9話 ファブロ・ディアーゴ
人称等、大幅修正させていただきました
「いやぁファブロさん、今回はありがとうございました」
「いえいえ、お役に立てたなら何よりです。【護衛商隊】の面々は如何でしたかな?」
「はは、皆強面でしたが真面目に警護してくれましたよ。彼等が居てくれるだけで野盗への牽制、抑止になる。自前で護衛部隊を持てない私ら小商人には有り難い限りです」
ライが4大商人の1人、農業関連の商人やその家族達が住む南地区代表ゴードンの元を訪れていたその頃。
主に武器や防具、その他衣類や装飾品の製造・販売を生業とする職人や商人が住む地区。
別名北地区の中心地にある【ファブロ総合商店】の応接室で、代表取締役であり8英雄の1人に数えられる鍛治職人、ライが復讐の最初の標的としたファブロ・ディアーゴは取引先の男と和やかな雰囲気中、紅茶を片手に語り合っていた。
「半年程前から増えた野盗への対抗策を講じるのは当然です。その為の護衛商隊なのですから」
ファブロは手にしたティーカップを置き、オールバックにした金髪を撫でつつ、細い目を更に細める。
その風貌は鍛治職人というより神経質な成金者と呼んだ方がピッタリだった。
「しかし傭兵を雇い商隊を護衛させるとは考えましたな。私も他の商人達も、傭兵は戦の時にしか役に立たない乱暴者達だと思ってましたし、傭兵が商品を護衛すると聞いた時は逆に商品を奪われるのではないかと考えてしまいましたから」
「傭兵は金の為に己という武力を提供する存在です。この様な平和な時代では彼等も仕事を得るのは難しいでしょう。ですから、金さえしっかり払っていれば、荒事に慣れている彼等はそれなりに優秀で忠実な戦力となります。傭兵もやっと見つけた仕事先を追われる様なバカな真似をする筈がありませんから」
「いやぁ、自分の考えはまだまだ甘いと痛感しますなぁ……流石ファブロさん。鍛治職人としての腕だけでなく商才もお有りとは」
「はは、恐縮です」
「それに此方としても、今となっては去年発足された自由職業別組合の組員に護衛を頼むより、ファブロさんの所の護衛商隊に護衛を頼んだ方が安心だと思ってますよ。
ギルド組員の殆どは元一般人で荒事に慣れていない者が大半。そんな奴等に大切な商品の護衛を任せて、万が一の事態が起これば目も当てられません」
「ごもっとも。我等の商売は商品をお客の手に渡さねば成り立ちませんからね。その点、護衛商隊には私自慢の武具も貸与してますから商品の安全は保証しますよ」
「ははは。8英雄のファブロさんが造った武具を貸与してもらえて、危険も少なく金も貰える。傭兵達にとってこれ以上ない程美味しい仕事でしょうね」
ファブロは自身が組織した護衛商隊の評判に口元を緩め、商品の運送を無事に終わらせて上機嫌な男と言葉を交わす。
ファブロは半年程前からガセナール商国連邦近辺に出没する様になった野盗や盗賊への抑止力として、自身が製造した武具を提供し、各地に商品を輸出する商隊を護衛する専門の事業、所謂民間軍事業務を新たにスタートさせていた。
魔王アスラゴート討伐後、住居を構えるこの地に戻って来たファブロは、ガセナール商国連邦の顔の一角と言ってもいい北地区代表に就任した。
丁度この頃人類共通の敵であるアスラゴートが死に、同盟軍という稼ぎ元が無くなった元野盗や盗賊が再び悪事に手を染めだす。
ガセナール商国連邦の行く末を決める4大商人と商職議会は、この野盗達への対抗策に苦悩した。
建国当時どの国とも戦争を行わない。どの国の戦争にも加担しないと宣言し、永久中立国となったガセナール商国連邦。
これは全ての国家と平等な取引を行う為のモノだったが、万が一外敵に襲われた場合を想定しガセナール商国連邦は防衛戦力として少数ながらも軍隊は保持していた。
しかし自国の軍や周辺諸国の軍と共同し野盗達の討伐を計画するも、素早く雲隠れする野盗達が相手では遭遇する事もままならず、討伐は失敗続きだった。
出費ばかり嵩み成果が出ない事に焦った4大商人や商職議会からは苦肉の策として、商隊や行商人に軍を随伴させ警護させる案も挙がったが商隊や行商人は数が多過ぎた。とても保有している軍だけでは手が回らない。そもそも国の防衛戦力である軍を国外に行かせる事がまず論外。
ならばと、軍人の数を増やす案も出たが、戦力になるにはそれ相応の訓練期間が必要なだけでなく給金等の費用もかかる。ガセナール商国連邦軍の給金等は税収から賄われている為、税収が安定しなければ必要経費が賄えない。
その税収とは、詰まる所貿易で稼いだ金だ。安定して貿易が出来ない状況下では、最悪な場合、給金が支払えなくなる可能性もあった。
他には他国の軍に護衛を頼む案も出た。が、当然それ相応の費用が掛かる。余計な出費を嫌う商人や行商人達が良しとする筈もない。
等々、他にも様々な案が上がったが、どの案にも必ずマイナスの面があり全員が賛同する案は遂ぞ出なかった。
会議は暗礁に乗り上げ、現時点で根本的な問題の解決は困難だと判断した4大商人や商職議会の面々は、独自で商品を守る為の防衛戦力を整えるか、複数の商隊や行商人達を1つのグループとし、お互いを庇い合う大規模商隊を形成し急場を凌ぐ事となった。
そしてある程度資金的余裕が出来次第軍を増強、大規模な野盗の討伐作戦を行うと決定した。
その会議の中、ファブロは新たな働き先が無く困窮していた傭兵を雇い、格安で商隊の護衛を任せる案を思い付き実行に移した。
魔王軍との戦争時は仕事が腐る程あった傭兵達。だが魔王が討伐された事で魔王軍は散り散りとなる。僅かに残った魔王軍の残党は烏合の衆と成り果て、各国の軍が個別で対応出来るまでにその勢力を激減させた。そして自国の軍でも対応出来るなら粗暴者の代名詞でもあった傭兵に仕事を提供する必要はないと各国は判断。傭兵に仕事を依頼する国家は激減した。
魔王アスラゴートが現れる前は戦争に明け暮れていた国もあったが、1年前まで人類の存亡を賭けた大戦争を行なっていた事や、一時とはいえ全国家が団結した経緯もあり、小競り合いこそ有るものの戦争は暫く懲り懲りだという雰囲気が世界に広まった事も、傭兵の仕事激減に拍車をかける。
無論自国兵士の損耗を嫌った国が傭兵に魔王軍残党の討伐を依頼する場合もあるにはあったが、それはごく少数に留まった。
結果として新たな仕事や勤め先が見つからない多くの傭兵が盗賊に走る事態が多発する様になってしまった。金儲けの匂いに聡いファブロはそんな傭兵に目を付けた。
「おっと、もうこんな時間ですか。私はそろそろお暇させていただきます」
「はい。またのご利用お待ちしております」
「えぇ、贔屓にさせて頂きますよ」
自ら武具を造り販売する傍ら、傭兵達を雇い組織し新たな形態の傭兵事業にも手を伸ばしたファブロ。
ファブロと硬い握手を交わし商人は退室する。
「ふっ、護衛事業も軌道に乗ったな。それにしてもバカな奴等め」
応接室に1人きりになったファブロは、細めていた目を見開き濁った瞳を男が出て行った扉に向け、報酬の金貨が入った麻袋を手に取る。
侮蔑の色が浮かんだその瞳と零れた言葉は、悪人のそれと大差ない。
「私が裏で手引きした浮浪者やならず者、以前から商隊を襲っていた野盗を雇いその積荷を奪う。奪った積荷は他国の犯罪組織や何も知らないバカ共に流し金を得る。商人には商隊へ護衛を付かせる為に金を貢がせ、手下の野盗共には前もって商人の進行経路を横流しし、護衛商隊が随伴する商隊ないし商人は隠れて見逃せと厳命する…… こんな単純な手がこうも上手くいくとはな」
ファブロはやや温くなった紅茶を嗜みつつ、自身が半年前から行った計画の進み具合に満足そうに目を細める。
「世の中は金が全てだ。人として生きるには金が必要……これまで作った繋がりを、俺が持つ全てを駆使して稼いでやる。あんな惨めな思いは沢山だ」
そして静かに呟き、目を閉じた。
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「はっ!はっ!はっ!」
「待ちやがれこそ泥!」
「ガキだからって容赦しねぇぞ!」
「ぶっ殺してやる!」
私の脳裏に遠い昔の景色が浮かび上がる。それは今から20年以上昔の景色。空は燃える様な夕日で彩られ、ろくに整備されていない凸凹のある街道を朱に染め上げる。肌を刺すような冷たい風が吹き、木々を騒めかせる。
その騒めきに怒号と罵声が重なった。
悪意と殺意が込められた怒号と罵声の嵐。その言の葉の刃の先には、物心が付いたばかりの私が居た。私はその小さな体へ浴びせ掛けられる言葉の数々に涙を浮かべながら、喉を鳴らして背後に迫る数人の男達から逃げていた。
彼等は私を追っていた。
私が両手に抱えるパンや干し肉を奪い返す為に、大の大人が数人がかりで、誰がどう見ても孤児だと分かるボロ着を纏った私を追いかけていた。
捕まれば殺される。幼い私でも、それだけははっきり分かった。だから私は振り返る事なく走り続ける。
「うぅっ………!あっ!?」
「へっ、漸く捕まえたぞクソガキ!」
だが所詮俺は子供。自分よりも体力と脚力がある大人から逃げ切るなど出来る筈がなかった。体力の限界寸前まで追われ続けた私は道の凹みに足を取られて転倒し、次の瞬間には男に胸倉を掴まれていた。
「ん?おいテメェ、この前死んだ鍛冶屋の息子だろ。両親に盗みはいけない事だって教わらなかったのか!」
「ひっ!ご、ごめんなさい!お、お腹が減って……つ、つい……」
「あぁ?ついじゃねぇだろ!腹減ってんのはお前だけじゃねぇんだぞ!」
「おぉよ!テメェだけ腹満たそうったってそうはいかねぇぞ!オラァ!」
「いっ、痛いぃい!ごめんなさい!こめんなさぃぃい!もうしません!こんな事もうしませんからぁあ!」
「うっせぇえ!」
私の素性を知っていたらしい男達は、涙を流しながら許しを乞う私に拳を何度も何度も何度も振り下ろす。男達は殴るのを止めない。まるで日頃の鬱憤を晴らすかの様に、声を荒げながら拳を振り下ろし続ける。
「うぅ……」
「ハッ、良い気味だぜ」
「このまま死んじまえば楽になれるかもな」
「死んじまえ死んじまえ。また大切な食料を盗まれたら厄介だ」
どれ位殴られ続けたのか。どれ位時間が経ったのか。私は未だに思い出せない。思い出せるのは全身に走る鈍い痛み。ボヤける視界。そして男達の粗暴な言葉だけ。
体が動かない。呼吸が苦しい。
あの時の苦しみは、今でもはっきり覚えている。はっきりと脳裏に刻まれている。
「な……何で僕が……何で僕がこんな目に……」
男達がパンや干し肉を手に帰路に着いた後、私は朦朧とした意識の中で、「何故自分がこんな目に遭うのだ」と考えた。
そして直ぐに、幼い私でも答えが出せた。答えは至極単純な事だった。
「彼奴等の……」
私が生まれた国は貧しかった。それは日々の食事を用意するのがやっとな程。それは盗難の主な被害が、貴金属や宝石類ではなく、パンや干し肉といった食べ物になる程。それは些細な食べ物絡みのトラブルが殺人事件にまで発展する程。それ程までに、私が生まれた国は貧しかった。それ程までに、皆が飢えていた。
いや……正確に言えば貧しくはなかった。何故ならこの国に住む多くの人々は実直なまでに畑仕事に励み、多くの実りを得ていた筈だから。
ならば何故?何故人々はこんなにも飢えている。
私は痛む体を起こしてある方向に目線を向ける。はるか遠く、薄暗くなった景色の中、青白い光に浮かぶ威風堂々とした城や屋敷が、私を威圧するかの様に佇んでいた。
「彼奴等の所為だ……!」
城や屋敷を見て俺は呟く。
あの城や屋敷は、この国を治める者とその側近達、そして暴力で俺達を抑え付ける者達……特権階級の者達が住む場所だと聞かされていた。
人々が収穫した麦や家畜を始め、税金やその他諸々を、俺達に代わり国や皆の命を守ってくれている彼等への礼として送っていると聞かされていた。
もし礼を渡すのを拒むと、家族や近所の人達が酷い目に遭うと聞かされていた。
特権階級の者達は人々が他国の行商人等と交流する事を厳しく禁じ、余計な知恵や食料、反逆の為の武器等を得ない様にしていると聞かされた。
この国を治める者達は俺達が献上した品や金を湯水の様に使い、毎夜の様に宴を開いていると、私は死んだ父や母から聞かされていた。
そう、私の両親は既に死んでいた。殺されたのだ。人を自分達の腹を肥やす家畜の様な存在としか見ていないこの国に。この国の特権階級者達に。
「あんな奴等の所為で父さんと母さんは……!」
両親は私の自慢だった。そんな両親の死体が見つかったのは数週間前の事。
両親はこの国を治める者達が使う武器の製造を任された鍛冶職人組合の一員だった。そんな両親の造る武器は質が良く特権階級の者達に好評で、彼等に気に入られた両親は褒美として食料や金を他の人々より多く与えられていた。そのお陰で、私は食事に困る事なく生きてこれた。
私にとっての不幸は、両親は2人揃って昔気質の頑固な職人で、人格者で、特権階級者達の贅沢の為に働かされる人々に同情的だった事だろう。両親は僅かな権力者達の為に多くの人々が辛く苦しい思いをしている現状に憤りを感じており、ある時、特権階級者達にこの国の仕組みを変えて貰う様直訴しに行くと言って家を出た。
それから明くる日。2人は遺体となって私の前に並んだ。死因は事故だと告げられたが、遺体を運んで来たこの国の兵士はそれ以外に詳しい事は何も言わなかった。私が「なんで父さんと母さんが……?事故ってなに?」と問い質しても、何も答えなかった。
その沈黙こそが答えだった。両親は特権階級者達の機嫌を損ない、殺されたのだろう。外傷は見当たらなかったから、毒で殺されたのだろう。私を生かしたのは、手を下さずとも直ぐに野垂れ死ぬとタカを括ったからだろう。
こうして私は、孤児になった。鍛冶場兼住居として使っていた家や財産は他の鍛治職人の手に渡り、私は帰る場所さえ奪われた。
私は嘆きと怨嗟と絶望のどん底に堕ちた。私は近所の人々に助けを求めたが、この国に住む大多数の者はその日を生き抜くのがやっとという有様で、とても食い扶持を増やす酔狂な者は居なかった。
両親を亡くした幼い私は、この過酷な世界を1人で生きねばならなかった。それは貧しさとの戦い。飢えとの闘い。
今まで当たり前の様に出されていた食事が無くなった事で、私は明日を生きる為に自分で糧を得なければならなくなった。
初めは木の実や薬草を食べ湧き水で喉を潤していたが、私以外にも飢える人は大勢居り、食べられる物はあっという間に周囲から消え去る。小さな木の実1つで大の大人が殴り合いの喧嘩をしている場面も見た事がある程だ。
当然、子供の私なんかが取れる食べ物は直ぐに周辺から消え、空腹に耐えかねた私は盗みを働いた。その結果がコレだ。
「チクショウ……僕にもっと力が有れば……ガキの僕でも使える力が有れば……そうだよ、金だ。金さえあれば……!」
私は非力な自分を嘆いた。か弱い自分に怒りが湧いた。すると怒りの最中、鋭い電流が脳裏を駆け抜けた。
体の小さな今の私ではどう足掻いても大人には勝てない。もし食べ物を得たとしても奪われるのがオチだろう。だが金は違う。小さな私でもやり様次第で幾らでも金は手に入るし、金が有れば食べ物が買える。
以下に幼い子供でも、金が有れば自分の望む物は何でも手に入ると知っている。人間社会で生活していれば自然と理解する。欲しい物があるなら金を対価として支払うという事も。
私は金という力を欲した。
特権階級の奴等は私達から巻き上げた品や金が有るからこそ、毎日の様に宴を催す事が出来ているのだから。金は歳や体格、性別に関わらず平等に力を発揮するから。体力や腕力は大きくなれば自然と増すが、金は幼い私でもその気になれば直ぐ手に出来る力となるから。
金さえ有れば、こんなひもじい思いをしなくて済むのだから。
しかし……
「この国じゃダメだ……こんな貧乏な国じゃ金があったとしても食べ物は手に入らない……別の国に……そうだ、商人と職人の国、ガセナール商国連邦なら……」
この国では金より食べ物の方が貴重だ。人々は金より食べ物を欲している。隙を付けば金は簡単に奪えるだろうが、この国で金と食べ物を交換してくれる人は少ないだろう。この国は異常と言える位飢えていた。
ならば別の国に行くしかない。金で食べ物が買える国へ。そんな普通の国へ。金で幸せが買える豊かな国へ。
こうして天涯孤独の身となった私はボロボロの体で歩き出す。目的地は商人と職人の国、ガセナール商国連邦。この国は商人と職人の国だから豊かな筈だ。金を得る手段も腐る程ある筈だ。金さえあれば幾らでも食べ物を手に入れる事が出来る筈だと、幼いながらに蓄えた知識を使い、導き出した私の答えだった。
その後、私は生きる為に道すがらあった村や町で窃盗や詐欺紛いの行為等、殺し以外の様々な悪事に手を染め、金を蓄えながら旅を続けた。生まれた国を出た後、何回か親切な人々に宿を提供してもらった事もあるが、私はその度に金や食料を頂戴した。
頂戴した金はガセナール商国連邦までの道中に点在していた村や町で食料や衣服を購入するのに使った。この時、私はやはり金こそ歳や性別に関係なく、平等に力を発揮する存在であると認識し、更に金への執着を強めていった。
そして過酷な旅も遂に終わりを迎える。
子供には酷く厳しい長い旅路だったが、生まれ育った故郷を飛び出して数ヶ月後、食べ物に困らない生活を送る為に、特権階級者達の様に裕福に生きる為に、身1つで商人・職人の国ガセナール商国連邦へと到着した私は、ガセナール商国連邦に根を下ろし更に金を得る為職を求めた。
幸いな事に、商人と職人の国だから食事付きの鍛冶場見習い等住み込みの仕事は腐る程あった。その時、何気なしに父と同じ職……武具を造る鍛治屋の門を叩いた私は、自分の才能に気が付いた。私の運命を哀れんでか、神は俺に才能を与えていたのだ。
私は鍛治職人としての非凡な才能を秘めていた。私は父親以上の鍛治の腕を持っていた。
その才能に気付き、私は懸命に鍛治職人として技術の習得に勤しみ、金を得る為に身に付けた知恵や話術を駆使して、時に浅ましく時にずる賢く振る舞った。
そして魔王アスラゴードが人類に全面戦争を仕掛ける。
金ヲ得ル良イ機会ダ。魔王ナンテ私ニハ関係ナイ。金サエ得ラレルナラ、ソレ以外ハ全テ些事ダ。
私は早速行動に出た。培った知恵や話術を駆使し同盟軍から武具の自注を請け負い、研鑽する日々。
そんなある日、私は同盟軍が優秀な鍛治職人を、魔王を討伐出来る武具を造れる鍛治職人を探しているとの噂を耳にする。
長らくひもじい時代を過ごしてきた私には、儲け話を嗅ぎ分けるある種の嗅覚が備わっていた。
「ここで優れた武具を提供出来ればより裕福に暮らせる」
最終的に、私は自ら名乗り出て厳しい選考を勝ち抜き魔王アスラゴート討伐用の武具を鍛え、製造する栄誉を勝ち取った。
そして11人の仲間と各地を転々とし、時に魔王軍と戦い、時に仲間の武具をメンテナンスする傍ら密かに行動して、道中で立ち寄った各地の権力者や犯罪組織と繋がりを作る事にも注力した。それが後々の利益に繋がるかもしれないと睨んで。
もし自分が道中で死ぬ様な事が有ればそれまで。運が無かったと諦める他ない。しかしアスラゴートを倒しさえすれば、人類の勝利に貢献した名誉と賞賛。そして魔王を倒した武具を造りし職人という価値を得る事が出来る。
世に2つと無いこの肩書きは、必ず後の利益へと繋がる。
私は今己に出来る事を全力でやるまでだ。
そう、全ては己の利益の為に。
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「……ふっ、確かあの国はアスラゴートに滅ぼされたんだったな。良い気味だ。しかし……彼奴等に借りを作る結果となったのは惜しいな。見返りが無ければ誰があんな物を……ん?」
「失礼しますファブロの旦那…… ガルドレです」
「ガルドレか。此処には来るなと言っておいた筈だが……それに昨日はどうした。今日此処に来た事と昨日指定した店に来なかった事……何か関係があるのか?」
「す、すみません、旦那の推察の通りです。本来でしたら昨日ご報告に来るつもりだったのですが、トラブルがありまして店に行けなかったんです!それよりも早急にご報告しなければならない事が……も、勿論極力人目に付かないよう来ましたのでご安心を!」
「分かった分かった。それで報告しなければならない事とは?」
ファブロは自身の幼少時代の思い出から現在に戻って来た。
普通の生活とはかけ離れた幼少期を経て地位と名誉、そして目が眩む程の金を手に入れたファブロは、ノックの音で来客が来た事を悟る。
応接室に入ってきた男は、ファブロが金で雇った野盗の頭だった。
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「ガルドレの野郎……」
ゴードンとの商談を終え大通りに出てきた俺は、そこに居る筈の男と馬車が居ない事に気付き小さく呟いた。
「ま、まさかファブロの所へ?」
「だろうな。彼奴自身、昨日ファブロに会う約束があるって言ってたし。にしてもあの野郎……断りもなしに勝手な事しやがって…… まぁ良い。彼奴がファブロの元に行くのは予想の範囲内だ。俺の事をチクるにしろ、助けを求めるにしろな」
「しかし 計画に支障は……」
「心配するな。大した問題にゃならねぇよ。彼奴が救いようの無い馬鹿じゃねぇ限りはな」
「あ!す、すみません旦那! お待たせしやした!」
ベルゼは先日聞かされた計画の成否の心配をして眉を下げるが、俺は平然と言葉を紡ぐ。
その時、ガラガラと木製の車輪を鳴らす馬車が大通りの脇に留まり、ガルドレが冷や汗を流しながら俺達の前に立った。
「ガルドレ、2度と俺の断りなく消えるな。ファブロの野郎の元に行くのは勝手だが、勝手な行動は許さねぇ」
「え…… あ、はい!失礼しました!」
俺はにこやかに微笑みながらガルドレの胸倉を掴み上げる。
ガルドレは一瞬驚いた表情を浮かべたが、直ぐに震える声で謝罪した。
「ふむ、鎌かけてみたが見事に引っ掛かったな」
「あっ!?」
「おいガルドレ。お前ファブロの所に行ってたな?」
「あ、いやその……」
「隠すなよ、俺とお前の仲だろう?」
「は、はい…… ファブロの旦那の元にここ数日の成果の報告に……」
「ほう? もっと具体的に言え。『晒せ 真実を 晒せ 偽りなき言葉を 晒せ 偽りなき本心を 真実証明』」
「……?」
怯えるガルドレがファブロの下へ行ったと白状すると胸倉から手を離し、魔法『真実証明』の呪文を呟く。
ガルドレはその言葉の羅列の意味が理解出来ないといった表情を見せたが、俺は小さく口元を歪めるとガルドレの目を見ながら口を開く。
「ガルドレ。『お前はファブロに俺達の事を報告したか?」
「『はい。名前は出しませんでしたが、2人組みの旅人らしき奴等に部下9人が殺されたと報告しました』」
ガルドレは目を見開き言葉を紡ぐ。
自分の意思とは関係なく口が勝手に動いている事実に、ガルドレの目には驚愕の色が浮かぶ。
魔法 『真実証明』
保有魔力を『17000』も消費するこの魔法は、主に人語を解する魔王軍捕虜を尋問する際に使用していた。
『真実証明』とは、対象とした者の目を見ながら質問をする事で、対象となった者は意思を保ったまま自身の意思とは関係なく己の知る真実を喋ってしまう魔法なのだ。
俺はこのスキルを使い魔王軍捕虜から魔王軍の陣地の場所や兵力等、戦う上で重要な情報を聞き出していた。
しかし優れた魔法には洩れず欠点もある。『真実証明』は効果は絶大だが同時に複数人には使えずそこそこの魔力を消費し、効果時間が短いという欠点があった。
だがそれ等の欠点を差っ引いてもこの魔法は有用だ。この魔法の前には嘘も虚言も通用しない。
俺は『真実証明』を使い、ガルドレに探りを入れた。
「『ファブロは俺達がこの国に居るのと知っているか』」
「『いえ知りません。ファブロの旦那にお2人がこの国に居ると伝えたとして、もしその事が貴方にバレれば自分は殺されると思ったので』」
「ほう、それが分かってるなら良い。ついでだ。あと幾つか質問を……」
「だ、旦那!何ですか今のは!」
「ちっ……もう効果が消えたか。『熟練度』が2桁だとこんなもんか」
取り敢えず敵に己の存在がバレていない事に安心し、新たな質問をしようとガルドレの目を見たが既に『真実証明』の効果は切れていた。
恐らく初めて経験しただろう魔法に底知れない恐怖を感じたらしいガルドレは後退り、俺は効果時間の短さに舌打ちする。
「テメェが知る必要はねぇ。だが今のでわかったな?俺には嘘も虚言も通用しねぇぞ。今回は特別に見逃してやるが…… 次はねぇからな」
「も、申し訳ありませんでした! 2度と勝手な真似はいたしません!」
「ライ様、これ以上は人目に付きます」
ねっとりと纏わりつくような俺の言葉を受け、ガルドレは地面にひれ伏す勢いで頭を下げる。側から見れば屈強な男が仮面を付けたやや細身な男に許しを乞いている異様な光景。
道行く人々の目がこの2人に注がれている事に気付いたベルゼが、タイミングを見計らい注意を促した。
「それもそうだな。ガルドレ、今日はもう少し付き合ってもらうぞ」
仮面越しに周囲を見ると、サッと視線を逸らす人々が数人確認できた。
今怪しまれるのは得策ではない。ひとまず出来る対策としては親しい風を装うくらいか。
瞬時にそう判断した俺は、作り笑いを浮かべガルドレと親しい雰囲気を装いながら肩を組んだ。
「あれは……」
その光景をゴードンが見ていた事を、俺は知らなかった。
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「ガルドレ、お前達はここら辺の林道を往来する商隊や行商人を狙って襲ってたんだよな」
「そ、そうです。俺達以外にも幾つかグループがあって、其々担当する林道や道で商隊を襲って積荷を奪う様に指示されてます」
「奪った積荷は一旦ファブロ所有の隠し倉庫に運び込まれる。大方奪った商品は横流しさてるんだろう」
「私達を狙ったのは小遣い稼ぎと言っていましたが、私達から奪った物は懐に入れるつもりだったのですね」
「ははは、テメェも災難だなぁ。あの時俺達を無視してればこんな事にならずに済んだのによぉ」
様々な用事を済まし2日程日を跨いだ俺は、ガルドレの操る馬車に乗りベルゼと共に襲われた林道とは別の林道を訪れていた。
その道中俺はガルドレに様々な事を聞きいたのだが、先日『真実証明』を受け俺に嘘は通用しないと悟ったガルドレは全ての質問に正直に答えた。
ガルドレから情報を得て思わずケラケラと笑い声が漏れる。ファブロは俺が予想した通りの事を行なっていた。その確証を得たからだ。
ファブロは各地からガセナール商国連邦に流れ着いてきた浮浪者や無頼者。更には本物の野盗まで雇い商隊等を襲わせ、その積荷を奪う様指示を出していた。
ファブロは金に異様な程執着しており、より金を得る為に他の商人の品を強奪し横流しして利益を得ようと考えた様だ。
しかし同郷の者を襲うにはいざという時、簡単に切り捨てられる手駒を確保する事が望ましい。
そこでファブロは金の為なら何でもする浮浪者や無頼者達に目を付けたらしい。ガルドレのも金を求めて金の為なら何でもする1人だった。
ファブロは自分の出す指示に従い働くなら金を払おう。そしてさり気なくだか安全も保障すると言い、完全歩合制で其奴等を雇ったとの事。
ガルドレの話では以前ガセナール商国連邦軍が野盗討伐に乗り出した際、ファブロは当日軍が進行する道や休憩地点等を意図的に彼等へ流した事もあるとか。
更にファブロは定期的に襲撃場所を変えさせる事で軍の目を欺き、強奪した積荷を集める隠し倉庫の存在を気取られない様にしていた。
野盗達からしても、商隊を襲ったのはいいものの、その積荷がドレスや装飾品、建築資材等使い道に困る物だった場合、独自の流通ルートを持たない野盗にはその積荷を転売する事はできず、宝の持ち腐れとなる。つまり商隊の持つ所持金は得られるかも知れないが、それ以上の金は得られない。しかしファブロの指示通りに働けば、野盗にとってクソの役に立たない品も金に変わる。
ファブロの提案は野盗達にも充分に利益のあるものだった。
こういった経緯で強奪された積荷はファブロが所有する隠し倉庫に一旦運び込まれるらしいのだが、そこから先は自分の担当ではないので詳しい事は知らない。とガルドレは言った。しかし俺は、隠し倉庫に運び込まれた積荷は表に出せない商品として、本来品物が届けられる者とは無関係の富豪や市民、犯罪組織の類に横流しされているだろうと確信した。
いや、横流ししているだけならまだマシか。十中八九ファブロは他にも触手を伸ばしているだろう。
俺は一時ファブロと行動を共にしていた。そんなファブロが時折見せた浅ましさ、ずる賢さ、金への執着からファブロがどの様な行いをしているのか予測はついていた。
少なくとも現時点で分かっている情報が明るみに出れば、ファブロが半殺しの目に合うのは確実だ。
「所でまだ着かねぇのか?」
「そ、そろそろです」
シカシ、ソレダケデハ生温イ。
俺はファブロが北地区の代表に就任したという情報と、人を雇い商隊を襲わせている事実を得て、ファブロを絶望のどん底に突き落としてから惨めに殺す計画を思い付いた。
出来るだけ惨めに殺すには下準備が必要。
その下準備もほぼ終わらせ、俺は最後の仕上げに取り掛かろうとしていた。
「ライ様。見えました」
「ん、隠れるぞ」
「おぉガルドレじゃねぇか。どうした? 此処は今日俺達の担当だぜ?」
最初の復讐まであと少し。決意を新たに目線を前に向けると、既に前方に意識を向けつつ荷台の陰に身を隠していたベルゼが俺に声を掛けた。ベルゼの声を聞き、静かに身を屈めて姿を隠す。
進行方向先には男達が屯していた。林道に馬車や馬を停め、腰には武器をぶら下げている。酒便を片手に此方に近寄って来る男達は、何処からどう見ても野盗だった。
「い、いやそのな……」
「どうしたガルドレ。顔色が悪いぞ」
「何かあったんですか頭目」
「なんだなんだ、何で別んグループの頭がこんな所に居るんだ?」
しどろもどろになるガルドレの様子を見て野盗達がわらわらと集まる。
「よぉ屑共」
その場に居た野盗全てが集まったのを確認した俺は馬車の荷台から飛び降り、男達に籠手に包まれた拳を叩き込んだ。




