表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

8話 ガセナール商国連邦 2



人、人、人。


其処は人で溢れかえっていた。


かつて同盟軍の旗を掲げた輜重隊が往来していた大通りには、商隊(キャラバン)や行商人達が溢れかえっている。それは宛ら人の波。人の川。人の濁流。

その濁流の脇には露店が並び、店主が道行く人々に声を投げ掛け利益を出そうと躍起になっている。


多くの人々が行き交う商人の国。

物流の中心地ガセナール商国連邦。


俺達は暫くガセナール商国連邦に滞在するにあたり当面の生活費等を工面する為、ガセナール商国連邦の大通りに来ていた。

東西南北を貫く大通りはガセナール商国連邦の繁栄を象徴する様に、商人達の活力と活気で満ち溢れている。数年程前まで魔王軍と戦う同盟軍へ提供する武具や糧秣の一大生産地だったガセナール商国連邦。

しかし今ではその面影はない。


魔王アスラゴートが討伐されて1年。人類は無常の風の恐怖から解放され、生を謳歌していた。


「……いざ蘇ってみると此奴ら全員不幸になれとは思うが、殺気は思ってた程湧かねぇな…… 復讐の優先度の問題か」


そんな喧騒を横目に呟く。


アルギリア王国の国民共は磔にされた俺を指さし、声高らかに殺せ殺せと叫んでいた。が、彼奴等は所詮アンリエッタ達の掌の上で転がされる駒。あの瞬間まで殆ど関わりがなかった有象無象の存在。

その有象無象より更に関わりのないガセナール商国連邦の奴等には殺気の湧きようがない。

それでもこの地に隕石が落ちて皆死ねばいいのに位には感じるが、所詮その程度。

復讐にかけるリソースが違うのだ。こんな有象無象をどれだけ殺しても爽快感は、復讐の達成感は得られないだろう。


俺の心に疼くこの闇は、最も憎い彼奴等を殺した時初めて和らぐ。初めて癒される。


この場に居る奴等を殺すのは容易だろう。だが此処でこの有象無象を殺せば、俺の心に殺人を楽しむという不純物が混じりそうな気がした。俺には復讐という目的がある。復讐という動機がある。


この目的、動機があるから、恨みを晴らしたい奴等が居るから俺は其奴等を殺す。ただ殺す事自体が目的になり人を殺すようになれば、俺は人間らしさを失った化け物になる気がする。微かに残った人間性が無くなりそうな気がする。



あの野盗共を殺した時点で、俺は既に『普通の人間』ではなくなったが、それでも俺は最後の最後まで『人間』でありたい。人間性を持った人でありたいのだ。


あえて別の理由を付け加えるなら、彼奴等を苦しめて痛めつけて苦痛の海に沈める為にはある意味で人間性が必要だから。


人間は残酷な生き物だ。人間は知性と理性をもって相手に苦しみを与える術に長けている。どうすれば苦痛を与える事が出来るか。何をすれば絶望してくれるか。それを考える事が出来るのは人間が本来持つ残忍さ。知性、理性だ。


俺の復讐は、この殺意は、僅かに残っている人間性は、知性は、理性は、心は、彼奴等に向けるモノだ。


その為には心が余計な感情を抱くのは避けたい。俺は純粋に復讐を楽しみたいのであって、殺し自体を楽しみたい訳ではない。殺すのは結果そうなるのであって、殺す事自体が目的ではない。

俺は心の底から憎い奴等がもがき苦しむ姿が見たいのだ。徹底追尾、俺が復讐の為に生きるには心に不純物は必要ない。


だから此奴等はひとまず、俺に害をなさなければ生かしておいてやろう。


「だ、旦那。着きました」

「ん、おう」


などと頭の片隅で考えつつ、すれ違う奴等に死ねと念を送りながらボンヤリと眺めていた俺へ、馬車の手綱を握る頭が声を掛ける。

生前何度かこの地を訪れた事がある俺は、頭にある場所へ向かう様に指示を出していた。馬車は【ガセナール商店】と看板が掲げられた煉瓦造りの建物の前に停まった。


此処はかつての仲間であったファブロがよく利用していたらしい。様々な素材を買い取ってくれる店。4大商人が総支配人を務めている店だと以前ファブロが言っていた。俺は実際に利用した事はないが、思い付いた計画の一環で、俺はこの店で金を得る事にした。



▼▼▼▼▼▼▼



「ようこそガセナール商店へ!本日のご用件はお買取でしょうか? ご購入でしょうか?」

「りょ、両方です。よろしいですか?」

「はい、喜んで!」

「あ、ありがとうございます!では、まず素材の買取からお願いします」


瀟洒な佇まいのガセナール商店店内に入ると、活発な雰囲気の女性店員さんが私に貼り付けた様な笑顔を私に向けて来た。

今頃ライ様は馬車の荷台に身を隠しつつ、荷屋根の隙間から店内に入った私の背中を見つめているだろう。

私は胸元の宝珠を隠す赤いケープを指先で軽く撫でて、はやる気持ちを堪えながら女性の店員さんに目線を向ける。


ライ様は第2の魔王としてガセナール商国連邦にも顔が知られている可能性を考慮し、永い間地の底に籠り生きていた私に、人間達に顔が知られていない私に冥府(ヘレ)周辺で狩った獣の素材を売ってくる様にと仰り、同時にいくつか指示を言い渡されていた。


戦闘が得意ではない私はこういった事でしかライ様の力になれない。


でも、私は少しで良いからライ様の力になりたかった。


見ていてくださいライ様。私、立派に勤めを果たして御覧に入れます!


「かしこまりました! 当店でお買取りを希望されるお品物はどちらになりますか?」

「えっと、コレとコレとコレと……」

「お、お客様?」


営業スマイルを浮かべ快く素材を購入をすると告げた店員さん。私はホッと一息つくと、ライ様の言いつけ通りに『恒久の革袋』から様々な素材を引っ張り出す。

受付の机にはあっという間に素材の山が出来上がった。その山を見て、店員さんの顔がやや引き攣る。


これ程の量とは予想していなかった様だ。


「取り敢えずはコレの買取をお願いします」

「か、かしこまりました」

「おぉ! これ程の素材を当店にお持ちくださるとは!」


自身が予想した以上の素材の数に、店員さんは苦笑いを止める事が出来ずにいた。すると店の奥から出てきた恰幅のいい男性が、人懐っこい笑みを浮かべながら私に歩み寄って来る。この男性は店員さんに目配せして私に微笑みかけた。


「え、えっと……すみません、貴方は?」

「おっと、失礼いたしました。私、このガセナール商店の総支配人で4大商人のゴードンと申します。専門は麦の生産と卸売りですが、数年前から肥料や農機具の修理等に使える様々な素材の売買にも力を入れております。以後お見知り置きを」

「……! ご丁寧にありがとうございます。私の事はベルゼとお呼びください」

「かしこまりましたベルゼ様。改めまして、御来店誠にありがとうございます。本日は私がご対応させて頂きます」

「総支配人様自らが対応してくださるなんて光栄です。よ、よろしくお願いいたします」


恰幅のいい男性は自らをガセナール商店の総支配人だと自己紹介する。

総支配人の登場に私は驚きを隠せない。緊張がこもる目を見開いている自分に気付き、瞬時に作り笑いを浮かべた。


ライ様、どうやらライ様の予想通りの展開になりそうですよ。


私は心の中でライ様の仰っていた計画を思い出しならが、ゴードンと名乗った男性と握手を交わす。

総支配人の登場はライ様の予想通り。その後の手順も事前に指示されていた。あとはこの男性と友好な関係を築ければ。


私はライ様に向ける笑みを意識しながら総支配人ゴードンさんに作り笑いを向けた。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「お、お待たせしましたライ様ぁ…… はぁ、こんなに多くの人を見たのは初めてなので緊張しました……」

「ご苦労。それで、どうだった?」

「は、はい。ライ様の仰った通り希少な素材を山積みにしたら、総支配人で4大商人のゴードンという人が食い付いてきました。明日も来ると言ったら大変喜んでましたよ。あ、こちらが当面の生活資金になります」

「おう」


馬車がガセナール商店前に停まってから約1時間後。素材の販売を済ましたベルゼが漸く俺達の乗る馬車に戻ってきた。手には入店時には持っていなかった複数の麻袋や木箱を抱えている。

ベルゼはノソノソと荷台に登るとグッタリと床に腰を降ろす。


堕天して以来、初めて100人単位の人々の姿を見たベルゼはかなり緊張していたらしい。


ひとまず労を労った俺は店内であった事を聞きながら、素材を売り得た貨幣が入っている麻袋を受け取り『恒久の革袋』に収納する。


「ゴードンか、これで繋がりは出来た訳だ。それにしても流石商人。希少な獣の素材提供者にはがめついな」

魔法(スキル)を使う獣は数が少なくなっていますからね…… 価値が分かる商人故の性なのでしょう。ライ様の狙い通りですね」

「あぁ。何にせよ、問題なく接触出来たみてぇだな。明日は予定通り俺も同行しよう」

「かしこまりました。既にゴードンさんにはそう伝えてあります」

「気が効くな」

「そ、そうですか? えへへ」


褒められ頬を赤らめるベルゼの姿を横目に、俺は自身の思惑通りに事が運んでいる事を実感した。


俺がこの店を選んだのには、生活資金を稼ぐ以外にもう1つの理由があった。それは復讐の標的であるファブロと同じ地位に就く4大商人と繋がりを作る事。


ファブロを地獄の底に落とす為には、どうしてもこの繋がりが必要だった。しかし言うは易し行うは難し。


そこで俺はベルゼに魔法(スキル)を使う希少な動植物の骨や皮、枝等をワザと見せびらかす様に売って来いと指示を出していた。


こういう場合に備え、俺は冥府(ヘレ)で狩った獣達の素材を根こそぎ持って来ていたのだ。

魔法(スキル)を使う動植物の骨や皮には血肉にこそ及ばないが、代々受け継がれてきた魔力が宿っている。武器や防具は勿論、様々な物に流用出来る希少な素材を見せびらかす様に、かつつ大量に売ればがめつい商人なら必ず食い付く。


その思惑は見事的中し、俺は当面の生活資金を確保しつつ、同時にこの国で権力を持つ人物と1つ目の繋がりを作る事に成功した。贔屓目に見ても美少女なベルゼの外見のお陰で、余計な警戒心を抱かれなかった事も大きいだろう。


仮に奴隷となった厳つい頭を使いに出したら、相手は間違いなく不審に思っただろう。


整った外見はこんな時には役に立つ。ベルゼに任せて正解だった。


「所で、頼んでた2つ(・・)は?ガセナール商店にあったか?」

「あ、はい。此方になります。ガセナール商店にはライ様が望まれている物は取り扱っていなかったので、ゴードンさんが紹介してくださった近くのお店で購入して来ました」


そんな具合で店内での様子等を聞いた俺は、ベルゼに出していたもう1つの指示の成果を聞く。緊張から解放されたベルゼは小脇に抱えていた木箱と、金が入っていた麻袋とは別の、やや小ぶりな麻袋を差し出した。


「ほう、悪くない」

「気に入って頂けて何よりです」

「これで俺も大手を振って出歩けるな。こっちも問題なさそうだ」


差し出された木箱と小ぶりな麻袋を受け取り、まずは木箱の方を開ける。


木箱に入っていたのは仮面。

顔の上半分を覆う黒い仮面。


俺はベルゼに、もしガセナール商店や周辺の店に顔を隠せそうな仮面か、それに類する雑貨が有れば買ってくる様にとも指示を出していた。どうやらガセナール商店には仮面の類は無かったらしく、ベルゼはそういう雑貨を取り扱っている店が近くにないかゴードンとかいう総支配人に聞いたらしい。


何故俺が仮面を欲したか。


それは素性を隠す必要があった。


俺は第2の魔王の汚名を着せられ人類の敵として処刑された。 それから1年という月日が流れたが、第2の魔王という忌むべき名前は今なお人々の脳裏に焼き付いている。

一応アンリエッタを脅迫し復讐に関わるなと釘は指したが、第2の魔王の復活を察知してアンリエッタ以外の人物が無用な横槍を入れてくるとも限らない。


生前と同じ武具や魔法(スキル)の熟練度が有れば大抵の者を返り討ちにできる自信があるが、武具はともかくとして今の熟練度やレベルでは心許ない。


少なくとも生前と同じ力に戻るまでは……誰にも悟られず復讐する為には、己という存在自体を隠す必要があった。


その為の仮面。その為だけの仮面。


シンプルだが出来のいい仮面を付け、俺は口元を緩める。念の為小ぶりな麻袋の中身も確認したが、こちらにも俺が要求した通りの物が入っていた。これも別の店で購入したのだろう。


これで準備は完璧。初動に必要なモノは全て揃った。


「金に仮面、道具と奴隷も手に入れた。明日から本格的に動く」

「はい。ライ様を裏切った者に相応しい末路を」


事前に俺がこの国で行おうとしている計画の詳細を聞いているベルゼは朗らかな笑みを浮かべると、俺が付けた黒い仮面に手を伸ばし愛おしそうにそっと撫でた。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「こんにちは。ゴードン総支配人様はいらっしゃいますか?」

「おぉベルゼ様! お待ちしておりました」

「本日もお世話になります。なにぶんお売りしたい素材がまだまだあって……連日押し掛けてしまい申し訳ありません」

「いえいえ!お気になさらず!私はむしろ貴重な素材を買い取らせて頂いて感謝したいくらいですよ!して、其方の方ががベルゼ様の…… 主人様で?」

「えぇ。私の主人、ハデス様です」


明くる日。俺はガルドレが手配した宿で一夜を明かし、ベルゼを引き連れて前日訪れたガセナール商店に再度足を運んでいた。


ちなみにガルドレとは、俺達の身包みを剥ごうとした野盗の頭の事である。昨日俺はガセナール商店を離れた後、ガルドレに当面の拠点となる宿の手配もさせていた。

ちなみにガルドレは普段、ガセナール商国連邦から少し離れた森の中にファブロが用意した家屋で寝起きしているらしい。ファブロの指示とは言え、野盗行為に手を染めているのだから国内に住めないのは当然だな。


まぁ今はガルドレの事はどうでも良いか。


「……ハデスだ。よろしく頼む」

「は、はい。以後お見知り置きを、ハデス様」


冥府ヘレの本当の主である骸の王の所有物だった白い上着に細身の黒いズボンといった、街に紛れても違和感がない服を着た俺は、偽名を告げゴードンに微笑みかける。俺の姿を見たガセナール商店の総支配人ゴードンは、微かに眉間に皺を寄せて少し声を詰まらせた。


……もしかして、今の俺って怪しい奴に見える?いや、考えた所で仕方ない。素顔を晒して素性がバレるより万倍マシだ。


「すみません、ハデス様は幼い頃に事故に遭われてお顔に消えない傷が残ってしまったのです。この仮面はゴードン様を不快にさせない様にと付けていらっしゃるのです」


ゴードンの反応を見て、一瞬だけ素性を隠す為とはいえ仮面はやり過ぎたか?とも思ったが、止むに止まれぬ俺はこのまま話を進める事にして、仮面を被った自らをハデスと名乗った。


素性を隠すには顔を隠すと同時に偽名も必要になる。正直言えば面倒な事この上なかったが、面倒だからといって偽名も仮面も無しに街中を出歩けば、第2の魔王が蘇ったと騒ぎになるのは想像に容易い。

俺は少なくとも全ての熟練度が生前の半分以上になるまでは無謀な真似はせず、仮面で素顔を隠し冥府の神の名を借りた【ハデス】という偽名を用いて架空の人物となり、復讐を果たしていく事にした。


ガルドレは既に俺の本当の名前を知ってしまっているが、他言したら即座に殺すと念押ししているから大丈夫な筈である。


尚、偽名をハデスにした理由だが、俺が名を授けた哀れで憐れな堕天の女神を見てパッと思い付いたからだ。


俺が居た世界で冥府に連れ去られたとされる女神ベルセフォネ。そしてベルセフォネを連れ去ったとされる冥府の神ハーデス。


この2人は神話では夫婦として互いの傍に寄り添っていると言われている。対して俺とベルゼは『復讐ノ誓イ』という禍々しい誓いで縛られ、お互いの目的が果たされるまで共に寄り添うと誓い合った。


お互いの関係を表す偽名としてこれ以上の物はないだろう。ハデスという偽名はその繋がりを、束縛を、俺が無意識のうちに求めていた為に思い浮かんだのかも知れない。


後になってこの厨二病的な偽名に身悶えする事になるのだが……


それはさて置き、事前の打ち合わせ通りにベルゼは俺が作った適当な作り話を語り、ハデスが仮面を付ける必要性を強調してそれがハデスの気遣いであるとも力説する。


「それはそれは…… お気遣い痛み入ります。大変な目に遭わられたのですね」

「俺の身の上話は良いだろう。それより今日来た理由だが……」

「あ、はいはい! 本日も貴重な素材を買い取らせて頂けるのですよね」


ゴードンは目を伏せ、同情の目線と言葉を向けた。どうせ作り話。うわべだけの同情などどうでも良い。内心でそう思いながら本題に入ると、ゴードンは商人の顔になった。


その顔を見て、俺は仮面の下で目を細める。


「あぁ、それもあるが、耳寄りな情報を得たので貴方に教えて差し上げようかと思ってな」

「耳寄りな情報?」

「はい。実は私達は先日この国に来たのですが、道中で野盗に襲われました」


耳寄りな情報という言葉に食い付いたゴードンに、すぐ様ベルゼが言葉を重ねる。

情報の重要性をある意味誰よりも承知している商人にとって、耳寄りな情報というワードはまるで宝石箱のようなモノ。


開けてみるまで中に何が入っているかは分からないが、期待せずにはいられない。そんな類の言葉だった。


「……またですか」


ゴードンはベルゼの言葉を聞いた瞬間、側から見ても分かる程フワフワしていた雰囲気が一気に萎んだ。

自分の期待していた情報ではない。と、ゴードンは目で語りながら小さく呟いた。


「また? もしや俺達以外にも被害に遭った奴が居るのか?」

「えぇ。それこそ掃いて捨てる程です。魔王達が死んで半年が過ぎた辺りから、この国の周囲に野盗や盗賊が跋扈する様になりましてね…… 大方この国に集められる品々を奪う為か、もしくはこの国から他国に輸出される品々を奪うためでしょうな」

「成る程。ガセナール商国連邦はこの近隣諸国の物流の拠点。 取る物には困らねぇだろうな」

「それでハデス様、それが耳寄りな情報という事ですかな?」


俺はワザとらしく驚いた声と仕草でゴードンに詰め寄る。

一方のゴードンはこの話題に辟易としているのか、やや気怠そうな目線を此方に向けた。


「まさか。此処からが耳寄りな情報だ。ここだけの話、実は俺達が野盗に襲われた時、その野盗は4大商人の1人に雇われて行商人や商隊(キャラバン)を襲ってたって言ったんだ」

「なっ!? ま、まさか! 4大商人は言わばこの国の要。この国の利益と繁栄を誰よりも願ってる者達です。私も含め、自らこの国の富をドブに捨てる様な真似はしません」


ゴードンは机を叩き声を荒げた。

ガセナール商国連邦の商人や職人の代表者である4大商人。国の発展と国益を求め、商職議会と共に国を導く立場でもある4大商人がそんな事をする訳がないとゴードンは断言する。


「あぁ、俺もそう思ってる。だが事実として、野盗がはっきりとそう言った。出任せにしては荒唐無稽が過ぎるとは思わないか? 嘘を付くならもう少し信憑性のありそうな嘘を付くと思うが?」

「 …… 」


俺は詳しい情報を敢えて伏せ、ゴードンに事実を話す。俺としては、ゴードンがこの話を信じるかは重要ではなかった。そもそもどこの馬の骨とも分からない俺の言葉をゴードンが簡単に信じる筈がない。


しかし4大商人間での不和を誘発させた方が今後の展開としては面白くなる。


故に事前に決めた計画に従い断片的な事実のみを提供し、俺は俺で復讐の準備をしつつ高みの見物を決め込むことにした。


「って訳だ。情報は提供してやった。俺の話が真実かどうかを調べるのはそっちの勝手だ。さて、商談の話に移っても構わないか?」


俺の言葉を聞き眉間にシワを寄せるゴードン。その顔は神妙で、この話が事実たり得るかを脳内で吟味している様な顔だった。


ゴードンの心に疑心を根付かせる事に成功した。


俺はそう判断して意識して笑みを浮かべながら商人に商談を持ちかけた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ