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12話 邪魔者 2


平成が終わるまで残り1週間なので、平成最後にブクマや感想お願いします





「長い栗色の髪に2本の短剣使い。それと毒蛇(どくじゃ)隊……テメェ【切り裂き毒蛇(ヴィーパー)】か! 」


ボンヤリと光を放つ発光鉱石に照らされ、スラッとした男の姿が浮かび上がる。『暗視眼』を通して見える男の痩躯。鍔迫り合いしている男の体に無駄な贅肉は無く、その細い体は弱々しいという印象すら与えかねない。


が違う。


此奴が纏うのは極限まで脂肪を削ぎ落とし鍛え上げた筋肉。余計な贅肉を全て絞り上げた肉体。人に見せびらかす為だけに蓄えた様な、見栄えが良いだけのデカい筋肉とは根本から別物。腕力に物を言わせた乱暴な肉弾戦を勝ち抜く為ではなく、素早く的確に敵を葬る事に特化した筋肉だ。


鍔迫り合いをしているとよく分かる。


俺の体は完全に蘇っていた。蘇った直後に感じていた倦怠感や疲労感は完全に払拭されていた。


なのに此奴に押し勝つ事が出来ない。


防具に付与(エンチャント)されている加護のお陰で身体能力が底上げされている筈なのに。


つまりそれだけ此奴の実力が高い事の証明。俺は思わず笑みを浮かべた。


戦場では様々な伝説が生まれる。


1人で100人の敵を倒したとか、数百メートル離れた将を弓で射抜いたとか、そんな感じの何処までが本当で何処までが嘘か分からない与太話。


しかし此奴は、目の前にいる此奴は違う。此奴は紛れも無い戦場の伝説として、同盟軍内外でも話題になった男。


戦場でも目を引く長い栗色の長髪。腰に下げた2本の短剣。数多の戦場を渡り歩いてきた事で醸し出される独特の雰囲気。ちょっとやそっとの物事には動じない胆力。少数精鋭の傭兵団毒蛇(どくじゃ)隊を組織し、指揮してきた男。


最強の傭兵。短剣の達人。2本短剣(ツー・ダガー)。蛇。切り裂き魔。様々な異名を持つ男。正真正銘、伝説の傭兵。


実際に戦う姿こそ見た事は無いが、俺はこの特徴的な男の噂を何度か戦場で耳にした事があった。噂通りの見た目だけに、戦場で語られていた伝説にも信憑性がある。


「いや〜こんな所で会えるなんて光栄だ、ぜっ!」

「っ!」


そんな伝説になっている男の腹を蹴り飛ばす。前蹴りの要領だ。


真王の脛当(グリーブ)』を始めとした武具に付与(エンチャント)された『基礎攻撃力向上加護』やら『対人攻撃力向上加護』やら『身体能力向上加護』の効果にプラスし、俺が本来持つ基礎攻撃力が合わさった事で、今の蹴りは少なく見積もっても『総合攻撃力』は『4000』くらいの威力はあった。


「……ちっ、強いな」

「ひゅ〜」

「ラ……ハデス様! その人は強いです!気を抜かずに!」


先程切り捨てた雑魚程度なら1発で無力化出来る程の威力を持った前蹴り。


しかし此奴は俺の足裏が胸に直撃する瞬間後方へ跳ね、蹴りの威力を軽減した。更に『基礎防御力』だけで『3800』もあり、加えて『硬質化加護』も備わる胸当が微かに伝わっただろう衝撃すら吸収した様で、毒蛇(ヴィーパー)は平然としながら足蹴にされた事に対して舌打ちし、此方を睨み付けてくる。


最も毒蛇(ヴィーパー)の『総合防御力』は『6250』もあるから、仮に今の蹴りが直撃しても殺すまでには至らなかったろう。


それと俺が言った切り裂き毒蛇(ヴィーパー)という単語に否定も肯定もしないという事は、此奴は伝説の傭兵で間違いないと判断して良い。


俺の不意打ちを避けた時点で疑う余地はないが。


「わーってるよ。お前こそ集中して『防御魔壁』展開してろ」

「……俺は『鑑定眼』が使えないが分かるぞ」

「あ?」

「その武具、【神話級】の性能を秘めているな。お前自体の基礎能力はそこまで高くない…… しかし身に付けた武具がお前の戦闘能力を底上げしている」


ベルゼもこの男は一筋縄ではいかないと今の僅かな攻防で理解出来たらしく、呑気に口笛を吹いた俺に注意を促す。

そんな俺達を他所に、毒蛇(ヴィーパー)は俺の能力を冷静に分析していた。


鑑定眼も無しに武具の性能や俺の基礎能力が分かったのは、流石伝説の傭兵と呼ばれているだけの事はある。


ちなみに神話級と言うのは武具を性能毎にランク付けする際に使われる単語だ。

武具は性能の低い順から、【粗悪品】【低級品】【量産品】【中級品】【上級品】【業物】【神話級】に分類(カテゴライズ)される。


『真王の覇道の剣』や『真王の胸当』等は、毒蛇(ヴィーパー)がいった様に確かに神話級の性能を持っていた。


神話級の武具ともなると、それ1つで国家の軍を壊滅させる事も不可能ではないと言われる。こういった神話級の武具は大抵は国の管理下に置かれ厳重に保管されているものだが、『真王の覇道の剣』や『真王の胸当(ブレストプレート)』等が納められていた死者の宮殿(トーテンパラスト)並びに冥府(ヘレ)は、どの国の領地でもなければ住んでいる人も居ない。


骸の王の所有物であった『真王の覇道の剣』等は、言わば忘れ去られた神話級武具と言った所か。


そして武具をカテゴリングする際には基礎性能と付与(エンチャント)されている加護の種類及び効果が重要になる。


『基礎攻撃力』や『基礎防御力』が高い事が重要なのは勿論だが、付与(エンチャント)されている加護の種類が多ければ多い程、またその効果が高ければ高い程武具のランクも上がる。


『真王の覇道の剣』を例に出せば、この剣の『基礎攻撃力』は『5000』と俺が知っている神話級武器の中では最弱だが、その分付与(エンチャント)されている加護の数は桁違いに多く、様々な効果を持ち合わせていた。


加護は主に量産品以上の武具に付与(エンチャント)され、中級品でその数は1から2。上級品で3から4。業物で5から6。神話級で7から多くても10だと言われる。

しかし『真王の覇道の剣』は『基礎攻撃力』が控えめな代わりに10以上の加護が付与(エンチャント)されていた。


毒蛇(ヴィーパー)が持つ武器『魔滅の短剣』の『基礎攻撃力』は『3500』。付与(エンチャント)されている加護は『風属性加護』『属性攻撃力向上加護』『対人攻撃力向上加護』『基礎攻撃力向上加護』『身体能力向上加護』の計5つ。カテゴリ的には業物になる。(ちなみに『身体能力向上加護』とは使用者の反射神経や俊敏性を底上げする加護だ。『真王の覇道の剣』にも付与(エンチャント)されている。)


単純な性能だけ見れば、『魔滅の短剣』は『真王の覇道の剣』には及ばない。


だが『真王の覇道の剣』も『魔滅の短剣』も所詮は道具。使い手次第でその性能は飛躍的に上がるし、逆もまた然り。


「お〜、いい観察眼だ。圧倒的に不利な状況下でも生き残ってこれた秘訣は、その観察眼と高い身体能力のおかげか」


しかし此奴にドジは期待出来ない。毒蛇(ヴィーパー)は短剣の扱いに関しては間違いなく練達した技術を持つ使い手だからだ。


【切り裂き毒蛇(ヴィーパー)


戦場に立った事のある奴なら、1度は聞いた事がある名前だと皆は言う。


毒蛇(ヴィーパー)というのが本名か偽名かは定かではないが、蛇の様にしなやかに動きと、2本の短剣で魔王軍を血祭りに上げてきたこの男にはピッタリの名前だ。


執拗に急所のみ狙う姿はまさに狡猾な蛇。襲った相手に死を齎す2本の短剣は蛇の牙を思わせる。

その短剣から滴る赤黒い血が、蛇の牙から滴る毒液の様に見えた事で広まったと言われる2つ名。


切り裂き毒蛇(ヴィーパー)が切り裂き毒蛇(ヴィーパー)と呼ばれる所以。


「曰く撤退戦の殿(しんがり)を命じられても、逆に迫り来る魔王軍を返り討ちにして部隊に1人の犠牲も出さず帰還した傭兵部隊の隊長。曰く乱戦の最中、単身敵本陣に吶喊し敵将の首級を挙げた男。曰く同盟軍からもその戦闘力の高さ故恐れられた毒蛇(ヴィーパー)。おぉ怖い怖い」

「よく喋る男だな」

「いや〜、そんな奴がファブロの犬に成り下がってるのが面白くてなぁあ」

「……」


血が湧き上がる。肉が踊る。久方ぶりに感じる肌を焦がす様なピリピリとした感覚。体に纏わり付く様な重苦しい空気。ガルドレ達を相手にした時には感じなかった感情。


鼓動が微かに早くなる。内から湧き上がる衝動に顔が熱を帯びる。


ヘタを踏めば死ぬ。だがそれが良い。


俺は生きているのだと実感出来る。


俺は1度死んだ。しかし1度死んだが故に、命のやり取りをする戦いの最中でも生を実感出来る。文字通り生まれ変わった様な感覚だ。


肌を焼く様な緊張感。鼻をつく血の匂い。冷たい剣の光。対峙する敵の顔。

生きているからこそ感じる事の出来る空気。見る事の出来る景色。



アァ、俺ハ生キテイルンダ。憎イ彼奴等にも復讐出来ルンダ。



そう実感する事が出来る。心臓が命の鼓動を刻んでいる証。生きている証明。


この感覚が嬉しくて、俺はつい饒舌になっていた。

当然もう1度死ぬのは御免被るが。


「俺はなんと呼ばれていようがただの傭兵。今の雇い主がファブロの旦那で、旦那は俺達を金で買った。なら俺はその給料に見合った働きをする。それだけだ」

「それでこそ傭兵。まぁ? 俺としては『真王の覇道の剣(こいつ)』の能力を確かめるのに協力してもうらたけだがな。簡単にくたばってくれるなよ?」

「小僧…… あまり俺をなめるなよ」


毒蛇(ヴィーパー)自身も自分の2つ名は承知しているだろう。その名を聞けば味方ですら萎縮する。畏怖を持って呼ばれていた2つ名。

にも関わらず、俺が切り裂き毒蛇(ヴィーパー)と言う2つ名を知っていても尚、笑みを浮かべて声を発している姿が傭兵としてのプライドを逆なでにしたらしい。


「『風斬り』!」

「っ!『岩盾』!」


毒蛇(ヴィーパー)は脱力し緩んだ鞭の様な空気を纏った。短剣を手にした腕をダラリと垂らす姿は隙だらけの様に見えるが、隙な訳がない。


あの構えは誘い。もしくは攻撃に移る際のモーション。


素早く脳内でそう結論付けた瞬間、毒蛇(ヴィーパー)が体を屈め飛びかかって来た。地面を這う様に迫り、両手に持つ『魔滅の短剣』に付与(エンチャント)されている『風属性加護』の効果を発動させ、刃に風を纏わせた。


風の振動により斬撃の威力を更に高める『風属性』の攻撃『風斬り』


その攻撃に対抗する為、俺は『真王の覇道の剣』に付与(エンチャント)された『土属性加護』を発動させる。すると鍔の部分に埋め込まれた宝石が輝き、宝石を中心に岩の盾が出現した。


「土属性の加護か」

「大正解〜 んじゃ今度はコッチから行くぜぇえ?『碧焔』!」

「小僧! 『風避け』!」


生身なら俺の体はスッパリ一刀両断されただろう風斬り。だが『真王の胸当(ブレストプレート)』に付与(エンチャント)された『属性防御力向上加護』と『真王の覇道の剣』の『武具防御力向上加護』により硬度を増した岩の盾は、風を纏う刃と激突しても甲高い音を響かせるが欠ける事はない。


風が岩を切り裂ける訳がないのだ。


やっぱこの武具達は有用だ。


俺は予想以上の性能に目を細め、今度は『火属性加護』を発動し刃に碧い火を纏わせて、切っ先を毒蛇(ヴィーパー)の胸元目掛けて突き出した。


突きと共に碧い炎が暴れ狂い、拡散し毒蛇(ヴィーパー)に襲い掛かる。


が、毒蛇(ヴィーパー)は短剣で『真王の覇道の剣』の切っ先を逸らすと同時に、体を捻りながら襲いかかった火の粉を避け『風』で拡散させる。


「ん〜、やっぱチョコマカ動き回られると攻撃が当たんねぇなぁ。そんじゃお次はコレだな『氷結』!」

「冷気を帯びた刀身! まさか『水属性加護』と『風属性加護』を混成した『氷属性加護』か!?以下に神話級の武具とは言え幾つの属性加護を持ってる!?」

「所謂『属性』って呼ばれる加護なら全部持ってますけどぉお?」

「な、なんだと……!」

「おら凍れや!」

「ぐわぁ!?」


毒蛇(ヴィーパー)の素早い身のこなしの所為で有効打が与えられない。


悩んだ俺は仮面の下で口角を上げ、『水属性』と『風属性』の加護を同時に発動させ剣に冷気を纏わせた。

武器に2つ以上の属性加護が付与(エンチャント)されている場合、2つの異なる属性を同時に発動させる事で、別種の属性を発動させる事が出来る。


今発動させたのは『氷属性加護』


詳しい原理までは分からないが、『水属性』と『風属性』の加護を同時に発動させると、加護は『氷属性』に変化し『氷属性』を持った攻撃や防御を行える様になる。


俺が披露した『属性加護』は現時点で4種類。厳密に言えば5種類だがら、これ以外にもまだ『属性加護』は存在する。


その全てを『真王の覇道の剣』は持っている。それ故に仲間の死ですら動揺しなかった毒蛇(ヴィーパー)は驚きの声をあげた。


そんな毒蛇(ヴィーパー)の足元に俺は剣を振るい冷気をぶつける。直後、毒蛇(ヴィーパー)の足が凍り付いた。


「これで動けねぇだろ? さぁてお楽しみの時間だぜぇええ?」

「ぐっ…… くぅぅう! クソ!クソ!! ま、待て! やめ……あ、あぁぁぁ!!」

「『その光は生命の灯火 その温もりは生者の熱 血潮は流れ生命を紡ぐ 繋げ 汝の命 癒しの加護(ヒール)』からのぉお〜!『雷牙』!『風斬り』!『土塊』!『光刄』!『水扇』!」

「ぐぎゃぁぁぁぁあ!!」


機動力を削がれた敵程脆いモノはない。


戦場において逃げる手立てが無くなり、かつ目の前に自分と同等かそれ以上の実力を持つ敵が居た場合、その後待っているのは嬲り殺しの未来。


それを誰よりも理解している傭兵は踠いて足を動かそうとするが、完璧に凍り付き地面に固定された足が動く事はない。本来の動きを封じられ、毒蛇(ヴィーパー)は焦りに顔を歪め、俺を近づけまいと滅茶苦茶に『魔滅の短剣』を振るう。


俺は罠に掛かった獲物を見る狩人の様に、『癒しの加護(ヒール)』の呪文を詠唱しながらゆっくりと毒蛇に近付く。


洞窟内に伝説の傭兵の絶叫が反響した。



▼▼▼▼▼▼▼▼



「ふぅ、疲れた」

「た、頼む……もう勘弁してくれ……」

「ん〜、『真王の覇道の剣(こいつ)』の持つ性能もだいたい把握出来たし許してやるか」


戦闘開始からどれくらい時間が経っただろう。俺は微かに額に浮かぶ汗を拭いながらサッパリした気持ちに浸る。


そんな俺とは打って変わり、足元には胸に大きな傷を作り左足右腕を切り落とされ、右足を真っ黒焦げにし左腕を潰された全身ずぶ濡れの毒蛇ヴィーパーが、満身創痍といった様子で転がっていた。


俺は毒蛇ヴィーパーが死なない様に『癒しの加護(ヒール)』を何度も使用しつつ、『真王の覇道の剣』に備わる全ての属性加護の性能を確かめた。


ぶっちゃけ毒蛇(ヴィーパー)を人体実験の材料にした訳だが、こんな状態でもまだ生きているなんて凄ぇな。


癒しの加護(ヒール)』は治癒力と生命力を高め怪我を治す魔法(スキル)。その効果と『真王の覇道の剣』が持つ『魔法(スキル)効果向上加護』によって毒蛇(ヴィーパー)の生命力が極限まで高められている為か?


何にせよ、今の俺ならこれくらいの怪我をしている人を生かし続ける事が出来るのだと分かった。もし今後拷問をする機会があれば、少しでも長く苦痛を堪能してもらう為に『癒しの加護(ヒール)』や更に上の上位回復魔法(スキル)を使いながら甚振ってやろう。


毒蛇(ヴィーパー)は俺の実験に良く協力してくれた。もう此奴に用はない。殺すか。


「苦しめて悪かったな。今楽にしてやるよ」

「ま、待て…… 何をして……」

「ん? 楽にしてやるって言ってんだよ」


血が足りないのか青白い顔を僅かに動かす毒蛇ヴィーパー。既に瀕死な伝説の傭兵に俺は慈悲を与える事にした。


「おやすみ」

「た、頼む……助けてくれ……何でもするから……」

「ほう?」


地べたに仰向けに転がる毒蛇ヴィーパーを跨いで『真王の覇道の剣』を下に構える。そのまま全体重を乗せて心臓を突き刺そうとしたが、毒蛇(ヴィーパー)の命乞いが俺の興味を誘った。



▼▼▼▼▼▼▼▼



ピーン。


「お、レベルが上がったな」


久し振りに戦闘らしい戦闘を終えた俺の脳裏に間の抜けた音が響いた。

この音はレベルが上がる度にそれを告げる音。俺は状態確認画面ステータス・ウィンドウを開く。


画面には先程の戦闘記録(ログ)が書かれていた。それを流し見しつつ俺は自身のレベルに目を向ける。レベルは『48』から『65』に上がっていた。


「おぉ、やっぱ自分のレベルより高い奴に勝つと一気にレベルが上がるな」

「お疲れ様でしたライ様。レベルアップおめでとうございます」

「おう。今回の戦闘は良い経験になったぜ」

「だ、旦那お待たせしました」


一気に17も上がったレベルを見て目を細めていると、『防御魔壁』を解除したベルゼが駆け寄ってくる。

それとほぼ同時に、『恒久の革袋』に全ての木箱を収納したガルドレが声を掛けてきた。


振り返ると其処彼処に積まれていた木箱は綺麗さっぱり姿を消し、ほぼ見えなかった地肌が顔をのぞかせている。


「ご苦労」

「しかしライ様、良かったのですか?」

毒蛇(ヴィーパー)の事か?あぁ、良い。それより急ぐぞ。ファブロの野郎、このままだとトンズラしかけねぇ。ガルドレ入り口まで案内しろ」


ファブロの悪事の証拠の強奪品は全て回収し、邪魔者も排除した。もう此処に用はない。

予想より早く事態が動いている様なので俺は返り血を拭いつつ、『篝火』を発動させ急ぎ入り口まで戻った。



▼▼▼▼▼▼▼



隠し倉庫がある洞窟から外に出ると日がだいぶ傾いていた。

ファブロが所有する隠し倉庫から出た俺達は、急いでガセナール商国連邦に向かった。


現在の時刻は午後4時くらいだろうか。

午前中はガセナール商国連邦周辺に居た野盗共を捉え、午後は隠し倉庫での証拠品押収に費やした。正直やや疲労を感じるが、毒蛇(ヴィーパー)と戦ってから時間が経ってない事もありアドレナリンが出まくっている。


「ガルドレ、このままファブロ以外の4大商人の所に向かえ! 今日ファブロの野郎を潰す!」


そのアドレナリンと予想より早い事態の進行に流され、俺は今日、このままファブロへの復讐を決行する事にした。


「ふふ……楽しみだ」

「ん? ら、ライ様!検問です」


正面にガセナール商国連邦内に通じる門が見える。漸くファブロの野郎に絶望を届ける事が出来る。復讐する事が出来る。


絶望に染まるファブロの顔を想像すると口角が緩む。目尻が下がる。思わず声が漏れた。

そんな時、門に目線を向けていたベルゼが叫んだ。


「あれは…… ガセナール商国連邦の兵だな」

「そこの馬車停まれ!」


門の前には簡易的な木製の馬防柵が設置され、煌びやかな鎧を纏う50人程のガセナール商国連邦の兵士が行き交う行商人や商隊(キャラバン)に声を掛け、他の50人程の兵士が門の守りを固めていた。


まるで戦争時を思わせる物々しい雰囲気が周囲に立ち込めている。こんな光景を見るのも久しぶりだな。などと物思いにふけっていると、俺達が乗る馬車にも当然の様に兵士が近寄って来た。


「だ、旦那」

「検問なんて物騒だな。何かあったのか?」

「これはこれはハデス様」


不安に顔を歪めるガルドレに大人しくしていろと手で制し、馬車から降りた俺は駆け寄ってきた兵士に声を掛ける。その時、聞き覚えのある声が俺の偽名を呼んだ。


「おやおやこれは皆さん。一体全体何事ですかな?」


声のした方向に仮面を付けた顔を向ける。そこに居たのは4大商人の1人、南地区代表のゴードン。そして先日取引を交わした西地区、東地区の代表。この国の代表とも言っていい3人の男が此方を見つめていた。


「えぇ、実はハデス様を探していたのです」

「俺を?」

「はい。ハデス様、貴方を拘束させて頂きます」


不意にゴードンが手を挙げた。それを合図に門を守っていた兵士が俺達を取り囲んだ。



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