 社会とはどこまでいっても実力が全て。


 人脈も器用さ。


 特に魔力至上主義と言ってもいい、この世界では致命的な程、僕は弱かった。


「助け船…?あれがか…」

「んー?」


 でも一人ではなかった。


「ガーク隊長。いくらあなたでも、私の友人を貶すような真似は止めてもらいたい」

「カインさん…」


 イルファルドとガークはほぼ赤の他人。


 だがカインは違う。

 上司と何ら変わらない【プランセル・オーダー】の隊長だというのに。


「彼の勇気は本物です。私も助けられたのですから」


 盟友であるイルファルドを守る為なら、そこに壁は無いのだろう。

 静かに煮えたぎるような魔力を身に宿し、カインは鋭い眼差しを向けた。


「何?やる気?」

「いえ。ただ友人の為ならば…」


 漂う険悪な空気。

 カインもガークも一歩も譲らない。


「一歩も譲らない」


 イルファルドにとって、カインはともかくガークの実力は、未知数。

 だが『隊長』という肩書は只者ではないのだと感じさせるには十分すぎた。


「はーい。そこまでそこまで」


 すると二人の間に割って入ってきた大柄な男。

 鎧を着込んでいる訳でもないのに、身体中の筋肉が原因で誰よりも無骨だった。


「バロン隊長…!!」

「ここは街中だ。落ち着けよ。俺達、騎士が喧嘩なんて目も当てられないぞ」


 カインさんは直前まで気づけなかったのか、突如目の前に現れたような反応を見せていた。


 だがそれよりも僕の意識を集中させたのは、バロンという名の男。


 彼も今、隊長と呼ばれていた。


「ガークもよ。ウチのもんをいじめてくれるなよな」

「いじめる…かい?ただじゃれてただけさ」


 一目でわかる。


 圧倒的な力。圧倒的な強さ。

 きっとカインさんよりも数段、強い。


 根拠なんてないただの憶測だが、本能がそう言っていた。

 聖域の王女様と同じ、もしくはそれ以上の強さを…


「なぁ!!アリシア様!!この2人を見ていてくれないか?」

「分かった」


 周りが少しづつ騒がしくなっているのを感じる。

 情報を聞きつけ数多の人が集まってきた。

 【プランセル・オーダー】も既に撤収の準備を進めている。


「おい、坊主!!」


 それは僕の視界の先から掛けられた声だった。


「え…ぼ、僕ですか?」

「そうそうよ。僕僕!!」


 バロン隊長は、顔見知りを見つけたかのような距離感でこちらに近づいてきた。

 そして、同時に誰かが僕の肩を叩いてきた。


「イルファルド。さっきぶりですね」

「カルミリアさん!!いつから」

「割と最初からですよ」


 どうやらガーク隊長率いる部隊より、やや遅く着いたようだった。

 そのせいで僕は気づけずに今に至ったという事らしい。


「あ、あの…カルミリアさん…」

「はい…?」


 内緒話をするようにカルミリアさんに近づき、耳元で呟いた。


「僕…!!何かしましたかね…!?」


 ビビっていたのだった。


 それもその筈。

 とんでもないマッチョ、二回りも大きい身体、隊長という肩書。

 失礼だけど顔も少し怖いし!!


 セシルは『そんな訳あるか』とツッコミを入れるだろうが、純粋の迫力でなら、父さんよりもあるのでは、と感じてしまう。


「さ…さぁ?ただ悪い人ではありませんよ!!」

「イルファルド…だっけ?」

「は、はい!!」


 ズシンッッ!!と、とうとう目の前まで来たバロンさん。

 反射的に背筋が伸び、全身の筋肉が強張る。


「さっき聞いたよ。ハクア村ではカイン達が世話になったな」

「世話に…い、いえ!!寧ろ、助けられてばかりで…」

「いいっていいって。小僧に助けられたッてカルミリアも言ってたしな」


 そこまでの事を出来ていただろうか。


 横を見るとカルミリアさんが少し照れくさそうに頬を、ポリポリ、と搔いている。


依頼(クエスト)云々で話も聞いた。明日、時間を貰えるか?」

「明日…ですか…?」

「あぁ。この街にある冒険者ギルドで礼を交えてって思ったんだが…何か別件があるのかい?」

「いえ。特には」


 悪気はないのだが、身体が強張っているとつい探るような口調になっていた。


「だ、大丈夫です!!特に予定も無かったので」

「それは良かったよかった。時間を取らせて悪かったな」


 とりあえずは悪い人ではない。

 それは間違いないだろう。


 ただ迫力が物凄いだけで…


「そんじゃあまたな。イルファルドの小僧…イル憎!!」

「は、はい」


 なんだか変な呼び名まで付けられてしまった。

 一先ず緊張という肩の荷が下りた。


「イルファルド」

「はい!!って王女様…!?てか名前…!?」


 緊張が去ったと思ったら、またやって来た。


 しかも今度はこの国の王女様だ。


「アリシアでいいよ」

「で、ですが…」

「いいから」

「は、はい…アリシア…さん」


 やはり抵抗がある。

 そもそも王女様と話すとか…


「ってすみません!!アリシア様!!」


 つい、さん、付けで呼んでしまった。

 やってしまった。そんな気持ちに駆られていると。


「別に『さん』でいいよ。そんなに気にしないで」

「は、はいぃ!!」


 ことあるごとに表情をコロコロと変え、時にはパニック状態に、時には緊張しい面持ちに。

 そんなイルファルドだったから零れたのだろう。


 アリシア様は小さく微笑んだ。


「~~~~~っ!!」


 一瞬、視線を奪われ、気が付いた時。


 全身は赤熱を帯び、かぁああああっ!!と音を立て、顔を真っ赤にした。


「まるで…」


 アリシアはそこまで言葉に出し、最後のところで止めた。


「…?」

「…」


 何を言おうとしたのか聞いてもいいのだろうか?

 だが僕とアリシアさんの沈黙はしばらく続いた。


 互いに硬直したのだ。


「ねぇ君…」


 均衡を破ったのはアリシア。


「さっきはごめんなさい。私の責任です」

「そ、そんな!!アリシアさんは何も…」

「ううん。私の責任。纏める能力がないからこうなってしまった。だから」


 アリシアさんは腰を折り、僕に謝罪した。


 とんでもない状況だ。

 僕がアリシアさんに謝られるなんて。


「目ざわりかもしれないけど…ただこれだけ…」


 そう言って差し出してきたのは一枚のチラシ。


「さっき興味を持っていたようだったから」

「これは…」


 そこには【グラン・コンバット】と大きく書かれている。


「さっき話していた闘技場でやる、親善試合。そのチラシ」


 開催は一週間後。

 予選を含めたら全7日に及ぶ超ビッグイベント。


「それじゃあ。私は行くね」

「はい!!ありがとうございました!!」


 今思えばかなり凄い一日だったのかもしれない。


 沢山の騎士を目の前にし王女様もこの目で見た。

 激動の一日だ。


「なんだか疲れたな…」


 ようやく興奮が収まったのか突如、眠気が押し寄せた。


「ねぇ。カイン」

「なんだ?」

「あれ忘れてるよね」

「…」


 絶対に忘れている。

 夕食の約束を。


「おい!!イルファ!!もうそろ時間だ!!闘技場へ行くぞ」

「カ、カインさん!?」

「今の今まで食事の約束を忘れてたろ」

「あ、あはは…」


 先程食べた【とんかつ】で空腹を忘れていた。

 いや、それ以上に起こった出来事が麻痺させていた。


「ガーク隊長に俺もイラっと来たんだ。食べるぞ!!」

「はい!!」


 今一日が終わった。


 これがグランゼッタの初日。

 そして、新たなスタートの始まりだ。


────────────────────────────────────


 幾人もの人達がせっせと祭りの準備を進める。


 ある者は設備の調整。ある者は商品の仕入れ。ある者は掃除。


 それぞれがそれぞれの気持ちを胸に【壮闘祭】を見据える。

 開催は四日後。


 観光客も増え出し、賑わいだす。


「なーアニキ」

「ん?」

「金が入ったらどこ行くよ」


 ただの民家のベランダ。

 2人の男が酒を片手に晩酌を楽しんでいる。


「傭兵にでもなってドラグマ大陸に移住だろ」

「えー!!せっかく稼いだ金を旅費に費やすのかよー」

「阿呆。考えてみろ。確かに大金は入る。でも一生暮らしていける程ではない」


 麦酒(エール)を飲み干し、落花生を口に運ぶ『アニキ』と呼ばれる男。


「あっちで傭兵に成れば…」

「成り上がれるって訳ね」


 日夜闘争を繰り返し、数多の戦士が血を流す。

 それがドラグマ大陸。


 モンスターにおいて最強の種族。【竜種】。

 その七割がドラグマ大陸に生息し、故に最も危険な大陸と呼ばれている。


 キャラクタル大陸、及び【メルティシア王国】ではドラグマ大陸への渡航を禁止、近年の停戦状態もあり、もしも向かうのならば海人大陸を経由しなければならない。


「今回はとんでもないビッグスポンサー。その為に…」


 空になったジョッキと既に何も置かれていない皿を、ベランダから落とす。


 パリィン、と陶器が割れる甲高い音。


 部屋に戻り、男達が見据える二つの影。


「うぅっ!!!んッッ!!」

「もっと頑張らないとな」


 口を縄で縛り付け、四肢を釘で縫い付けてられている夫婦。


「ご馳走様でした」

「良い酒とおつまみでしたよ」


────────────────────────────────────


 繁華街の賑わいが嘘かのように静かな住宅街。


 既に定年を迎え、優しい夫婦だったと近所の方々は言った。


 近頃、グランゼッタで増え続ける行方不明者。


 きっとこの時には大きな渦が出来ていたのだろう。


────────────────────────────────────


 次回 ギルド


────────────────────────────────────



 最後まで読んでいただきありがとうございます。


 今回の世界観解説はありません。


 昨日出した『成長記録 Ⅰ』の際に今晩に出すと言っていましたが、とんでもなく遅くなった…

 申し訳ございません。


 もう少し時間管理をできるようにします。


 次回も同じペースです。

 それと来週末は、私自身の事情で本編の投稿が出来なくなるかもしれません。

 その際は、キャラクター解説、もしくはいつもより多めの世界観解説になるかもしれません。


 ご了承の程よろしくお願いします。


 今回も誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。


 ブックマークやフォローなどとても励みになります。


 何卒!!


 それではまた!!


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