7話 ガセナール商国連邦 1
多くの方のブクマのお陰で瀕死だった第7話が息を吹き返しました。
ただ第8話が峠を迎えてます。助けてください。ブクマや感想、評価があれば峠を越せるはずです。
武器。
それは戦闘や狩猟に用いる道具や器具の総称であり、殺傷、損傷、捕縛、破壊、無力化を元来の目的とした攻撃能力を有する道具。人や物を壊す為の道具。その為に作られた道具。
この道具が無ければ人類は、人類の根絶を目標としていた魔王や魔物の大軍に打ち勝つ事は出来なかった。
魔王アスラゴートや魔王軍と戦った英雄達。対魔王同盟軍。彼等が使う武器の半数近くを設計し、鍛錬し、製造した国がある。
それが豪商達により建国された国。
それがガセナール商国連邦。
アルギリア王国を始めその他数国と国境を接する小国。
俺が復讐の旅の最初の目的地に選んだ国である。
「ガセナール商国連邦…… 今から150年程前に自由貿易を望んだ豪商達が建国した永久中立国家ですか」
「あぁ。建国当時は商人達の寄り合い所帯だったが、商人特有の話術とかを駆使して今では独立連邦国家として認められた商人の国だ」
「ガセナール商国連邦は5つの地区に分けられ、その地区の代表の下、建国当時に定められた連邦法を遵守して生活しているんですね」
「正確には5つの地区の内1つはガセナール商国連邦の【議会地区】だ。議会地区は行政府が置かれてるが人は住んじゃいねぇ。代表が直接治めてる地区は実際は4つだ。この国に移住した商人や職人達は通称【4大商人】と呼ばれる奴等が治める地区に、専門としてる職業ごとに割り振られて暮らしている」
「その国に、ライ様を裏切った1人が居るのですか」
「あぁ」
闇の様な黒い外套を羽織る俺と血の様に赤いケープを肩にかけるベルゼは、行く手を阻む様に雑草が絡みつく獣道から、漸く人が手入れしたのだと分かる林道に辿り着いた。
冥府を出てから早数日。
鬱蒼とした原生林を抜け、荒地を抜け、山を越え、漸く辿り着いた林の中の小道。
その林道を進みながら、生前の記憶を頼りに復讐を共有したベルゼへ改めてこれから向かう国の説明をした。
ガセナール商国連邦が建国されたのは今から凡そ150年前。国家に縛られない貿易を望んだ豪商達が、この地で独自に貿易を始めたのが始まりと言われている。
建国された当初は安価に仕入れた商品を他国に卸すだけで、国とは名ばかりの他国から見向きもされない存在であったが、徐々に自国での生産業等にも力を入れ始め、建国から数年も経つと、ガセナール商国連邦産の商品は高品質で使い勝手が良いと、周辺諸国の人々からブランド評価を得るまでに至った。
このブランド品や巧みな話術を駆使し、ガセナール商国連邦は他国と駆け引きを行い、近隣諸国の物流の中心地として繁栄。今では周辺諸国から独立を認められ、小さいながらも1つの国として名実共に機能していた。
この国を治めるのが、ガセナール商国連邦に住まう商人や職人達で構成される【商職議会】であり、その中から選ばれた4人の商人・職人である。
この4人は其々専門とする業種…… 農業、畜産、土木建築、製造ごとに別れ4つの地区を形成。建国時に定められた連邦法の名の下に其々が其々の地区を自治し、共通利害に関わる……例を挙げれば、外交関係や商国連邦全体に関わる事柄には商職議会と4大商人が議論し、解決策を見出す政治体制を取っている。
ガセナール商国連邦の政治体制は、議会で選ばれた4人が4つの地区政府を治め、商職議会からなる中央政府がバランスを取る半連邦制と言えた。
俺お手製の発光鉱石が埋め込まれたペンダントを胸から下げるベルゼが静かに顔を此方に向ける。が、俺はベルゼと目を合わせる事無く手入れされた林道の先を見ながら、最初の生贄の顔を思い浮かべた。
「彼奴は…… ファブロは元々ガセナール商国連邦に店を構える鍛治職人だった。今思えばずる賢くて異様なくらい金に執着する奴だったが、武具を造る腕は一流だ。彼奴が作った武具があったから、俺はあの瞬間まで生き抜く事が出来た」
一般的な男性の平均身長の3倍はある巨躯。魔法使いの放つ攻撃魔法を跳ね返す体。拳1つで城壁を破壊する魔王。
魔王アスラゴート。
対魔王同盟軍の兵士が扱う粗製乱造された武器では、アスラゴートに傷を負わす事すらも出来なかった。
魔王を倒すには業物以上の武具が必要不可欠であり、同盟軍は最高品質の武具を鍛え上げる事の出来る鍛治職人を募る。
そこに名乗りを上げたのが8英雄の1人に名を連ねる鍛治職人、ファブロ。彼の鍛え上げた武具が魔王アスラゴート討伐に一役買っていた。
それは彼の武具が無ければアスラゴートを倒す事は叶わなかったと言われる程である。
事実、ファブロが造りメンテナンスしてくれた武具のお陰で、俺はあの瞬間まで生き抜くことが出来たと言っても過言ではなかった。
しかし彼奴はあの時あの場所に居た。
共に戦ったのに、何度も危機を救ってやったのに、酒も酌み交わしたのに、なのに彼奴は磔にされた俺を見上げていた。声を荒げる俺を見て助けようとする素振りすら見せなかった。
ただ壊れた道具を見るような冷めた目を此方に向け、口元に小さな笑みすら浮かべていた。
彼奴も俺を裏切ったのだ。見捨てたのだ。助けを求める俺を。
最も、ただの鍛冶職人でしかないファブロが俺への裏切りを主導したとは考え難い。彼奴は所詮鍛冶職人。ファブロが俺を殺す理由も道理も無い筈。となれば、何かの見返りを受けて俺を裏切ったとしか考えられない。
現時点で推測出来るのはこの程度だが、ファブロが俺を裏切り見捨てた事実は変わらない。
許しはしない。そう、絶対に。
「アルギリア王国で情報収集をしてたら、奴が今もガセナール商国連邦で商いをしているのが分かった。奴は並みの兵士以上に武器の扱いに心得があるが、他の8英雄共と比べると雑魚だ。復讐の最初の相手として、ウォーミッグアップに丁度……」
「ライ様?どうかなさいましたか?」
「誰か居る」
「あ、本当…… 喋り声がします」
標的の顔を思い出しながら林道を歩いていた俺は不意に立ち止まる。前方から複数の喋り声が聞こえたからだ。
声色は男のもの。数は7から10。
距離はそれ程離れていない様だ。ガセナール商国連邦に向かう商隊か……それとも野盗の類か?
「……どうでもいいか」
「え、ライ様!?野盗かも知れないのですよ!?」
不審な声に数秒立ち止まっていたが、俺は再び歩みを進めた。
このまま進めば声のする方向に近づく事になるが、ベルゼは兎も角として俺が歩みを止める理由には足らない。この声の男達が商隊にしろ野盗にしろ、さして問題はないし、関係がなかった。
「頭!見てくだせぇ。いい獲物が来ましたぜ」
「おぉ、中々良い物身に付けてるじゃねぇか。通行料だ置いてきな」
「肌着だけは勘弁してやんよ!」
「嬢ちゃんの方は別だけどな!」
「「「「ギャハハハ!」」」」
「ら、ライ様……」
「はぁぁぁ…… 行くぞベルゼ。こんな平和ボケしたゴミ共に無駄な体力使うなんて馬鹿馬鹿しすぎる」
進行方向先に屯していたのは商隊などではなく、ベルゼの予想通り10人程の盗賊・野盗の類いだった。
彼等は林道の脇道に馬車や馬を留め、酒瓶を片手に下卑た笑い声を上げながら進行方向を塞ぐ。
粗暴な言葉遣い。下品な笑い声。善良な小市民なら恐れ慄き、彼等に通行料を渡して許しを乞うだろう。
だが俺にとってここまでテンプレが過ぎると可笑しいを通り越して滑稽であり、同時に痛々しく感じて我が身の事ではないのに軽い頭痛がした。
そんな平和ボケした男達に養豚場から出荷される豚を見る様な視線を向け、盛大に溜息をつきながら俺は此奴等を無視して再度歩み出す。
「待てテメェ!無視すんじゃねぇ!」
「俺等がこのまま逃すと思ってんのかぁ!」
「っ!」
だが粗暴な言葉遣いの彼等野盗が俺達を見逃す筈が無かった。
素人目に見ても高価を通り越して神秘的にすら見える衣類を纏い、輝く剣を下げる獲物を、野盗が見逃す筈が無い。
「うぜぇ黙れカス」
ゴキン!
「ごきゃ」
俺の胸倉を太い左腕で掴む野盗の下っ端らしき男。
このまま何もしてこなければ無駄な体力を使いたくなかったので見逃してやろうと思ったが、敵対的な行動をとるなら話は別。
取り敢えずいきなり胸倉を捕まれイラっとしたので殺す事にした。
ベルゼが息を飲んだ瞬間、重厚な金属の音と男の間抜けな声が林道に微かに木霊する。
パタリと仰向けに倒れ、地面に口付けをする男。男は2度と起き上がる事はなかった。
「や、野郎!殺せ!」
「「「「「へい!」」」」」
「……ウォーミングアップのウォーミングアップか」
仲間が殺された。
しかも籠手を付けているとは言え素手で。
地面に顔を寄せる男を見て、野盗の頭目は部下が首の骨を折られ、頚椎を捻られ殺された事を理解した様だ。
頭目の濁声の下、部下達は手にした酒瓶を投げ捨て腰にぶら下げた無骨な剣や斧を抜き、臨戦態勢を取って俺を睨み付ける。
殺気立つ男達。しかしこの世界に来た直後ならまだしも、地獄を見てきた俺には殺気を放つ男達は小型犬が怒っている程度にしか感じない。まだ魔王軍の下っ端魔獣の方が恐怖を感じる。
俺は道端を這いずる小虫を見るかの様な目線を男達へ向けた。
「其方がそのつもりなら仕方ねぇ。久しぶりの対人戦だな。ベルゼ邪魔するな」
「は、はい!」
「死ねやぁあ!」
俺はベルゼにクギを刺す。当のベルゼは俺が男を殴り殺した瞬間から、巻き込まれない様に野盗達から距離を取って木の幹に隠れていたのだが。
次の瞬間、怒る野盗達が斬りかかって来た。
「……ウォーミングアップにすらならねぇぞ」
「あ、当たらねぇ!」
「化け物かよ!」
迫る複数の殺気。舞う刀身。
その悉くを冷めた目で避ける。躱す。舞う様に殺気を纏う刀身を避け続ける。
やや反応は遅れるが問題なく動ける様にはなったか。防具の性能のお陰もあるだろうが……。
明確な殺意を放ち複数の敵に囲まれても、ある程度レベルが上がり、更に質の良い防具を纏った事で精神的余裕が生まれた俺は、冷静に自身の体の動きを分析しているだけのゆとりが出来ていた。
数年間文字通り血反吐を吐きながら訓練し、魔王軍と死闘を繰り広げてきた俺にとって、野盗はウォーミングアップの相手にすらならなかった。
「もういい。死ね」
ボゴッ!
ゴキ!
メキッ!
「がっ」
「ぐぎっ」
「ぎゃぁあ!」
「う、嘘だろ…… なんだよ此奴……!」
複数の鈍い金属音が響く。その都度男達の頭蓋骨が陥没する音や甲状軟骨、軸椎が砕ける音、胸骨体が粉砕される音が耳につく。
冥府の本当の主人、骸の王の遺品『真王の覇道の剣』を抜くまでもない。
落胆の表情を隠さず吐くように言葉を漏らしながら、野盗達の頭に、首に、胸に、『真王の籠手』で包まれた拳を叩き込み、『真王の脛当』の鉄靴を蹴り込む。
「て、テメェ!俺等にこんな事してどうなるか分かってんのか!」
「さぁ? どうなるのか教えてくれよ。こんな事してどうなるか分からねぇ俺にさぁ。なぁ?なぁなぁなぁ?」
頚椎を捻られ絶命した男と同様に、間抜けな断末魔を漏らし死んでゆく下卑た男達。ものの数分もしない内に、頭と呼ばれた男以外は血と肉で形作られ糞尿が詰まった物体へと姿を変えた。
返り血を浴び、赤く染まる籠手や脛当を見て、頭は手にした鉈を震わせながら上擦った声を発する。
まさかこんな滑稽な言葉を聞けるとは。典型的チンピラにありがちな、漫画でしか見た事ないセリフに思わず口元が緩んでしまった。この男は次にどんな言葉を語るのだろう。そう思いながらゆっくりと頭に近付く。
それと連動する様に頭は一歩、また一歩と後退り、遂には樹木に背中を預ける形になった。
「お、俺達ゃファブロの旦那に厄介になってんだ! この事が旦那の耳に入ってみろ! テメェ等殺されるぞ!」
「ファブロ……?」
「ビビったろ!なんせ旦那は8英雄様だ!その旦那の部下に楯突いたテメェは絶対ぇに無事じゃ済まされねぇ!」
「ほう」
それでも鉈の切っ先を逸らさない頭目の言葉を聞き、俺はより一層口元を緩めた。
「それは大変失礼しましたぁ。今回の件を詫びたいので、是非そのファブロとか言う8英雄様の所に案内してくれませんかねぇ?」
バギィン!
「ひっ!」
コンナニモ早ク、憎イ裏切リ者ト接点ガ有ル奴二会ウ事ガ出来ルトハ。
そう内心で呟きつつ満面の笑みを浮かべ、腰を抜かす頭の前に屈み込む。
そして懇切丁寧に、ファブロへ案内してくれないか?と頭に提案しながら、胸元に突き付けられた鉈を、籠手を装着した手の平で握り、そして砕いた。
「わ、わかり……ました」
見る者を発狂させる様な邪悪な笑み。
武器も抜かず人を殺す剛強さ。
鉈を握り粉砕する化け物の如き力。
部下を躊躇なく殺した身体能力。
部下を躊躇いもなく壊した殺意。
頭目は俺の笑みを見て完全に戦意喪失した様だ。
完全に腰を抜かし恐怖に顔を歪め、涙を滲ませ鼻水を垂らしながら何度も頷く頭の姿。
相手を無力化するのに強大な力は必要ない。入念に、どう足掻いても己では勝てないと認識させて心を折れば雑魚には事足りる。
そう認識した俺は、静かに頭を見下ろした。
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「やれやれ、平和ボケここに極まれりだな」
「ライ様、先程も気になったのですが、平和ボケとはどういう意味ですか?なぜ野盗が跋扈するこのご時世が平和ボケなどと」
ガラガラと木製の車輪が転がり大地を鳴らす音が静まり返った林道に騒がしく響く。
野盗を蹴散らし頭の心を折った俺は、騒ぎになると面倒なので野盗共の死体を適当に隠し、ベルゼと共に野盗達が所有していた馬車の荷台で揺られていた。
馬車の手綱を握るのは顔面蒼白となり小さく震える野盗の頭。
此奴は俺の提案を聞き受け、ファブロが住むガセナール商国連邦に向かっていた。頭の操る馬車の荷台で、ベルゼは頭目の背中を見つめ監視する俺の呟きに反応する。
「言葉通りの意味だ。野盗がまた現れるくらい世界が平和になったって事さ」
「……?」
「……アスラゴートが人類に戦争を仕掛ける前まで、野盗や盗賊は其処彼処に居た。その時はまだ人が人を襲う余裕があったからだ。
だがアスラゴートとの戦争が勃発すると、此奴等は人類の足並みを乱すとされ同盟軍や警察機関の手で良くて逮捕投獄。最悪討伐された。で、魔王軍と同盟軍、警察機関に狙われる事になった野盗達は、人を襲う余裕がなくなった。
最終的に野盗共は野盗を始める前の生活に戻るか、人間として生き残る為に同盟軍へ自発的に加わり、魔王軍と戦った。結果的に魔王軍の襲来が野盗という存在を一掃した訳だ」
「なるほど……それで平和ボケだと。人が人を襲う余裕が出来たから」
「あぁ。アスラゴートが死んでたった1年でこの有様だからな」
俺の言葉を受けても可愛いらしく小首を傾げるベルゼ。
仕方ないと、自身が発した言葉の意味を詳しく説明して、ベルゼは漸く俺が吐いた言葉の意味を理解した。もっとも、この話はかつてアンリエッタから聞いた受け売りだ。アンリエッタは俺がこの世界で生きる為に役立つ知識を授けた。その点だけには感謝してやっても良い。
「コレを平和ボケと言わずに何て言えばいい? なぁお頭さんよぉお」
だがそれを抜きにしても憎悪が鎮まる事はない。
「ひっ! ち、違うんですよ旦那! 俺等ぁファブロの旦那に雇われて野盗の真似事をしてただけなんです!」
「あ?」
脳裏に焼き付いた醜いアンリエッタの顔が浮かび上がる。同時に嫌悪感も浮かんだので怯え切った頭に八つ当たりする事にした。
話の矛先が急に自身に向いた事で、頭は怯えきり上擦った声で弁解の言葉を叫ぶ。
その言葉が俺の興味を誘った。
「どう言う事です? 何故ファブロさんは貴方に野盗の真似事なんてさせたのですか」
「知らねぇよ! 俺達はただファブロの旦那に言われて、あの道を通る商人達を襲ってたんだよ! あんた達を狙ったのは小遣い稼ぎだったんだ!」
俺が生前ファブロに抱いていた印象は、ずる賢く金に執着しているが鍛治職人としての腕は一流というモノ。
そのずる賢く金に執着するファブロがこの男達に野盗の真似をさせ、商人を襲わせる理由は……
「なるほど。セコい真似しやがって」
俺はファブロの考えている事が、やろうとしている事がわかった様な気がして、1人小さく呟いた。
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「つ、着きました…… ガセナール商国連邦です」
「此処がガセナール商国連邦。地区整備がしっかりされていますね」
「ガセナール商国連邦は西に畜産関係の商人が住み、南には農業関係の商人が。東には土木建築関係の職人が。北には製造関係の職人が住んでる」
「ライ様の話では、ファブロさんは鍛治職人なんですよね?」
「あぁ。ファブロは【北地区】……製造関係者が住む地区に居るんだろう?」
「は、はい」
ファブロと頭の関係を聞いてから1時間後。俺達は商人の国、ガセナール商国連邦を一望出来る小高い丘の上に着いた。眼下には東西南北に整理された街が広がる。
街の中心部には巨大な5階建の建物がそびえ立ち、天辺にはガセナール商国連邦の国旗と商職議会の旗が風を受け靡いている。
俺はベルゼにガセナール商国連邦の地区の詳細を説明しつつ、頭へ目的の人物が自身から見て最北の地区に居るか聞いた。
「ファブロの旦那は北地区の代表なので、北地区にある旦那の店か屋敷に居ると思います……」
「なに? 代表にまで上り詰めたのかあのクソ野郎……」
4つの地区の代表。それはガセナール商国連邦を動かす事も不可能ではない立場。
脳裏に一瞬不安が過ったが、俺は小さく頭を振り不安を消しとばす。
此処まで来てしまった以上引き返す事は出来ない。否、引き返してたまるものか!目の前に、手の届く範囲に、自分を裏切った者が居るのだから!
俺は数日前のアルギリア王国での屈辱を。
目の前をパレードする裏切り者達をただ見ている事しか出来なかったあの時の悔しさを思い出していた。
今ハアノ時トハ違ウ。
ファブロ如きの為にこの国が動くはずが無い。何故ならファブロはほぼ全ての商人達を敵に回す行為をしていたから。
ならばこのいざこざを活用してファブロに惨めな死を与えてやろう。
俺は心の中で蠢く闇が静かに引いていくのを感じると同時に、脳裏に思い浮かんだ作戦を実行してやると小さくほくそ笑んだ。
苦しめる。苦しんだ俺の心が晴れるまで。俺を裏切り俺の死を良しとした彼奴を。
「幸せの絶頂から地獄へ転落する様を見るのは痛快だろうな。よし、テメェ」
「こ、今度は何でしょう」
「俺達は暫くこの国に滞在する。その間テメェは俺の奴隷だ」
「ど、奴隷!?」
「別に『隷属の首輪』を付けるつもりはねぇ。だが拒否権はねぇぞ。先ずは大通りに連れて行け」
「 で、ですがこの後ファブロの旦那との会う約束が……」
「知るか。早く行け」
「は、はぃい!」
俺は思い付いた計画を実行する為に、暫くこの国に滞在する事に決めた。
先ずは当面の生活資金を稼ぐ必要があるので、頭に大通りへ向かうよう優しく微笑みかける。
狂気の滲み出る笑みを向けられた頭は、馬車を走らせガセナール商国連邦をグルリと取り囲む長大な壁に設けられた門をくぐった。




