第一章 第二十七話 Beautiful World
馬の蹄が地面を叩き、馬車に搭載されている魔導エンジンから排気音が漏れる。
「暑い…」
「あはは…」
あまりに鋭い日差しは、アイスが熱で解けるようにヴェイエさんをぐったりとさせていた。
そんなヴェイエさんの言葉に自分も同意見だ、と言うようにマキアも「ヒィィン…」と弱弱しく鳴いている。
ハクア村を出発してから1週間。
現在僕達はグランゼッタへの護送で最大の山場になるであろう、ロムレス山脈に居た。
木々は少なく、地形もガタガタ。
ほとんどが岩で構成されているという、モンスターよりも地形そのものが脅威。
強制的に馬から降りさせられ、己が足で進まなければならない。
ロムレス山脈までグリガ達を頼っていたのもあってスピードダウンは明らか。
今も手綱を握り、横へ連れているグリガも走れないからか退屈そうにしていた。
「行ったぞ!!」
すると前方から聞こえたカインの声。
彼の視線はイルファルド達、護送隊の後方へ向けられていた。
「僕が行きます!!」
グリガの手綱を離し、僕が前衛。ヴェイエさんが後衛の状態を作り出す。
「ゴレイルが2匹…!!」
物質系モンスター、怪物等級E。
人のように二足で立ち、不格好な腕で木の枝などを掴む為、岩の幽霊という二つ名がある程。
同じ物質系モンスターである、ゴーレムの劣等種などと世間では言われるが、ポテンシャルはEの中でも高水準。
元々物質系という事もあり、魔法耐性を持つ種族であり、その中でも特に火に対し強い耐性がある。
つまりヴェイエさんの得意属性が通りづらい。
「アシストを!!」
『【テラ】』
言葉を待っていたと言わんばかりにヴェイエさんは杖を引き抜き、貯めた魔力を開放した。
魔法の完成と共に目の前には柱が現れる。
大きさは僕の身体をちょうど隠す程度のたった一本の柱。
[それぞれ左右に一匹…]
僕の視界も制限され、視界の端でしかゴレイルを視認できない。
しかしそれは逆もまたしかり。
両者、見えないながらに心理的には、敵の位置が分かる状況。
そうなれば。
[先制攻撃を仕掛けた側に天秤は傾く…!!]
「フッ!!」
狙ったのは自分から見て、右の個体。
そしてその個体の足。
いくら防御力の高い、物質系と言えど関節は弱点。
もしも他の場所のように強固ならば、運動性能に問題が出て、歩くどころではないからだ。
「入った…!!」
キィン!!
文字通りの岩肌へ向け、振るった【フィア・ブリンガー】は、ダメージの可視化とも言ってもいい罅を入れた。
だがそれは決して大きなダメージではなく、未だに体制を崩そうとはしなかった。
どころかこちらを攻撃範囲に捉えた、と言わんばかりに右腕で大きく振りかぶり、カウンターを仕掛けてくる始末。
僕が受けるダメージは相当な物だ。
なのにも関わらず、未だに回避行動や防御も取ろうとしない。
まるで何かを待つようにじっと留まるだけ。
『ルオォッ!!』
雄叫びを上げ、腕を振りかぶる次の瞬間、目にも止まらない何かが動作を妨害する。
瞬く間に消える魔力。
認識を許さない輝き。
【ゴレイル】は事象を理解できない。
『【リュミエール】』
ようやく単語が戦場に届いた時、何発もの光弾が【ゴレイル】の腕を目掛け発射される。
しかし魔力に強い身体はそれでも壊れようとはしない。
寧ろ、その邪魔ごと押しのけようとする。
されど目的は十分果たした。
攻撃のタイミングをずらし、十分な溜を作る為の一瞬を。
「もういいでしょ」
「はい。決めます…!!」
この中で誰よりも前線へ居たイルファルド。
彼は準備を終えた。
十分に狙い、魔力を巡らせる。
[ハクア村の早朝訓練。そこで学んだ身体強化の使い方]
『魔力の使い方が単一の点だとするならば、それを長く使い一本の線を引く』
今までのイルファルドはその都度、魔力を使用し、不必要になったら捨て、また新しく魔力の炉へ籠める。
しかしそれでは燃費は悪く、負担も上がる。
「行きます…!!」
準備を終え、放たれたイルファルドの剣閃は、まず初めにゴレイルの腕を砕いた。
今までならこれで終わり。
追撃を仕掛けようにもワンテンポ遅れ、敵に隙を晒す。
だが今は違う。
斬り上げから始まった斬撃は姿勢を変え、既に次の準備を終えている。
『長く、効率的に魔力を使うんだ』
ならばどうするのか。
[身体の重心を移動させるように残っている魔力を別の部位へ移動させ、再利用する…!!]
あの特訓で身に着けた魔力の再利用と移動。
腕に込めた魔力を今度は全身に拡散させ、斬り上げの勢いを殺す。
そうしたらまた腕へ魔力を戻し、次に繋ぐ。
元よりあの訓練は魔力を伸ばすという観点もあったが、イルファルドの場合それ以前。
生まれつき魔力量が少ないという事も相まって、細かい調整ができていなかった。
だから全て全力全開。
それでは負荷が大きすぎる。
「ッ…!!特訓の成果が出たな…!!!」
カインが戦線に到着し、前衛2枚、後衛1枚。
布陣は盤石と化した。
「はっ!!」
一撃目とほとんど変わらない縦斬りが【ゴレイル】の胴体を切断する。
だが止めの一撃には至らない。
天秤は元に戻る…訳が無い。
元より始めの二発は魔臓を狙っていない。
あくまで力を削ぐだけ。
[あの特訓での学びを生かせ…!!]
最後に構えたのは、魔臓を射抜く突きの姿勢。
単一だった点は繋がり線となった。技は連撃へと昇華する。
「はあああああっっ!!!」
身体に残った魔力を全て利用し、全力の突き技を放つ。
結果【フィア・ブリンガー】は鎧のような岩肌を貫通し、魔臓を破壊した。
アーツ名【ユニオン・リネア】。
これがイルファルドにとって、初めての連撃技となる。
「ッッ…!!勝てたのはいいけど…まだ反動が…!!」
全ての行動を終えた後、全身が針に刺されたような鋭い痛みが走る。
原因は魔力の移動による血管や筋線維の痙攣。
立っているのもままならない。
「魔力消費はずっと少ないや…泣きそうなくらい痛いけど」
「まだ来るよ!!」
ヴェイエのお叱りは敵の増援に対し向けられていた。
数は更に4体。
「次!!身体を起せ!!」
「はい…!!」
既にもう一体の【ゴレイル】を討伐し、走り出している。
一歩前に進んだからってまだまだお荷物。
「負けてられない」
天空大陸に帰ったら今度こそセシルと決着をつける。
それまでに強くなる。
「アシスト、お願いします!!」
「なら走って、暴れて来て。期待してる…!!」
初めて見る景色に新たな一歩、新たな経験。
それらに胸を躍らせながらこの日も歩みを進めた。
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魔力の障壁が空を覆い、外敵から身を護る。
「ヴェイエさんの魔法…凄い便利だな」
僕は不思議と眠れずにいた。
なにが原因かさっぱり分からない。
この旅だって慣れてきた矢先にこれだ。
「もう残り半分か」
空を眺め、無数に広がる星々観察しながら呟いた。
青い光や赤い光、空を駆ける流星。ここはその全てがよく見える。
だからなのかとても落ち着いていた。
「綺麗だね」
「すみません。起こしてしまって」
「大丈夫。気にしないで。ただ目が覚めただけだから」
馬車のドアを開け、外へ出てきたヴェイエさん。
彼女は目を擦りながら僕と同じく空へ視線を向けた。
ヴェイエさんは僕の座る横の岩に「失礼するね」と言いながら腰を下ろす。
「どうだった、この一週間は?」
膝に手を付き、その手で頬杖をしながら問いかけた。
落ち着いた声で呟くように静かな声で。
「楽しかったです」
迷うまでもない即答。
「特別初めて見るような景色は、正直に言うとまだないです」
森に川。山や生態系の動物、モンスター。
天空大陸でも見たことのある、森ならば当たり前の景色。
きっと冒険者志望でクラスⅠにも何度も足を運んだというのもあるのだろう。
「でも得られる経験は、細かな自然の特徴が違っていた」
モンスターの種類が違ければ、樹木や花の品種だって実は目新しい物ばかり。
「この景色だってそうです。天空大陸の空とは違う」
星の輝きから星座に至るまで違いがあり、全く別の空。
「ならその気持ちを忘れず、失わないように今日はもう休もう。寝れなくても布団に付く!!それがいいよ」
「はは。そうですね。あまり外に居すぎても逆に眠れなくなりそうですし」
冗談交じりに諭すように眠りに誘導された。
だがその言葉は一理ある。ここは怪物の領域で仮にも山脈という危険地帯。
もしかしたら体力を回復するように、諭すのが目的だったのかもしれない。
「全く世話焼きだな」
それは1人物陰に隠れ、イルファルド達を見守っていたカイン。
『おい。どこへ行くんだ?』
『っ!!』
外へ出る前、ヴェイエの動きに目を覚まし、一度呼び止めていた。
その際には珍しく身体を、ビクッ、と揺らし驚きを隠しきれていない様子を纏い、直後「シー!!!」と人差し指を口に当て、訴えかけてくるほど。
「良い仲間が居てよかったな。イルファ」
『カイン。少し不可解な事が…』
独り言を呟きながら、査定の日の夜、カルミリアの言葉を思い出す。
『【アセスメント】を使った際に一つ。あのヴェイエという人物から…』
唯一魔法に引っ掛かったヴェイエの歪み、そして異質さ。
本人に事情を聴いた訳でもないが、もしもその通りだとしても説明がつかない。
そのような事が可能な魔法やアイテムなんて、この神時代以降1000年。一度も文献には記されず、聞いたことすらない。
魔法の効果だけならば、王域に相当する。
「信用はしているが…警戒は…必要か」
馬車へ戻ってくるイルファルド達に気づかれないよう、物音と気配を限界まで消しその日を終える。
そして、夜が明けた。
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「まだ来るぞ!!」
前日に引き続き、モンスターとの連戦。
カルミリアは最も後方から弓を撃ち「がんばれー」と声をかける光景。
[ようやくロムレス山脈も折り返し。でも…]
「遭遇数が桁違いすぎる…!!」
怪物等級こそF~Eとそこまで高くはないが、等級の低さをカバーする頭数。
時刻は今だ昼頃だというのに、朝から現在までで総遭遇18回。
出現モンスター数93体。
今に至ってはモンスターの大群に当たり、30体近く存在していた。
「中々、数が減らない!!」
冒険者試験のように自分から探している状況と大きく違い、なるべく戦闘を避けて立ち回っているのにこれだ。
【グランゼッタ】への道のりで、最大の難所と言われるだけの所以はある。
『【ホーンヘイム】』
空を舞う魔獣系をヴェイエが撃ち落とし、
「はあああああっ!!」
地上のモンスターをイルファルド達が殲滅する。
前衛のカイン、中衛のイルファルド、後衛のヴェイエ。
三人体制を崩さず、後衛には絶対に到達させない。
要するに中衛のイルファルドは最後の砦。
[カインさんが数を減らしてくれているのに…!!]
討伐速度の差が大きく出た。
力量と経験の違いを明確に表し、中衛の脆さが明るみになる。
「走ってください!!今なら抜けれます!!」
馬車から俯瞰的に見れるカルミリアが支持を出した。
方角は北東。
そこへ隙間ができた。
「それぞれ騎乗し、一気に走り抜けます!!」
馬車や荷車を中心に4人がそれぞれ展開する。
イルファルド自体、騎馬での戦闘は経験無しだがこうなれば倒す必要はない。
牽制し、往なすだけで十分。
「皆さん!!先に行ってください!!!」
闘争をより確実にするべく、僕は一気に後方へと躍り出た。
『【ラウンズ・オブ・トゥエルブ】』
詠唱の開始と共に出現し、イルファルドの周りを漂う、藍色の宝珠。
魔法にだけ意識を集中させ紡ぐ。
『並びて十二 優劣はあらず 円卓に集いし 勇たる者よ 汝らに力の加護を求める』
詠唱は完成し、宝珠に光が灯される。
『【テラ】』
『【第十二席】』
ほぼ同時にヴェイエは後方へ向け、いくつかの地形操作を行った。
壁や落とし穴、段差など大小様々な変化。
イルファルドの煙は自分を中心にその全てを包む。
「今の内に!!」
自分の煙から出たイルファは精一杯叫んだ。
「前に居る奴らは俺に任せろ!!」
ここは高所で風が強い為、煙が直ぐに晴れてしまう。
猶予は短い。
だからこそ足止めできる時間を僅かでも増やす為、ヴェイエは魔法を重ねた。
「随分と酷い音がするわね」
後方の群れから、混乱したモンスターの鳴き声と壁や同族にぶつかる、衝撃音が聞こえる。
効果覿面のようだ。
「皆!!間もなく見晴らしの良い、頂上付近です!!足場には気を付けてください!!」
パーティーの前方に居たカルミリアさんが最初に認識したこの先の地形。
山の頂上。
モンスターを振り払い、全員が頂上へと駆け上る。
そして、心地の良い風が髪を揺らした。
「へーこんな景色のいいところあったんだな」
カインさんは両手剣を肩へ担ぎ、感嘆の声を上げる。
海のような青い空と空中を泳ぐように飛翔する鳥やモンスター。
いくつも分岐し、枝のような川と泉と暖かく包んでいるような森の木々。
一際存在感を放つ、ロムレス山脈に雲まで届く山々。
その全てが瞳に映り、優しい刺激を加えているよう。
「世界って美しいですね」
頭で考えるよりも先に言葉に出ていた。
これが冒険者の見る景色なのだ。
「想像以上です…!!」
感動で目を輝かすイルファルドにヴェイエは笑みを浮かべ、一緒に見据える。
「感動してる時に申し訳ないのだけれど…」
するといち早く現実に戻ったカルミリアが明後日方向を指差す。
「モンスターが来てる…」
せっかくの感動に水を差してしまい、申し訳なさが一杯だがそうも言ってられないモンスターの群れがそこに居た。
「モンスター達もここで休ませてくれよ…」
「まさに自然らしいわね」
「一応ここ…危険領域ですしね」
カインが文句を垂れ、ヴェイエがモンスターに呆れながら相槌を打ち、イルファルドが現実を噛みしめるようにぼやく。
「どうするの」
「うーんここはカルミリアに…」
「なら感動していたイルファルドに」
「え!?なんで僕!?」
まさかの指示を仰がれたイルファルド。
経験豊富なカイン達が仕切ると思っていたが、不意のキラーパス!!
「えっと…」
腕を組み、皆の顔を見た。
「それなら…」
ここはほとんど崖。
風も強い。
もっとしっかり記憶に焼き付けておきたいが、これからも美しい景色も新たな世界を見れる。
「逃げましょう!!」
「「「了解!!」」」
世界の【美しい】に触れて感じた感情を僕は、一生忘れることは無い。
想像上の物とはスケールも輝きも違う、衝撃。
これが旅であり、冒険なんだと。世界に教わったようだった。
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次回 夜の闇で男は笑う
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は急遽時間が取れなくなり、世界観解説や誤字脱字が多かったと思います。
申し訳ありません。
是非とも誤字脱字など報告していただけると幸いです。
ブックマークやフォローなどとても励みになりますのでお待ちしております。
それでは失礼します。




