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11話 邪魔者 1


モチベーションが燃え尽きそうです。




「な、なんだ!? なんで嬢ちゃんの声が!?」


カビ臭い洞窟に甲高い声と濁声が反響した。それは慌てた様子のベルゼの声。それは周囲に目を向けるガルドレの声。

俺はガルドレの濁声は無視してベルゼの甲高い声の出所に目をやる。甲高い声は俺が履くズボンのポケットから聞こえた。


ガルドレはこの場に居ないベルゼの声が聞こえた事で、まるで幽霊の声でも聞いたかの様に狼狽えている。強面の男が体を震わせ、キョロキョロと隠し倉庫内を見渡す様は見ていて実に面白い。その姿を肴に一杯やれそうだ。が、ベルゼの声からはそんな余裕はないと伺える。


ともかく俺は何かあったのか確認する為にポケットに手を突っ込み、手の平サイズの物体を取り出した。


「どうしたベルゼ」

『あ、ライ様大変です! ファブロの手下と思しき男性が10人、其方に向かいました!全員剣や鎧で武装しています!』

「本当か?」

『はい! 栗色で髪の長い男性に率いられた男性達が少し前洞窟内に入って行きました!』


ポケットから取り出した物体は六角柱の形をした半透明な結晶体。この結晶体に声を掛けると、そこからベルゼの声が発せられる。


これはベルゼがガセナール商店で素材を売った際、近くの店で仮面と共に購入していた魔法具(マジックアイテム)伝声具(でんせいぐ)』。仮面が入っていた木箱と一緒に渡された小さな麻袋の中に入っていた物だ。


伝声具とは、【白蝙蝠】と呼ばれる獣の声帯にある【伝声石】という水晶の様な素材を加工して作られる通話機だ。


白蝙蝠は生命の危険を感じると、伝声石を通し周囲の仲間に救援を求める習性がある。白蝙蝠が救援を求める際に発する声は一種の超音波、もしくはテレパシーみたいなモノらしく伝声石を持つ同種の仲間にしか聞こえない。

この伝声石のおかげで、白蝙蝠達は離れた場所に居る仲間とコミュニケーションが取れるのだと、ここ数年の研究で分かったらしい。


そしてこの素材に目を付けたとある魔法使いが人間用に改良し広まった物が、伝声具という遠距離通話用魔法具(マジックアイテム)なのだ。この魔法具(マジックアイテム)は実に有用で、以前も愛用していた。伝声具は俺に限らず、部隊で行動する軍隊や商隊(キャラバン)の必需品と言える。


ちなみに白蝙蝠は人の背丈程の大きさがあり中々に強い。余程腕に覚えのある者でない限り伝声石の採取は無理だ。事実、伝声石を採取しようとして白蝙蝠に挑み、返り討ちにあったという話を何回も聞いた事がある。


そういった理由から伝声具は希少で価値が高く、一般人がおいそれと手が出せる物ではないが需要は高い。

更に購入した伝声具を詳しく調べた所、この伝声具には特殊な加工がされており、対になる伝声具にしか声を届けない仕様となっていた。

その加工のお陰でただでさえ良い値段で取引される伝声具がさらに良い値段で売られていたらしいが、幸い金は掃いて捨てる程あった。


俺が今後復讐の旅を続けるにあたり、こういった遠距離通話用の魔法具(マジックアイテム)が必要になる場面が出てくるかも知れない。

なので俺はベルゼに仮面と一緒に伝声具を探して幾つか買って来いと指示を出していたのだが、早速使う時が来たらしい。


……今思えば、ガルドレが勝手にファブロの元へ行った時、事前に伝声具を持たせておけば勝手な行動を阻止出来たのではないか?

いやいやいや、伝声具はそれ1つで少なくとも数年は豪遊出来るくらいの金で取引される魔法具(マジックアイテム)だ。そんな価値のある物を奴隷如きに渡せるもんか。


それはさておき、ベルゼの言葉が事実なら面倒な事になった。こうして連絡を入れてきたという事は、ベルゼは無事なようだから良し。そのまま隠れている様に指示すれば良いか。


「栗色で長髪の男……わかった。ベルゼはそのまま隠れてろ」

『…… い、嫌です!ご助力します!戦闘でもライ様のお力になりたいです!』


しかし困った事にこのお嬢さんは俺の命令に異議を唱えた。


「ダメだ。お前、堕天したとはいえ神だから魔法はそこそこ使えるだろうが、白兵戦はからっきしだろ」

『そ、そうですが私は防御魔法や補助魔法が得意です! ライ様の援護くらいは出来ます!』

「……やれやれ」


これまで大抵の事は二つ返事で快諾してきただけに驚いたが、1時間程前、ベルゼは自分に出来る事があれば何でも頼めと言った。

ベルゼ自身もその言葉を覚えているから、戦闘でも俺の力になりたいと助力を申し出たのだろう。


俺はワガママお嬢様に溜息をつきつつも、状況を分析した。


ファブロの部下らしい10人は鎧や剣で武装している様だ。山積みになった品々を漁る俺の姿を見れば、戦闘となるのはまず間違いない。つまりこの10人の男は俺の敵。

ならば敵がまだ気付いていない今のうちに不意打ちを仕掛け、一気に殲滅した方が最も安全だ。


しかし此処は薄暗く狭い洞窟。隠し倉庫までの道のりには人が横に2人並べばつっかえてしまう様な所も多かった。敵は1列に並んで歩いているだろう。

という事は、1度に戦う相手は多くても2人。軍の精鋭ならいざ知らず、ファブロの部下程度なら先頭に居る敵を2、3人倒せば残りは算を乱して逃げ出す可能性がある。


そうなると、この迷路の様な洞窟内の地形を熟知しているだろう敵を全て排除するのは難しい。最終的に8人前後は倒せるだろうが、1人や2人は逃げ切る奴が出てくるかも知れない。

もし逃げられでもしたらファブロに報告が行くのは確実。そうなれば今後の展開に望ましくない余計なリスクが増えるかも知れない。


加えて言えば、洞窟という閉鎖空間故に俺が多用してきた…… というか、優先的に『熟練度』を上げた広範囲攻撃魔法(スキル)……例えば広範囲を火の海で呑み込む『滅却の業火』や、周囲に光の剣を降らす『蒼天の嘆き』は使えない。敵は一掃できるだろうが洞窟自体が崩落する危険があるからだ。


蘇った俺が真っ先に『熟練度』をあげた魔法(スキル)は、開けた場所で多くの敵を同時に仕留める為の攻撃系魔法(スキル)が大半。手狭な閉鎖空間で役立つ補助系、攻撃系魔法(スキル)の『熟練度』は後回しにしていた。


なので俺が取れる攻撃手段としては、『真王の覇道の剣』を用いた白兵戦しかない。


俺としては敵が逃げる前に一網打尽にしたかったが、ぶっちゃけ一網打尽に出来る自信がない。


「分かった。ベルゼは後ろから援護しろ。敵を挟み撃ちにするぞ」

『っ! はい!』

「『防御魔壁』は使えるか」

『問題なく!ですが『防御魔壁』は実体のある攻撃から身を守る為のモノですよ?何故『防御魔壁』を……』

「俺に考えがある。やり方次第で盾が槍になるって事を教えてやる。とにかくベルゼは俺が合図したら『防御魔壁』を使って敵の退路を塞げ」

『盾が槍に……?あ、なるほど!かしこまりました!』


だがベルゼが背後から敵を挟み撃ちし援護(サポート)してくれるなら話は別だ。


俺が今避けるべきは敵を逃す事。


洞窟という閉鎖的空間。限定された戦闘方法。自身とスキルの熟練度(レベル)不足。


それをベルゼが補ってくれるなら、援護の許可を出すのはやぶさかではない。

今まで白兵戦能力が皆無なベルゼには戦闘の際離れて隠れている様に言ってきたが、今後は援護くらいなら任せても良いかも知れない。


そんな事を考えつつ、思考を切り替えた俺はベルゼが『防御魔壁』という魔法(スキル)を使えるか確認した。


『防御魔壁』はベルゼが言った様に防御系の魔法(スキル)で、この魔法(スキル)は『火球』や『滅却の業火』『神風』、『蒼天の嘆き』といった攻撃系魔法(スキル)や、悪霊や精霊等、魔法(スキル)で生み出された攻撃を始め存在が希薄で明確な実体を持たない敵には通用しないが、実体を持つ攻撃や敵にはこれ以上ない効果を発揮する。


具体的に言えば剣や槍等の武器から人体に至るまで、要は明確な実体を持つモノが『防御魔壁』に触れれば、その物体を、その箇所を即座に消滅させる事が出来る高位防御魔法(スキル)なのだ。


俺でも使えないこの高位防御系魔法(スキル)は、敵が攻撃魔法(スキル)の使い手でない限り実体を持つ対人戦には非常に有効。

ベルゼが背後の逃げ道を塞ぐ様に『防御魔壁』を展開してくれれば、敵は袋の鼠になる。前方には野盗程度なら拳1つで殺せる俺。後方には凶悪極まりない魔法(スキル)の壁を展開するベルゼ。要は挟み撃ちの形になる訳だ。


本来盾として使う魔法(スキル)を、俺は狭い空間で戦う為の武器にしようと思い付いた。敵からしたらまさに前門の虎後門の狼といった所か。通信が切れる直前のベルゼの言葉から判断するに、ベルゼにも俺の意図が伝わったと見て問題ないだろう。


補足で説明するが、『防御魔壁』は1度発現させる度に『20000』とバカみたいな量の保有魔力(マジックポイント)を消費する。しかしベルゼは俺より劣るとはいえ、数値換算にして『600000』と膨大な保有魔力(マジックポイント)を有していた。


世界最強の魔法使いと呼ばれ、この世で最も保有魔力(マジックポイント)を有しているという8英雄の魔法使いでさえ、保有魔力(マジックポイント)は『450000』程度しかないのだが、その魔法使いも連続で発現させていた『防御魔壁』。これくらいの魔法(スキル)ならば、ベルゼの魔力が枯渇し宝珠の緊急停止装置が発動して休眠状態に陥る事はないだろう。


「だ、旦那もう逃げましょうや! ファブロ旦那の部下で栗色の長髪男って言ったら彼奴しか……彼奴しかいねぇ!殺される前に早く!」

「あ〜喚くな鬱陶しい。テメェはコレに木箱ぶち込んどけ」


勝算あり。


そう判断した直後、恐怖に顔を歪めるガルドレが服の袖を引っ張ってきた。

ガルドレはベルゼが言っていた栗色で長髪の男に心当たりがある様で、それが恐怖を助長させているらしい。


むさ苦しい男の泣きそうな顔など気持ち悪いだけ。快感も征服感も何も浮かばない。

これ以上この顔を見ていたら本当に気分が悪くなりそうなので、お前はろくに魔法も使えない肉体労働用の奴隷なのだから、せめて黙って手でも動かしてろ。と内心毒づきながらガルドレに『恒久の革袋』を投げつけ、ファブロの悪事の証拠となる強奪品の数々を収納する様に命じる。


「お、来たな」


『恒久の革袋』を受け取り、ブツブツと死ぬだの殺されるだの呟きながら木箱を収納し始めたガルドレ。

正直まだ鬱陶しいが、縋り付かれるよりマシだ。

そう感じていると、扉の向こうに幾つか人の気配を察した。



▼▼▼▼▼▼▼▼



ライ様達が洞窟に入ってから30分程経った。


私は念の為に木々の間に隠す様に停車させた馬車の脇に腰掛けて、静かに洞窟内部へと繋がる入り口に目を向ける。

ガルドレさんの話では、商隊(キャラバン)等から強奪した品々は一旦此処に運び込まれているらしい。

ライ様は其れ等を使い、自身を裏切った者を絶望のどん底に突き落とす腹積もりの様だ。


ライ様が教えてくれた計画を頭に浮かべ、私は今後の展開を予想する。ライ様も人が悪い。ただ殺すだけでは物足らず、地獄を見せてから殺すなんて。

しかしそれも当然。ライ様はそうしなければ癒えない程の傷を心に負われた。


私は『復讐ノ誓イ』でライ様の今までの人生を追体験した。


訳も分からずこの世界に連れて来られ、罵声や怒号を浴びせられ、理不尽な要求を突き付けられたライ様。半ば咎人の様に地下牢で過ごしていたライ様。忌々しい異世界人と、負の目線と言葉を向けられ続けたライ様。

漸く信じるに値すると思った人達と巡り会えたと思った矢先、その人達に裏切られ、汚名を着せられ処刑されたライ様。


親愛なるライ様を裏切った者は地獄に突き落とされて当然。自業自得。因果応報。ライ様からしても、その復讐を共有し理解した私からしても当然の報い。許す事は出来ない。


私はライ様の力になると決めた。ライ様が救いなんてモノが存在しない復讐の道を突き進むなら、私は笑って隣を歩もうと決めた。私は何があっても、名と約束を授けてくれたライ様と共に居ようと決めた。


「……車輪が転がる音?」


改めてライ様の事を思うと心に温かい気持ちが広がる。


堕天して以来感じた事のない……いや、堕天する前ですら感じた事のなかった感情に自然と目元が緩む。

そんな心地いい気持ちに浸っていると、心に土足で踏み込む様な不快で大きな音が耳についた。


「ファブロの旦那、倉庫の前に着きました」

「あれは……」

「……かしこまりました。これより【備品の移動】を開始します」


幸福な時間を邪魔された私は、眉間にシワを寄せつつ身を屈めて林の隙間から様子をうかがう。洞窟の前に何台も馬車が停まった。停まったのは4台の大きな馬車とやや小ぶりな馬車の計5台。


その小ぶりな馬車から、栗色の長い髪を靡かせ腰に2本の短刀をぶら下げる男性を先頭に、胸当を着用し剣で武装した9名の男性が降りてくる。


長髪の男性は『伝声具』を使い会話をしていた。


「隊長。護衛商隊、準備完了です」

「よし、行くぞ」

「備品?護衛商隊?」


武装した男性達は発光鉱石が埋め込まれたランタンを腰に括り付け、一列になって洞窟内へ入っていった。


初めて聞く単語に私は立ち上がりながら頭を捻る。しかし長髪の男性は確かにファブロと…… ライ様が憎しみを向ける相手の名前を言っていた。


となれば、口振りと状況から判断するに彼等はファブロの部下で、備品とはこの隠し倉庫に隠されている品々の事を指しているのだろう。護衛商隊というのはあの人達の部隊名?


「……あ!」


何となく言葉の意味を推測していた私は大切な事を思い出した。


既に洞窟内部にはライ様が居るという事を。


このままでは先程の男性達とライ様が鉢合わせしてしまう。以下にライ様が優れた白兵戦能力を有しているとは言え、不意打ちされればレベルの低い今のライ様では苦戦してしまうかも知れない。


私は慌ててケープの内ポケットから『伝声具』を取り出し、声を投げ掛けた。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「着いたな…… お前達、協力して備品を運び出せ」

「うっす。しっかし隊長、何でまた旦那は急に備品を移動させる事にしたんですかい?」

「旦那が言うには、旦那は一昨日から何者かに監視されているらしい。心配性の旦那は、監視者はこの隠し倉庫の場所を探っているのかも知れないと警戒している。そこで隠し倉庫の場所を知られる前に、可能な限りお得意様方へ売り払えとの事だ」

「なるほど。金で雇った奴等に奪わせた商品を横流ししてるなんてバレたら信用ガタ落ち。一大事っすもんね」

「そうなったら俺達ぁまた勤め先を失う事になるなぁ」

「こんな天国みてぇな職場失わせてたまるかってんだ」

「だな。仕事がなくて野盗に向かって一直線だった俺達【毒蛇隊】に、旦那は充分な金と住処、あと楽な仕事まで提供してくれたんだ。せめて給料分は真面目に働くさ」

「それに今回は特別手当も出るみてぇだしな!」


扉の向こう側から男達の話し声が聞こえる。ベルゼが言っていた男達が倉庫前に着いたらしい。


しかし興味深い話だ。


俺は一昨日までの内に、ファブロ以外の4大商人へファブロの悪事をそれとなく伝えていた。その中の誰かが俺が伝えた情報が真実かどうか探りを入れたのだろう。

その探りの存在に気付いたファブロは、悪事の証拠となる品々を早急に売り払う事にした様だ。


「『我に授けよ 闇を見通す眼を 我に授けよ 闇夜に迷わぬ瞳を 暗視眼』……よっと」

「ぐぶぉあ!?」

「な、何だ!」


しかし何にせよ、今は此奴等を無力化する事にだけ集中しよう。


扉のドアノブがガチャリと音を立てて回る。俺は『篝火』を消し、夜中でも周囲が真昼間の様に見える魔法(スキル)『暗視眼』を発動させる。(ちなみに『暗視眼』は保有魔力(マジックポイント)を『2000』消費する。)

そして同時に『真王の覇道の剣』を抜き放ちつつ扉を思いっきり蹴り飛ばした。蝶番が外れた扉が派手に吹き飛び、ドアノブに手を掛けていた男共々地面に沈む。


「こんにちはぁあ」


扉の向こうには油断しきった顔の男達が居た。事前にベルゼが伝えてくれた様に、男達は刀身がやや短い剣や白銀の胸当を付けているのが『暗視眼』の効果ではっきり分かる。ついでに言えば、男達の腰には発光鉱石が埋め込まれたランタンが吊るしてあった。これならわざわざ『暗視眼』を発動させなくても良かったかも知れない。


ちなみに俺は『鑑定眼』も発動させたままだった。


洞窟の内部なのにまるで太陽の下に居るかの様な錯覚を感じると同時に、男達へ向けた網膜に男達が纏う防具や武器の情報、更には現時点でのレベルや数値化さた基礎能力等が浮かび上がった。


『鑑定眼』によると男達の平均レベルは『60』台。HP(ヒットポイント)は『4000』前後で『保有魔力(マジックポイント)』は『2000』程。『基礎攻撃力』の平均は『600』に『基礎防御力』は『500』前後。その他魔法防御力や魔法攻撃力といった数値は『400』〜『700』の間。


男達の基礎能力は俺より2〜3割程優れていた。


加えて男達が身に付けている銀製の胸当には『硬質化加護』と『対魔法防御力向上加護』が。腰にぶら下げた武器には『対人攻撃力向上加護』、更には『火属性加護』や『水属性加護』、『風属性加護』といった属性攻撃を放てる様になる加護まで付与(エンチャント)されていた。


「ほぉ、中々な装備だな。んじゃ御機嫌よう」


ガルドレなどより格段に良い装備を纏う敵。俺よりも基礎能力が優れている男達。『真王の覇道の剣』を抜いておいて良かった。


『真王の覇道の剣』がどれくらい有用か確認する事が出来る。


俺は慌てた様子で剣を抜く男達の奥にいる栗色の髪の男を…… 腰に2本の短刀を指し、不意打ちにも動じず俺を見つめる長髪の男を一瞥し、手前に居る男達に紅い刀身の剣を突き出す。


「ぐぎゃあ!」

「がぁあ!?」

「ゴフッ……」

「お〜 いい切れ味だ」


臨戦態勢を取った男達の胸へと目掛け、フェンシングの突きの様に放った攻撃はスルリと胸当を貫いた。


男達が身に付けている胸当は、胸当自体が持つ『基礎防御力』にプラスし、付与(エンチャント)された加護の効果で防御力が更に増していた。

数値で説明するなら男達が着用する胸当の『基礎防御力』は『2000』。これは一般的な鉄防具の平均的防御力だ。しかし付与(エンチャント)された『硬質化加護』の効果で、その数値は『3500』にまで跳ね上がっている。

そこに着用者自身の『基礎防御力』が加わる事で、男達の総合防御力は『4000』前後となっていた。


記憶にある各国の正規軍を参照すると、騎士や重装歩兵は別として、一般的な兵士の『総合防御力』は大体『3000』前後。


つまり、俺の目の前に居る男達は並みの兵士より優れた防御力を持っている事になる。


だが、俺の持つ『真王の覇道の剣』は『基礎攻撃力』だけで『5000』もあった。この数値は付与(エンチャント)されている『属性加護』等を発動していない場合での数値。


武器の持つ攻撃力が防具の防御力より高ければ、防具は武器の攻撃を完璧に防ぐ事は出来ず、場所によっては一撃で絶命する。


冥府(ヘレ)の主人の遺品、『真王の覇道の剣』はまるで豆腐でも切るかの様に、なんら抵抗を感じる事なく男達の胸当を、心臓を貫いた。


「あ……あぁぁあああ!!」

「や、ヤベェ!此奴ヤベェぞ!逃げろ!」

「ベルゼ!今だ!」

「はい! 『いでよ万物を滅せし守護の壁 浄化の魔壁 実体ある脅威から我を守らん! 防御魔壁!』」


そして俺の予想通り、不意を突かれ仲間が瞬殺される瞬間を目の当たりにし、勝てないと瞬時に理解した数名が背中を向けて逃げ出した。

その行動は合理的だ。彼等は死ぬまで戦う事を義務付けられた生粋の兵士ではないから。


だから今の俺からしたら厄介だ。逆に任務に忠実な兵士の如く逃げずに戦って欲しい。しかしそれは叶いそうにないので、俺は声を張り上げ、伝声具に伝わる様にベルゼへ合図を送る。

すると既に近くまで来て岩の陰に隠れていたらしいベルゼが『防御魔壁』の呪文を詠唱した。


「ぐぎぁぁぁぁあ!!手が、俺の手がぁぁあ!!」


洞窟内部が眩い光に包まれる。光が収まると、半透明の白い光の壁が道を塞ぐ様に鎮座していた。直後聞こえたのは男の絶叫。運悪く『防御魔壁』に触れたのだろう男の腕は、手首から先が無くなっていた。


「こ、これ『防御魔壁』ってヤツか!?」

「く、クソ!」

「畜生!死ねやこの野郎!」

「ほっほっほっと」

「「「ぎゃぁあ!?」」」

「っほ〜! こうもスパッといくと気持ちいいなぁ」


絶叫が反響する洞窟内部。手が消滅した男を見て光の壁が『防御魔壁』だと悟った男達。同時に退路を断たれたと悟った男達は、此方に向かって突っ込んでくる。俺を人質に取る為か、もしくは俺だけでも道連れにして殺そうと判断したのだろう。


そうはさせるかバーカ。


俺は薄っすら笑みを浮かべながら『真王の覇道の剣』をほんの少し振り上げ、残っていた男達を切り捨てる。


男達の武具は並より多少は良いモノだったが、『真王の覇道の剣』の前では紙にも等しかった。


いやぁ良い物が手に入って良かった良かった。


「さて、あとはテメェだけだな。レベル『92』か。レベルが90以上の奴を見るのは久し振りだなぁ」

「お前、『鑑定眼』持ちか」


洞窟は血の匂いで満たされた。折り重なる死体は全て一太刀で絶命している。

優れた武器とベルゼの援護(サポート)のお陰で苦戦はしなかったが、1人残っているこの男は違う。


長い栗色の長髪の下で光る目は貫禄に溢れ、一見細身な体からは野盗等とは比べ物にならない殺気と闘気が漂っている。


そしてレベルは『92』と俺の倍近い。加えて『基礎攻撃力』や『基礎防御力』も軒並み『1000』を超えていた。防具や武器も、地べたに転がる男達より格段に良い物を身に付けている。


8英雄共には遠く及ばないとは言え、今の俺には中々の強敵。ここに武具の加護が加わっているのでこれまでの雑魚相手と同じ様にはいかないだろう。


何よりこの長髪の男は仲間が死んでも平然としてるし、戦慣れしている雰囲気もプンプンだ。


「おう。テメェは他の雑魚共と違って装備の質も良いし強ぇんだな。ってか、お前どっかで見た事……」

「死ね」

「っと、テメェ……まだ俺が喋ってただろぉが!」


長髪の男は俺が喋っている途中だと言うのに、いきなり喉元と眼球目掛けて短剣を突き刺してきた。

何とか『真王の覇道の剣』と『真王の籠手(ガントレット)』で防いだが、今のはヒヤッとした。


まるで蛇の様に滑るかの如き足捌き。しなやかな攻撃。初撃から急所を狙う躊躇いのなさ。隙があれば直ぐに襲ってくる狡猾さ。


やはり此奴は相当に場慣れしている。


と言うか……


「あ〜! 思い出したぜ〜! 」


ベルゼから下げ栗色で長髪の男が云々の話を聞いた時、妙に引っかかる部分があったのだが短剣での攻撃を受けて、漸くその引っかかりの原因が分かった。


この男を俺は知っている。


この男は、所謂戦場の伝説と呼ばれる男だった。




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