宝石泥棒は恋敵(7)
「ごめんなさい、アレク、外まで連れて行く約束だったのに」
「すまない無理させて、彼らの動きを見させてもらったよ」
状況が掴めずにいる僕達に、アレクは話しを進める。
「動きは悪くない、だけど・・・」
「おい、何言ってんだ。お前・・・グッ・・・」
「今から話すから、黙ってな」
「拘束魔法、速すぎだよ」
僕は剣を鞘に納めた。
「話しを聞きます。魔法を解いて下さい」
「流石、弓術士、理解が早くて助かるよ」
アレクはヴァンに掛けた魔法を解いた。
ヴァンの苛立ちは最高潮だったが、アレクの最初の言葉で剣を鞘に納め、アレクの話しを聞いた。
「私も異世界人だ」
「!・・・・・!」
「確か30年前だな、この世界に召喚されて・・・」
アレクはサンドラの治療をしながら、勇者としてこの世界に召喚された事、魔族と戦い魔王を倒した事、他の仲間はその戦いで死んだ事、自分もその時に死んだと思われている事を話した。
「後で知ったが、我々が倒した魔族は魔王ではなく、その地域を治める領主だった」
「僕達も勇者として魔王討伐を依頼されてました」
「途中から内容が変わったけどな」
「ドラゴンキラーと呼ばれてるのは、どっちかな」
「あ、一応、僕です」
「ほう、確かに良い剣だが、その剣でドラゴンの首をはねたのか」
「違うよ、人間で言う所のうなじの辺り、縦1m幅10cmを突いたのだよ」
マナがいないから全部言わせてしまった。
「と、とにかく、竜族と協力して、暴走したドラゴンを倒しました」
「他の仲間は何をしてた?」
「それは、少し出遅れたかな」
「剣術士が出遅れるなんて・・・それ以上に弓術士が前に出るのも・・・」
アレクはサンドラの治療を終えた。
少し考えて口を開いた。
「君達は個の力は高い、しかし、チームとして機能していない・・・」
本来チームはそれぞれの職業の長所を引き出し、弱点を補い合う事を目的として編成される。剣は近距離、槍は中距離、弓は遠距離、得意な距離を保ちながら戦い、魔と聖が陣形の補助をする。
「陣形が崩れると全滅もありえる。特に弓、単独行動が多すぎる」
「俺達はチームでの戦いが少ないからな、陣形と言われても・・・」
「魔族との戦いは甘くない、今回だって、どうなっていたか、想像できるだろ」
「そうですね、あの時はありがとうございました」
日が昇り、城の兵士達の声が聞こえ始めた。
「そろそろ、私は行くよ」
「もし良かったら、一緒に・・・」
「それは出来ないよ、また会おう」
サンドラの言葉をさえぎって、アレクは去って行った。
僕達はしばらく黙って立っていたが、ティアラを元に戻す為、玉座の間へ足取り重く歩き出した。
トロアさんは御立腹だった。
サンドラに破門を言い渡すほど御立腹だったが、アグレイさんの説得で破門は無しになった。しかし、後で厳しい罰を与えると言っていた。
アレクについては異世界人の部分は伏せて、魔族と対立していると伝えた。
「魔族の生け捕りは失敗したよ、死体は兵士に渡した」
「手錠は帰って来ぬな、まあ、また作ればよい」
「すまない、手錠の事は考えに無かった」
魔族ブロッケンの死によって、今回の事件は決着を見たが、僕にとっては反省の多い事件だった。
自分自身と向き合い、仲間との共闘に生かせるよう、今後の戦い方を考える。
「みんな、お疲れ様、食事の用意が出来てるよ」
「あっ、マナ、お疲れ様、マナはどこを担当してたの」
「宝物庫よ、私の担当は陽動だけどね」
「『ようどう』って偽物はこっちでしょ」
僕は玉座に戻されたティアラを指差した。
「儀式で偽物は使えないよ、本物は宝物庫って噂を流して、正常通り儀式を行なったの、本当に知らなかったの?」
「!」
「傷や変形は無いな!国の宝じゃぞ」
「何かあったの?魔族とアレクは何も取れずに逃げたって聞いたよ」
「いや、心配するような事は・・・無かったかな」
「ショウちゃん、兵士さん達か見てたから、隠蔽は無理だよ」
ティアラは無事だった。
王国軍総司令官ドレーゼンの力により緘口令が敷かれ、何事も無かったかのように戴冠式が始まった。
「俺達は帰って寝るけど、ショウはどうする?」
「うーん、アレクに言われたように、チームの陣形を考えたいけど」
「ショウ、婚約の報告を忘れないでね。あと指輪も」
「もちろんだよ」
「ほう、プロポーズの言葉は何だった?」
「エミリさん、それは私とショウの秘密です」
『あれ?プロポーズの言葉、言ったかな?』
僕は前回と今回の依頼の報酬を受け取った。
なんと120Gもの大金が用意されていた。いきなりの大金に驚きながら、宝石店に向かった。
「もっと高い指輪が買えたね」
「それは結婚式に取って置くの」
「婚約の報告をしたら、すぐに王都に戻るよ」
「それは仕方ないけど、婚約パーティーはするからね」
「婚約パーティー・・・ですか」
「ほらほら、ドレスとか買い物がたくさんあるから急いで」
「あの、眠いんだけど」
パーティー用の衣装やアクセサリー、お土産などを買いに出かけた。
その後、アグレイさんの馬車に揺られながら、アルストリアへの帰路についた。
『ブロッケンが死んだって、本当か?』
『そうだよ、私達のマネして王都に侵入したの』
『誰に殺られた?』
『そんなの知らないよ、単独行動だし』
『そうか・・・』
『ハイドちゃん寂しいの?悲しいの?』
『うるさいな、こっちの準備は出来たのか』
『まだダメだよ』
『早くしてくれよ』
『だって、色が決まらないから』
『色?色なんて関係ないだろ』
『全体的に茶色って、地味だよ』
『地味で結構、さっさと完成させてくれ』
『ブー』




