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神無き世界  作者: ヤング丸
第一章 広がる世界
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第一章 第三十話 グランゼッタⅡ


「はい。これ君の」


 そう言って目の前の彼女に差し出してきたのは、僕の注文した【とんかつ】。


 受け取ると紙袋の中からは、湯気は上がっており、ソースと食欲を刺激する揚げ物の香りが鼻に届く。


「すみません。ぼーっとしちゃって」

「全然いいよ。ただ後ろのお客さんが待ってるから行こう」

「は、はい!!」


 僕は先程感じた感覚に目を背け、列を出る。


「さっきはありがとうございました!!」


 態々、僕の商品を受け取り、心配してくれたのか声までかけてくれた。

 ならばお礼を言うのが筋であり、当たり前だ。


 すると彼女は、とんかつを頬張りながらこちらへ振り向く。


「気にしないで。あとそれ…」


 指を指したのは僕の手元。


「熱々の方がおいしいから。味わって食べてくれるならそれで十分」


 再び頬張りながら「んふー」声を上げる。


 注文時に「好物」だと言っていたな。

 幸せを感じ取れる、満面の笑みを浮かべているのが何よりの証明。


[それにしても綺麗な人だ]


 凛々しさを醸し出す綺麗な顔にとても澄んだ髪色。

 スラっとした手足にスタイルも抜群。まるで被写体(モデル)


 もっと言えば()()のようだった。


「いただきます」


 僕は彼女の事を横目に袋の中から【とんかつ】を取り出し、口へ運んだ。


「美味しい」


 彼女がここまで夢中になるのも分かる気がする。


 程よく乗った油と口に入れた瞬間に解ける衣。

 肉の旨味を消さないように調整されているであろうソース。


 互いが互いを生かしている。


 ちょうど小腹の空いている僕には、ペロッと完食できそうだ。


「そういえば君、もしかして冒険者?」

「え?」

「武器を携帯してるからもしかしたら…って思って」

「あーなるほど」


 そういえばグランゼッタへ入った際、【フィア・ブリンガー】は荷車に預けたが、護身用として後腰部に【フィア・ナイフ】を装備していた。


 でもいつ気づいたんだ。

 ナイフ自体は、上着のシャツで隠れているし、外から分かる程大きくもない。


「良い武器だね。良く手入れされて、使い手の君を守っている。勿論、逆もそうだけど」


 風のように優しく、水のように不透明な笑顔。


 無機質さを感じるその表情を見た僕は、言葉が奪われたように声を発することができない。


「なら君も【グラン・コンバット】に出るの?」

「【グラン・コンバット】?」

「うん。一年に一度のグランゼッタのお祭り【壮闘祭】。そのメインイベント」


 現在グランゼッタを大いに盛り上げている要因となる【壮闘祭】。


「参加資格は特になし。相手を気絶、もしくは戦闘不能にしたら勝ち。あくまで試合。殺しは禁止だし、景品もある」

「そんなのが…」

「興味はありそうな顔だね。出場を考えてみたら」


 僕が出たところで、良い結果を残せないのは、目に見えているが少し興味がある。

 冒険者や戦士、魔法使いなどが集まるという事は自分の成長に繋がるのではないか。

 そんな人達と戦えたら、どれだけ新しい見識を手に入れられるのか。


「ご馳走様。美味しかった」


 すると彼女は、【とんかつ】食べ終わり袋を畳む。


 時刻はまだ待ち合わせ時間の約40分前。


 成り行きとはいえ、そこそこの時間を過ごしたな。


「あのお名前…」


 イルファルドは言葉と足を止めた。


[今のって…]


 街のどこかで感じた。

 人の気配。


「…!!」

「ちょっ…!!」


 次の瞬間、横で紙袋を畳んでいた彼女は、街中へと飛び出していく。


 何があった?

 なぜ走り出した?


 しかしその直後。


「きゃああああああっっっ!!!」


 目の前のメインストリートから女性の悲鳴が聞こえた。

 声の大きさ的に決して遠いわけではないが、視認することはできない。


 この時間でも人が多いグランゼッタでは、当たり前なのだが、人口の多さが視界を殺している。


「くっ!!」


 今はとにかく音を頼りに走れ。


 人混みから漏れ出る、正しい情報を頼りにそこへ飛びこめ。

 周りに人達から零れる言葉の数々。


 そのほとんどは悲鳴に直接関係している物ではない。


「なんだ今の?」

「事件かしら」

 

 直接、現場を確認したわけではない憶測の声。

 悲鳴という情報から差し出される、妄想。


「刃物を振り回してやがる」


 僕の真横。

 暗い街道を背中に立っていたコートの人物。


 周りの音が掻き消え、たった一人の言葉のみが届く。


「あの店員さん…危ないよな」


 情報の真偽は関係ない。

 もしもそうなのだとしたら一刻も早く、辿り着かないと危ない。


「っ!!」


 進むごとに人は増え、より一層重々しい空気が漂ってくる。

 街の人達の情報は一つに収束し、現場を見た人も増え続ける。


『酒屋で人質事件』


 そして、ようやく辿り着く。


「誰かぁ!!だれかぁあああっ!!!」

「うるせえ!!騒ぐな!!」


 現場は騒然。


 鬼気迫る犯人は今にも、その手に持つ包丁を振り下ろしそうな雰囲気。

 とても正気の沙汰ではない。


 それにどこか様子も変だ。

 目の焦点が合わない。

 まるで酔っぱらっているよう。


「くっ!!」


 仮にここで飛び出しても刃が先に人質に届いてしまう。

 何か、犯人の目を掻い潜る方法は無いか?


 衛兵が来るまで、あと何分ある。

 それまで無事なのか?


「助け…て…おねがぃ…」


 弱弱しく泣く女性の人質。

 声が震え、正気を保つのが精一杯。


 このままではダメだ。


 衛兵を待っていては間に合わない。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 とうとう動き始め、正気を保つどころか、獣のように暴走し始めた。


「おい!!キミ!!!」

「何やってんだ!!あのガキ!!」


 たった一人。


 僕は犯人の元へ走っていた。

 その時は何も考えておらず、自分勝手な行動。


 目の前の光景を変える為だけに、足が身体が前へと出ていたんだ。


「っ!!」


 走り出したところで何ができる。

 既に犯人はこちらの存在を認識し、刃を振るう事に迷いが無い。


「くそっ!!」


 ダメだ。

 間に合わない。


 身体強化をしても先に刃が届く。

 碌に考えがないまま前へ出て、何もできない。


 きっとある者は大馬鹿だと言うのだろう。

 自分自身を危険に身を晒しているのだから。


 きっとある者は無謀な愚者と大いに蔑む(さげすむ)だろう。

 愚かな行為が人質を傷つけるのだから。


 だがここで動かないでどうして助けられる。

 ここで走り出さないでどうして明日も笑っていられる。


 後悔はしたくない。


 それはただの勇者や英雄になぞらえた願望なのかもしれない。

 でも…


「助ける!!」


 手段は一つ。

 腰に携えている【フィア・ナイフ】での飛び道具攻撃しかない。


「下がって」


 鞘から【フィア・ナイフ】を抜いた時。

 建物の上空から銀色の光が飛び込み、息をつく間もなく犯人の武装を解除した。


 あまりの速さに僕では視認すら許されず、まさに神速、神業。


「そこまでです」


 首元に剣を突き付け、冷静に告げた。


「あの人…さっきの…!!」


 つい数分前まで一緒に居た、あの女性。


 【とんかつ】を頬張っていた時の柔らかさは消え、今は剣のように鋭い。


[まさに剣のそのものだ]


「大人しく投降してください。そしたら…」

「!!」


 既に賽は投げられ、結果、犯行は失敗に終わった。

 何をしても遅い。

 なのに。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 正気を失った犯人は、恐怖な無いように襲い掛かった。


 狙いは間違いなく銀髪の彼女だ。


 このままでは危ない。


 なのに…


[何故、彼女は動かない…?]


 あの状態じゃ何が起こっても不思議じゃない。


「止めないとッ!!」


 今度こそ間に合う。


 この場所なら届く。

 そう思っていた時。


『【アリュメイル・フォルド】』


 犯人の男から、バキッ、と音がなった。


 鈍い痛々しい音。


「があ゛あ゛あ゛あ゛」


 両足が不自然に曲がり、折り畳まれ、あの音は骨が軋み、折れる際のものだ。


 だとしたら何があった。また何も見えなかった。


「まさか…」

「!!」


 人混みが妙に騒がしい。

 何が来た。一体何が起こっている。


「折る気は無かったんだが…まさか無理やり動かすとは」


 人を掻き分け、その一団が姿を現す。


「狂人ですね」


 それぞれが防具に身を包み、武器を携え、エンブレムが刻まれている。


 剣と泉の紋章。

 それは初めて見るエンブレムではない。

 ハクア村から見てきた…彼らの…


「あれ…イルファ。何でここに」

「カインさん…!!」


 そうだ。【プランセル・オーダー】その本隊だ。


 数は30名以上。

 この事件を止めに来たのなら、はっきり言って超過戦力(オーバーパワー)


「1人での独断行動。いい加減にやめてください」


 するとライトアーマーに身を包んだ男性が、犯行現場へ歩いてきた。


「万が一の事があっては困ります。少しは自重してください」

「ごめんガーク。でもどうしても食べたくなって」

「謝るのなら私以外にも…」


 頭を抱え、呆れているのが分かる。

 一体どんな関係が。


 そこでふと思い出した。


 ハクア村に作られていた像。


「帰りますよ。アリシア様」

「!!!」


 何故、思い出せなかった。

 あの像まんまだ。


[てか似すぎてるくらいだよ!!]


 シェルさんの造形技術には、天晴という他ない。


「まさかアリシア様と同じ現場に居たとは」

「カインさん。あの人が」

「あぁ。あの方が【メルティシア王国】の王女であり【煌剣】の二つ名を持つ…」


 ハクア村の方々から教えてもらった、その二つ名の所以。


 絶えることのない斬撃は光の如く、素早く鋭く、星のように煌き続ける。

 未だ18歳ながら【聖域】の魔力を持つ。


「主君、アリシア・ペンドラム様だ」


────────────────────────────────────


「作戦通りですね」

「あぁ」


 それは少し遠くから見つめていたアリシア達を見つめていた男達。

 暗い街道でコート裾を揺らし、見ていた。


「まぁ楽しみにしているよ」


────────────────────────────────────


 次回 ギルド


────────────────────────────────────



 【二つ名】


 世間に名の知れた人物に着けられる名誉ある名称。


 簡単に言えばそれだけ有名と言う証拠にもなる。

 アリシアの【煌剣】という二つ名は、デビュー戦の戦いぶりからつけられている。


────────────────────────────────────


 あとがき


 最後まで読んで頂きありがとうございます。

 今回は文字数が少ない+誤字脱字も多かったかもしれません。


 申し訳ない…

 次回の投稿も今回と同じペースになると思いますので、どうかよろしくお願いします。


 また誤字、脱字など気兼ねなくご報告ください。


 ブックマークやフォローなどとても励みになります。


 何卒!!


 それではまた!!


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